頸損だより2003秋(No.87)

巻頭言

コミュニケーション 〜言葉が伝えること〜

松崎有己

私たちは生きていく上で、無人島で一人で生活しているのでもない限り、常に誰かとの意思疎通を図りながら暮らしています。しかし、しばしば思うように自分の思いを伝えることができずに誤解が生じたり、不用意な発言によって相手を傷つけてしまったりと、物事がよからぬ方向に進んでしまうことがあります。たった一言で、またはたった一言を言えなかったことで、後々、大きな後悔につながった苦い経験は誰もがしていることでしょう。

親しい間柄、初対面の相手、好きな人、苦手な人、上司、部下、会話の相手は様々ですし、立場によっても言葉を使い分ける必要があります。みんなとうまくコミュニケーションをとることは、非常に難しいことであり、特に話すことが得意でない人にとっては、ある意味、死活問題です。

では、うまく自分の気持ちを伝えるにはどうしたらよいのでしょうか?その答えが簡単に出せるのであれば苦労はしません。ただ、私が日頃感じていることとして言えるのは、皆さんが今まで話した相手のことを思い浮かべていただければお分かりになると思いますが、まず、言葉に「誠実さ」が感じられることが重要です。当然のことながら嘘はいけません。嘘にもいろいろありますがこの場合は特に「自分の利益」の為につく邪悪な嘘です。あたりまえのことだとお思いになるでしょうが、これがなかなか簡単でなかったりします。嘘にはならずとも、都合の悪いことをごまかしたり、結論を曖昧にしたままということもあります。そしてやはり、「楽しい話」は誰もが嫌がることはないでしょう。愚痴やねたみ、ひがみなどを口にすれば、おのずとネガティブな雰囲気を作り出してしまいます。一見、他愛もない言葉のやり取りであっても実は気づかないうちに、なくてはならない潤滑油のような役割を果たしていることがあります。

この他にも、円滑なコミュニケーションの「コツ」はいろいろと考えられると思います。日頃皆さんが使っておられる言葉遣いや、よく話す相手との会話を思い出してみてください。お世辞にも美しいと思えない言葉や、無駄な会話もきっとあると思います。逆に、会話の中に沈黙をはさむことも重要な場合もあるでしょう。

もちろん、こんな偉そうなことを言っている私も、ついつい口を滑らせてしまったり、きちんと自分の思いを伝えられないこともしばしばです。ただ、寝る前に一度、その日の自分の発言を振り返ってみたりしています。それは自分にとってはとても大切なことだと思っています。感謝の気持ちを忘れずに、やさしい言葉を使いたいものです。


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