頸損だより2002冬(No.84)

巻頭言

やさしさと思いやり 〜自然にあらわれる心〜

松崎有己

車椅子に乗って出かけていると、「はっ」とするようなちょっとうれしい瞬間に出会えたりすることがあります。まだ一人で外出し始めたばかりのころ、100円ショップで狭い店内をうろうろしていた時のことです。入り口から吹いてきた強い風で、吊るしてあった商品がちょうど足元に落ちてきて、車椅子の進路をふさいでしまいました。すると次の瞬間困ったなーと思う間もなく、そばに立っていた若い女の子がさっとその商品を拾って棚に戻してくれました。それまでそのような光景に出くわしたことのなかった自分にとって、彼女の行動は以外でした。全く躊躇することもなく、さもそれは当然のことであるかのようにスムーズな振る舞いだったからです。またその子が金髪で短いスカートのちょっとやんちゃな感じの女の子であったことが、余計に、いい意味で予想外だったからかもしれません。

人の持つ本当のやさしさや思いやりは、その言葉や立ち振る舞いに自然とあらわれるものなのだと思います。取り繕ったその場しのぎの「偽善」ではすぐにそれが相手に伝わってしまうことでしょう。日頃の気持ちの持ちようによって、人は時にそんな美しい心を持っていることを、本人も気がつかないうちに表現しているのです。日常生活において、少なくとも自分に対してなにげなく見せてくれたその心を、常に見逃さずにキャッチできたらいいなと思います。そしてまた自分自身もそのような人でありたいと…。


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