頸損だより2003冬(No.88)

『無年金障害者の訴訟報告と予定、活動について』

学生無年金障害者訴訟原告 谷川信之

無年金障害者問題については、現在、裁判による解決と議員立法による解決の両面で運動をしています。裁判のほうは全国8地方裁判所で行なわれており、原告側被告側双方の準備書面が出揃い、早いところでは証人及び原告尋問まで進んでおり、来年夏頃に一審(地方裁判所)判決が出される予定です。

議員立法については、超党派の衆参国会議員による無年金障害者問題を考える議員連盟では、議連事務局長でもある黒岩宇洋参議員を中心に活動しています。

≪裁判報告≫

学生無年金障害者訴訟 第10回弁論

原告側→ 準備書面12・13、甲42号証、43号証を裁判所に提出。

国民年金貯蓄論にノー!

準備書面12の内容は、社会保険と私保険の違いについて。

被告国側が「国民年金制度は…・・自身の生活の安定のためにあらかじめ貯蓄をするという制度である」との主張に対し、「貯蓄制度なら、国民は自ら預貯金をしたり私保険に加入すればよいのであり、国民年金など必要なく、極論も甚だしい」と、社会保険制度の根幹を明らかにしています。

T弁護士は、まず、社会保障制度審議会の昭和25年勧告が「保険的方法または直接の公の負担において経済保障の途を講じるもの」とし、当初、国民年金は「直接の公の負担」=無拠出の制度として考案されたことを指摘、次いで学者二人の論文を新たな書証(甲42号証、43号証)に採用しました。

高藤昭法政大学名誉教授は著書で、「社会保険は単なる保険=私保険ではないところに特色がある。保険原理のうえに、人々の生活上の危険を社会的に救済しようとする原理=社会性の原理が結合した保険である」と述べており、また、佐藤進日本女子大学教授は「拠出の度合いいかんでは社会保険も私保険も同じものにさえなる危険もある」、「任意加入の度合いを少なくしてゆくことは、社会保険の強制加入制を強化することに対応している点で、国民皆保険化から望ましい」としています。

T弁護士は、これら社会保険論をベースに、現実の制度としても、保険料拠出以外の国庫負担があること、物価スライドによる給付額引き上げ分の後世代負担、障害基礎年金や遺族基礎年金が加入直後でも40年間拠出と同額の給付が受けられること等々をあげ、「拠出と給付に関し、収支相当の原則は貫かれておらず」「拠出が無くても必要な場合には年金給付を行なう」ところに国民年金制度の社会保険としての特徴があると主張しました。

年金体系諭の詭弁性を国の書証で衝く

準備書面13の内容は、国の主張する「年金制度体系論」の詭弁性について。

被告の年金制度体系諭への反論で、被告・国側は昭和34年法が学生を適用除外にした理由を、(1)稼得能力がない、(2)卒業後は被用者年金に入る、(3)国民年金保険料が掛け捨てになる、の3点のほか、「『被用者年金制度』の体系と『その保障が及ばない者を対象とする国民年金制度』の体系の、大きく二つの体系に分けて行なわれ」、学生を「被用者年金制度の体系による保障を受ける可能性の高いと考えられる者」に分類し、「強制適用の対象とされなかった」としました。

原告からの「これは新たな主張か?」との求釈明に対し、今年7月、国側は「新たな主張ではない。年金制度の体系という観点で説明したにすぎない」と答えましたが、原告側S弁護士は、「被告・国は、従来の"広範な立法裁量論"に加え、"学生は被用者年金制度の枠内にある"との主張を結びつけ、制度体系に照らしても合理的との結論を導こうとする詭弁である」と追求しました。

S弁護士は「原告が、この訴訟で問うているのは卒業後の保障ではなく、20才に達してから卒業までの間の障害年金の保障のないことの不合理性である」と述べ、被告側が提出した書証『国民年金の歩み』(昭和37年刊行、厚生省年金局編集)を引用し弁論を展開しました。

『国民年金の歩み』によれば、昭和34年法の母体となった厚生省の国民年金制度第1次案が発表されたのは前年の9月、厚生省案は「20才以上60才未満の全国民を被保険者とする」と、学生もいわゆるサラリーマンの妻も強制適用になっていた。

ところが、同年12月、自民党案は学生を適用除外とし、さらに政府部内の修整でサラリーマンの妻も適用除外(任意適用)にされた。

『国民年金の歩み』は学生についての議論を明らかにしていないが、『妻』については扶養加算額の低さ、障害や離婚の際の無保障などをめぐり激しく意見が対立し、最終的に内閣法制局の斡旋で「この際は一応…さしあたり解決がはかられた」と説明、S弁護士は「『妻』の問題が真に解決される昭和60年改正にまで26年もの長期間を要した。

これを見れば、国の言う"年金制度体系に照らし合理的"なる主張が、歴史的事実を踏まえない後知恵であることは明らか」と厳しく批判しました。

その後、N弁護士より、次回は立証計画を提出することを表明。原告ないしその家族、学者、運動体の3グループからそれぞれ証人を出す予定であることを表明した。

被告側→ 準備書面7(内容は、「国民皆年金」について)を裁判所に提出。

「国民皆年金の理念」について再度言及しました。内容は、国民年金制度を創設した昭和25年勧告を「戦後まだ日も浅く、理想とはいえ高嶺の花であり、結局一枚の青写真を示すにとどまった」、「平成12年改正の際も、年金審議会は、無年金障害者問題については現行の年金制度では年金給付を行なうことは困難である、と整理されている」など、「法解釈論として、『全国民を対象にあまねく年金給付による所得保障を行ない、最低限度の文化的生活を保障しようとする…』原告らの『国民皆年金の理念』の主張は失当である」としながらも、「立法諭としては原告らの主張するような意味で用いられる場合があることは、被告らとしては特に争わない」とも述べました。

また原告の立証計画については、いずれも不必要であると考えていることを表明し、原告ないしその家族については、生活実態と法解釈は関係がないから。学者や運動体については、意見書で必要かつ十分だからと述べた。

≪予定≫

(備考)

ボランティアおよび皆様のお知り会いの方で、20才以上の学生等の方は、国民年金を納付されている、または猶予・免除手続きを取られているかどうかを確かめて下さい。

(老齢年金の不支給、無年金者になる可能性がありますので、ご注意を!)


戻る