頸損だより1999夏(No.70)

夕日のガンマン弥三郎と喜三郎

川野真寿美

夕陽が燃えていた。

銃を手に背を向けて立つキサブローとヤサブロー。心配そうな顔でそれを見つめるテコナ。厳しい目をそそぐ立会人、そして大勢の野次馬。

「……勝った方がテコナをとる。いいな」

ヤサブローが振り向きもせず言った。

「……よかろう」

キサブローもそれに答える。

「卑怯な手を使うなよ」

「そっちこそ」

「俺が死ぬか、お前が死ぬか、二つに一つだ」

「それは違うな」

思わず後ろを振り向くヤサブロー。キサブローが答える。

「俺が死んでお前が生き残るか、お前が死んで俺が生き残るか、あるいは俺が死んでお前も死ぬか、お前も俺も生き残るか四つに一つだ」

ヤサブローはきっとキサブローを見据えたが

「この野郎」と絞り出すように言った。

「半殺しぐらいで勘弁してやろうと思ったが、こうなりゃ生かしちゃおけねえ」



「そうか。とするとまた違ってくるな」キサブローがつぶやく。

「俺が死んでお前が生き残るか、お前が死んで俺が半殺しになるか、お前が死んで俺が生き残るか、お前が生き残って俺も生き残るか、お前が半殺しになって俺が死ぬか、俺が死んでお前も死ぬか、お前が半殺しになって俺が生き残るか、お前が半殺しになって俺も半殺しになるかどれかだ」

夕陽が二人を照らしつける。押し黙った人々の中二人の影だけが長く伸びてゆく。

「すまん」

沈黙を破ったのはキサブローだった。

「お前が生き残って俺が半殺しになる、というのを忘れてた」

ヤサブローが銃を構える暇もあらばこそ、テコナと立会人と野次馬がよってたかってキサブローを袋叩きにした。

理屈っぽい男は西部に向かないのだ。


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