今年1/11、5/21、7/27の坂口厚生労働大臣の発言(無年金障害者問題について障害者福祉施策の一環として解決を目指す考えを明らかにして、今年度中に結論を出す)から、私たち学生無年金障害者訴訟原告団の有志が、8/26,27に続いて、10/7に東京都千代田区の厚生労働省前にて、横断幕と幟を掲げ、「原告および家族、支援者がマイクで、自らの思いと早期の救済」を訴え、1,000枚のビラを配布しました。
先んじて、厚生労働省の障害者施策企画課および障害年金課と交渉し、坂口厚生労働相案を実行するよう要請しました。p>
また、7日午後に「無年金障害者問題を考える議員連盟準備会」に携わっておられる井上議員、中川議員、黒岩議員と交渉の場を持ち、原告及び家族、支援者が早期救済を訴えました。
12/4(水曜)に、「無年金障害者問題を考える議員連盟」の立ち上げと議連総会が行われます。参加していただける方は、衆議院参議員与野党そろい、障害者福祉にも積極的に取り組んでこられた国会議員で、坂口厚生労働相とスクラムを組んで、議員立法のこと、無年金障害者問題を一日も早く解決してくれそうな頼もしい10名の応援団です。これからも参加してもらえる国会議員が増えればと願っている次第です。
会長:八代英太元郵政大臣(自民党)
顧問:津島雄二元厚生大臣(自民党) 現在は自民党年金制度調査会長
事務局長:黒岩宇洋参議院議員(無所属)
幹事:園田博之衆議員(自民党)、沢たまき参議員(公明党)、金田誠一衆議員(民主党)、山井和則衆議員(民主党)、武山百合子衆議員(自由党)、中川智子衆議員(社民党)、井上美代参議員(共産党)
全国8地方裁判所(札幌・盛岡・新潟・東京1次2次・京都・大阪・広島・福岡)でも順々に裁判が行われており、提訴した原告者30名は地域の支援者に支えられて厳しい闘いをしており、各地方裁判所に提起した訴訟は、「行政訴訟と国家賠償請求訴訟」で、憲法14条違反、憲法25条違反を主張しますが、国民年金法違反も主張しています。
原告側から、「障害者の生活実態・障害者の権利保障の歴史と所得保障」に関する準備書面を提出。被告側からは、原告側への求釈明に対する回答があります。ただし、事前に送ってきた相手方準備書面では、まともな回答はしておらず、これまでと同様の不誠実な対応に終始しています。
冒頭、裁判所から、書証についての訴訟指揮がありました。以前に、国側から膨大な分量の国会議事録や文献が「参考資料」として出されていましたが、これを「乙号証で出すように」という訴訟指揮でした。この国会議事録や文献は、東京など他の裁判所での訴訟では、国側から乙号証として提出されていたものですが、大阪・京都地裁では、国側は『必要がないから乙号証では出さない。参考資料として提出する』という態度でした。そこで、原告側から、『全国にならって、国側の乙号証として提出するように』と求めていました。裁判所はこの原告側の意向を汲んで、上記のような訴訟指揮となりました。
つづいて、原告から「7月16日付の準備書面4」と「9月3日付の準備書面5」を提出しました。準備書面4は、求釈明に対する国側の不誠実な対応を批判し、再度の求釈明を求めたもの、準備書面5は、障害者の生活実態と権利保障の歴史、所得保障の意義について述べたものです。この準備書面5に関しては、中西(達)弁護士が口頭で弁論しました。
被告からは、「月日付の準備書面3」が提出されました。これは原告の準備書面4(7/16)に対応するもので、国側があらためて求釈明について回答したものです。しかし、その内容は、従前とまったく(!)変わらない「木で鼻をくくった」内容に終始しています。
つづいて、原告から「文書送付嘱託」を提出しました。これは、昭和34年の国会議事録中に当方にとって有用な資料が引用されていましたので、その資料を参議院事務局から取り寄せるという申立てです。これに対して、国側は、「参議院に問い合わせたところ、その資料は見当たらない」と応答しました。引き続き、国会図書館などに資料がないか探すように要求しました。
最後に、坂口試案について、N弁護士が口頭で意見を述べました。
次回期日は、12月6日(金)午前10時30分〜11時、大阪地裁202号法廷
弁護団原告側から詳細な憲法論を展開した書面を提出する予定です。
年会費 1口 | : | 団体 5,000円 個人 2,000円 |
