頸損だより2004春(No.89)

特集 膀胱ろう・人工肛門について知ろう


頸損者にとって排尿・排便で抱える問題は、日常の中にあって避けて通ることのできない重要な課題とも言える。それは排泄管理が頸損当事者の身体や健康面に及ぼす影響が大きく、また日常生活面においては排泄行為にかなりの時間を割き、外出や社会参加の妨げになる場合もあるからである。そして多くの頸損の場合、手先の自由が利かず自己導尿や摘便などの介助を必要とするが、その医療的ケアとも言われる部分の介助者集めが困難な現状にあったり、また自身の自立生活などを考えると、ある面では管理しやすい「膀胱ろう」や「人工肛門」を選択する当事者も居る。その選択も自然な成り行きと言える。

今、受傷後何年も経ったが「これまで排泄介助してくれていた親が高齢になってきた」「これから先の事を考えると膀胱ろう・人工肛門に関心がある」という声もよく聞く。果たして「膀胱ろう・人工肛門」は我々排泄機能に障害を持つ者にとって、生活の質(QOL)向上にどれほど有効なものなのか。また有効なばかりではない問題点とはどこにあるのか。

2/14(土)当テーマについての勉強会を開催した。膀胱ろう・人工肛門を実際にしている当事者と医療者の両方の話を聞き、自身のことについて考えるきっかけになればというもの。障害当事者やご家族、ボランティア含め全体で約40名の参加。膀胱ろうについては、橋本市民病院泌尿器科小川先生と膀胱ろう当事者のそれぞれの講演。人工肛門についてもその当事者二人の対談という形式で勉強会を進行しました。

当日の講演・対談の要旨、膀胱ろう・人工肛門当事者への9つの質問票、兵庫県リハセンターから提供いただいた膀胱ろうについての資料などで、特集を組みました。読者の皆さんが「膀胱ろう・人工肛門」を考える、または判断するひとつのきっかけになればと思います。

■以上(大阪頸損連@事務局)

2/14会員勉強会より 膀胱ろうについて

ドクターの立場から

講演 小川隆敏さん(橋本市民病院 泌尿器科医長)

■頸損の人の排尿方法のいろいろ
  1. 自然排尿…自分の意志で自然に尿を出すことができる。
  2. 失禁排尿…いつ出てくるかわからないから、おむつを使っていたり、収尿器をつけて失禁のまま排尿している。
  3. 手圧/腹圧/叩打排尿…定期的に手でお腹を押さえたり、お腹をきばって出したり、タッピングで下腹部を刺激して排尿している。
  4. 間欠導尿(CIC)自己導尿…自分でやる場合。
  5. 間欠導尿(CIC)介助導尿…家族や介助者にやってもらう場合。
  6. 留置カテーテル 尿道留置…尿道からカテーテルを入れておくもの。
  7. 留置カテーテル 膀胱ろう…お腹から直接膀胱にカテーテルを入れるもの。

このほか、カテーテルをずっと入れておくのは尿道にあまり良くないので、夜中だけ入れる「ナイトバルーン」、外出時だけ入れる「外出バルーン」という方法をとる場合もある。


■膀胱ろうとはどんなものか

膀胱ろうとは、おへその下に穴を開けて、お腹から膀胱に直接バルーンカテーテルを入れる方法。尿道留置とどう違うかというと、尿道留置の場合は、カテーテルと尿道の接触する部分が長く、いろんな合併症が起こりやすい。たとえば前立腺に炎症が起こると前立腺炎になって高い熱が出たりするし、尿道にも炎症が起こる。精管を通じてばい菌が入り、精巣上体炎を起こすこともある。結石もできやすい。男性の場合は、膀胱ろうの方が尿道の合併症が少ないため、最近は、長期に入れておくのならば尿道留置よりも膀胱ろうを選択することが多くなっている。


■排尿方法を考える時のポイント

どんな排尿がいいかを考える時に2つのポイントがある。1つ目は尿路を守る、特に腎臓を守るという医学的な問題。2つ目は生活上の問題。排尿のことばかり考えて生活がおろそかになったり、社会的な活動ができなくなったりするなら、それはいい排尿ではないともいえる。この2つの要素のバランスをとって、排尿の方法を考える必要がある。


