頸損だより2001夏(No.78)

俳句夏号

安藤ひさ子

訪ね来て春の寒きをいひにけり

吟行の叶わぬ雨のさくらかな

うつうつと夢のやうにも花隊道

菜の花の沖沈みゆく夕日かな

検診やはや葉桜となりてゐし

紅梅や検査のあとを車椅子

目覚めゐて朝暖かと思ひをり

入園を待ちかねてゐし話かな

一枚を脱ぎて漕ぎをりあたたかし

人声もなく一本の桜かな

熱の身の篭り寝をして花曇

一病に生かされてをり鳥帰る

新しき制帽似合ひ入園す

嘉兵館いでて花菜の段畑

雲間より覗きゐたりし朧月

ナースらの声のはづみて暖かし

束の間の夢に覚めたる春の昼

さくらさくら空を埋めてをりしかな

うららかや遠廻りして里山に

新しき講堂を祝ぎ桜咲く


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