頸損だより2006春(No.97) 2006年3月26日発送
『無年金障害者の訴訟報告と予定、活動について No.27』
学生無年金障害者大阪地裁訴訟原告 谷川信之
1月20日(金曜)午前11時、大阪地方裁判所202号法廷
大阪訴訟の原告10名全員に、「全面敗訴」という厳しい判決!
大阪地方裁判所第2民事部の西川知一郎裁判長(田中健治裁判官、和久一彦裁判官)は、国民年金法が成人学生を強制加入の適用外としていたことについて「立法府の裁量権の範囲を逸脱しているとはいえず合憲」と認定、原告の請求をいずれも棄却した。
原告は大阪、兵庫、奈良の三府県に住む身体障害者8人と精神障害者2人。いずれも学生だった20〜25歳の間に事故や病気などで重度障害を負ったが、平成元年の国民年金法改正(3年施行)までは学生は強制加入の対象外で、加入していなかったため不支給となった。
判決では、昭和34年の法制定時と、昭和60年の最初の法改正で、いずれも成人学生が強制加入の適用外として維持されたことについて「立法政策として著しく合理性を欠き、明らかに立法府の裁量権の範囲を逸脱、乱用したものということはできず、何ら合理的理由のない不当な差別的扱いとはいえず、憲法に違反するとはいえない」と認定し、さらに国家賠償請求についても「学生の適用除外規定が違憲でないから、規定を存置した立法不作為の違法を理由とする原告らの請求には理由がない」として退けた。
弁護団、原告団は「国側の主張だけを詳細に認定した血も涙もない判決。原告がどんな思いで30数年を過ごしてきたのか一顧だにしない内容だ。」、「結審から1年近くも待ち、勝訴とまでいえなくても希望が持てる判決を出してくれるだろうと考えていた。裁判長は『棄却』の一言だけで私たちの顔を見ることもなく退廷した。残念で無念、悔しい。」、「裁判官の人間的にも礼を尽くされない態度と同じく、判決内容は原告の実情・疑問に何ら答えるものではなかった。」、「18回もの裁判、11名原告全員が幾度も提出した陳述書、口頭による陳述も、綿密に主張された弁護団・学者先生方の苦労も水泡となった長時間は、徒労な時間を費やしただけなのか?」、「毎回体調を整え、入念な準備をして臨んだ18回の裁判の判決は私たちの現状をくんだものではなく、簡単に片付けられて悔しい。」、「200ページの膨大な判決文は、身体障害者福祉法、生活保護法などの説明ばかりで、原告10名に対する判断は後半部十数ページに簡単にかかれており、法律教科書の如くでもあり、クリック&ペーストで作成したのではと思えるような手抜きの感を受け、腹立つものであった。」
私たち原告10名と弁護団は「1月20日に即日控訴」し、無年金障害者の実態と現状を書面、ビデオ、口頭陳述などあらゆる方策を通して、大阪高等裁判所裁判官を納得させる強い意思と行動が必要であることを肝に銘じ、控訴審を戦って行きますので、皆さまの御支援・御協力・御激励をお願い申し上げます。
2004年の年金国会で、年金制度「改正」が大きく問題になる中で、障害者の無年金問題が無視できないものになり、2004年末「障害特別給付金」制度を創設させました。これは、制度的欠陥のために無年金になった障害者への所得保障として、金額や支給対象など不十分さを残しながらも、長年にわたる運動と裁判闘争による大きな成果と言えます。
同法は学生や主婦だった無年金重度障害者の救済策で、月4万〜5万円を支給するものだが、支給額が障害基礎年金の約6割にとどまる、年金の枠内でなく福祉的措置として位置づけられる、付則で今後検討するとされた在日外国人と在外邦人の無年金障害者の問題等も残され、今後の課題である。
しかし、障害者福祉の制度の改変がこの間、急ピッチに進み、措置制度から契約制度に変えた支援費制度で財源不足が出ると、介護保険との統合を視野に入れた「障害者自立支援法」が出てきて、大きな反対の声を無視して無理やり成立させました。今後、障害者・家族の暮らしに大きな負担と犠牲を強いる「応益負担」制度の導入は、医療改革法案、消費税増税案を含めた税制見直しなど、暮らしにかかわる重大な制度や施策の改変が進められ、大きな影響を与えることが懸念されます。
こうした厳しい情勢の中で、学生無年金障害者訴訟の行方、今後の高裁での控訴審、最高裁への訴訟、判決がどうなるか楽観視することはできません。
この学生無年金障害者訴訟を前進させ、勝利へと導くことは、国民の生存保障、所得保障、基本的人権保障につながる重要な取り組みです。
政府(厚生労働省)がなすべき対応は、長い間将来に深刻な不安を抱き、社会的自立に困難を強いられてきた学生無年金障害者原告らをさらに苦しめ続けることではなく、3件もの違憲判断が下されたことを重く受け止めて、過去の誤りを率直に認め、不支給処分の取消を前提とした根本的な解決を早急に行うことです。
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全無年金障害者の早期救済と安心できる年金制度の確立を求めるFAXを送付してくださいますようご協力願います。 |
◇内閣総理大臣 |
