一日の雨に暮れゆく青田かな
梅雨出水心かけしが電話かな
午後よりの炎暑の道をリハビリに
汗ばみて介助されをりありがたし
海へ行くカラフルなりし車椅子
日盛りを手を振りながら遠ざかる
手花火の闇に匂ひのかすかあり
星涼しこの身を神に委ねゐて
クーラーの利きすぎてゐて無言なり
今日もまたやり場なかりし猛暑かな
生涯に悔の一つや盆の月
新涼の夜のヴァイオリンの音色かな
生きてゐることの嬉しや月仰ぐ
十六夜の雲のほのめきをりしかな
初秋やオペラ観に行く紅さして
秋扇たたみて話つづきをり
頼りし子のおとなしく氷菓食む
ざわざわと稲穂の揺れて淡路陵
原稿のやうやく終えて夜長かな
書きかけしままの原稿灯下
くすり飲むごくごくと水澄めり
秋雷のほか誰もこず一日暮る
大地震のよみがえりたる秋の昼
生かされて今年もあへる秋祭
賜わりし命を思ひ秋の昼
秋宮の深閑として神楽殿
書くことも生くる証しの良夜かな
秋めくや何成さぬまま一日過ぐ
芳香の葡萄盛られし卓の上
一人漕ぐ空の青しや曼珠沙華