「パーソナルサポート ひらかた」の長尾といいます。よろしくお願いします。
支援費制度ということですが、私は決してこうした制度を研究している者ではありません。現場からこの問題をどう考えるかを、あくまでも皆さんと一緒に考えたい。
支援費制度は、どんなものなのか非常にわかりにくいし、つかみにくい。実はその仕組みについて、法律で明文化されている部分は非常に少ないんです。ある意味では、地域でこれからどんなシステムを作っていくかが大切だといえるでしょう。
今日は、皆さんに自分の現場や生活に置き換えていただきながら、どうあるべきかを一緒に考えたいと思います。
自己紹介を簡単にさせていただきます。「パーソナルサポート ひらかた」のコーディネーターとして仕事をしております。いわゆる支援センターでして、市から委託を受けて相談役のようなことをしているのと、またガイドヘルパーのコーディネーター事業の委託も受けておりまして、私はセンターのコーディネーターとヘルパー事業のコーディネーターとを兼務しています。
ほかに社協のヘルパーも非常勤で10年間やっております。介護のあり方について行政とずっと話し合ってきた中で、自分も現場に入って何が問題なのかを考えてみたいと思って始めたものです。この10年を通じて、ヘルパー現場の問題から制度を考えることが大事だと感じました。そういった視点も含めて、今日は話をしていきたいと思います。
2002年9月12日、厚生労働省は、各都道府県と政令市の障害部局の担当課長を招集して、支援費に関するさまざまな運用基準を示しました(「支援費制度担当課長会議資料」)。これによって、サービスを提供する事業者に配置すべきサービス提供責任者の資格要件や事業単価などの運営基準が示されました。利用者に関連したことでは、費用負担の考え方や基準について書かれていました。今回の運営基準を受けて、全国の各市町村では、来年度に向けた準備が加速されていくと思われます。
まず「支援費」っていったい何なのか、ということです。ほんの半年前ぐらいまでは、よく「障害者に介護保険が入るらしい」と言われたりしていましたが、介護保険とは違います。確かに、申請を出して、一定の基準のもとに設定され、それを基に自分でサービスを選ぶという仕組みは非常によく似ています。しかし、その中身はきわめてあいまいです。介護保険がしっかり描かれた“油絵”だとすれば、支援費は“ラフスケッチ”であり、アウトラインしか描かれていません。それがまず、支援費のひとつの特徴です。
もうひとつ、これまでの「措置」との決定的な違いは、措置は行政処分だったわけです。ある人がサービスを受けたいというと、行政の裁量に基づいて「これだけのサービスをあなたに処分します。その中でサービスを使ってください」と。サービスの決定や施設の入退所の権限はすべて行政が持っていました。事業者の選定も「この中から選んでください」と決められていた。でも支援費では、その支給の決定は行政がしますが、サービスを選ぶのは皆さんです。それが決定的に違うということを押さえておきたいと思います。
支援費の課題を考えるにあたって、まず、なぜ措置から支援費に移行されるのか、という背景を押さえる必要があります。
1980年代、施設の建設時に関わった贈収賄などの官民癒着や、施設での人権侵害など、社会福祉法人の不祥事が相次いだため、社会福祉法人のあり方を変革していくべきだという機運が社会的に高まりました。また介護を社会的なシステムとして支えようという介護保険制度の導入なども相まって、厚生省(現:厚生労働省)は社会福祉の構造的な改革をめざすべく、「社会福祉基礎構造改革」の議論を始めたわけです。こうしたことを背景に、戦後50年続いた措置制度を見直していこうということになりました。
社会福祉法人の不祥事がなぜ起こるのか。それは、措置で行政が「サービスを受けなさい」と誘導しているからではないか。利用者がサービスを選べないので、事業者はいい気になっている。それなら行政でサービスを決めるのでなく、本人に選んでもらったらどうか。利用者がサービスを選ぶことで競争原理が働き、サービスの質の向上がなされるだろう―というのが、この社会福祉基礎構造改革の基本的な考え方です。
支援費の基本的な理念は、「利用者本位であること」、「利用者と事業者が対等な関係であること」、「サービスを選択することで質の向上を図る」とされています。措置は行政本位でしたから、まず利用者本位に戻す。利用者個人に合ったサービスをその都度、提供するということです。また措置では、利用者と事業者が対等な関係ではなかった。あくまでも処分としてサービスを受けますから、そこに権利性は生まれませんでした。支援費では、選ぶことで利用者と事業者が対等になる。たとえばお茶を買っておいしかったらお金を払うように、選ぶことで対価にしていくことが、対等な関係をつくっていく。それによってサービスの質を上げていこうと。悪い事業者は選ばれないはずだから自然と無くなり、良い事業者が出てくるはずだ―というのが議論の根底にあるわけです。