■医学的な視点からみた良い排尿

脊損の人の膀胱をみると、つるんとしたきれいな形のものと、変形してギザギザの形になっているものとがある。膀胱の形がきれいなら腎臓は良好。ギザギザの形になると、いったん膀胱にたまった尿が腎臓に逆流する、腎臓が腫れてくる、腎盂腎炎を起こす、という繰り返しで腎不全になるケースが以前はよく見られた。変形(形がギザギザ)、感染(膀胱炎をよく起こす)、高圧(膀胱が硬くなって、腎臓から尿が降りにくくなる)がないのが良い膀胱だと考えられる。

25年以上前、私が和歌山労災病院にいたころに経験した症例では、尿道留置の人は、水腎症があったり、尿の逆流があったり、腎臓に負担のかかっている人が多かった。それに対して、自己導尿または介助導尿をしている人は、ほとんど腎臓が悪くならないことがわかった。だからカテーテル留置はあまり良くないという印象をずっと持ち続けてきた。


■QOLの視点からみた良い排尿

しかし、これからの時代は生活の質(QOL)が問われるようになる。私自身の考えも切り換えなければいけないのではないかと最近感じ始めている。

脊損の人のQOLを測るための質問項目というのがあって、その中で「排尿についての悩み事」として次の項目が挙げられている。

  1. 日中の尿もれ
  2. 夜間の尿もれ
  3. 尿もれ用のパッドの着用
  4. 活動中の定時的な排尿(導尿)
  5. 排尿に費やす時間
  6. 睡眠のさまたげ
  7. 旅行時の排尿管理
  8. 外出時の尿失禁のための衛生的問題
  9. 尿失禁が生活に与えている影響

以上の項目について、困らない=0点、少し困る=1点、困る=2点、かなり困る=3点、非常に困る=4点、で点数を付ける。点数が低いほどQOLが高いことになる。

兵庫県立リハビリセンターで、脊損166例(うち頸損94例)について、この項目で調査したところ、膀胱ろうの人は非常に点数が低く、排尿が生活にあまり影響を与えていないことが示された。それに比べて自己導尿、介助導尿は非常に高い点数だった。北海道の美唄労災病院で脊損180例(うち頸損45例)について行った調査でも、やはり膀胱ろうの人の点数が非常に低かった。自己導尿や介助導尿をしている人よりは、膀胱ろうの人の方がQOLが良いという結果だった。


■選ぶのはあなた自身

ただ、私はけっして膀胱ろう賛成者ではない。最近の泌尿器界は、頸損はすぐに膀胱ろうにしようという傾向があるように思う。最初に安易な方法を選択してしまえば、元に戻ることができないことが多いので、まずできるだけ膀胱ろう以外の方法をやってみて、それでやっぱり生活のことを考えれば、継続するのが非常に難しいということになってはじめて膀胱ろうを選択すべきだと私は考えている。

アメリカのがんセンターの医師が言った言葉に、こういうのがある。「質問にはすべて答えますが、最後はあなたが選んでください」。排尿の方法もまさにそうだ。私たち医師は、この方法がどうだとか、質問にはすべて自分の経験をふまえて答えるが、最後はやっぱりあなた自身が選んでください、とそう思う。

当事者の立場から

報告 Oさん(女性)

■膀胱ろうにしたきっかけ

手指の巧緻性が低くて自己導尿が難しかった。介助導尿は、介助してもらえる人が父親で、私は精神的に苦痛だったし、父の方もかなり抵抗があった。そこで尿道留置にしていたが、結石や膀胱炎になることが多く、よく腎盂腎炎にもなっていたので、結局、膀胱ろうにすることにした。膀胱ろうにした最初の手術が2002年8月。


■膀胱ろうにしてうまくいかなかった点

1回目の手術で、おへその下10〜15センチのところに管を入れたが、管から吸い上げられるのは半分ぐらいの量で、あとは全部、下から出るという状態だった。1年ぐらい様子を見たが、それでもうまくいかないので、1回目の手術から1年後、さらに3センチ下のちょうど恥骨のすぐ上に、膀胱のいちばん底の方に管の先が上を向く形で挿入した。しかし、状態は現在もあまり改善されていない。

原因として考えられるのは、膀胱のまわりにある腸と子宮が、腹筋が弱っているために上から落ちてくる感じになり、上向きに入れていた管が押されて下を向いてしまうこと。最悪の場合は尿道の先にカテーテルの先が突き刺さってしまう。結局、尿が管に入らず、管のまわりの穴から出たり、管のすき間から尿道を通って尿が漏れたりしている。これを改善するため、先の曲がったカテーテルを一度使ってみようかとか、今、試行錯誤の真っ最中。


