頸損だより2001春(No.77)

特集2

ユニバーサル
ファッション
を目指して

〜誰もが満足できる衣生活〜

聞き手 鳥屋利治

ユニバーサルデザイン(以下UDとする)は、誰もが使いやすく工夫・デザインされたモノ。だとすればユニバーサルファッション(以下UFとする)は、誰もが着れる究極の一着をイメージしてしまうかもしれないが、決してそうではない。どんな人であっても衣服生活に満足できること。これがUFなのだ。昨年7月、障害者・高齢者向けUF用アパレルCAD研究会が発足した。これに大阪頸損連絡会も研究会委員として参加。委員長に兵庫リハ澤村所長、委員メンバーに「産」・「官」・「学」・そして我々当事者団体である「民」。強力なメンバーの研究会設立に社会も揺り動かされるだろう。この研究会設立の立て役者3人に、UFについて語ってもらった。


まずは、ユニバーサルファッション協会事務局長である鈴木淳氏にUFについて話しを伺った。


−−−UFは障害者や高齢者などの少数派と言われる人たちの生活に何をもたらすのでしょう。
鈴木 建築や交通などの分野では、法律化し、誰もが使える便利なものを作ることが、少数派の生活に公平さを提供します。しかし、ファッションや食品、サービスなど消費者に選択が委ねられている多くの分野では、少数派の人達でも自由に好きなものを選べる選択肢の多様さが必要です。そのためには、ファッション業界「全体」での取組が不可欠です。

これまで、障害者向けの専用服つくりが、ボランティアの領域からビジネスにならなかったのも、ファッション業界が真剣に取組まなかったからです。UFは、障害者や高齢者を「少数派」という「量」で図るのではなく、商品やサービスの不便さに対して感度が高い顧客としての「質」を重視します。これまでは、少数派の意見は無視、後回しされることが多かったのですが、多数派にとっても重要な質の高い意見として、商品や売場開発に進んで活かしていく、という風土や仕組みつくりを目指しています。いわば、顧客満足度を高める取組の「顧客」の範囲を、お店に欲しいものがあり、買い物ができる多数派の顧客から、お店では自分に合うものが買えないという、少数派の顧客全体にまで広げ、「全ての顧客」の満足度を高めることだとも言えるでしょう。


−−−UFを社会に浸透していくにあたって、UF協会、メーカー、国、また我々のような当事者団体、それぞれの役割がどうあるべきでしょうか。
鈴木 誰かがやってくれるという受身の姿勢ではなく、少数派の意見が重視される社会を作るのは「自分」だという積極的な取組が必要だと思います。ファッション業界では、商品の流れを川に例えて、素材は川上、縫製は川中、小売は川下と表現してきました。しかし、その源流には、顧客の声という大きなダムがあるはずです。その声を集め、ファッション業界に流していく役割をするのは、UF協会や当事者団体の役割だと思います。

また、メーカーでは、少数派の意見を聞くことで、健康で標準体型の若者だけの服作りから脱却するべきでしょう。同じような商品ばかり作っていては、低価格、短納期競争になり、企業がどんどんつぶれてしまいます。欲しい服がないという人達に向けた商品を適切な価格で作ることで、安定したビジネスができるはずなのです。


−−−UF協会の活動と今後の展望についてお聞かせ下さい。
鈴木 UF協会で目指すことは、障害者向けの専用服を局所的に作る取組をするのではなく、業界全体が顧客の声を重視するような環境を作ることだと思っています。(専用服の取組は、ボランティアや地域活動でもできますが、業界構造を変えていくためには、大きな力が必要なのです。)

サイズ、体型、年齢、障害などで不便さ、不満を感じる顧客の声の中にこそ、大きなビジネスチャンスがあるということを、ファッション業界全体が認識し、それに対応する仕組みを作り上げれば、その結果として、障害者や高齢者などの少数派のファッションも提供されるようになると考えます。

UF協会の推薦制度は、顧客の不満や不便さの声を聞くことを条件付けています。ですから、今まで無視してきた声を集めなくてはならないのです。一番困っていた人こそ、一番大事にされるような制度です。この推薦制度をさらに広めることを中心に、少数派と業界を結んでいきたいと思っています。


次に、経済産業省生活産業局繊維課の新階央氏に国の取組をも含めて話しを聞いた。


−−−UD、UFへの世界の流れと、現在の日本の状況についてお聞かせ下さい。
新階 まず全体的な世の中の流れから言うと、バリアフリーからユニバーサルデザインへの時代の流れがありますよね。国際的には200年前まで女性に人権は無く、100年前まで投票権も無かった。アメリカでも1963年まで黒人に法的な人権は無く、バスに乗っても一番後ろの席にしか座れなかった。この数10年で人類は一気に変わる時代になっている。これを頑張っているところは、どんどん栄えてきている。例えば企業をみても米国のウォルマートは世界トップの企業になってる。顧客のためにユーザーのために、期待してることを越える。この事に挑戦し続ける。そして自分たちのことにムダ金は一切使わない。また世界中の情報を集めることにも長けている。世界で伸びる企業は、人間を大事にするという理念、哲学を持っているところ。そうでない企業は衰退する。