しかし、単に利用者が選ぶというだけで問題が解決するのか。措置制度の下では制限ばっかりです。手帳が何級でないといけないとか、親がいるとサービスが受けられないとか…。サービスを利用者本位で選択できるようにするためには、やはり利用制限を撤廃すべきでしょう。障害等級ではなく、まず生活状況を本人の立場から見ることです。障害者側からの要支援認定の基準を構築し、介護保険のようにケースワーカーの裁量で決まるのでなくて、誰もが納得できるシステムを作らなければなりません。
費用負担のあり方も問題です。今は同居している場合は、世帯でいちばん収入の多い人が負担することになっていますが、そうではなく、当事者自身がその収入に応じて支払うようにすべきでしょう。そして最も大事なことは、障害者側のニーズに対応できる事業者をいかに作るかです。こうした点が議論されるのでなければ、単に利用者が選ぶというだけでは今の制度の問題は解決しないと思います。でも厚生労働省から出てくる資料を見るかぎりでは、従来の制度の抜本的改革というよりは、むしろ行政の責任を少し横にのけておいて、現状あるサービスを選んでください、また、皆さんでサービスを作り上げてください、と他力本願的なのが非常に気にかかります。
支援費の導入にはこうした背景があること、そして非常に危うい中で制度が始まろうとしていることを理解しておかなければならないと思います。
さて、制度の基本的な仕組みについてです。おそらく皆さんには、各自治体から資料が配られたと思いますが、もう1回ここで押さえながら、問題点を指摘していきたいと思います。
サービス利用(支援費支給)を希望する者は、必要に応じて適切なサービス選択のための相談支援を受け、市町村に申請を行う。
これは支援費のいちばんいいところだと思うんですけど、利用者の申請権が保障されていて、行政は申請を絶対に拒否できません。だから皆さん、まず、どんどん市町村にサービスの申請に行きましょう。というのは、従来は障害等級によってサービス制限がされていましたが、今度からそういうことはなく、すべての人が申請の権利を持っています。3級の人でも4級の人でも、知的障害の人でもできますから。
枚方市で今、支給申請が始まっていますが、申請書がどうやって配られているかというと、既存のサービスを受けている人が事業者からもらったり、送ってもらったりしています。これまでサービスを全く使ったことがない人の場合は、申請書を取りに行かなければなりません。そういう情報からは皆さん、疎遠になっていますよね。まず、障害を持っているすべての方が、申請できることを知るのが大きなポイントだと思います。
市町村は、「勘案事項整理票」に記入し必要事項を勘案し支援費の支給決定を行う。
支給決定を行った場合は…
今までは措置決定されたら「決定されました」と決定通知書が来ましたが、今後はすべて保険証のような「受給者証」に記入されます。これを手にしてサービスを選択するわけですが、その受給者証が10数ページ〜20ページぐらいにわたり、非常にこと細かいようです。費用負担をその受給者証ですべて管理していくと聞いています。
利用申請を受けた行政は、サービスの利用可否に関して、申請者の開示請求に応じて審査基準などの公開が義務づけられています。措置制度では、そうした情報を利用者に開示する義務はありませんでした。支援費では、利用者は「なぜサービスが使えないのか」、「なぜこれくらいのサービス量になったのか」を開示請求する権利があります。逆に行政は審査の内容を開示する義務があります。不服がある場合は、開示請求ができることを覚えておいた方がいいでしょう。審査で決定が出て、それでもまだ不服がある場合には行政不服審査法によって不服申し立てができます。
都道府県の知事の指定を受けた指定事業者・施設と契約しサービスを受ける。
本人及び扶養義務者は負担能力に応じた利用負担額を支払う。
措置といちばん違う点は、サービスの申し込み・契約が利用者によってなされることと、それから、この利用者負担を利用者が直接、事業者に支払うという行為です。今までは利用者負担は行政が納付していましたが、直接、事業者に支払うという形に変わります。
事業者は、サービス提供に関わる支援費の請求を行う。
利用者負担額を除いた額を支援費として支給する(ただし、指定事業者が代理受領する方式とする)。
