7月20日長居障害者スポーツセンターで脊髄空洞症についての勉強会を開きました。空洞症は受傷後数年経ってから新たな麻痺が生じてくるという怖い二次障害で、最近本会会員の中にも発症される方が増えているため、是非みなさんにも頚損の基礎知識として知っておいていただきたいとの思いから企画しました。
当日は実際に空洞症を発症された体験のある会員3名およびそのご夫人1名をパネリストに迎え、まずは一人目のEさん(本会会員Aさんのご夫人。ご本人の希望により報告では匿名にさせていただきます)に空洞症についての一般的な説明を含めて発表をしてもらった後で、残り3名にもそれぞれのケースについて発表してもらい、その後質疑応答、交流会を行いました。当日参加者の内訳は正会員24名、同伴者9名、協力会員6名、ボランティア8名、外部4名の合計51名と会員ミニ勉強会としてはまずまずの人出でした。
それでは以下、空洞症についての説明、各パネリストの発表および質疑応答の内容について報告します。
脊髄は膜で包まれています。その膜の間は髄液で満たされて、衝撃を受け止めたり栄養を補給したりしています。よどみなく流れ続けている髄液がいろいろな原因でできた空洞が邪魔をして流れなくなり、何十年とするうちに、脊髄のなかの圧力が大きくなり周りの組織を傷つけていきます。脊髄は脳と身体のいろいろな部位との連絡をつかさどる通路なので、その症状は全身に及びます。けれど、大きな空洞が画像で確認されても症状がなかなかでない場合もあります。
髄液は少しずつ作られては、少しずつ吸収されています。そして脳や脊髄の周囲をゆっくりと澱(よど)みなく流れていますが、此の流れが妨げられると、脊髄内部にたまっていって空洞が大きくなると考えられています。発症に男女差はなく、年令もあらゆる世代に見られます。
原因となる病気などが不明で起こるものがありますが、多くはキアリ奇形(生まれつき小脳が下に下がってしまう病気)、脊髄などの炎症(くも膜炎)、脊髄腫瘍、外傷などに伴って起こります。
病気の進行はゆっくり進みますが、神経などの痛めた組織は元に戻ることは難しくなります。手術で空洞が小さくなれば、症状の進行は止めることができます。ただ、症状が進行してしまった場合などでは、空洞が小さくなっても症状の改善が見られないことがあるため、早期に診断されることが必要になります。
先天性の原因によるものは手の温度感覚がにぶくなる、腕や手の痛み、麻痺、歩行障害、排尿排便障害などが症状として現れます。脚よりも腕や肩に強く症状が出る傾向があります。
筋力の低下、筋萎縮、温痛感障害、手足の大きさに違いが出たり、皮膚やつめが変形するなどの症状があります。めまいや顔面感覚障害、嚥下(えんげ)障害(飲食物をうまく飲みこめない障害)、声の枯れなどを起こすこともあります。
後天性の原因によるものは、症状が足から現れて片足から徐々に進行して両足にひろがり、やがて片手に温感障害がでて両手に症状がでます。 治療には、空洞に細いシリコンチューブを挿入して、たまった水を抜くシャント術(空洞短絡術)と、頭蓋(下の部分)から脊柱管に移る部分を削る手術(大後頭孔拡大術)などがありますが、頚損などの外傷でなった空洞症にはシャント術が行われます。
シャント術は、シリコンチューブを腹部や胸部に届かせるものや、数mmのものをいれるものなどがあります。シャント手術のリスクとしては髄液などによるシャントチューブの詰まり、管からの感染症、髄液の過剰な排出があります。シャント詰まりは5年間で2割弱の患者が経験するとも言われますが、感染症、流れ過ぎは数%以下とされています。対処療法で原因となる疾患の根治治療ではないということですが、頚損などの頸髄に障害を持つ場合の選択枝になります。頚損の場合受傷部位がありますので、どれほどの症状の回復があるかはそれぞれの状態によるということです。
《関連用語の説明》
髄液などをある場所からほかの場所に流す手術のこと。またはこれに使う細いチューブ(カテーテル)のことを指します。
水頭症では、脳脊髄液を脳室からほかの場所に流します。
脊髄空洞症では、脊髄内の空洞にチューブを入れてくも膜に流すものや、空洞から腹腔部や胸腔部へ流すものがあります。
脳室や脊髄腔にある水のような透明な液体で中枢神経の保護とその代謝に重要な働きをしています。
48歳 1954年(昭和29年)3月18日生まれ。
1980年7月7日 26歳のときに車の転落事故で助手席から放り出されて受傷。
T1、C7、C6 頚椎椎体骨折、頚髄損傷、四肢不全麻痺。