■膀胱ろうにして良かった点

いい点も多々ある。女性の場合は特に車いす状態での導尿が難しいが、その心配がなく、外出先でのトイレが楽になる。便器に尿を捨てなくても蓄尿袋があるので、極端な話、道端でも袋やペットボトルにためることができる。恥を捨てればどこでも排尿ができる。

あと結石や膀胱炎、外陰部のただれが改善されたし、女性が尿道留置をすると、尿道の下にある膣孔が押されてくっついてしまったりするが、そういう心配はなくなった。


■日常的に必要なケア

お腹に直接穴を開けているわけだから、そこからの感染が非常に心配。お風呂に入る時は、圧迫防水といって、厚めのガーゼを使って広範囲の防水テープでぎゅっと圧迫してからでないと入れない。自宅での入浴なら、磨き上げた一番風呂に限る。温泉などの大浴場は、雑菌がいっぱいなので入浴はとんでもない。

毎日必ず、たとえ風呂に入らなくても、お腹の周りは清拭し、消毒してガーゼ交換をする。あと、2〜3日に1度の膀胱洗浄が必要。尿の汚れ具合によっては3〜4日でもかまわないが、私の場合は2〜3日に1度、ひどい時は毎日、膀胱洗浄をしている。


■これから心配なこと

私みたいに若い時期から膀胱ろうを入れて、単純に考えて40年以上、死ぬまで管を入れ続けた場合のがんの発生率はいまだにわからないそうだ。現在、管を入れているまわりの肉が盛り上がって肉芽になり、ガーゼにこすれて出血し、つねに膿が出ている状態。毎日のガーゼ交換時に膿の量と臭い、血の混じり具合を確認し、異常があればすぐに救急外来で受診することにしている。この肉芽がどう影響を及ぼすかがわからない。

個人的には、膀胱ろうは、もうそれしか選択肢がないという時になってはじめてされるといいと思う。あんまり安易にはおすすめできません。

質疑応答

Q1 13年前に胸椎手術で下半身まひになり、手にリウマチがある。もともと自己導尿をしていたが、リウマチが進んでしにくくなったのと、失禁が心配で生活にさしつかえがあるので、2年前から留置カテーテルにした。昨年秋ごろから結石ができやすくなり、尿が出にくくてまた漏れるようになった。薬などを使って週2回膀胱洗浄をしているが、やはり濁りが多く、ドクターから膀胱ろうにしたらどうかと言われている。でも抵抗があり、毎日水分をたくさんとって様子をみている。膀胱ろうにした方がいいのだろうか。

【小川】私の病院では、女性の場合は男性に比べて尿道の合併症があまり多くないので、基本的に尿道留置でいこうということでやっている。Oさんが話されたように、膀胱ろうをしても尿の流出がうまくいかないなどの問題もあると思うし、女性の場合、尿道留置と膀胱ろうとどれだけちがいがあるのかよくわからないところがある。
【O】婦人科的な問題はかなり深刻。上からの圧迫で膣孔が閉じてしまって感染が起きる、ちゃんと出るべきおりものが出なくなる、といった問題がかなり深刻なら、介助してくれる方がちゃんといらっしゃる場合は、膀胱ろうにしてもいいんじゃないかと思う。あとは本人の決断次第だが、ひとついえるのは、医師の話では、膀胱ろうの場合、開けた穴は1日で閉じる。だからやめたくなったらいつでもやめられる。お試しという気楽な気持ちでやれるものなので、一度やってみたらどうか。

Q2 膀胱ろうの手術の方法は。

【小川】直接お腹を開けて手術的にする方法と、超音波で膀胱をふくらませて見ながら上から穿刺する方法とがある。

Q3 母親が頸損。以前は尿道留置をしていたが、足の痙性がきついため、泌尿器科の医師の勧めで膀胱ろうにした。尿道留置の時はカテーテルがすぐに詰まってしまうので10日に1回ぐらい交換していたが、膀胱ろうにしたら4週間に1回ですむようになった。普段はすごく調子がいいが、カテーテルを交換した時はいつも、発汗とすごく調子が悪くなる。それは皆さんそうなのか。

