頸損だより2001春(No.77)

2001年、春、俳句

安藤久子

地震5年経ての思ひや冬に入る

人を待つ刻のすでに過ぎをり木の葉舞ふ

補聴器に風のはげしや冬に入る

昨日今日冬暖たかや癒えて来し

初めての道を選びて冬ぬくし

絶えまなく時雨の傘の往来かな

初紅葉して頂きに神在す

訪ふ声に短日の灯を点しけり

案ず子の電話のありて霜夜かな

冬溝に向ひて膳を囲みをり

新米を噛みしめてみてありがたし

麻痺の足擦りて夜の冷え厳し

賜わりし命大事に初日享く

家中を子等駆け回り三ヶ日

初神楽舞ふ王女の指白きかな

家族らに寄り添われをり初詣

七草の湯舟もよろしと教わりて

着膨れて漕ぐ車椅子重かりし

立春や佳き返信を待ちて居り

車椅子白梅の香に向かひをり

大寒や蕾のままに花しぼむ

幼児の「うん」「うん」とだけ春近し

束の間の淡雪大地輝やかせ

風と来し風に消されし淡い雪

細雪南天の実の赤きこと

冬帽子目深に姪の訪れし

冷えし手をぬくめ焼きいもほこほこと

大寒や薬臭のしてナース来る

独居の厨事して日脚伸ぶ

遺されし百寿の「梅」の絵の気力


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