外傷性無気肺、外因性ショック。
寝たきりの状態でしたが、頚椎広汎椎弓切除手術をして以後リハビリのため通院。
空洞症ではないかということで、転院しました。以後、書籍などを探しましたが、ほとんど病名だけが載っているようなものでした。そのため、国立国会図書館の厚生省の難病研究で取り上げられた資料を見つけて、図書館で取り寄せました。空洞が徐々に大きくなることで、神経を圧迫して麻痺が進行していくというくらいの認識でした。
空洞症自体は、ずいぶん以前から発症していたと思います。症状が出はじめたのが、頚椎の固定術を受けて少したってからです。1996年(平成8年)手足の麻痺などが進行したため頚椎の固定術を受けました。脱臼骨折部分の変性と、外傷性脊髄空洞症の症状が進行しはじめていました。
固定術を受けてしばらく調子が良かったのですが、足が上がらないため杖があっても歩行がむずかしい、指が思うように動かない、失禁などが主な症状でした。手の筋肉が落ちて、動きが悪くなりました。
両手足の麻痺が進んでいたのですが、めまいなどの症状がでて、脳神経外科を受診して脳腫瘍がわかりました。1992年(平成4年)大後頭孔部髄膜腫の切除手術を受けました。摘出手術後、体調を崩して2年ほど自宅療養で過ごすうちに同じ病院で、受傷部位の固定が必要だということで紹介いただいて転院をしました。
転院先の病院で空洞症があることがわかりました。1996年(平成8年)頚椎の固定術を受けました。
最初の主治医は、受傷部位のこともあるので手術は極力避けたいということで、症状が進行するに任せる状態でしたが、歩くことが困難になり上肢の状態も悪くなるという状態になりました。
主治医が変わり、空洞症のシャント術ができるのではないかとお話があり、手術を受けることにしました。2000年(平成12年)5月22日SSシャント術を受ける。空洞とくも膜下腔をシャントチューブにより交通させる手術です。
時間の経過でシャントチューブが詰まるという可能性や受傷部位自体のダメージから症状が悪化することは避けられないのではないかということなどお話は伺っていました。
術後は、足の状態も良くなり、指の動きや筋肉も戻りました。リハビリはPTの方の決まったものを毎日と外来の診察が終わった後に、廊下を手すりと杖をつかって歩く練習を繰り返しました。
体力を取り戻すことで、状態はよくなったと思います。足の引き上げはとてもよくなりました。手の筋肉も一時的についたのではないかと思います。
現在は、症状が進行していて杖をつかっての歩行、起き上がることなど難しくなってきています。また、指の動きが悪くなっていて、筋肉が落ちています。症状の進行があります。これは、受傷部位からか空洞からは判然としていません。
今回、検査技師の方が磁気や角度などを工夫してくださって、今まで写すことができなかった部分が鮮明に写っていました。ただ、残念なのは以前の画像が工夫がないため空洞が拡大しているのかどうかの比較ができませんでした。
現在は、様子をみるということで秋の検査までは投薬をしていただいています。血栓などを作りにくくする薬(痛みと冷えの緩和)、総合ビタミン剤です。
基本的に現在の状態では手術は難しいと理解しています。今は、症状がどこまでどんなスピードで進行していくのかが不安ですね。
空洞症は手術が確立してきています。ただ、頚損の場合は受傷部位があるため、他の原因で空洞症になった場合と違って、術後に症状が改善されて、すっきり治るということにはならないのが現状ではと思います。また、損傷をうけている神経を触ることになるので、大変難しい手術になることは患者も認識することが必要だと思いました。難しい手術でも受ければ完治するものでは無いということを知ることが必要だと思います。そして、脊髄からくる痛みに対してもっといろいろな対処法が増えることを望んでいます。取り去ることが難しい痛みがあります。
まだ空洞症をよくご存知無い医師もおられるようですが、MRI画像で判断はつくと考えます。できるだけ、検査を受けて早期の発見が良い結果になると思います。
進行が早いということは無いと思いますがダメージを受け続けた神経は、もとに戻ることが難しいと伺いました。麻痺の程度が軽いほど、痛みに悩むことになりますし、病気の進行で現在の活動が維持できないということになります。
病院と縁遠い方も多いと思いますが麻痺があることで、見落としてしまう病気もあります。どうぞ、少し状態がおかしいと思うときは病院を訪れてください。