本来は、利用者が「あなたのサービスは良かったですよ」と対価するのが普通の契約行為です。でも支援費は、契約は利用者が交わして、お金は行政が支払うという仕組みです。この代理受領という方式が本当に対等であるかどうかは、議論していく必要があるでしょう。やはり事業者はお金を払ってくれる方を向きます。本当に利用者の方を向かせるためには、現金でなくてもいいから、受給決定を受けた分をチケットのようなものに替えて支払う方法などが検討されても良いと思います。
原則として支援費は、支給決定がなされないとサービスの提供を受けられません。措置だったら、たとえば自分の親が倒れて、明日の朝にサービスが必要となったら、措置決定されてすぐに派遣されるケースがありますよね。支援費ではあくまでも申請して決定されたうえで事業者と契約しなければ、サービスを受けられないんです。そこで緊急を要する場合は、支給決定を早急に行うか、措置で対応するかのどちらかになっています。
この仕組みも皆さん、あまりご存じないと思います。こうした対応の部分についても知っておかなければ、「まず申請してください」と言われてしまうかもしれません。措置は全くなくなるわけではなく、こうした形で残っていきます。
支援費の対象となるサービスは、次のように、身体障害、知的障害、障害児童の3つの制度に分けられています。
更生施設/療護施設/授産施設/居宅介護等事業/デイサービス事業/短期入所事業
更生施設/授産施設/通勤寮/心身障害者福祉協会が設置する福祉施設/居宅介護等事業/デイサービス事業/短期入所事業/グループホーム
児童居宅介護等事業/児童デイサービス事業/児童短期入所事業
ひとつ目につくのは、児童居宅介護等事業の中に「移動介護」があることです。ということは、子どもさんのガイドヘルパーも場合によっては可能になるわけです。でも実際に新しい事業をしようとすると、市町村は来年度に新しい予算を乗せなければなりません。だから、子どもさんでヘルパーを使いたい方がいらっしゃっても、制度上はできても予算上できない、ということが起こってくるでしょう。こうした情報も、利用者の方が早く察知したら、「知ってるか」とか「来年度、こうした事業をやるのか」など、行政に対して情報提供をしていくことが大事だと思います。
皆さんが支給申請をすると、行政の職員が聞き取りを行います。「勘案事項整理票」というのがあって、8項目の勘案事項に沿って、どういうサービスが必要かが決定されます。
今回は居宅サービスの場合の勘案事項を挙げてみます。皆さんは契約書の権利者でもあるわけで、どういった内容で自分のサービス決定がされたのかを知る権利があります。どんな審査がされ、どんなことが勘案されているのかを知っておかないと、措置の時のようにわけのわからないものさしで決められてしまうことになります。だから、どんなものさしがあるかを理解していただきたいと思います。
障害の状況のみでなく、障害があるが故に日常生活を営むのに支障をきたしている状況及び医療機関における入院治療の必要性
障害等級が1、2級であるとか、A1、B2とかでなくて、障害者個々の生活状況から見て支援費の支給決定を行うというわけです。利用者本位を提唱する制度ではある意味、あたりまえのことです。しかし整理票の項目を見ると、「起き上がれるか」「立ち上がれるか」「ごはんがひとりで食べられるか」など、あくまでもADL中心になっています。これでは措置と同じですよね。そうではなくて、「どういう利用をしたいのか」「どういう食事がしたいのか」「どういう暮らしをしたいのか」をまず見るのが基本でしょう。そうした発想に立たなければ、本当にその人が求める生活が出てきません。このような視点は変えていかなければならないと思います。
介護を行う者の有無・年齢・心身の状況・就労状況等
この「介護を行う者」には親、兄弟などの同居家族は当然のこと、近隣の親戚なども含まれているとのことです。厚生労働省は各都道府県に対して「家族がいるからといってサービスを制限してはならない」と指示していますが、勘案するということは絶対、制限することになりますよね。なぜこんな項目を設けたのか、疑問です。それと、市町村がこれをどう勘案するのかを確認しておかなければなりません。4月1日になって支援費になったから家族のことは勘案しません、となるかというと、そうはならないでしょう。市町村は今と同じサービス量で予算を組んでいますから、おそらく現状の内容で、そのまま横滑りさせて支援費に移行させようとしています。こうした認識をどう変えさせていくかが非常に大きなポイントになると思います。
現行で受けている居宅サービスの利用状況
現行で受けている施設サービスの利用状況
訪問看護や他の福祉サービスなどの利用状況を勘案
