去る9月15日、西宮市総合福祉センターにおいて講演会「スウェーデンとカナダの障害者介助サービス」がメインストリーム協会主催によって開催された。この日は午前中台風16号が吹き荒れたにも関わらず多くの人が出席されこの問題に対する関心の高さが伺えた。
高齢者介護保険が4月からスタートする中、障害者の介助問題については介護保険に組み入れるのか、それとも新たな介助サービスシステムを創設するのか、創設するならどのようなシステムがいいのか厚生省も妙案を出せないでいる。介助者を自由に選び、介助場所、介助内容、介助時間を自由に決定できるという希望が叶えられるシステムはどうあるべきなのか。これを考える材料として企画されたのが今回の講演会である。
講師には、新介助サービスシステムが成功を納め注目されているスウェーデンとカナダからそれぞれアドルフ・ラツカ博士(元ストックホルム自立生活協同組合議長、自立生活研究所所長)、ヴィク・ウイリー氏(トロント自立生活センター代表)、日本からは中西正司氏(ヒューマンケア協会代表)があたられた。この三名は私達と同じ頸髄損傷者であり、その知性と情熱には敬意と共に勇気を与えられる。以下それぞれの講演内容を紹介する。
ストックホルム自立生活協同組合(STIL)は1984年に、自分で自分の方向を決め尊厳ある充実した生活を営むために日常生活の中心である介助サービスを自ら管理しなければならないという原則により設立された。STILは政府にサービスではなく直接お金を与えてくれるよう説得した。介助サービスを自分で管理・運営することで従来のホームヘルプサービスよりはるかに質の高いサービスを獲得できると確信していた。4年間に及ぶ運動を経てSTILは試行事業をスタートすることができた。試行事業は成功を納め、ついに1993年国会は私的介助の必要性の高い人々に対する直接給付を保障するパーソナル・アシスタンス法を成立させた。
直接給付の資格条件は、年齢65歳までで、週に最低20時間の生活に不可欠な介助ニーズがあることである。現在資格を得ている人は約7500人いる。介助ニーズの評価は社会保健基金の事務所でソーシャルワーカーが行い、その決定に不服がある場合は行政裁判所に不服申し立てができる。私は1日15時間と評価されている。直接給付を受ける権利を得た人は、月の必要介助時間数に1時間当たりの経費を掛けた金額を毎月受給する。1時間当たりの経費は政府が毎年定めるが、介助者への報酬、社会保険料、管理費など全ての経費を含む金額である。直接給付の受給者は給付金を使って自分自身の介助をマネジメントする。受給者は毎月、先月に受けた介助の詳細な報告を社会保健基金に行わなければならない。給付を受けて6カ月たっても未消化の給付金は社会保健基金に返還される。誰か他の人に介助者の募集、訓練、スケジュール作成、監督等の責任を代わってほしければ、受給者は地方自治体や民間事業者から介助サービスを買うことができる。しかし、直接給付の可能性を十分に活かして自分特有のライフスタイルに合わせた介助にしたい人は、自分で介助者を雇うか、協同組合に加入している。どちらの場合でも、受給者は介助者を募集し、訓練し、スケジュールを決定し、監督する責任は負うが、違いは前者では受給者自身が雇用主であり監督者でもあるのに対し、協同組合に加入した者は雇用主としての機能を法的に協同組合に委譲し、監督だけすることである。協同組合員は雇用主としての法的・金銭的リスクを背負わずに力を手に入れられる。
STILは、障害者一人一人が優れた管理者になれるように広範な教育プログラムを用意して支援している。STILでは、介助のニーズを持たないものは組合員になることも理事に立候補することもできない。また、主な収入は組合員からの事務手数料であり、独立性を守るために地方自治体からも政府からも資金援助は受けていない。現在の課題は、介助を管理するための判断力や能力に影響する障害を持つ人のための援助と、65歳という直接給付の年齢制限を撤廃すように政府を説得することである。
私は、妻と5歳の娘と暮らしている。直接給付により、妻に頼りきりにならず、家事も分担でき、お互いプロとしてのキャリアを持つことができている。私は、他の父親と同様に、できるだけ多くの時間を娘と過ごすことができる。娘と森に散歩に行ったり、買い物や博物館見物にも行く。娘は、私に障害があって、遊び仲間のお父さんとは違うことに気づいている。しかし、私が多くの介助を必要としているにも関わらず、娘が私を尊敬し、愛して成長してくれる可能性は高いと感じている。それが私に
とって過去10年間STILとパーソナル・アシスタンス法のために働いたことへの一番美しい報酬なのである。
まず初めにカナダでも非常に評価の高いアドルフ・ラツカ博士と同席できることを光栄に思う。我々は博士の書いたものを読んでたいへん参考にさせていただいた。
トロント自立生活センター(CILT)は、カナダのオンタリオ州にある。オンタリオ州には他に9つの自立生活センターがあり、全てのセンターが自己管理直接給付プログラムの運営・支援に携わっている。このプログラムは2年の施行事業を経て1998年に本格的に実施された。このプログラムによってオンタリオ州の障害者の生活は以前よりはるかに向上した。自己管理直接給付プログラムを簡単に言うと、障害者が雇用主になり介助者はその労働者になるということです。このプログラムを始めるには長い年月がかかった。州政府の役人は。障害者が責任を果たすことができるということを信じなかった。初めの頃「障害者が介助のお金をビールに使ってしまったらどうなる」などと聞かれた。我々は、食べることもベットに行くこともできなくなるから責任を学ぶことは良いことだと答えた。我々は、障害者を「消費者」と呼ぶ。これには重要な理由がある。障害者は障害者に関連したサービスの消費者であり、市場の重要なプレイヤーである。我々はサービスに依存しているからこそサービスを管理する必要がある。
