映画館というのはいつの時代もデートコースの定番。とくに付き合い始めたばかりのカップルには映画がムードを盛り上げるスパイスとなって、二人の距離は一気に縮まるかもしれません。でも、調味料を間違えたら料理がまずくなるのと同じように、映画選びも失敗したら「つまらない」と感じてる自分の隣で恋人が感動して泣いてる、そんなギャップが生まれるかもしれません。映画というのは価値観によって人それぞれ感じることが違うから、恋人とデートで映画を見るのはある意味大きな「賭け」でもあります。見終わった後に映画の話をしてみると、感想がまったく同じだったら価値観が同じでうれしいし、逆にまったく正反対だったら、二人のあいだには大きな溝が生じて、空気が気まずくなってしまいます。映画は価値観のリトマス試験紙。二人の色が違ったら、映画がキッカケでケンカになって別れてしまうかもしれないし、同じ色が出たら安心して本音をさらけ出せる関係になれるかもしれません。
さて、この賭け、あなたも挑戦してみませんか? 恋のリトマス試験紙には韓国映画の「イルマーレ」をどうぞ。時空を越えた文通で心を通わせる男女のファンタジックなラブストーリーなんですが、切なさで胸が苦しくなりますよ。10年先とか100年先ではなく、たった2年の"時差"しかないから、違う時代に生きる二人は会おうと思えば会えるんですね。たとえば、2000年の彼女(ウンジュ)が1998年の彼(ソンヒョン)に「駅のベンチに大切なカセットレコーダーを置き忘れた」と手紙で伝えるんですが、それを知った彼は彼女が置き忘れたその日、駅に行くわけです。するとそこには自分のことをまったく知らない、知るはずもない彼女がいるんですね。でも、声はかけられない…。目の前に好きな人がいるのに想いを伝えられないもどかしさはわかるわかるって感じ。さらに彼は彼女に「(連絡が途絶えた)恋人と別れないようにして」とお願いされるんだけど、好きな人にこんなお願いをされるときのツライ気持ちもわかるわかるって感じ。「好き」という想いが募れば募るほど切なくなる、それが片想いの恋愛の苦しいところ。
この作品にはステキな言葉がいくつか出てくるから、失恋したばかりの女性はソンヒョンの優しい励ましの言葉に傷ついた心を癒されるだろうし、片想い中の男性はソンヒョンにどっぷり感情移入して、切ない気分になると思いますが、でも、「やっぱ恋するっていいよなー」って素直にそう思えてくるから、100%恋がしたくなります。「つらいのは愛が終わらずにずっと続いてること、失恋した後も…」というウンジュに、「誰かを愛して、その愛を失った人は、何も失わない人より美しい」という言葉を送るソンヒョン。デジタル時代に"文通"というアナログで心を通わせるというのも言葉のひとつひとつが心にズシッと響いてきます。
韓国ではこの映画を見ると恋人たちが結ばれるという"幸運のデートムービー"として大評判で、爆発的ヒットとなったんだとか。さて、リトマス試験紙の結果は? 当方は見終わった後のあなたの保証はしません。(苦笑)。
「イルマーレ」('00韓国)
監督:イ・ヒョンスン
出演:イ・ジョンジェ、チョン・ジヒョンほか
<ストーリー>
1999年12月21日。恋人からの連絡が途絶えたウンジュは住み慣れた海辺の家「イルマーレ」を離れようとしていた。ポストに一通の手紙を残して…。1997年12月28日。「イルマーレ」の最初の住人となったソンヒョンはポストで見知らぬ女性からの手紙を見つけた。それは2年後の日付で書かれた奇妙な手紙だった…。ゆっくりと静かに時間が流れ、キレイな映像と映画を盛り上げる音楽がとっても穏やかな気分にさせてくれる作品です。(ビデオレンタル中)