これは支援費以外のサービス、たとえば訪問看護や、自分で持っているボランティアグループなどのことです。公的支援が受けられない場合、自分でそんなのをしていますよね。これが勘案されてしまうと、本来は公的サービスでやってほしいけれども、受けられないからしかたなく自分でやっているのに、ずっとサービスを受けられなくなるかもしれません。自分が本当にどんなことに公的なサービスをほしいのかを明確に示さなければ、「ボランティアが来てくれるからいいです」ということになってしまうおそれがあります。
ほかのサービスの状況と勘案されることで、ひとつ考えたのはこんなことです。ヘルパーや訪問看護など、いろんなサービスを使って生活しておられる方が多いと思いますが、ヘルパーを申請した場合、お風呂に入ったときにガーゼ交換もしてほしくても、今の制度ではそれはできない。訪問看護でやってください、ということになります。だから、ひとつのサービスだけでなく、全体から見たサービスのあり方を考えていかなければなりません。現在、ヘルパーの医療的行為への関与が議論されていますが、こうしたことも含めて変えていかないと、ここのサービスはここまで、あそこのサービスはここまでと非常に融通のきかないシステムになってしまいます。
今度から、全身性のいわゆる支援制度というのは、すべて事業者に登録して事業者から派遣されることになります。すると完全に業務になりますから、今まで個人契約の中でできていたことができなくなる可能性もあるわけです。今のサービスの内容やあり方を見直しながら、他のサービスとの連携も考えていかなければ、いざ使おうとしたら使いにくかった、というケースがたくさん出てくると思います。
また支援費の対象になっていないものに作業所があります。作業所をどう評価するのか。作業者の介護は誰がするのか。作業所の中で介護が要るとなったら、支援費は支給されるのか。支援費以外の部分というのは、いっぱいあるんです。今受けている社会支援がどこに属していて、支援費をどう認定するのか―それは行政が考えるのでなくて、皆さんがどれだけ必要かを提示しなければなりません。それが利用者申請の基本なんです。
(6)当該障害者の利用意向の具体的内容
サービスの内容、利用目的等
利用者本位といいながら、利用者の意向が6番目に出てくるんです。本当は1番目に出てきて、それに基づいて、その人の生活状況、周りの状況、サービス状況を勘案していくべきですよね。利用者意向が非常に軽んじられているんじゃないかと思います。行政の聞き取りに関する研修は非常に遅れています。おそらく書いてあることを順番に聞いて帰って、今と同じサービスが決定されるのが関の山でしょう。「当事者主体」「利用者本位」がどういうふうに考えられているのか、少し首をかしげてしまう部分だと思います。
住宅環境などのアクセス状況
実際にサービスを利用できる見込みがあるかどうか
これは非常に大きな問題です。必要なサービス量を支給決定するのでなくて、今あるサービスを、出されてきた申請で頭割りしていこうという考え方なんです。たとえば入れる施設がない場合、措置決定だったら何とか施設を探すこともできます。でも支援費では、入居できる施設がない場合、入居できる施設ができるまで支援費の受給者証を交付しなくてもいいと国は言ってるんです。もっと極端な例でいえば、ホームヘルパーを受けたいと申請に行っても、この勘案事項の8番目をタテにとられたら、今サービスがありませんという理由で受給者証を交付しなくてもいいことになります。
本来だったら、必要量をすべて勘案したうえで支給決定をし、その必要量に応じたサービスを行政がつくる責務があるはずです。それなのに、量に合わせて利用者の量を調整するというのがこの項目です。介護保険では全く逆で、どれくらいの障害の人がどれくらい地域にいて、どれくらいのサービスが必要かを計測し、「高齢者実施計画」の作成を市町村に義務づけました。だから市町村にサービスを提供できる担保があるんです。
しかし支援費の場合は、量に応じてサービスを決定してもいいと言っている。利用者にはたして権利性があるのかというと、選べるということはあっても、量はこれでがまんしてくださいという形なんです。ただし、市町村によって対応は変わってくると思います。
厚生労働省が定める期間を超えないことが前提。障害当事者の状況の変化に応じた支給期間を市町村が決定できる。
1度支給決定を受けると、1年間有効なんです。1年後には申請し直して、支給決定を受け直す必要があります。1年ごとに状況が変わるから、定期的にちゃんとしなさいということだと思いますが、これは別に1年間に限っているわけではありません。たとえば1カ月後に生活が変わった場合も、申請し直すことができます。ただ、基本的には1年ごとに支給の申請を変えていくということです。
居宅生活支援の支給量は、「1ケ月」の単位期間で定める。