自己管理直接給付プログラムの基本メカニズムは5つある。第1は、直接給付(DIRECT FUNDING)。州政府はCILTにお金を渡し、CILTがプログラム参加者に直接お金を渡す。第2は、自己管理。プログラム参加者は、給付されたお金で介助者を募集し、雇用し、訓練し、スケジュールを決定し、会計を行い、社会保険料を支払い、必要であれば解雇もする。プログラム参加者は、労働基準法を守り、雇用主として負わなければならない全ての責任を負う。また、会計士を雇うこともできる。第3は、自己評価。自己評価は、障害者こそが自分のニーズを、そしてニーズにどう対応すべきかを専門家やソーシャルワーカーよりも良く知っているという自立生活の理念にもとずいている。プログラム参加者は、自分の必要介助時間数(月180時間が上限)など自分のニーズを自分で評価し、申請書類に自分で記入する。第4は、当事者選抜。申請書類を提出すると、障害当事者で構成される選抜会議に出席を求められる。面接の間、応募者は、自分に管理能力があること、自分のニーズの評価が正当であることを、同じ障害当事者である会議のメンバーに納得させなければならない。第5は、消費者主導。これは、プログラムの設計や管理が障害者の運営する組織によるという意味です。全ての介助サービスを設計し管理するのは利用する消費者です。
自己管理直接給付プログラムでは、家族以外なら介助者を自由に選ぶことができ、介助の場所、時間、内容を自由に決定できる。もちろん介助者と共に旅行もできる。プログラム参加者と共に介助者もこのプログラムに満足しているとの調査結果も出ている。また、消費者が直接管理するため、事務管理の効率が増し、行政にとっても大きな経費節減になる。
これからの課題は、自己決定や自己管理の困難な障害者に対するサービスの方法と資金援助のモデル開発と、障害者が地域で暮らすために必要不可欠な住宅問題の解決である。
アドルフ・ラツカ博士とヴィク・ウイリー氏の話からセルフマネジドケア(自己管理)、直接給付が理想的な介助システムであることを理解していただけたと思う。これに対し日本では、ケアマネジメントという正反対の事態が起こりつつある。セルフマネジドケアができる障害者がいるじゃないかという主張に対し、ほとんどの障害者はできないと国は反論する。では、実際はどうなのかを調べるため1999年2月に自薦登録ヘルパー(好きな介助者を自治体や公社等のヘルパー派遣機関に推薦登録し、自分に派遣してもらう。介助場所、介助時間、介助内容を自由に決めることができる。介助報酬はヘルパー派遣機関から介助者に支払われる。なお、全身性障害者介護人派遣事業もこれに含まれる。)の利用者約280名にアンケート調査した。調査の結果、現在の状況については、介助者の募集は40%が自分で管理していた。介助者の訓練は60%、スケジュールの決定は80%、介助内容の決定は80%、介助者とのトラブルの対応は50%、緊急時の対応は50%がそれぞれ自分で管理していた。では、自己管理の希望はどうなのかというと、介助者の選定80%以上、スケジュールの決定85%以上、介助内容の決定90%以上の利用者が自己管理したいと答えた。つまり、自薦登録ヘルパーの利用者のほとんどがセルフマネジドケアしたいと思っている。ただ、代替ヘルパーの確保、介助者とのトラブルの対応、緊急時の対応は、自分で管理するよりも組織(自立生活センター)管理を希望する利用者が多かった。また、自薦登録ヘルパーを利用することにより利用者の自立度は高まったとの結果も出ている。自薦登録ヘルパーは実質、日本でのセルフマネジドケアになっている。現在125の市町村で自薦登録ヘルパーが行われている。しかし、制度として確立していないのが問題で、これを全国にさらに広げていき国の制度として確立しなければならない。
では次に、国が考えているケアマネジメントはどんなシステムかというと、まずケアマネージャーが障害者のケアプランを作成する。ケアプランが作られと居宅介護サービス指定事業者にサービスを依頼する。このシステムでは障害者が介助者を選定できない。お金の流れは、行政から事業者に行くので障害者の手を通らない。つまり、障害者が管理できないシステムである。
これに対して我々はセルフマネジドケアシステムを提案している。障害者は自分自身のマネージャーつまりセルフマネージャーになる。セルフマネージャーには、セルフマネジメントのノウハウが書かれているセルフマネージャーハンドブックが渡され、障害者はこの本で力をつけ(エンパワーメント)セルフマネジドケアを行う。本人だけでは不安な場合は自立生活センターがケアコンサルタントマニュアルを使い支援する。ここで大切なことは、自立生活センターの役割は支援することが目的でなく、あくまで支援が必要なくなるように障害者本人のエンパワーメントが目的である。障害者は介助券(お金は法改正が必要)を受け取り介助者に介助券を渡す。これが日本の現法制度で可能なシステムだと思われる。これを自立生活センターが中心に支援していき、国の制度を実体として障害当事者主体のシステムに組み替えていく事が次の段階で求められている。
以上