1966年12月15日生まれ35歳。1980年8月13日海の飛び込みにより受傷。C4・5の不全麻痺(腕をある程度動かせる状態)
去年の春頃より、頚損の友達より空洞症という病気があり、身体機能が低下してくるという話を聞く程度で、その後、去年の頚損だよりで空洞症の記事を読んで少し知識を得ました。
今思えば、3年ほど前の7月位から左腕が重く感じるようになりました。最初は年齢や運動不足などが原因と思っていましたが、そのうち電動車椅子の操作もうまくできないほどに悪化してきて、そんなときに会報の記事を見て自分も空洞症かもしれないと思い受診しました。
昨年12月、大阪労災病院のとりあえず整形外科を受診しました。家から近いから。その頃には、多少の知識がありましたので先生に聞いてみました。僕の場合、最初に怪我した時に手術してなかったので骨がズレてきて、神経を圧迫してるという可能性もあると言われ、MRIを撮りその結果、水が溜まっている事がわかり、脳神経外科も受診しました。脳神経外科では、空洞症の手術もした事があり、ほぼそれが原因だろうと言われ、年明けに入院する事になりました。まだ骨がズレてる可能性も捨てきれないので1月いっぱい検査して先生の診断の結果待ちでした。結果、骨は変な形だけどもしっかりくっ付いてると言うことで、2月4日空洞症の手術をする事に決定。骨のズレている部分の上下それぞれ別々に空洞ができていたので、上は穴だけ開けて、下はシャントチューブを入れて水を抜く手術をしました。事前に医師には十分な説明を受け、手術後も症状が改善しないかもしれないということは覚悟していました。
手術後次の日より座るように言われ、縫った傷が一週間位でくっ付いたのでそれからリハビリ開始、現在も継続中です。先に書きました通り症状は、左腕が上がらなくなってきまして、手術前はほとんど左腕は動かなくなってたんですが、リハビリしだして日に日に回復している感じです。発症前(3年前)と比べるとまだまだですが、手術前と比べると結構動くようになりました。もうしばらくはリハビリを頑張る予定です。ある程度の回復は見込めるかな?という所です。元通りは無理みたいです。
定期的にMRIを撮って早期発見してほしいです。早く発見出来れば完全回復も可能と思います。また、最近は医師は患者の質問にちゃんと答える義務があるようなので、みなさんも症状や手術について疑問点があれば十分納得いくまで説明してもらえばいいと思います。
47歳。昭和48年12月22日交通事故で受傷。障害レベル:C−6・7
全く知識がなかったです。(病名すら知らなかったです)
診断を受ける(H9.2月)約2年ぐらい前より、左手指の動きが徐々に悪くなりました。元々左手は握力はないものの、物を持ったり引っかけたりするのは右手よりもしやすかったのですが、徐々にできなくなっていきました。例えば電話を取ろうとして取ったつもりが取れてなかったり、落としたり、左手で持ててた茶碗も落とすようになりました。また肩こりもひどくなってきました。でも年齢が40になって、それまでやっていたバスケットもやめて、体力が落ちてきていた自覚もあったので、最初はそのせいだと思ってました。症状の進行がごくわずかずつなので、自分自身悪化してきていることに中々気づきませんでした。でもH9.1月、家に遊びに来た友人にこの話をすると、すぐに病院で診てもらった方がよいと強く勧められたため、受診しました。
泌尿器科及び整形外科に通院していたので、平成9年2月に星ヶ丘厚生年金病院を受診。初めての診察で、空洞症と診断されました。
医師からは具体的な説明がありましたが、無知だったので把握できませんでした。
左手指は悪くなった状態のままです。ただ、改善された点としては、それまでのけぞるような強い痙性とそれに伴う首に電気が走るような強い痛みがあったのが、術後は全くなくなりました。なお再発が免れないという前提で、定期的(半年or1年)にMRI検査を継続しています。
早期発見が大切なので、何もなくても定期的にMRI検査をされてはどうでしょうか。
43才。傷害年月日:1996年8月30日、ハンググライダーの大会に参加中、岩に頭から突っ込み、頸椎5番を粉砕骨折。傷害レベル:C6B1
星ヶ丘厚生年金病院に入院中(1996年11月〜)、高野さんが空洞症の手術をされたので、神経が麻痺していくことぐらいは知ってましたが、空洞という名前から空気でもたまっているのかと思っていました。
