頸損だより2004春(No.89)

巻頭言

何事もなく順調?それはつまらん!

〜ちょっとした発想の転換〜

松崎有己

少し前に知り合いの方が離職されました。結構長く務められた会社を、なんらかの事情でお辞めになられたようでした。詳しい理由は分かりませんが、それなりの年齢になってからの転職というのは、やはり苦しい決断であったであろうと思われました。最後にその方にお会いした時に「最近調子はどうですか」と聞かれたので、「何事も問題なく順調です」と答えました。すると「それはつまらんなあ、いろいろあるから人生面白いんや」と言われました。私にとってそれは全く予期していなかった言葉でとても以外なものでした。その方は苦難や不安をむしろ楽しんでおられるようでした。次の就職先も決まっていないようで、お子さんもまだ小さく不安でいっぱいの時期であると思われる方からの言葉だったこともあり余計に驚きました。と同時にそういう考え方もあるんだなあと改めて人の強さを感じました。

逆境にあるときにこそ、その人の真価が発揮されると言います。普段、冷静沈着に見えるような人でさえ、突然訪れた苦難を前にしてうろたえてしまうこともあるでしょう。しかし、ちょっとした気持ちの切り替えで、ネガティブな気持ちを前向きで建設的なものに変えることによって、苦難を乗り越えるというよりもむしろ楽しめるようになれれば、人生のいかなる場面においても、一時の快楽や刹那的な楽しさではない、本当の意味での生きている楽しさや喜び、充実感を得られるのだと思います。

時々、あの方はもう次の仕事先でバリバリ頑張っておられるのだろうなと、ふと思い出すことがあります。またお会いした時に順調そうな様子だったら「それはつまらないですね」と言い返してやろうと密かに企んでいます。


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