郵便為替口座番号 | : | 00950−4−131048 |
名 義 | : | 学生無年金障害者への年金支給を実現する関西の会 |
無年金障害者の会HP | : | http://www7.plala.or.jp/munenkin/index.html |
日 時 | : | 2002年12月6日(金曜) 午前10時30分〜11時 |
法 廷 | : | 大阪地方裁判所 202号 大法廷 |
所在地 | : | 大阪市北区西天満2丁目1-10 TEL:06-6363-1281(代表) 地下鉄御堂筋線「淀屋橋」駅下車徒歩7分 |
※ | 大阪地裁でいちばん大きい大法廷であり、車イスのスペースも10人以上確保する予定なので、多くの皆さんの傍聴をお願い致します。 傍聴席を支援者でいっぱいにし、無年金障害者問題が広く関心を持たれていることを裁判所に示したいと思います。是非、支援に駆けつけて下さい。 裁判後、引き続き、隣接の弁護士会館で報告集会を予定していますので、あわせてご参加をお願いいたします。 |
私たち無年金裁判原告は、国民年金制度の不備を訴えて運動してきたので、無年金障害者を生み出さないような、安心して暮らせる年金制度の確立を求めている。また学生無年金障害者だけでなく、主婦無年金障害者、滞納無年金障害者、在日外国人無年金障害者、強制加入以後の学生無年金障害者の解消も併せて訴えていくつもりです。
障害基礎年金は、障害者の経済的自立に欠くことのできない基本的条件であるのに、無年金障害者は経済的自立を阻まれています。
ボランティア及び、皆さんのお知り会いの方で、20歳以上の学生等の方は、国民年金を納付されている、または猶予、免除手続きを取られているかどうか確かめて下さい。
(老齢年金の不支給、無年金者になる可能性がありますので、ご注意を!)
「坂口試案」(甲1)に関する原告らの意見は以下のとおりである。
対しては免除制度により救済し、また保険料の納付要件についても緩和するなど、拠出制を基本としながらも無拠出制を併用した制度設計となっていることは、制度の創設者が繰り返し述べてきたところである。これらの救済策により拠出制の年金制度の存立が揺るがされているとは、国もよもや主張しないであろう。
現実にも手当による解決では、年金制度と異なり制度的安定を欠くこと、受給後においても年金保険料の支払義務が残ること、また想定されている金額もきわめて不十分なものであって、障害者の家計を安定させるためには、到底、役不足である。
いずれにしても、本訴において障害基礎年金の支給を求めている原告らの請求が、早急に解決を迫られている問題であり、放置することが許されない課題であることは明らかである。
裁判所におかれては、原告らの窮状と、制度の欠陥に思いをいたされ、障害基礎年金の支給による解決こそが根本であることを示していただきたいと思う。
本準備書面では、原告ら日本の障害者が置かれている生活実態、経済状況や雇用状況を各種統計等で実証的に明らかにすることで、稼得能力を喪失した障害者にとって自立した社会生活がいかに困難であるか、本件に即して言えば、学生等を国民年金の適用から除外することが障害者の健康で文化的な最低限度の生存をいかに脅かしているかを明らかにする。その上で、障害者にとって、とりわけ所得保障がどのような意味を持つのか、また、それが障害者の権利保障にとってどんなに重要なのかについて概括し、本件訴訟における請求が、障害者にとっての権利保障、とりわけ所得保障の実現において如何に重要なものであるかについて述べる。
障害者基本法第2条では、「この法律において、『障害者』とは身体障害、知的障害または精神障害(以下『障害者』と総称する)があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」とする。
また、身体障害者福祉法4条では、「この法律において、『身体障害者』とは、別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう」とする。
厚生労働省の調査によれば、平成13年6月1日現在で18歳以上の在宅の身体障害者数は
324万5000人と推計され、
平成12年9月1日現在で18歳以上の在宅の知的障害者数は
22万1200人と推計されている。