サービスの利用は決定支給量の範囲内で行うことが原則です。翌月への繰り越しやサービス間の振り替えは認められません。たとえばホームヘルプの身体介護型を月100時間使えるとき、今月は80時間で済んだので2時間余った場合、この2時間はどうなるかというと、消えてしまいます。次の月には持ち越せません。それでは逆に、今月100時間支給決定していたけれども、実際は120時間必要になったという場合はどうなるかというと、原則として自己負担でサービスを受けることになります。
支給量の変更は、時間が延びたり、早く済んだりと、よくあることだと思います。先ほども言ったように、支援費は支給決定を受けなければ使えません。もし今月、急にサービスがたくさん必要になった場合はどうすればいいのか。3通りあります。1つには、全額支払う。2つには、行政による支給量の変更。行政が権限で支給量を一時的に増やすことができます。3つには、もっと緊急性が高い場合―今日要るとか明日要るとかいう場合は、措置による上乗せができます。ただし、そういった措置に行政が応じてくれるかどうかはわかりません。認めてもらえなければ、最終的に自分で支払わなければならないことも起こるでしょう。
今、ウチの支援センターでは、「支援費って何なのか」「どういうふうに使ったらいいのか」という相談が非常に多くなっています。まず、情報が行き届いていないことが大きな課題だと思います。
情報提供は広報やパンフレットの配布だけにとどまっていて、さっき言ったような制度の細かい部分や、決定の流れなどを理解していない方がほとんどだと思うんです。これは自己選択・自己決定という面では大きな問題です。自己選択・自己決定をするには、十分な情報があるかないかがカギとなります。行政は「どんなサービス量で決められたのか」「どんなサービスを受けられるのか」を、また事業者は「どんな方針で、どんなサービスを提供するか」を明示しなければなりません。同時に皆さんは、それを理解したうえで契約する必要があります。
利用者本位と言いますが、逆に事業者が利用者を選ぶことも可能なんです。事業者が「このサービスに関しては提供できません」と明示し、でもそれを受けたいとなったとき、「ウチではできませんからほかに行ってください」と言われてしまいます。一応、事業者には応諾義務というのが課せられていてサービスを断ることはできないんですが、以上のような場合は、利用者の意向で契約できなかったということになりかねません。
契約行為というのは非常に危うい部分があります。それを理解しておかなければ、いくら「選んでください」と言われても、いいシステムにはならないと思います。サービス提供を拒否された場合に、どうやって救済するかというシステムも必要です。おそらく、そうしたことが地域では全く考えられていないと思います。とりあえず「選ぶ」ということだけが誇大的に宣伝されていることが問題ではないでしょうか。
支援費の利用にあたっては、まず支給申請を市町村に提出します。ここで大事なのは、本人自身が申請者であることです。支援費は利用者本人の必要性で支給されるのが原則で、本人に申請の権利が認められています。だから、あくまでも利用者本人が申請行為を行うべきなんです。
措置の場合では、示されたメニューからサービスを選んでいました。これからはそれではダメです。なぜかというと、制度の性質上、延長ができないからです。たとえば入浴にしても、体調が悪かったら時間が伸びますよね。これからは、もし延長したら自分で払うか、ほかのサービスを持ってきてくっつける必要があるんです。
多くの方は、今受けているサービスが、どんな項目で何時間、何分、措置決定されていることすら知らないわけです。しかし、契約者が責任を負うということは、こうしたことをすべて自分が理解して契約するということなんです。だから利用申請にあたっては、ご自身がどんなサービスをどれくらい使うのか、自分でまず申請する行為をしなければいけないと思います。しないことは自分の権利を放棄するのと同じです。
おそらく皆さんは、現在受けているサービスをそのまま申請されるだろうと思います。でも1年前に措置決定を受けたものが、1年後も同じサービスで良いとはかぎりません。また本人の希望、「自分がどうしたいか」ということが反映されなくなります。だから、「今と同じでええわ」では通用しないんです。
現在は、措置として遡求されたり、上乗せされたり、制度で守られている部分があります。それが支援費ではできなくなることを理解しておく必要があります。たとえば、単身の方で夏と冬の服の入れ替えをするや、大掃除するとき、どうやって上乗せするのか。案外そういう突発な事態ってありますよね。緊急事態になったらどうするのか。それは措置で上乗せするというのだったったらいいですが、そのことすら情報がありません。