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小泉純一郎 |
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FAX:03−3581−3883 |
◇厚生労働大臣 |
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川崎二郎 |
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FAX:03−3502−5173 |
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「無年金障害者実態調査結果報告書」を作成しましたので、ご入用の方はご連絡ください。(報告書は無料で送料のみ負担願います。) |
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私たちは、すべての無年金障害者の解決と、無年金障害者を生み出さない年金制度改正を求めて活動しており、ご支援ご協力をお願い申し上げます。
- 学生無年金障害者の年金支給を実現する関西の会
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郵便口座 |
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00950−4−131048 |
賛助会員 |
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(年会費1口)個人2千円、団体5千円 |
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★ 独り言
私たち学生無年金障害者大阪訴訟原告に「不当判決」を出した、大阪地方裁判所第2民事部の西川知一郎裁判長は、1週間後の27日に、下記の判決を出した。同じ裁判官なんだろうか?
公園内のテントを住所と認定、ホームレス勝訴
大阪市北区の扇町公園にテントを設置し、野宿生活をする無職Yさんが、同公園を住所とする転居届が受理されなかったのは不当として、同市北区長を相手に、不受理処分の取り消しを求めた訴訟で、「テントは客観的に生活の本拠としての実体を備えており、住民基本台帳法上の住所」とし、不受理処分を取り消した。公園での住民登録を認める判決は極めて異例である。
注:住民登録できなければ、参政権を行使できず、国民健康保険やパスポートの交付も受けられない。
平成13年(行ウ)第47号、第53号ないし第61号
障害基礎年金不支給決定取消等請求事件
判決要旨
1 本件は、いずれも20歳以上の大学生又は看護専門学校生であった当時疾病にかかり又は負傷して障害の状態となった原告らが、平成元年法律第86条による改正(平成元年改正)前の国民年金法が定めていた学生等を被保険者から除外する規定(学生等適用除外規定)に該当することを理由に障害基礎年金の不支給処分(本件各処分)を受けたため、学生等適用除外規定は憲法25条、14条等に違反し無効であるなどと主張して、被告社会保険庁長官に対し、本件各処分の取消しを求めるとともに、被告国が、平成元年改正時まで明らかに違憲な学生等適用除外規定を制定、存置した上、その後も今日に至るまで原告らいわゆる学生無年金障害者に対する立法による救済措置を怠ったことは、国家賠償法上も違法であるなどと主張して、被告国に対し、慰謝料として各自につき2000万円の支払を求めた事案である。
当裁判所は、原告らの被告社会保険庁長官に対する本件各処分の取消請求及び被告国に対する損害賠償請求をいずれも棄却すべきものと判断する。
2 我が国の国民年金制度は、保険方式により被保険者の拠出した保険料を基として年金給付を行う、拠出制を基本とし、保険原則によるときは給付を受けることができない者に対しても制度の保障する利益を享受させるため、経過的及び補完的にいわゆる無拠出制の年金給付の制度を設けることとして、創設され、維持されてきた、いわゆる社会保障上の所得保障の制度である。
そして、昭和60年法律第34号による改正(昭和60年改正)前の国民年金制度は、厚生年金保険その他の被用者年金制度等の適用を受けない者を対象とし、被用者年金制度等と分立する制度として創設され、維持されてきたが、昭和60年改正により、我が国の公的年金制度が、1階部分を共通の定額の基礎年金、2階部分を各制度独自の所得比例ないし報酬比例の年金とする2階建ての年金体系に再編成され、国民年金制度は、公的年金制度の適用者に共通の定額制の基礎年金を支給する制度として位置付けられた。
しかるところ、学生等は、昭和60年改正の前後を通じて、平成元年改正まで国民年金の被保険者から除外され、国民年金制度に任意加入することができるものとするにとどめられた。