また、精神病の患者数(平成11年)は、
204万人であり、
精神障害者保健福祉手帳を所持している数(平成13年3月末)は、
19万1000人である。
厚生労働省(旧労働省)の平成10年11月の調査では、従業員規模5人以上の事業所に雇用されている
身体障害者は、39万6000人、
知的障害者は、6万9000人、
精神障害者は、5万1000人
となっている。すなわち、就労できている障害者は、
身体障害者で12.2パーセント、
知的障害者で31.1パーセント、
精神障害者(手帳所持者)で26.7パーセント
である。
また、平成13年6月1日の調査では、一般の民間企業(常用労働者数56人以上規模の企業)における
常用労働者数は1693万6056人
であり、そのうち
障害者数は18万6577人
である。
障害者雇用促進法上の実雇用率は1.49パーセント(法定雇用率1.8パーセント)であって、実雇用率はここ数年のあいだ横ばいのままであり、法定雇用率未達成企業は全体の56.3パーセントにのぼっており、過去最高を更新中である。
他方、平成12年末で公共職業安定所に求職登録する障害者数は13万2000人とこれも過去最高である。
このように、大多数の障害者が就労できていない状況にあることが分かる。また、たとえ就労できたとしても生計を支えるだけの賃金を得ることは困難な状況である。
東京都が平成11年2月に実施した「障害者の生活実態」調査によれば、身体障害者の場合、1年間の収入額(年金、手当等を含み、生活保護費を除く。以下同じ)についてみると、
150万円未満の者が全体の50.3パーセントであり、
150万〜200万円の者が9.9パーセント、
200万〜250万円の者が8.3パーセント、
250万〜300万円の者が7.1パーセント
となっている。
また、同じ調査で、知的障害者の場合は、年間収入額が
150万円未満の者が77.9パーセント、
精神障害者の場合も
150万円未満の者が77.9パーセント
である。 このようにほとんどの障害者が自立した生活を送るだけの収入を得ることができていない。
しかも、収入のうち最も金額の多いものは、
「年金」 58.0パーセント、
「就労収入」17.4パーセント、
「手当」 9.6パーセント、
「事業収入」 5.6パーセント
となっており、障害者にとって収入の過半数を年金に頼っていることが分かる。
厚生労働省が平成13年6月1日に実施した調査によれば、身体障害者のなかで日常生活動作として、「食事」「食事のしたくや後かたづけ」「排泄」「入浴」「衣服の着脱」「掃除・整理整頓」「洗濯」「寝返り」「家の中を移動」「外出」「日常の買い物」の11の動作のうち、全部介助を要する者及び一部 介助を要する者の割合は、
「日常の買い物」 31.0パーセント
「洗濯をする」 25.3パーセント
「食事のしたくや後かたづけ」 24.9パーセント
「外出」 27.9パーセント
「掃除・整理整頓」 25.1パーセント
「入浴」 21.0パーセント
などとなっており、身体障害者の約4分の1が日常生活に何らかの介助を必要としていることが分かる。
また、東京都が平成11年2月に実施した調査によれば、住まいの状況については、
身体障害者の場合で、
持ち家 59.6パーセント
借家 36.3パーセント
施設 2.4パーセント
知的障害者の場合で、
持ち家 58.5パーセント
借家 30.4パーセント
施設 9.9パーセント
精神障害者の場合で、
持ち家 40.7パーセント
借家 49.6パーセント
施設 3.0パーセント
となっている。なお、持ち家・借家については、障害者本人名義には限定しておらず、家族等の名義になっている場合も含まれる。
同じく東京都の調査によれば、同居者の状況については、
身体障害者の場合、
独居 15.8パーセント
親 11.1パーセント
配偶者 56.1パーセント
兄弟姉妹 5.5パーセント
知的障害者の場合、
独居 3.0パーセント
親 77.4パーセント
配偶者 2.6パーセント
兄弟姉妹 41.0パーセント
精神障害者の場合、
独居 24.8パーセント
親 43.1パーセント
配偶者 18.9パーセント
兄弟姉妹 14.3パーセント
となっており、自立した生活が困難である状況がうかがわれる。