【小川】それは自律神経過反射という症状で、発汗や、鳥肌が立ったり、頭痛、高血圧、脈が遅くなるなどがある。カテーテルを交換した時の刺激で起こるのだと思う。症状があまり長く続かなかったら問題ないが、血圧が上がって脳出血を起こしたケースもまれに報告されているので、長く続くようなら血圧を下げる薬を併用した方がいいかもしれない。また頸損の人はカテーテルの号数がちょっと変わっただけで敏感に反応する場合があるので、カテーテルを替えれば対策できるかもしれない。

【O】私の場合、頭痛、発熱、発汗が、午前中に交換したら夕方まで続く。ひどいのはお腹の痙性で、夜中までかなり強く続く。でも次の日には普通に戻っている。

Q4 膀胱ろうにしたら、穴を開けたところから膿が出るのはよくあることなのか。入浴の際の配慮は?

【小川】体に異物が入るのだから、感染が起こるのは頻発。カテーテルが入っている道が感染を起こす、膿が出てくる、肉芽が巻いてくるというのは起こる。しかし、感染が起こるからといって抗生物質を飲み続けるのも得策ではない。お風呂に入る時は、Oさんはかなり慎重にされているが、どうせ感染が起こっているのだから、お風呂のお湯ぐらいちょっと入ってもそんなに汚いものではないし、私の病院ではあまり厳密には指示していない。

Q5 膀胱炎や結石は、膀胱ろうにしたら起こりにくくなるのか。

【小川】そう思う。尿道留置はカテーテルが接触する距離が長いので炎症を起こしやすく、結石もできやすいが、膀胱ろうは炎症は起こすけれども程度は軽くなるので、結石はできにくくなると考えられる。膀胱鏡で膀胱の中を見ると、カテーテルが入っている部分やバルーンと接触している部分は赤くなっているが、ほかのところはわりときれいな粘膜が保たれていることがある。自律神経過反射も膀胱ろうの方が軽くてすむ。

Q6 膀胱ろうにした場合、下から漏れる度合いは。

【小川】それはさまざま。男性の場合は漏れは少ないと思うが、女性の場合は尿道が短いし、前立腺もないから漏れやすくなると思う。漏れの原因は、流れが悪くなったり、管の先が膀胱の壁にくっついたりすることによる。車いすに乗っている時と寝ている時でも差がある。

Q7 下の尿道を閉じてしまうこともあるのか。

【小川】私は経験がないが、特殊なケースで、女性の場合、手術で閉じてしまうこともあると聞く。しかし、やはりこれは安全弁として残しておいた方がいいと思う。

2/14会員勉強会より 人工肛門ろうについて

当事者の立場から

対談 Nさん × Sさん

■人工肛門にしたきっかけは
【S】僕はいちおうC7だが、脊髄空洞症でレベルが上がり、内臓の動きがあまりにも悪くなった。それもあって人工肛門にした。
【N】僕はずっと母親に摘便してもらっていたが、出すのにものすごく時間がかかる。母もしんどいし、僕の方も便出しに2時間、へたしたら3時間ぐらいかかることもあって、自律神経過反射があるので冷や汗はかくわ、頭は痛いわ。そんな状態が続いていて、たまたま星ケ丘厚生年金病院の先生から「最近、就職するからといって、排便処理のために人工肛門の手術をする人が出てきてるよ」という話を聞き、さんざん考えた末に人工肛門にした。
【S】僕もトイレにすごく時間がかかり、そのたびに血圧が220〜250ぐらいにまで上がる状態だったので、これはやるべきやと。それまでいろんな方法を試して、洗腸(肛門から管を入れ、微温湯か生理食塩水で腸を洗う)もやった。最初は良かったが、規則正しいペースでしないといけないのに、そのころバスケットをしていたのでどうしても不規則になり、無理やり出しているうちに腸がふくらんできて、あまり効かなくなってきた。
【N】僕の場合は、自律神経過反射がきついので洗腸はできなかった。座薬だけでずっとやっていた。
【S】僕も最初は座薬だけでやっていた。でも4日に1回とか3日に1回とかペースが不規則になるとそれだけでは効かなくなり、薬を飲んで無理やり出す、便を降ろすだけ降ろして座薬で出す、無理やり浣腸で出す、ということが重なっていた。
【N】あと僕は、摘便に時間がかかるために、肛門が痔というか脱肛状態、かなりただれていたことも人工肛門にした理由のひとつ。
【S】それも同じ。どうしても無理やり出すので…。

