頸損だより2002秋(No.83)

必殺仕事人

坂上正司

僕の原稿はおそらく皆さんの参考にならないであろうということを先に断っておきます。その理由は、自営業だからです。自営業である以上、相手にしなければいけないのは顧客と取引先くらいで、雇用主との間の問題はないからです。しかし、敢えてそれでも取り上げられるということは、それなりに理由があるのかな。

さて、我が家の主要な事業は、農業と不動産業です。農業では植木の生産(約2000u)、不動産業では賃貸マンション4棟(68軒、駐車場68区画、二輪者駐車場5区画、倉庫11室)と貸店舗1、店舗用貸し地3、駐車場1(20区画)です。他に、有給の非常勤教員として、1大学、1高等学校、ホームヘルパー養成研修などを受け持っています。また、無給ではありますが、小規模作業所の運営、社会福祉法人の運営委員、学会の役員などもやっています。

農業といっても、我が家は植木の生産をして、仲卸や造園業者に売るだけです。面積的にも二千数百uですので大した売り上げではありません。労働は父親と知的障害の男性一名(36歳)の2人でやってます。僕の仕事は顧客管理と経理で、父親の作った日誌と伝票を元にパソコンで記帳をし、月末または節季末に請求書や支払い明細書を作成します。

不動産業は、賃貸マンションの家賃等の試算から契約、仲介業者との交渉、入金の確認、督促、退室の対応、補修工事の指示、裁判所の対応、苦情や希望の受付、メンテナンスの指示、入居者の管理などをやっています。いわゆる管理人さんです。メンテナンスのうち、電球の取り替えや掃除、散水、植裁の手入れは父親と知的障害の男性でやっています。


パソコン

まず、便利な道具としてパソコンを使ってます。主としては簿記ですね。帳簿、業務日誌、入出金のチェック、請求書等の作成。月に一度発行する新聞もワープロソフトで編集しています。それからホームページを使った宣伝もやっています。

中でも電子メールは非常に重宝しています。第一に不動産仲介業者とのやり取りです。メールが使えない相手とは、仕方なしにファックスを使ってます。第二に、僕が管理人室に不在のときの入居者の対応には、電子メールを使ってもらっています。留守番電話やFAXを用いる方もおられます。また、電話が苦手だからという理由で電子メールを使われる方も意外と多いようです。前の日に、僕が引き上げてから会社からご主人帰ってきて、明日何か書類がいるから用意してほしいというのがメールで入ってたら、僕は次の朝起きてメールを見て、昼ごろには書類を用意して奥さんに届けることができます。朝出ていってからから依頼されるよりも半日仕事が早くなります。電子メール関連では、ニュースクリップ使ったり、メールマガジンとかメーリングリストに入って情報を収集してます。

職場から眺め(1)
職場から眺め(1)
写真(1)
写真(1)
写真(2)
写真(2)

さて、C−3レベルで左手指しか動かない僕がパソコンを利用するには工夫が必要です。まず、車いすが入る高さの机を製作し、そこにパソコンを置くことで細かい動きができても大きな動きができない僕の自由度が広がります。部屋を広く取り、机を多く設けて、そこに書類や文献を広げて平面移動で自由度を高めています。(写真(1)・(2))

写真(3)
写真(3)
写真(4)
写真(4)
写真(5)
写真(5)

ちなみに外部との出入り口にはリモコン扉を、(写真(3))自宅との出入り口やマンションのエントランスには両側から押し開けられる扉を使っています。(写真(4)・(5))


携帯電話

なんと言っても携帯電話は便利に使っています。僕は携帯電話を持ち上げることはできないので、膝の上の鞄に入れて、イアホンマイクを耳にかけています。これで、電話機を持たなくてもしゃべることができます。経営しているマンションで3階建てでエレベーターのないものがあり、そういうとろでこは、エントランスまで行って携帯電話をインターホンがわりに使います。また、加入電話ではスピーカーホン使っています。入居者には加入電話の番号のみ伝えておき、不在時には留守番電話が携帯電話に転送されるようにしておき、何か連絡があったら漏れのないように対応してます。

それから、ガスや火災報知機が鳴ったら関係する全ての電話に転送してもらえるようなシステムをつけています。

ただ、道具ばかりにたよっているわけではありません。エレベータがあるマンションでも電話をインターホンがわりに使うこともありますが、それは毎回ではなく、気候の悪い時期や体調の悪い時期に多く利用して、それ以外のときはできるだけ部屋まで行ってリーチャー(写真(6))などでインターホンを押すようにしています。顔を見てコミニュケーションすることも大切ですからね。

写真(6)
写真(6)

コミュニケーション

それから管理人という仕事はどうしても人相手の仕事ですから、まず仲介業者には僕に慣れてもらいました。そして、入居をあっせんするときに、ここにはこういう管理人さんがいますから言っておいてもらいます。たいていは部屋の案内の際に共用部分がバリアフリー化されていることで僕の話が自然に出てくるようになっているようです。そして、入居の挨拶に来られたときに、「こういう障害ですのでここまではできますけども、ほかはできません」ということをはっきり伝えておきます。つまり、コミュニケーションの問題ですね。いくらパソコンなど情報機器を駆使して仕事をしているからといっても、やはり人の中で暮らしてるのですから人とのコミュニケーションをどうとるかということが非常に大事です。

また、慣れてもらうために僕は入居者向けの機関紙をつくっています。月に1回発行しています。その中で、入居者に小まめに注意してほしいこと、駐車場の空き情報などのアナウンス、近所のトピックスなどとあわせて自分の障害のことを少しずつ書いておいて、普段会えない入居者の方と意志の疎通をはかっています。

職場から眺め(2)
職場から眺め(2)

最後に

このような自営業をやっていくには、明らかに機会に恵まれてないとできないです。僕の場合は、父親が農業をやっていて若干時間があること、若干の資産もあることです。そして、そういうチャンスを指をくわえて見ていないで積極的に利用していくことが今の成功に繋がっていると思います。

厳密にいうと僕は今の仕事が嫌いです。僕は人づきあいが下手ですから、このような人を相手にする職業は大の苦手です。特に管理人業は、99%苦情を聞いて処理していくのが仕事ですから、受け身の体勢でいるとネガティブな感情に苛まれてしまいます。意識してかからないとクリエイティブな部分はありません。しかし、生きていくためにやっています。それが仕事だと思います。もちろん、好きな仕事を生業にできたらそれにこしたことはありませんが。

では、チャンスに恵まれなければどうしようもないのかというと、そういうわけではありません。チャンスを得るためにどこまで努力するか。どれだけ自分をアピールする物をどれだけつかむかが大事かと思います。

最後に、障害者の方には自分自身を客観的に評価する目を持ってほしいと思います。そして自分を取り巻く法制度をもっと知りましょう。


我が家の事業

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