さらに、同じく東京都の調査において、自由記述形式による「現在困っていること」、東京都・区市町村への「要望」をまとめてみると、
身体障害者の場合、回答者495人中、
収入の減少・収入が少ないこと 126人
生活が苦しい 103人
年金が少ない 29人
手当が少ない 16人
年金がない 14人
などとなっており、
知的障害者の場合、回答者99人中
収入が少ない 20人
将来の生活・収入 15人
収入がない 8人
親亡き後の収入が不安 5人
生活が苦しい 5人
などとなっており、
精神障害者の場合、回答者104人中
収入が少なく生活が苦しい 41人
年金のみで不安 8人
医療費がかさむ 7人
収入がない 7人
親亡き後の生活が不安 7人
などとなっている。
以上の統計上の結果によれば、原告らを含む障害者は、障害を持つことで、そのような障害を持たない人に比べて日常生活上様々な不利益を被っている。例えば、就労の機会が乏しい、就労しても所得が低い、障害から様々な生活費負担の増加を余儀なくされる、日常生活・社会生活上の様々な困難からくる身体的・精神的・経済的負担がある。
ただ、上記統計は、軽度の障害者を含めた平均であること、障害のないまま通常に就職しその後に障害を持つにいたった者を含むこと等に留意すべきである。すなわち、未就労の間に重度の障害者となった者は、上記統計から出てくる平均像よりも更に困難な状況にあることは明らかである。
何らかの障害をもつために、労働による収入を全く得られないか、あるいは著しく制限されざるを得ない一方で、日常生活の制限等に伴って生じる特別の出費を余儀なくされることの多い障害者にとって、「完全参加と平等」の実現を目指して、地域社会で障害をもたない他の市民とともに自立した生活を営んで行くためには、少なくとも必要最小限の安定した収入をどう確保するかという問題は、避けて通ることのできない課題である。
ノーマライゼーションとは、「障害者の日常生活の様式や条件を社会の主流にある人々の標準や様式に可能な限り近づける」という理念である。これは、世界の障害者福祉の普遍的理念であり、この理念の下では、「障害者は、異なったニーズを持つ特別の集団と考えられるべきではなく、通常の人間なニーズを満たすのに特別の困難を持つ普通の市民と考えられるべきである」(国連・障害者に関する世界行動計画)。この理念からすれば、障害者の権利保障、殊にその所得が、障害のない人と同水準に保障されるべきは当然である。
わが国においても、障害者が家庭、地域生活、学校、職場で可能な限りその一員として生活し、日々の暮らしの中で「生きる喜び」を実感できるノーマライゼーションの理念は、障害者福祉のみでない社会福祉全般の理念となっている。
障害者も、当然ながら、個人の尊厳が確保されねばならず、ADL(日常生活動作)の改善だけでなくQOL(生活の質)の確保される在宅での自立生活が保障されねばならない。その生活には、経済的裏付けが必要であり、これらの理念が画餅に帰さないためには、経済的措置が必要である。
そこで、世界における障害者の権利保障の状況を概観し、これらの権利保障を裏付けるところの所得保障が、どのように謳われているのか、またわが国の障害者基本法も立脚する障害者のノーマライゼーションを基本とする理念のもとで、障害者の所得保障はどのようにあるべきかについて、見てみることとする。
(1) 国際的保障ア 世界人権宣言
昭和23(1948)年に開催された第3回国際連合総会において世界人権宣言が採択されている。
この世界人権宣言の中で、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」(1条)とされ、さらに「すべて人は、社会の一員として社会保障を受ける権利を有し、かつ、国家的努力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利を実現する権利を有する」(22条)とされている。なお、具体的に「すべて人は、衣食住、衣料及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する」(25条)とされている。すなわち、戦後間もないこの時期に出された世界人権宣言において、障害の有無にかかわらず、人は皆自由であり、かつ尊厳と権利とについて平等であると謳われ、さらに、疾病、心身障害等による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有するとされているのである。このころは、欧米諸国においては、障害者のリハビリテーションを目的とする立法が盛んになされていた時期であるが、この時期に、既に職業復帰のためのリハビリテーションの理念を超えて、社会保障を受ける権利が定められ、疾病、心身障害等による生活不能といった側面に着目して、生活の保障が謳われていたことは着目されるべきことである。
