頸損だより2000夏(No.74)

ボランティア部勉強会99

ボランティア あ・れ・こ・れ シリーズ

最終回 頸損テーマ別ディスカッション 報告

ボランティア部長 森雄一

最終回(予定では第5回)に先立ち12月に実施を予定していたシリーズ第4回の宿泊訓練では、第3回で学んだ頚損の介助知識を実践で練習していただくことを計画していたのですが、結局、参加希望者が1名しかおられなかったため、中止せざるを得ず、誠に残念でした。

さて、最終回となる実質的な第4回目は、2月20日(日)に、スタッフを含めた会員6名、ボランティア4名の合計10名参加の下、芦原橋の同和地区総合福祉センターにて開催されました。今回は内容的には、第2回目に取り入れたところ好評で、もっとじっくり時間をかけてやりたいとの声が多かったテーブルディスカッションの続編、という形で行いました。用意していたテーマは、「住宅改造」「福祉機器」「学園生活」「意外と不便な障害者対応設備」などでしたが、結局時間の都合で、実際に消化できたのは最初の3つだけでした。4つ目の「意外と不便な障害者設備」は、個人的には面白いテーマだと思っていたので、時間切れで取り上げられなかったのはとても残念でした。その点、他のテーマにかける時間をもう少し削るか、あるいは話し合う順序を変えればよかったと、今さらながら自分の手際の悪さを後悔しています。

それはともかくとして、話し合うことのできた内容について少しご紹介すると、まず「住宅改造」については、これは我々車椅子の生活を余儀なくされたものにとって、避けては通れない大きなテーマです。理由は容易に想像がつくと思いますが、「歩けない」ため「車椅子」という物理的制約がありますから、せめて自宅にいるときだけでも快適に過ごしたいと思えば、当然住宅にもそのハンディを補ってくれる工夫が必要となるわけです。ただ、現実的には、金銭的な理由やマンションやアパートなどの借家住まいといった理由で希望通り改造ができないというケースが少なからずある、というのも事実で、そのような場合は、外出するのが物理的に大変という理由で出かけるのが億劫になってしまい、家に閉じ込もりがちになってしまったり、病院等のリハビリを通じて、適切な改造さえすれば自力でできるようになっていた動作までもができなくなってしまうといったことも起こり得ますので、そういう意味でも「住宅改造」は我々障害者にとって大きな意味を持ちます。

そこで今回の勉強会では、まず参加していただいたボランティアの皆さん全員に、どのような工夫が必要だと思うか尋ねてみました。その結果、まず皆さんの共通の認識として出てきたのが、段差の解消という点でした。確かに皆さんのおっしゃるとおり、「車椅子」を思い浮かべた場合、まず誰しも最初に思い浮かぶのがこの段差の解消であり、これは住宅を改造する際にも最も重要なポイントの一つといえます。ただ、一口に「段差の解消」といっても、方法は様々あります。例えば、たとえ1cmしかない襖(ふすま)や扉の敷居でも、十分にキャスターが引っかかってしまうので立派な段差といえるのですが、これなどは三角形の添木を当てるだけで簡単に解消できます。ですがより高い段差になると、今度は普段街中でもよく見かけるので皆さんもよくご存知のスロープの出番となります。スロープは比較的簡単に取り付けられますし、しかも一番安上がりで済みますが、無理なく上れる勾配をとろうとすると、段差が高くなればなるほど、より長い距離が必要になり、すごく場所をとってしまうという難点があるため、現実的には室内の段差解消には採用しにくい面があります。そこで登場するのが、段差解消リフトです。これは車椅子を乗せて電動で上下する約1m四方の鉄製テーブルのことで、垂直移動のためそれほどスペースを取らずに済みますし、場所さえあれば後付けも可能です。ただ、垂直リフトでは持ち上げられる高さに制限があるため、2階などに上がるためには(階を上がるのも一番大きな意味での段差の解消といえると思います)、階段に沿って設置したレールを上っていくタイプのリフトや、特に3階建て以上の場合は、ホームエレベーターなどが必要になります。

あと、これ以外の主だった改造ポイントとしては、車椅子で余裕を持って通れる広さへの扉と廊下の拡張、ドアの代わりに、車椅子でも開けやすい引き戸やアコーデオンカーテンへの変更、汚れても綺麗にしやすくて動きやすい床のフローリングの採用、膝が十分入って使いやすい広くて浅い洗面台や台所用流しの採用、床の洗い場の高さに埋め込んだ浴槽、または逆に車椅子の高さに合わせた洗い場と浴槽などなど、参加した各会員の自宅の実例の紹介を交えてご説明しました。

また「福祉機器」については、今回は時間の都合もあり、前述の「住宅改造」に関連するものだけに絞っていくつかカタログを使ってご紹介させていただきました。一つは先ほど述べた段差解消用のリフト&ホームエレベーター、もう一つが、車椅子ベッド(または風呂、便器、車など)の乗せ換え用の簡易型リフト、およびより大掛かりで工事で取り付けるタイプの天井型電動リフト(会報裏表紙広告の「パートナー」など)、そして最後が、寝たままで背もたれを起こして座位になれるギャッジベッドと頚損の宿命の大敵、床ずれを予防するためのエアマットなどです。本当はもっと色々とこまごまとした物も含めてご紹介したかったのですが、時間的に無理でした。