■人工肛門とはどんなものか
【N】お腹に穴を開けて、僕の場合はS状結腸で切っているが、腸の一部をお腹から外に出してある状態。この腸が肛門の代わりということになる。
【S】僕も同じ、S状結腸で切っている。
【N】付けている位置は、座った状態で負担にならない位置。装具を付けるので、身体を動かしても装具が食い込まないかなど、オペ前に調べる。装具のストッパーを自分で操作できるように、右側か左側か、どっちの手が使いやすいかとか、探って位置を決めた。
【S】僕は左側に付けている。本当は右手の方がきくので右でやりたかったが、以前にある人が右側にして3カ月目に死んでしまったことがあったので、こっちの方が事故が少ないだろうと思って左側にした。
【N】僕も左側。右手の方がきいているので右に着けた方がいいかと思ったが、ストッパーを外すとき、右手に左手を添えて押そうとしたら押せなかった。それは左手が弱いから。右手の方がきいているので、左手の親指をストッパーに当て、右手で押したら動かせたので、左側にすることになった。

■装具はどんなものを使うか
【N】お腹から便が出るので、皮膚に便を付けずにためるように装具を使う。ワンピースタイプ(単品型)とツーピースタイプ(二品型)の2種類がある。Sさんのも僕のもツーピースで、お腹に貼り付ける面板(フランジ)と蓄便袋(パウチ)が分かれているタイプ。面板に袋をかぶせて、上から押してカパッとはめているだけの簡単なもの。ストッパーが付いていて、ストッパーを外すと袋がパッと外れるようになっている。これだと袋を外して、袋にたまっている中身だけ処分できる。ワンピースは面板と袋が一体になっているので、中身を出そうとしたら、袋だけ外すことはできない。袋の下を開けて出すか、装具ごと交換するかになる。
【S】たえず1日に3リットルのガスが出るので、ガス抜きが大変。ワンピースは袋が下抜きなのでいちいち開けないといけなくて追いつかない。ツーピースだったら、ストッパーをちょっとずらすだけでガスが抜ける。
【N】ワンピースは、袋の下を止めているストッパーが頸損では外せない。だからツーピースを使っている。
【S】お腹に貼り付ける面板は、出ている腸の大きさが一人ひとりちがうので、これに合わせてカッティングして張ってもらう。皮膚に直接当たる部分は、人間の身体にいちばん害のない皮膚保護剤でできているので、これで肌荒れすることはほとんどない。
【N】蓄便袋にも何種類かある。僕のは、使い回しのできるタイプで透明のもの。Sさんのは、使い回しのできるタイプで肌色のものと、使い捨てのタイプ。僕がなぜ透明のを使うかというと、下痢や水便になって、袋がパンパンになった時、それがガスのためか水便のためかが外から見えて安心だから。
【S】透明の方が材質が強くて長もちする。肌色のはどうしても弱い。ただ、透明は中身が丸見えなので、僕自身はちょっといややなぁと。

■人工肛門にするにあたって不安は
【S】不安もへったくれも、これしか手段がなくて、やらなあかんという感じで。
【N】僕の場合は、星ケ丘で話を聞いてから半年考えて、その間に外科の先生に相談したら、いっぺん人工肛門にしたらもう元へ戻らないと言われた。
【S】昔は、人工肛門にしたら戻れないと言われていた。
【N】この間、泌尿器科であった講演では、外科の先生が「元に戻せるけれども、ただ、戻せるのを前提にはしない」と言っておられた。さっき膀胱ろうではお試しでできるという話があったが、人工肛門の場合は無理だと思う。いっぺん作ったら、そのままいくぐらいの気持ちで実行した方がいい。
【S】そうやね。でも、戻せるというのでやった人でも、便利だから戻す人はいない。ベッドの上で簡単に処理できるので、病院に入院した時はすごく便利だった。