イ 障害者の権利宣言
その後、障害者について、できるだけ通常の(ノーマルな)生活状態に近い生活状態を作り出すこと」を目指すノーマライゼーションの理念が拡がっていった。これを受け、昭和50(1975)年、第30回国連総会で障害者の権利宣言が採択された。
この障害者の権利宣言は、その前文において「身体的・精神的障害を防止し、障害者が最大限に多様な活動分野においてその能力を発揮しうるよう援助し、また可能な限り通常の生活への統合を促進する必要性に留意し、」、「この障害者の権利に関する宣言を宣言し、かつこれらの権利の保護のための共通の基礎及び指針として使用されることを確実にするための国内的及び国際的行動を要請する」ことを規定している。つまり、障害者が、最大限に多様な活動分野においてその能力を発揮し得るよう援助し、また可能な限り通常の生活への統合を促進する必要性を国連総会で確認したものである。
そして、障害者の権利宣言では、「障害者は、この宣言において掲げられるすべての権利を享受する」(2項)と規定しており、さらに、3項で「障害者は、その人間としての尊厳が尊重される生まれながらの権利を有している。障害者は、その障害の原因、特質及び程度にかかわらず、同年齢の市民と同等の基本的権利を有する。このことは、まず第一に、可能な限り通常のかつ十分満たされた相当の生活を送ることができる権利を意味する」と定めている。これが先に触れたノーマライゼーションの理念を示すものである。
さらに、同7項では、「障害者は、経済的社会的保障を受け、相当の生活水準を保つ権利を有する」と規定している。これは、いわば障害者に対する年金給付の水準を定めたものであり、ここでは憲法25条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」を超える「相当な生活水準を保つ権利」が保障されてきていることに注目すべきである。
また、同8項では、「障害者は、経済社会計画のすべての段階において、その特別のニーズが考慮される資格を有する」とも規定している。つまり、現実の日常生活・社会生活においては、障害を持つことでさまざまな不利益・負担が生じることを認めた上で、特別の出費を確保する障害年金の必要性に言及したものである。
ウ 国際障害者年・障害者に関する世界行動計画
国連では、障害者の権利宣言を単なる理念として終わらせず、社会で実現するという意図の下に、昭和56(1981)年を国際障害者年とし、「完全参加と平等」というテーマを掲げた。そして、翌昭和57(1982)年第37回国連総会において「障害者に関する世界行動計画」が採択された。この行動計画では、社会生活と開発への障害者の「完全参加」の達成や平等の達成などにつき、効果的な施策を推進することが目的とされ、国連加盟国は、そのための具体的施策が求められている。この行動計画の中には、国家レベルの行動として、機会の平等化をあげ、その中に、法制や収入の維持と社会保障といった項目について、加盟国の責任として障害者が他の市民と均等な機会を付与されることが求められた。
エ 国連障害者の10年
さらに、この障害者に関する世界行動計画を実現すべく翌昭和58(1983)年から平成4(1992)年までを国連障害者の10年として、障害者の社会生活と社会発展への「完全参加と平等」を目標に行動計画を策定することとなった。
ここに、ノーマライゼーションは具体的に、障害者の社会への完全参加と平等を実現するための理念と位置づけられ、この理念を実現するために各国政府には具体的行動が求められることとなった。
オ アジア太平洋障害者の十年