兵庫県立リハビリテーションセンターの自立生活訓練センターに入所中(1997年11月〜)、1998年5月頃から、身体をのけぞったとき、左手に電気が走るようなズキンという痛みが走るようになり、その後、2ヶ月ぐらいの間にその痛みは左肩、そしてさらに上まで広がり、あるときバスケットをしている最中、ボールを取ろうとしてのけぞったときにとうとう左後頭部にガーンという激痛が走りました。回復に30分近くかかり、このときはさすがにやばいとは思いましたが、でもまさか空洞症だとは思わなかったので、それでもまだ受診はしませんでした。でもあるとき、シャワー中にお湯がかかっても左側だけが熱くないことに気づき、その状態が2ヶ月たってもよくならないので、改めて本を調べて、そこに空洞症ではまず温痛覚の麻痺が起こると書いてあったのを見て、自分もそうかもしれないと思いようやく受診しました。僕の場合不全麻痺で触覚(触っている感覚)が残っているので(現在も触覚は残っています)、逆にそれが災いして、温痛覚が無くなっているのになかなか気がつきませんでした。
自立生活訓練センターに入所していたのでリハセンの中央病院で受診しました。症状から空洞症だろうと診察されましたが、頸椎の手術をしたときに後ろをワイヤーで固定していたので、MRIが撮れないと言われ、運動神経にも麻痺が出てきたら何か方法を考えるとして、もう少し様子を見ようということになりました。その間、左手から肩・首・後頭部にかけて徐々に温痛覚(温度や痛みを感じる感覚)がなくなっていきました。1年後、温痛覚の麻痺が左頬まで進み、新しく代わった主治医に相談すると、手術をした長野県の病院に電話をしてくれました。すると、MRIは撮れるということで、さっそく撮ると、頸椎の2番あたりまで空洞が上がってきていました。(いったい僕はなぜ1年も待たされたのか?先入観と医者の怠慢のせいだろうか?もっと早くMRIを撮れることがわかっていれば麻痺の進行をもっと軽度で食い止められたのにと思うとショックでした。)
しかし、この1年の間に訓練生で空洞症の手術をした人がいて、評判のいい病院と医者(太田先生)を教えてもらうことができました。そこは、福岡県飯塚市にある総合脊損センターで、遠くではありましたが安心できるところを選びました。
手術は、脊髄にたまった水を外に出すためにシリコンのチューブ(直径1.2mmx5cm)を入れるシャント術というものでした。(1999年9月手術)
失った温痛覚は回復しませんでしたが、身体をのけぞったときの痛みは、ほとんどなくなりました。足の痙性が強くなりましたが、空洞症との関連は不明です。定期的にMRIを撮り、進行していないかチェックしています。
空洞症の疑いがあれば、少しでも早く受診し、空洞症であれば、症状が進行する前に手術をすることです。
《Q&A》
空洞症友の会もありますので、連絡を取ってみることも情報を得ることができるのではないかと思います。
また、患者さんが開いておられるホームページもありますから、そこでお話しを伺うこともできます。
http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Vega/4026/
【幾山河】 空洞症で手術を受けた方のサイトで、沢山患者さんが集まっています。キアリ奇形の方達が中心になっています。
http://www.ag.wakwak.com/~ponpokoyama/index.html
【ふしぎの森】空洞症についてと友の会の紹介をしています。
ただ、経過観察という形もありますので、誰もが即手術となるわけではありません。
脊髄空洞症は頚損なら誰でもなりうる障害です。しかも一度進行してしまった症状は手術しても元には戻りませんので、早期発見、早期治療が何よりも重要です。ですから、パネリストのみなさんがアドバイスしているように、まだMRIを撮ったことのない方は是非今すぐにでも撮ってきて(首の固定に金属が入ってる場合でも可能な場合がありますので医療機関にご確認ください。)、温痛覚や運動機能に新たな麻痺の症状が現れたときはもちろんですが、それ意外でもしびれや持続する肩こりなど、少しでも普段と何か違う、おかしいと感じたときは、放っておくのではなく、とりあえず大事をとって病院で診てもらうようにしましょう。
なお、今回の勉強会も録音してありますので、ご希望の方にはテープ代、送料実費でお送りしますので、森までご連絡ください。また空洞症についてより詳しく知りたい方にはパネリストをご紹介することも可能ですので、同じく遠慮なくご一報を。