頸損だより2004夏(No.90)

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「過去との訣別」


僕は以前、イジメに遭ったことがあります。といっても今ほど陰湿ではなく、クラスの男子数人に無視をされたくらいだったんですが、それでも当時は心に傷を負ったし、「もう友達なんていらない」と心に決めたもんです。映画「非・バランス」は親友にイジメられたことで心を閉ざした少女がある人との出会いをキッカケに気持ちが前向きに変化して、傷ついた過去を乗り越えていこうとする物語。親友にイジメられたことがトラウマとなって、今でも悪夢にうなされる中学二年生の少女、チアキは学校で生き延びるための戦略として「一、クールに生きる」「二、友達は作らない」という2つのルールを自分で作るんです。そのために学校ではクラスメイトから「仙人」と呼ばれるほど孤立してしまうんですが、そんな彼女がはるかに年の離れたオカマの菊ちゃんと出会い、一緒に過ごすうちに"友情"が芽生えるんですね。それによって彼女の心境は少しずつ変化していくわけですが、この少女チアキとオカマの菊ちゃんの微妙な距離感がとってもいい。イヤでイヤでたまらないのに、自分を苦しめる悪夢から逃れるために万引きとか無言電話を繰り返してしまうことを打ち明けたチアキに、菊ちゃんが投げかけた「今はツラくても大人になったら笑って思い出せる」「どうせ泣くなら楽しいことやって泣きなさい」という言葉が印象的で、この言葉が彼女を変えるし、菊ちゃんもまたチアキとの出会いによって過去と訣別するんですね。二人が心を通わせていく過程がすごく良かった。

やっぱりイジメってツライ。イジメられたほうは永遠に忘れられない記憶として心に深く深く刻まれてるし、時にはフラッシュバックするほどの悪夢なのに、イジめたほうはイジめたことを「そんな過去のことは忘れたよ」っ感じであまり覚えてない。イジメられたほうはそこで時間が止まってるのに、イジメたほうはまったく関係なく時を過ごしてる。だからこそ、チアキが自分をイジメた"親友"を呼び出して傷ついた過去と訣別するシーンは痛々しかったけど、それがあったからこそ彼女は未来に向けて一歩踏み出せたわけで、ラストシーンは爽やかで清々しい気分になりました。人生、ツライときもあるけど、そこでめげないで明るく生きていればいつか乗り越えられるとポジティブな気分にさせてくれる作品でした。そうだ、肩肘張ってないで楽しく生きよう。


「非・バランス」('00日本)
原作:魚住直子(「非・バランス」)
監督:冨樫森(「ごめん」「星に願いを。」)
出演:派谷恵美、小日向文世、原田美枝子、羽場裕一ほか

<ストーリー>

小学生のときに親友にイジメられたことがトラウマになってる13歳の松本チアキ(派谷恵美)は中学生になるときに、「一、クールに生きる」「二、友達は作らない」という2つの誓いを立てた。学校では誰とも話をしない彼女だったが、ある日、街でオカマの菊ちゃん(小日向文世)と出会ってから、閉ざされた彼女の心は微妙に変化していく…。(ビデオレンタル中)


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赤尾"映画中毒"広明

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