自分の生活の全般を描いて申請するのは非常に難しいことです。だから、申請するにあたっては、自分の生活全体をまずケアプランしてみることです。それを、この生活で本当にいいのかを検討しながら、支援センターの職員やケアマネージャーなどいろんな方の相談を受けながら申請するのが大事だと思います。
それと、何回も申請してもいいと思うんです。今月、申請してダメだったら来月やり直すとか。申請は何回でもできますから。措置だと一度変えると、なかなか変えられませんが、支援費では申請権は皆さんにあるわけですから。多くの方はこれまで、決められた時間の中で自分のサービスを裁量してきたと思いますが、今度はどんどん申請を上乗せしていって、自分の生活を変えていくことができるんです。それが申請権を行使するということです。まず申請行為をきっちりやっていくのが支援費ではいちばん大事です。さっき言った勘案事項も、その申請の中で行政と一緒に考えていけばいいと思います。
介護保険では、要介護認定を行う介護認定審査会という機関がありますし、ケアプランの作成には一定の研修を受けたケアマネージャーが関わる仕組みになっています。これに対して支援費は、ケースワーカー1人が来て聞き取りをする方式で、外部に委託したらダメなんです。行政が聞き取りに来て、行政が支給決定するわけです。そうした支給の決定の仕組みは、各市町村によって異なっています。
枚方市の場合は「支給量調整委員会」という機関を設けています。これは、支給量決定に納得できない時や、事例として非常に難しい時に検討するための機関で、枚方市が独自で作ったものです。僕は支援センターの職員として「支給量の決定に関しては絶対に外部の目を入れないといけない。内部でやってしまったら、従来の措置と何も変わらない」と主張してきたんですが、それがこの支給量調整委員会という形になったんだと思います。構成メンバーは市の職員、生活支援センター、府保健所、学識経験者と、第三者が入っています。このような仕組みは、厚生労働省の明示の中では「作らなければならない」とは書かれていなくて、市町村によって「作っても差し支えはない」と書いてあるだけです。だから作らなくてもいいんです。
枚方市の仕組みは、行政内部で支給量を決定する「支給量決定会議」を経て、まず仮決定を出します。それを本人に提示して、本人が納得したらそのまま支給決定され、納得できない場合は、この支給量調整委員会にかけられます。それによって、もう一度差し戻って議論されて、また決定に至るという流れをとっているようです。
こうした地域のシステムを作っていかなければ、決定に関して密室で行われて、納得できないまま支給決定を受けてしまうということになってしまいます。行政不服申立法によって審査請求もできますが、これは原則的には関係者が集まって審査するだけです。関係者が集まって決めたものを、関係者が集まって否定するわけはありません。そうしたものとは違う、当事者性の高いシステムを作らなければダメだと思います。介護保険ではその部分が法律で厳密に決められていますが、支援費では決められていませんから、逆に作ることもできるんです。利用者の皆さんの中でそれを作るのは難しい面があるでしょうが、そうした仕組みがあるかないかで、支給決定に関しての受け皿が全然違うでしょう。
まず「選べる」という行為の前に、行政主導から利用者主導にするためにどんな仕組みをつくるかが大切です。支給決定に対して利用者が納得できないときに、どう始末をつけてくれるか、苦情をどこに言いにいったらいいのか、というシステムを作れなければ、利用者本位の自己決定は、自分がすべて責任を負うだけの仕組みになってしまいます。
今回の厚生労働省の提示では、支援費の額が示されています。この額に基づいて事業者はヘルパーなどの事業を決めていくんですが、ざっと見ると、ホームヘルパーの中でサービスの類型が4つに分かれています。
今回、従来あったような巡回型の派遣は廃止されました。僕はこの時間設定に疑問を感じて一度、大阪府に電話したんです。というのは、たとえば寝返り介護だけしてほしいとか、15分くらいの派遣ってありますよね。また1時間半の派遣だったけれども、1時間10分で終わったという場合もありますよね。巡回型が廃止されたということは、そうして余った時間はどうなるのかと聞いたら、原則は切り上げなんです。1時間10分で終わっても、1時間半の派遣になってしまうんです。
こうしたことも利用者は知らされていませんね。たとえば1時間の派遣を受けて、たまたま今日は20分で終わってしまった場合、決定通り1時間となってしまう。すべて切り上げのようです。こうした仕組みも知っておかなければ、自分では全体で100時間で納まっていると思っていても、実際は超えてしまうということが起こるかもしれません。
