頸損だより2006春(No.97) 2006年3月26日発送

巻頭言

「オバチャンパワー」

〜物事の表と裏〜

松崎有己

「大阪のオバチャン」と聞くとどのようなイメージが思い浮かぶでしょうか?声が大きい、派手、無理を言う、あつかましい、など(気分を害された方がおられましたらお許しください)一般的にこのようなイメージで語られることが多く、実際にそのような場面に遭遇することもみなさん多々おありではないでしょうか?テレビショッピングなどで注文の電話をかけ、あたりまえのように値切ろうとするのは大阪のオバチャンだけだそうです。(たいてい値切ることはできないがさらにおまけが付くようです)

しかしそんなオバチャン達のイメージが、ここ最近何度となく裏切られる出来事が起こりました。地下鉄の車両から降りようとした時、スロープを持った駅員さんが連絡ミスで別の車両の前に行ってしまっていました。どうしようかなーと思う間もなく、すぐそばのオバチャンがホームに下りて大きな声で「こっちこっちぃ!」と叫んで駅員さんを呼んでくださいました。また、自分が車椅子の後ろに付けているカバンのチャックが開きっぱなしになっていることに気付かずに電車に乗っている時にも、「後ろが開いているから閉めていい?」といきなり言われ閉めてくださいました。電車の切符を誰かに頼んで買ってもらうことがあるのですが、この間は料金表を眺めていただけで「どこまで行くの」と聞かれ頼むまでもなく買ってもらいました。あるお店を探していて見つからずに訪ねた時にも、その場ではご存じなかったのですが、50メートル程来たところで後ろからわざわざ追っかけてきてくださって「となりのオバチャンに聞いたから」と言って教えてくださいました。

とにかく驚かされるのは、オバチャンいやおばさま達の腰の軽さというか(尻の軽さではありませんよ)その機動力の高さです。恥ずかしさや躊躇することのないその特性が惜し気もなく発揮され、あたかもそれが当たり前のことかのように反射的に行われるその立ち振る舞いは、通常ネガティブに捉えられがちなイメージと共通するものでありながら、全く正反対のすがすがしく気持ちのよい空気がそこには流れるのです。

物事の全ては表裏一体、私もまた障害者になっていなければこのようなふれあいや気付きもなかったのかもしれません。この先大きな災害や事故に見舞われた時にも、きっとこの「オバチャンパワー」が世の中を救ってくれることでしょう。


戻る