■人工肛門にして良かったことは
【N】普通の肛門だと、下痢した時が大変。車いすに乗ったときに出たらどうしようとか考えるが、人工肛門だととりあえず袋が全部受けてくれて、よほどのことがないかぎり外にこぼれることはない。袋の中にたまっているやつをほかすだけでいい。ただ、介助してくれる人は大変だが。
【S】普通の生活をしていたら、ほとんど失敗はない。ただバスケットをしたりすると袋が破けたり、やはりよく動くと、腸の動きが良くなって一挙に出る場合がある。そういう点は自分で管理しないといけない。
【N】あと、人工肛門にする前とした後とで大きなちがいは?
【S】たとえば、トイレ日がなくなる。予定したことが行えるようになる。トイレ日を決めると、その日はいつ外出できるかわからないところがある。人工肛門だと、朝起きた時にガス抜きと便の処理をしたら、それで動ける。袋のガスを抜くのをこまめにやっていれば心配ない。
【N】ガスを抜く、便をほかすという作業さえ怠らなければ、僕の場合、非常に動きやすくなった。以前は外出する時は、失便したらどうしようと思って前日、食べるものを控えたり、下痢しそうなものは食べなかったりしていたが、そういうことは気にしなくなった。多少は気にしている部分もあるが、まあ出ても袋にとりあえず出てくれるから何とかなるわ、みたいな。精神的な負担はものすごく軽くなった。それで外出しやすくなった。QOLが上がったというのはある。
【S】同感。血圧が上がることもなくなったし、人工肛門にする前とでは全然ちがう。

■人工肛門のデメリット
【S】ベッドから物を取ったりする時、ぐいとひねって袋を破いてしまうことがある。それ以外は別にない。
【N】僕の場合は、ガスが出る時に音が出る。おならと同じだから。手術した時は会社に行っていたので、職場でお腹からプーとかスーとか出たらいやだというのがあって、先生に何とかならないかと聞いたら、それはどうしようもないということで。家にいる時はいいが、外出中、どこかで食事している時など、音がしたらやはり気になる。それからガスがたくさんたまっている時に、臭いがちょっと漏れるのも気になる。あと、もともとの肛門から腸液が出る。人工肛門にしても、切った後の腸はやはり活動していて、新陳代謝でとれた腸の内壁や腸液がたまり、お尻の肛門から出てしまう。僕の場合、肛門括約筋がきついので、よほどたまらないと出ないが、ある程度たまった状態の時に旧肛門がむずむずして多少不快感がある。
【S】僕の場合は、約2年ぐらいは1カ月に1回まとめて腸液が出ていたが、最近はもう出なくなった。

■人工肛門を考えている人へのアドバイス
【S】介助の人が付いていたら、人工肛門にした方が楽。僕みたいに中途半端にちょっと腕がきくと、全部自分でやることを覚悟しなければいけない。
【N】僕の場合はガス抜きは自分でするが、便をほかすのは自分でできないので、介助に来てくれる人にやってもらっている。さっき話したようにQOLが上がったので、迷っている方がいれば、僕個人としては人工肛門にされたらどうかと思う。今いろいろと抱えている問題は人工肛門にすれば、100%とは言わないが、それに近い数字で解決されると思う。
【S】それに費用は国でほとんど全部見てくれる。
【N】装具は補助を申請したら全部出るので、ほぼ自己負担はない。

質疑応答

Q1 装具の交換時期は。

【S】面板は1週間に1回、貼り替える。蓄便袋は、使い回しのできるタイプは、破れなければ1週間ごと。使い捨てのタイプは、便の出る量に応じて、だいたい3日に1回、ひどいときは1日に2回換える場合がある。便の出る量は一定でなく、急に大量に出たり、1日に2回出ることもあるため。
【N】僕も面板は1週間に1回。退院した直後は安定していなかったので3〜4日に1回交換していたが、今は落ち着いてきたので1週間に1回。袋もその時に交換しているので、1週間ずっと使っている。Sさんが言われたように大量に出る時がある。固い便がちょっとずつ出ていて、それが出きると、その上にたまっていた便が水分を吸収されずにどっと出ることがある。ただ出た後はまた元に戻るし、定期的に起こることなので、特に気にすることではない。

Q2 装具が外れることはないのか。

【S】袋が破れることがある。こまめにガス抜きをしていたらそんなことはないが、それができない時もあって、その時に破れたりする。
【N】僕の場合は、人工肛門にして5〜6年になるが、1回も外れたことはない。動いていて外れるというのは基本的にはない。気をつけて、袋がパンパンに張った時にちゃんと対処すれば問題はない。
【S】普通に動いている分には心配ないが、バスケットをやってると、よく失敗する。へたにカーッとなって動いてしまうから。

Q3 トイレの改造は必要か。

【S】普通の洋式トイレで十分。改造は不要だと思う。
【N】僕も不要だと思う。たまっている便をほかすだけだから、ベッド上でもできるし、袋を外してそのままトイレに持って行ってもいい。