移動介護、これはガイドヘルパーだと思うんですけど、これが少しややこしくて、「身体介護を伴わない場合」と「身体介護を伴う場合」とで単価が違います。「身体介護を伴う場合」とは、国が挙げているのは食事介護やトイレ介護です。でも外出する時に、どこまでが身体介護を伴って、どこまでが伴わないか区分できるでしょうか。支給決定上、それを区分して支給する必要があるわけです。車いすを押す行為はこの場合、身体介護を伴わないことになりますが、なぜ伴わないのか不思議です。
このことを枚方市に聞くと、担当者は身体介護を伴う方で全部やっていきたいと言いましたが、横にいた管理職が「アホか。できるか、おまえ」という話になって。なぜかと言うと、今の予算請求の3倍必要だからなんです。現行のガイドヘルパーの単価は1,470〜1,480円くらいです。それを4,000円以上に上乗せしようとすると、3倍以上の予算が必要です。それは市町村にしても大阪府にしても同じです。
おそらく現行の単価水準でいこうというのが行政の腹でしょう。当然、利用者も大きな影響を受けますが、事業者にとって単価がいくらになるのか、介護内容をどう考えるかは大きい問題でしょう。車いすを押す行為が、身体介護を含まない単価になるわけです。それがガイドヘルパーの業務として成立するかどうかですよね。なぜ、こういう規定ができたのかわかりませんが、市町村ではこの支給決定に関して混乱していて、「国は考え直すべきだ」と枚方市は意見を上げたりしていますから、また見直しもあるかもしれません。 それと今回、日常生活支援というのが新たに出てきました。長時間介護を必要とする人、泊まりや24時間介護の場合などがこれに当たります。
今回、事業者指定基準というのが示されています。おそらく自薦といわれるガイドヘルパーや全身性の方というのは、多くの場合、資格を持っていないと思うんです。資格なしに個人契約でガイドや介護をやっている人たちが、来年度も仕事に就けるかどうかが今、問題になっています。
事業者指定に関しては、都道府県の認証枠では次のようになっています。
働く人は、おそらくすべての方が資格を求められます。今まで無資格でやってきた人も、来年度は資格を取る必要があるわけです。その問題に関しては、国も大阪府も議論して、現行サービスの、たとえば全身性のガイドヘルパーで一定の経験がある人については、みなし的な資格を認めて、ヘルパーの講習を受けなくても来年度も仕事に就けるようにしているようです。
たとえばガイドヘルパーでしたら、まず市町村がみなしの資格を認定し、それを都道府県がみなしの資格として発行するという仕組みを考えているようです。ただ、ガイドに関してはガイドの資格しか与えられないと言われています。また全身性とか、そういった制度を使っている方も、一定のみなしの資格が与えられるように聞いています。ただ、その資格は、日常生活支援と移動介護の部分しか受理できないだろうと。単価の低い部分に関しては受理できるが、単価の高い身体介護型には一定の資格が求められるようになる―そういうふうに区分されるんじゃないかと言われています。
皆さんがお住まいの市町村に全身性の制度があって、登録ヘルパーがいて、その方が資格を持っていない場合は、市町村が働いていることを証明して、それを都道府県がみなしの資格として発行することができます。ただし、これをやるかやらないかは都道府県の自由裁量なんです。それと、まず市町村がみなしの認定をしてくれるかどうかという問題もあります。だから、こうした議論が行われていることを市町村が知っていることが重要です。「知ってるか」「そういうふうに対処してほしい」と、利用者の方から声を上げていく必要があると思います。
僕自身は、ある意味では資格は取るべきだと思っています。それは、ヘルパーの業務範囲を医療行為も含めて、もっと広げてほしいと思うからです。そのために資格をもっとスキルアップして、たとえば、2級ヘルパーを持っていて一定の講習を受けたら、ガーゼ交換とかできるとか、どんどん力量を上げてほしいと思うんですね。
こうした資格のあり方も、当事者が、こんなケアプランで、こういう構成で、こういう講師を出したら、こういうヘルパーができるんじゃないかということを、もっともっと真剣に考えるべきだと思います。というのは、個人の方が個人契約をしてヘルパーを確保できるのは、本当に限られた自治体だからです。本当に全体の仕組みを変えていくには、資格のあり方、そしてサービス内容をちゃんと洗っていくことが必要だと思います。