日本の場合、超高齢社会を迎えようとしている。高齢者を姥捨て山に捨てるようなことでは一気に衰退する。日本・スペイン・イタリア・ドイツの4カ国はあと100年で人口がかなり減るとも言われてる。最大の理由は女性を大切にしないから。生命を大切にしない社会は衰退、逆に一人を大事にする社会は伸びる。大事にされた人は、また別の人を大事にする。こういう良い循環が、人類が今目指している大きな流れ。そんな活動をしてる「頸損だより」がいかにスゴイ事をしてるかがよくわかるでしょう(笑)…。

その上で今僕らが成さなければいけないこと、僕は今繊維課に居ますが、繊維業界でどういうファッションの提案がなされているか分析したら、一般のそこそこの体型の人には供給過剰なくらいムチャクチャ商品がある。余って焼いて捨ててるというぐらい。だけどちょっと背が180cm以上と高かったり、140cm代と低めだったり、ちょっと痩せてたり、太ってると商品が少なくなり不自由している。高齢化で肩が上がりにくくなった人、身体機能の低下した人の商品はほとんどなく、ましてや障害者一人一人みんな身体的に違う人の ONE to ONE の製品は無いに等しい。大多数の人たち、庶民・ユーザーが非常にストレスを感じている。若くって、痩せてて、右利きの健康な男女のためだけのファッションばかりがどんどん作られてて、それ以外の人たちには供給されていない。だから日本の繊維産業の衰退が始まった。こういうバリアーを取っ払っていく必要がある。価格、サイズ、機能性、店舗、接客、いろんなバリアーがある。ユニクロは価格のバリアー、サイズのバリアーの高さを下げていくことで大当たりしてる。いろんなバリアーを下げていくという基本原則。そのうえでファッションのコア・コンピタンス(競争力の核)となるファッション性、デザイン性がしっかりしてれば、自然と盛り上がってきますよ。

中国からの輸入が多いが、これは日本のメーカーが中国に工場を建てたり、もしくはむこうと契約してレベルを上げて輸入してるんで、基本的には日本の物を輸入してるだけ。日本国内、日本人どうしの競争ですよ。逆に中国の政府や工場のほうが「日本はこんなにいっぱい作って過剰供給になってないですか。大丈夫ですか。」心配してるくらい。それに対し日本は政府を説得して「まだ大丈夫です。」と言って、どんどん輸入。愚かだと思いません?だからユニクロのように顧客のために、良い物を安くちょっと発想を変えて、バリアーを下げて提供しようとするだけで、商いの上では一人勝ちしちゃってるんですよ。

だからこれからの社会は人間のために、人間が深く満足する顧客満足(コンシューマー・サティスファクション)する商品づくり、町づくり、インフラづくり、バリアーを限りなく下げる。こんなことを充分にやった上で、コア・コンピタンスとしてのデザイン性、ファッション性の良い商品を提供すれば必ずヒットする。時代は間違いなくUFへ。どんな人でも楽しめないと…。


−−−UFに関しての国の取り組みをお聞かせ下さい。
新階 世界のパリコレ、ロンドンコレクションなんかでは、障害者・高齢者もモデルになってる。意識の進んだデザイナーは全ての存在に「美」がある。ということを追求している。それを見いだせない人は愚かなんだという価値観。時代は間違いなくこの方向へ進んでる。時代のトレンドを的確に把握して流れを作っていく。これがポイント。先ほども挙げた日本・イタリア・ドイツ・スペインは、この辺に対して意識が固い。だから取り残されていく可能性がある。その為にもこれらの報告をまとめ、次のステップとして、例えば国が今年度取り組んでいるのが、「ものづくりのガイドライン」、「売場改善のガイドライン」の作成です。UFためにいろんなノウハウをまとめ、マニュアル化して提供していく。これに対し百貨店なんかは必死になって取り組んでる。すべての人に夢を与える店舗の展開に馴染んでるんでしょう。

日本は平均年齢が上がってきており、40〜60代の目の肥えた人たちが満足できないと、20代だけをターゲットにしててもダメなんです。また介護ショップ的展開でもダメです。どんな人でも等しく楽しめないと。