さらに引き続いて、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)では、この国連障害者の10年では、十分な成果が見られたとは言い難いことから、引き続き平成5(1993)年から平成14(2002)年までをアジア太平洋障害者の10年として、国連障害者の10年に引き続いた取り組みをすることとなった。
カ 障害者の機会均等化に関する基準規則
1993年に国連が採択した障害者の機会均等化に関する基準規則も、規則8において、各国は、「一時的に収入がなくなったり、減少したり、又は雇用機会を断られたりした障害のある人たちに対して十分な収入を援助することを確保しなければならない」としている。
キ 上記の各宣言等は、障害者の権利の保障とともに、その経済的裏付け、即ち所得保障を各国に求めている。
日本国憲法が13条で幸福追求権を定め、25条で生存権を定めており、これは障害者にも等しく適用されるものであることは言うまでもない。
こういった憲法の条文に示された理念や、これを受けて制定された国民年金法の解釈は、上記(1)の国際的保障と無縁ではない。日本も国連加盟国として、これらの宣言や行動計画を実現する責務を負っていることは明白だからである。障害者の権利宣言、国際障害者年・障害者に関する世界行動計画等は、障害者に対する人権保障に関するグローバルスタンダードであるから、国連加盟国である日本にとっては、先の世界人権宣言およびこれを受けて昭和41年(1966年)に採択された国際人権規約同様、一つの法規範であり、さらに、国民年金法の解釈指針となるものである。そして、この宣言等は、障害者の権利保障のための指針でとして、単なる宣言等にとどまらず、その内容を実現するために国内的行動を明確に要求している(国際障害者年・障害者に関する世界行動計画は、各国政府を名宛人とした行動計画である点に留意しなければならない)のであるから、前述したように、国民年金法を解釈するにあたり、この宣言等は重要な解釈指針とされなければならないものである。
そして、わが国の障害者基本法も1条において、国連障害者の10年をうけて、障害者のための施策は、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野への参加を促進することを目的として推進されるべきであると規定し、その経済的裏づけとして、20条において、「国及び地方公共団体は、障害者の生活の安定に資するため、年金、手当等の制度に関し、必要な施策を講じなければならない」と規定し、「年金、手当等の」障害者の所得保障にかかわる施策を義務付けている。同法24条では、「障害者の福祉に関する施策の策定及び実施にあたっては、障害者の父母その他障害者の養護にあたる者がその死後における障害者の生活について懸念することのないよう特に配慮がなされなければならない。」とされている。
したがって、国民年金法における障害年金受給権の有無を解釈するにあたっては、上記の国際的保障と平仄を合わせる障害者基本法の趣旨が最大限尊重されねばならない。そうでなければ、障害者の生存権が守られず、障害を持たない人との平等を回復しようとする障害者基本法は無に帰するからである。
実質的平等回復のための生存権保障は、障害を持つことによって被る不利益・負担を補う具体的方策を講じることによって実現しうると言い換えることもできる。そのように考えた場合、障害基礎年金(障害福祉年金)はそのような方策の中心をなすものである。ノーマライゼーションの実現、完全参加と平等の実現というグローバルスタンダードを踏まえて障害基礎年金の法的性格を考えると、障害基礎年金は、障害のない人との実質的平等を実現するための給付、換言すれば、完全参加と平等を担保するための給付だからである。
上記のとおり、ノーマライゼーションの理念を受けた障害者の所得保障の観点からすれば、年金が所得保障の中心となるべきものであるが、この点は、年金以外の他の制度との比較をすれば明らかである。
障害者の自立の促進と社会生活上のあらゆる分野への参加の促進とを経済的な側面から支える役割を担っている制度としては、(1)年金制度上の所得保障制度(国民年金制度上の障害基礎年金制度、厚生年金保険制度上の障害厚生年金・障害者手当制度)、(2)労災保険制度上の障害補償年金・障害補償一時金制度等、(3)特別児童扶養手当等の支給制度上の障害児福祉手当・特別障害者手当制度、(4)生活保護制度上の障害者加算制度の4つの制度がある。
