頸損だより2003夏(No.86)

巻頭言

しあわせって? 〜ご飯がおいしいということ〜

松崎有己

生前私の母は、「いつもおいしいご飯が食べられてほんとにしあわせ!」と毎日のように言っていました。その言葉を聞くたびに、いつも不思議な感じがしていました。それは当時の自分にとって、毎日おいしい食事が食べられることなど、空気を吸うようにごく「あたりまえ」のことで、とくにそのことを幸せに感じることなどまるでなかったからです。しかし母が言うその言葉には、心から「しあわせ」を感じ、「感謝の気持ち」を持っていることがあらわれてました。しかし、最近になって、ようやく私にもその母の気持ちが分かるようになってきたのです。毎日ご飯がおいしく、そしていつも口に出して「しあわせ〜!」と言っているうちに、自然と気持ちが晴れやかになっているのです。こういうことだったのかと知った今、もっと早く気づいていればなあっと思ったりもします。

生きているからには、つらいことや苦しいことが、身に降りかかってくるのは当然で、そんな悪い出来事ほど、より強く感じられ記憶にとどまりやすいものです。しかしそんな時でも、気持ちの持ちようによっては、普段感じていなかったような何気ないことの喜びに気づき、気持ちが楽になったり、逆境をも跳ね除ける力が湧いてくるのだと思います。

ある中国の偉人は「人間は所詮、喜怒哀楽に尽きる」と言ったそうです。ネガティブな感情を少しでも減らし、取るに足らないことの中にでさえ喜びを感じることができれば、こんなに幸せなことはないでしょうね。


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