頸損だより2001冬(No.80)

俳句

安藤久子

饅頭を懐紙の上に雨月の座
またしても雨の観月会なりし
秋の夜の静けさ破り救急車
いつまでも消えぬ一語や秋の風
塀越しの色づく柿へ雨激し
暫くはひとりの時間秋灯下
いつしかに青年教師爽やかに
お寺巡りせしと便りや秋日和
厨仕事終へ一息や虫の声
 (厨仕事…台所の用事)
生かされし思ひに秋の涼しかり

車椅子に運ばれ秋の観劇会
今を生き今あることの星月夜
はじめての目高の世話をしてをりし
うそ寒きビル崩壊のニュースかな
恨みごと言ひたき秋の暑さかな
秋暑し首の据わらぬ赤子抱き
ゆれゆれて稲穂の波や海近し
潮の香の大夕焼をしばらくは
身の内へ花火の大き音のして
海よりの風存分に夏帽子

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