頸損だより1999秋(No.71)

自立生活あれこれPart2

徳山辰浩さんの新生活を訪ねて
〜「ロマンチック街道」に自立生活のそよ風が吹く〜

取材/事務局 鳥屋利治 写真/編集部 鈴木千春

まだ梅雨明けきらぬある日。最近新たな生活を始められたという会員の徳山さんちを訪ねよう、とクルマを一路箕面市と豊中市の狭間を通るロマンチック街道目指して走らせた。取材者二人とも車イスのため、クルマへの車イス積み込みは通りがかりの人にヘルプ。途中立ち寄ったコンビニでの買い物はクルマに乗ったままで、お店の人にヘルプ。目的地に着いてクルマから車イスを引きずり出すのにこれまたご近所をお散歩中らしき方にヘルプ。さて、取材陣の珍道中の果てに見た徳山さんの新生活とは...


取材の前日、徳山さんから新居の地図をFAXで頂いた。豊中市向丘、ロマンチック街道沿いの小学校のそば。(なにが、どのあたりがロマンチック街道なのかよくわかりませんでしたが、徳山さんの雰囲気に合った?!オシャレなところ?)車通りの多い国道を横に入ったとたん、なんと閑静な住宅街。そこに徳山さんの住む市営住宅があった。一見マンション風に見える大きな建物。震災後建てられた高齢者向けの住宅でシルバーハウジングというそうだ。ワクワクしながらインターホンを押す。インターホンから返ってくるであろう徳山さんの声は予測を裏切り、意外や部屋の中から大きな地声で「どうぞー。開いてますよー」と返ってきた。ドアを開けると、ワンルームの部屋の中から電動車イスに乗ったいつもの徳山さんがにこやかに出迎えてくれた。


徳山さんは、中学3年(15才)の夏休み家族旅行に訪れた先で、プールに飛び込んだ際、頸椎(C5番レベル)を圧迫骨折した。


---受傷されてから、これまでの生活ってどんな状況でした?

豊中市民病院、星ケ丘、関西労災病院と入院生活が約3年間。退院した18才から今の36才まではほとんど実家の家の中でのベッド上の生活です。実家はこの近所にありますけどこの辺りは坂道が多いため、自宅玄関入口に8段の階段が。これが大きく外出を妨げてました。外出時はこの玄関の8段を兄弟や近所の方や知り合いに降ろしてもらわないといけないため、外出はある程度前から計画を立てないと無理でしたね。そのせいもあって外出回数は少なかったです。2ケ月から3ケ月外出しないこともありましたよ。

自宅内は全く改造してなかったので、入浴は移動入浴サービスを月に2回だけ。ここ4〜5年前には月に4回に増えましたけどね。

関西労災病院時代に養護学校へ行こうとしましたけど、学校までの距離は遙か遠く、送迎もないということで結局断念しました。


---今の生活をはじめようと思ったきっかけは何だったんですか?

実家の家の中での生活が続く中、4〜5年前豊中市の障害者総合福祉センター「ひまわり」のパソコン教室に通うようになったんです。ここは送迎付きだったんで通えました。「ひまわり」に通ううちに、障害者自立生活援助センター「豊中」の大友さんとも知り合いになり、いつしか声を掛けてもらい自立生活センター「豊中」の運営委員をやるようになりました。これが自立生活を始める大きなきっかけになったと思います。ここで障害者の自立生活について勉強し、またその良い事例としての大友さんの姿がありました。(これなら自分にも出来るんじゃないかと)また、何より実家が住みにくいし、母親が60才になったためギリギリの生活で、体を壊す前に、元気なうちに自立生活を始めたかった。またそう思っていた折りに単身者用身障者住宅(現住宅)の募集があった。これに応募したところ何と一発で当たったんです。でももし、この単身者用身障者住宅に当たらなかったとしても、普通のアパートなども探そうと思ってました。結果として単身者用が当たったことが良かったと思ってます。(単身者用でなく家族用だったとしたら、結局母親と離れることが出来なかったですしね)

---今の生活で利用されてる制度を教えて下さい。

公的ヘルパーが一日に3〜4時間。8人が交替で。これは、朝8時から夕方5時の間しか利用できないので、夕方5時から夜9時は民間の(自立生活センター「豊中」や、徳山さんの知人)ヘルパー約10人に交替で入ってもらってます。それと24時間巡回ヘルパーに夜11時から約30分来てもらってます。公的ヘルパーについては、所得により無料ですけど、民間の部分の費用は障害基礎年金と特障がほぼ全て消えてしまいます。

あと、制度という点では、移動入浴サービス受けてる事ぐらいかな。

---ここで、雨音に気づき窓の外を見ると大雨が...取材者二人移動中じゃなくてよかったーと。


---自立生活を始めた今と、前の生活とで変わった点と言えば?

そうですね。車イスに乗る回数は確実に増えましたね。以前は週に1日、今では週に5日は乗ります。残り2日はベッド上で褥そう予防と水分をいっぱいとって膀胱の洗浄と健康管理にも気をつけてます。

それと、母親が以前は疲れてよく歯槽のう漏になってましたが、今はほとんどならなくなったようです。またかなり自由な時間が取れるようにもなったようです。


---夜間などの緊急時の対策は?

巡回ヘルパーさんの携帯電話に連絡して来てもらう事も可能です。一度、連絡が必要になって来ていただいたこともあります。日中は住宅がシルバーハウジングということもあって、同じ建物の中にサービスセンターがあり援助員さんが常駐しており、緊急コールをするとすぐに来てもらえる体制もあります。緊急コールではないですけどたまに外出時にサービスセンターに電話をして、玄関ドアの開閉をしてもらうこともあります。(ドアの開閉が自力ではできないので、いずれオートロックシステムを住宅改造費で取り付けたいとも思っています)


---みなさんへ一言

自立生活になかなか踏み切れない人も居てると思うんですけど、思ってるよりは何とかなるもんですよ。いろんな制度(もちろん生活保護なども含めて)を使って、また自分に合った福祉機器なんかも使って一人での生活も何とかなるもんですよ。


---取材を終えて

これからも、健康で自立生活をエンジョイしていきたいと、徳山さん。パソコンも最近導入されて、いろいろとやっていきたいと。

徳山さんが近所で買ってきてくださったというシュークリームをよばれながら少々雑談したり、お風呂場など見せて頂いたり、そうこうしてるうちにさっきの通り雨もあがり、ボチボチおいとますることに。徳山さんは「またいつでも遊びに来て。シュークリーム用意しとくから。」と。最後はシュークリームを連発していた徳山さん。この地域ではシュークリームが特別手に入りやすいのか、はたまた徳山さんとシュークリームの謎の癒着があるのか?気になられた方は、ぜひ徳山さん方をお訪ねアソバセ。きっと美味しいシュークリームと徳山さんがアナタを出迎えてくれるんじゃないでしょうか...

注 写真は省略しました。

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