Q4 お風呂に入る時の注意は。

【S】お風呂は普通に入れる。朝起きた時に失敗していたら、そのまま風呂に入って、風呂場で張り替えたりしている。
【N】装具を全部付けたままでも入れるし、全部外しても入れる。僕は装具交換は訪問看護の時なので、入る前に全部外し、そのまま風呂に入る。要は肛門と同じだから、特別に何かする必要はない。そのまま普通に洗って普通に湯につかり、出てから装具を貼って終わりという状態。

Q5 肌荒れは絶対にないのか。

【S】肌荒れしやすいのは、皮膚保護剤のまわりの粘着テープの部分。肌荒れしたら、その部分をちょっとカットして対応する。
【N】皮膚保護剤の部分はほとんど肌荒れはない。
【S】皮膚保護剤については、合うか合わないか、事前に病院で皮膚検査を行う。合わない人にはすぐに反応が出る。
【N】たぶん僕とSさんが使っているのがいちばん皮膚にやさしい素材。これで合わなかったら、装具を貼ること自体ができないので、人工肛門にするのは難しいと思う。

Q6 蓄便袋はどうやって捨てるのか。

【S】普通ごみの収集の時に、いっしょに。便もそのままナイロン袋に入れて、ごみ箱に入れてほかしている。
【N】僕も普通ごみといっしょに出している。

Q7 ガス抜きの時間間隔は。

【S】それが決まっていない。ガスが入ってると思ったら、こまめにちょこちょこ抜くしかない。
【N】ガス抜きは時間ではできない。たまった時に抜くしかない。上からさわってみて、ふくれていると思ったら抜く。ストッパーをちょっと動かすと、袋が全部外れずに少し浮く。その時に袋を抑えると横からガスだけシューッと抜ける。その後でまわりを押さえたら面板にまたはまるので、便がこぼれることなく、ガスだけ抜くことができる。

Q8 どれくらいの麻痺レベルで、自分でガス抜きができるか。

【S】腕がそんなにきかなくてもだいじょうぶ。
【N】僕はC6で、指は全く動かない。手首は背屈はできるが、掌屈はできない。二頭筋はきいているが、三頭筋は左はほぼゼロ、右は少しきいている。右手の三頭筋が少しきいているので、左手親指をストッパーに引っかけて、右手で押す。多少力がなかったら難しいかもしれない。

Q9 介助者がガス抜きするのはしんどいか。介助者はつねにいないとダメか。

【S】介助者だったらガス抜きはもっと簡単。つねにいる必要はない。出るのはたいてい、よく動いていて起きた時や、ごはんを食べた時。ガスは半分以上が空気だから口から入る。活動中は、外へ出てしゃべっている時などに空気が入り、それが出てくるので、パンパンになった時に介助者がいたら抜いてもらう。1回抜いたら、最低1時間か2時間はだいじょうぶ。
【N】食べたり動いたりした時は内蔵の活動がよくなるから、便が出やすくなるしガスも出やすくなる。でも、それで抜いてもらって、すぐパンパンになることはほぼない。
【S】夜寝るときにガスを抜いておいたら、朝まではだいじょうぶ。それで破裂は絶対にない。

Q10 助成金は下りるのか。自己負担は月々どれくらいか。

【N】西宮市の場合、4カ月に1回の申請で、1回3万8000円ぐらい出る。
【S】袋は使い捨てのタイプは260円、使い回しのできるタイプは290円で、1カ月8000円ちょっとですむから、補助の範囲内で十分いける。ただ手術してから半年間だけは実費なので、その間は全部で6万円ぐらいは必要。
【N】補助分をオーバーすることはまずないので、面板と袋の購入については、自己負担は基本的に不要。

Q11 便が出なくなって、座薬や浣腸を使うこともあるのか。

【S】僕らはない。腸閉塞の人で人工肛門にして出にくくなるという話は聞いたことがあるが、ほかでは聞いたことがない。
【N】普通はだいじょうぶだと思う。どうしても出なかったら、自分のお腹に下痢しそうなものはわかると思うので、たとえば牛乳とか、下痢しそうなものを飲んでみる方法はあると思う。

Q12 人工肛門をつくるにあたって、保険はきくのか。

【S】ききます。
注 当事者への質問と回答、写真は省略しました。また当事者のお名前はイニシャル表記にしました。

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