訪ね来て春の寒きをいひにけり
吟行の叶わぬ雨のさくらかな
うつうつと夢のやうにも花隊道
菜の花の沖沈みゆく夕日かな
検診やはや葉桜となりてゐし
紅梅や検査のあとを車椅子
目覚めゐて朝暖かと思ひをり
入園を待ちかねてゐし話かな
一枚を脱ぎて漕ぎをりあたたかし
人声もなく一本の桜かな
熱の身の篭り寝をして花曇
一病に生かされてをり鳥帰る
新しき制帽似合ひ入園す
嘉兵館いでて花菜の段畑
雲間より覗きゐたりし朧月
ナースらの声のはづみて暖かし
束の間の夢に覚めたる春の昼
さくらさくら空を埋めてをりしかな
うららかや遠廻りして里山に
新しき講堂を祝ぎ桜咲く