「そんな大きいことは私には…」という方もいらっしゃるかもしれませんが、自己契約するということは、そうしたことをちゃんと理解したうえで契約することです。だから「このことをやってくれないと困る」と、内容をちゃんと把握しておかなければなりません。どんな資格が要るのか、どんなトレーニングを積んできてほしいのか、当事者の方からしっかり提示しなければ、医療は「医療」、生活は「生活」と分かれてしまい、その分断が混乱を生みます。今やっていることを単にやり続けるだけの議論ではなく、どうしたら内容をもっと技術アップしていけるのかを問うていく必要があると思います。
最後に利用者負担について話したいと思います。原則として、所得に応じた利用者負担を設定することになりました。そして利用者本人の方の負担能力に応じた負担額の支払いを基本に、利用者が20歳以上の場合は、同一世帯・同一生計にある配偶者及び子のうち、最多納税者の方が負担を求められます。今までと少し仕組みが違ってまして、従来は非課税世帯で負担がなかった方でも、一定負担が出てくる場合があります。それと特徴的なのは、これ以上の負担を求められないという上限が設けられていることです。
本人負担が原則で、そのうえで20歳以上という書き方をしているのは、20歳以上の人で本人に所得があって奥さんも所得がある場合、双方が負担を求められるんです。上限設定は、たとえば本人がC1階層(当該年度分の市町村民税所得割非課税、均等割のみ課税)で奥さんがD1階層(前年度の所得税が30,000円以下)だったら、高い方のD1階層でされるようです。それぞれで負担し合って上限まで払い、上限までいったら終わりというやり方になっているようです。
その負担も、ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイのそれぞれ合算の上限なので、3つのサービスの上限で使っていって、2,200円になったらそれで払う必要がなくなります。非常に煩雑な事務になるんですけど、受給者証に費用負担票というのがつくようで、たとえばD1階層の方はヘルパー150円、デイサービス300円、ショートステイは300円となっていますが、使うごとにそれぞれ払います。そして上限まで来たら払わなくて良い。それを毎月、自己管理するんです。非常に大変ですね。
今回、負担の対象から親は外れましたが、子どもと配偶者は残りました。これはひとつ大きな課題が残ったと思います。それから、ガイドヘルパーの制度が少し変わります。これまでホームヘルパーは生計中心者の負担で、ガイドヘルパーは本人の負担になっていました。でも今度は移動介護に関しても、同じように負担がかかります。ガイドヘルパーを使っている方は、来年度から自己負担額を取られる場合が出てくるかもしれません。
もうひとつ注意すべきは、20歳以下の方です。20歳以下の方で同一世帯・同一生計の配偶者、父母及び子どもをお持ちの場合、最多納税者の方が負担を求められます。20歳以下の方は親御さんも対象に入っています。従来は16歳以上に関しては、ガイドヘルパーは親は外れていました。これからは16〜19歳の人も親の負担を求められることになります。本来は統一して、18歳以上は本人の負担のみでいくべきだと思いますが、今回は配偶者、子どもが対象に入り、20歳以下の方は親も負担が求められることになりました。
具体的な事例で言えば、ウチのセンターのガイドヘルパーの利用者は、圧倒的に65歳以上が多いんです。介護保険で使っているけれど、介護保険で対応できないガイドヘルパーも使っておられます。そういう方は、だいたい子どもと同居されてますので、たぶん子どもさんに負担がいくだろうと思われます。また、ご夫婦で働いていて、夫が中途障害になられた場合、前年所得を見て2人とも負担が求められるというパターンも出てくると思います。
話としては非常に見えにくいですけれども、自分の場合はどうなのかとか、自分の周りにいらっしゃる方はどうなのかとか、いろんな具体的な事例を実際に書いてみて、こういう負担があるとか、収入でこうだとか、家族構成はこうだとか、こんなサービスがあるとか、いろんなケースをシミュレーションされることが大切でしょう。こういうこともまたグループの中でされたらどうかなと思います。
今日は基本的な仕組みの問題と、それから課題、現状の注目すべき点を挙げましたが、いちばんの基本は、皆さん自身が契約するということです。それによって起きることは何か、リスクを理解しておかなければなりません。それと、声を上げていくことによって、今までの措置と違う仕組みをどうつくるか、それが大きなカギだと思います。従来と同じ決定がされて、それを納得させられてしまうのでは何も変わりません。「納得させられる」のと、「納得したうえで今と違う形に持っていく」とは大きな違いです。そういったことが支援費の可能性であり、課題でもあると思います。
(2002年10月27日 なみはやドーム大会議室にて)