UFのファッションショーや、その他意識改革の流れを作るサポートも国として行っていきます。


最後に、UF用アパレルCAD研究会の呼びかけ人でもある神戸芸術工科大学の見寺貞子助教授に研究会設立と今後の展望について聞いた。


−−−アパレルCAD研究会設立への思いと、今後の展開についてお聞かせ下さい。
見寺 私の最終的な目標は、全ての人が衣生活に満足できて、社会に対して死ぬまで参加できる。こんな事を実現したい。ここの大学に来るまではデザイナーとして20数年、小売業のバイヤーとMDをしてました。まさに現場の人間であり、ファッションは人間の楽しみ、文化をつくる、一番人間に近いものと思ってました。でもトレンドをやってるとき、ふとこれではない、と感じました。芸工大に来てたまたま震災に遭い、従来の感覚で生徒に教えてほんとに良いのか、って思いました。

神戸コープなんかでは、障害者・高齢者にオーダーウェアを提案している自分。限られた時間、相手の要望に応えたい。でもパターン作成に時間がかかる。作っても高価になる。やっと出来上がった頃には、また体型が変わってしまってたり、機能低下でその服が着れなくなっている。私はファッションはもっとクイックで、安くって、幾つもバリエーションを持ってて、自分の生活をもっと楽しめるものだと思ってるんです。そういうシステムができないかな?って。一般の人たち、いや限られた標準体型の人たちだけのCADシステムはできてる。しかし、これではいけない。今あるシステムを高齢者・障害者に対応させることによって、美的感覚、ファッション産業のあり方について、もっと言えば社会の今後の生きがいについても変えることが出来る。またこれが出来るのはファッションじゃないかとも思ったんです。

だからといって、今の産業界も決して否定はしてません。戦後の洋服文化を実らせて、高度成長までもっていって、日本のファッションデザイン、世界の中の日本文化など服で伝えることが出来るようになったのは良いんですけど、あともう一歩、日本らしさ、日本のファッションデザインを打ち出すときにUFが重要になってくるんじゃないかと思います。

昨年ヨーロッパのトップ大学を廻ってきました。どこの大学の校長なんかも皆、ファッションデザインの「美」は、美しい若い人の「美」。正直、疑問を感じました。そして、その時この若く美しいだけが「美」じゃないという考え方は、日本だけのものとも確信しました。今度ヨーロッパへ行く時は、この考え方を伝えていきたいし、学生達にも多様的な美しさを教えたい。

今、服づくりにアパレルCADシステムが使われるのは主で、出来た型紙を中国で素早く製品に仕上げる。でもほとんどが健常者の9号、11号中心のサイズで、UFにも何とかこのシステムを活用して、今のシステムに無い機能を付加する。CADを使って型紙を作るのですが、その際、素材についても情報を集約してシステムに取り込んでおく。また、付属品、例えば握力が無くても着脱しやすいもの等も情報に入れておいて、自分の残存能力に合わせて素材から付属品まで全部自分で選べて服が作れる。そういうシステムを作りたい。健常者用のは、もう出来ている。あとは障害者・高齢者を含めて体型の変化、機能低下にも対応出来るCADシステムを作ることで世の中が少し変わるでしょう。それに従来の熟練者しか出来ない型紙制作でなくて、もっと簡単に誰でも型紙制作が出来るようにする。

今の日本の既製服では、本当に選択の幅が狭すぎますね。でも海外のファッションを見たとき、以外にも日本ほど問題意識が無いんですよ。だから海外でUFの考え方が、あまりないのかもしれません。

米国はワークウェア(ジーンズウェア)から発展し、ヨーロッパはオートクチュールというオーダーメードからファッションが発展してきています。米国は多国籍の国で、体格もいいし、既製服の中で3号から20数号くらいまであって、かつ形にこだわらない。ズボンもゴム入りで、大きい人も小さな人も、あんまり問題にならない。既製服ということに関しては日本より生活しやすい。ヨーロッパにしても体格がいいのでサイズという面では選択の幅がある。日本の服は9号〜11号くらいしか無く、サイズの幅を拡げることだけでもかなりの問題点が解消されるでしょう。

「たかが服」とよく言われますけど、「されど服」でもあります。服の文化を定着させることで人間の文化も向上する。服は生活の基本。ここを大事にすることで服の産業界も変わるし、私たち自身も変わる。これらを大学の教育を通して伝えていき、実現させます。私はやると言ったことは、必ずやりますからね(笑)…。


−−−今年、パリへ3ケ月ほど行かれるそうですが、そこでは何を得てこられるおつもりですか。
見寺 パリへ行くのは、UFを日本から発信すること。

それとパリは立体造形が素晴らしいんです。日本は着物に見るように平面。だからカタイ。どんな人が見ても立体でプロポーションが良くて綺麗に見える立体造形をやりたくて。あの手法は日本には無い。向こうの現地の人の手を見て、実際にやってみないとね。そうすれば日本での型紙制作でも役に立つし、着やすい服が作れるんじゃないかと。いろんな良いところを併せて、良いものを作りたい。この二つが目的です。

注 写真は省略しました。

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