3つ目の「学園生活」については、受傷当時まだ中学生で、その後復学された2名の女性会員、鈴木千春さんと比嘉昌美さんに、その受傷から復学までの道のりと、学園生活の苦労話や楽しかったことなどについてそれぞれの体験に基づいて語っていただきました。

そして、この日の最後は、締めくくりとして、本会事務局長であった東谷氏より、障害者の自立とその望む介助、そしてそれを支えるボランティアの役割についてお話しをしていただきました。とてもいいお話でしたので、ここで簡単にご紹介させてもらいます。

まず、障害者の「自立」についてですが、かつての自立の考え方は、障害者が回りの人の手を煩わせること無く、自分のことはどんなに時間をかけても自分ですること(身辺自立)であったり、仕事をして収入を得ることであったりしました。つまり、「健常者」並みに生きていくことが「自立」であるとするのが社会通念であり、したがって、それを実現する手段を持たない多くの重度障害者は、社会から何もできない存在であるとか、迷惑をかける存在であるというレッテルを貼られ、そしてそれにより障害者自身も「自分は生きていても仕方がない」という自己否定に陥りがちでした。

しかし、その後、そのような窮状を打開すべく巻き起こった自立生活運動の高まりを経て、「たとえ人の手を借りてでもいいから、とにかく障害者本人が主体的に自分のライフスタイルを決定していくことこそが、障害者にとっての自立である」という風に、障害者自身の意識が変わっていきました。これは例えば、2時間かけて自力で着替えをしていた障害者が、結局それだけで体力を使い果たしてしまい、他に何もすることができなくなっていたところを、人の手を借りて5分で着替えを済ませることで、残った1時間55分を他のもっと有意義な活動に振り向けるということ、つまりは、障害者自身の手で生活の質(いわゆるQOL)の向上を図っていくことを意味しています。

次に「障害者の望む介助」とはどういうものか、ということですが、それを理解することは、まず、障害者も健常者同様、十人十色だという認識を持つことが基本となります。これは一見ごく当たり前のことのように思われるかも知れませんが、実際には多種多様な障害者が、単純に「障害者」という一つの枠組みでひとくくりにされがちなことも事実です。つまり、障害者が10人いれば、介助の仕方も10通りあるということをまず認識していただかなければなりません。その上で、さらに介助の主体はあくまでも障害者の方であり、介助は決して「してあげる」ものでも「させていただく」ものでもなく、あくまでも介助する側とされる側が、対等の立場で行われるべきものだと理解することが重要です。つまり、障害者には自分でできない部分を補ってもらう、という点にメリットがある一方で、介助者にとっては、他人の役に立てているという満足感を得たり、あるいは障害を持ちながらも力強く積極的に生きている人々との触れ合いを通じて、時には自分自身励まされたり、元気を分けてもらったりするといった、別の形でのメリットがあるという、お互い持ちつ持たれつの関係が望ましい介助の形です。そして欲を言えば、それをさらにもう一歩進めて、「一緒に楽しむ」という感覚まで高めることができれば、それはまさに理想の関係と言えるでしょう。

結局、これまで障害者は、社会的には、否定、排除、そして単に保護されるべき存在としてのみ認知されていた訳ですが、これからは、たとえどのような障害を持った人でも、この世に生を受けた一人の人間として、当たり前に生きて行ける社会を実現することこそが、我々が目指すべきゴールであり、それを実現するためには、さらに一層多くの障害者が社会参加を果たし、自分達の存在を声高に主張していくことが必要です。そして障害者にとって住みよい、優しい社会を実現することは、引いては人種、国籍、宗教、生まれなどのいかんを問わず、誰もが差別されず、当たり前に生きていくことのできる究極の社会の実現へと結びついていくはずです。そして「ボランティア」の役割とは、より多くの障害者が社会参加を実現するために必要なサポート、つまりは介助を行い、障害者と共に二人三脚で社会を変えていく存在であって欲しいと願っています。

と、非常に長くなってしまいましたが、以上がボラ部勉強会最終回の報告です。今回もまた参加者が少なかったこともあり、より多くの皆さんに内容を少しでも具体的に知っていただくことができれば、あるいは興味を持たれる方が出てきて、次回はもう少し参加者が増えてくれるのではないか、という想いでついつい力が入ってしまいました。

昨年度は、よりきめ細かく皆さんに頚損およびその介助について知っていただきたいという願いから、5回シリーズの予定でボラ部単独での勉強会を行いましたが、結果は回を追うごとにじり貧で参加者が減っていき、結局こちらの思惑だけが空回りした形で終わってしまいました。その反省をふまえて、今年度は一極集中で7月23日(日)に1回だけ濃い〜〜内容でお送りしますので、今度こそは皆さん、是非とも参加して下さいね!!

注 写真は省略しました。

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