しかし、障害者が人間の尊厳性を確保しつつ、人たるに値する内容の生活を社会的に営んでいくことを可能にするためには、少なくとも、次のような条件を満たし得る制度が、これらの制度の基本に据えられる必要がある。すなわち、(1)合理的な一定の障害水準に該当する者すべてを包摂し得るものであること、(2)障害という要保障事故が長期にわたって継続するという特性に鑑み、一定の支給要件を満たす者はだれでも、人たるに値する一定水準の生活を継続的かつ確実に営むことができる展望をもち得るものであること、(3)給付の内容は、障害をもつことにより失われた稼得能力、および障害をもつことに伴って生じる特別の出費に対する一定の填補を行なうとともに、社会生活上のあらゆる分野への参加の促進を一定程度保障し得るものであること、の3つである。
このような視点から上記の4つの制度をみると、まず、生活保護制度上の障害者加算制度については、次のような問題を指摘することができる。すなわち、そもそも生活保護制度の目的は一時的に生活困窮の状態に陥った者に対する最低限度の生活保障を行なうことにあるため、(1)同制度そのものが、要保障状態が長期に渡って継続するという障害という事故の特性になじみにくい、(2)給付を受けるに当たっては補足性の原理に基づく資産調査を経なければならず、そのために、家計や家族関係等のプライバシーの暴露を余儀なくされることになり、また、それに伴うスティグマを生じやすい、(3)障害者加算制度も生活保護制度の一環である以上、その対象者は生活困窮の状態にある障害者に限られる、という点である。そもそも、障害者基本法20条の「生活の安定に資する」方法としては年金と手当が上げられているが「生活保護」との文言はない。1995(平成7)年に政府の障害者対策推進本部から出された「障害者プラン〜ノーマライゼーション7ヵ年計画」は、7つのテーマを定めて2002(平成14)年までに実現することを求めているが、そのうち「地域で共に生活するために」との課題の実現のための方策のひとつとして、成年後見制度の検討に続けて、12項において、「障害無年金の問題について、年金制度の在り方全体をにらみながら、年金制度の中で対応するか福祉的措置で対応するかを含め、幅広い観点から検討する。」としており、障害者の所得保障については年金制度が最も優れていることを前提に、年金とそれ以外の制度(生活保護であれば障害者プランが言及する必要はない)との選択検討を行うべきとされている。更には、生活保護は、補足性の原理に基づく収入認定や扶養義務者の扶養優先があり、障害をもつ人の自立を阻害する制度的宿命をもっていること、上記の障害者の国際的国内的人権保障を踏まえた障害者の自立が実現できないという点でも問題がある。
また、労災保険制度上の障害補償年金・障害補償一時金制度等については、そもそも労災補償制度の目的が労働者の業務上の事由または通勤による災害に対して保険給付を行なうことにあるため、その対象者は業務上の事由または通勤による傷病に基づく障害を持つに至った労働者に限られることになる。
また、障害児福祉手当・障害者特別手当制度は、その目的が重度の障害または著しく重度の障害があるために必要とされる特別の負担の軽減を図るためのものであることから、(1)そのような障害状態に至らない者は対象から除外される、(2)手当には障害により失われた稼得能力の填補という観点は含まれていない、という問題をもっている。これに対して、年金制度上の障害基礎年金制度および障害厚生年金・障害者手当制度は、少なくとも、上記3つの条件を満たすことのできる可能性を持った制度である。
以上から、他の制度との比較においても、年金制度上の所得保障制度が、障害者に対する所得保障制度の基本に据えられるべきものと言える。
しかるに、原告らには、年金がない。
原告らが、自立し、社会生活上のあらゆる分野へ参加するには、所得保障制度の基本に据えられるべき年金による所得保障がなされねばならない。
ところが、平成元年改正前の国民年金法7条1項1号イ(学生等の適用除外)は、障害を負い稼得能力を喪失した原告らに対して障害年金の受給を阻んでいる。国民年金法上の障害年金が障害者の所得保障のための制度であることは言うまでもなく、学生等を適用除外したことが、憲法25条1項及び2項に反するものであることは明らかである。