他方で、20歳に達する前に疾病にかかり又は負傷して障害の状態となった者については、昭和60年改正前においては、障害年金より低額の障害福祉年金を支給するものとされ、昭和60年改正後は、拠出制の障害基礎年金と同額の障害基礎年金を支給するものとされた。
3 憲法25条の規定が拠出制を基本とする所得保障制度の設定をも許容する趣旨のものであることは明らかであり、平成元年改正までの間、拠出制を基本とする制度設計の下において、学生等が類型的にみて保険料の拠出能力に乏しいことにかんがみて、20歳以上の学生等を国民年金の被保険者の範囲から除外した上国民年金制度に任意加入することができるものとするにとどめたことは、立法政策として合理性を欠くということはできない。
しかるところ、拠出制を基本とする所得保障制度を設定する場合、拠出能力を欠く者ないし現実に拠出をしていない者についても、拠出を行った者と等しく当該制度による所得保障の利益を享受させるべきであるとの立法政策をとることも十分検討に値するところであるが、このような考え方に対しては、現実に拠出の負担をしている者との公平、均衡という問題が自から生じてくる。
我が国の憲法がいわゆる福祉国家の理念に基づいているとしても、憲法における人権保障の在り方ないし体系等にかんがみると、憲法25条、14条等が上記のような負担の公平といった価値選択を許容せず、拠出能力を欠く者等に対しても拠出の負担をしている者と等しく当該制度による所得保障の利益を享受させるような制度の設定を規範として要求しているとまで解することはできない。
学生等のように類型的に拠出能力を欠くと考えられる者について、これを被保険者として拠出制の枠内に取り込んだ上保険料の減免等の措置を講ずるのか、当該制度に補完的に無拠出制を設けた上当該無拠出制の枠内で一定の利益を享受させるのか、その場合、無拠出制の適用範囲をどのように設定するのか、あるいは当該制度とは別の制度でもって憲法25条の規定の趣旨の実現を図るのか、などといった事柄に関する選択決定については、憲法は、25条1項において健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障した趣旨に反しない限り、その時々における国の財政事情の制約を勘案し、以上のような負担の公平といった問題等をも含めて多方面にわたる複雑多様な利害を調整し、一定の方向性を見いだして、もって憲法の負託にこたえていくという、立法府の高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断にゆだねているものと解されるのである。
20歳に達する前に疾病にかかり又は負傷して障害の状態となった者について、無拠出制の障害福祉年金又は障害基礎年金を支給することとした選択決定は、それらの者が初診日においては一般に社会から保護されるべきものとされている未成年者であった上、その大多数が就労能力を有していなかったことなどにもかんがみると、立法政策として不合理ということはできない。
これに対し、20歳以上の学生等が疾病にかかり又は負傷して障害の状態となった場合に無拠出制の年金給付を行うものとした場合については、20歳に達する前に疾病にかかり又は負傷して障害の状態となった場合と異なり、それらの者が初診日において既に成人年齢に達している上、成人年齢に達した者の多数が就労している実情にもかんがみると、現実に保険料を負担して拠出をし、または拠出をすべきものとされている拠出制年金の被保険者との公平、均衡の問題が生じることは否定することができないのであり、憲法25条、14条等が上記のような負担の公平といった価値選択を許容せず、拠出の負担をしている者と等しく当該制度による所得保障の利益を享受させるような制度の設定を規範として要求しているとまで解することはできない。
これらに加えて、国民年金制度の創設当時から、生活保護法、身体障害者福祉法等の社会保障立法が存在していたことなどにかんがみると、国民年金制度の創設から昭和60年改正までの間、20歳以上の学生等について、拠出制年金の被保険者から除外し、国民年金制度に任意加入することができるものとするにとどめ、無拠出制の障害福祉年金の支給対象としなかったことが、立法政策として著しく合理性を欠き、憲法25条の規定の趣旨に照らして明らかに立法府の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものということはできず、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。
また、昭和60年改正時までには、障害者基本法が制定されるなど、障害者のための施策の一層の推進が図られていたことに加えて、同改正後の国民年金制度においては、無拠出制の障害基礎年金についてはその費用の40パーセントを国庫が負担するものの、残りの60パーセントを拠出金によって賄うものとされていることにもかんがみると、同改正により同改正前の障害福祉年金に代えて拠出制の障害基礎年金と同額の障害基礎年金を支給するものとされたこと等によりその受給権者との格差が拡大したなどの点を考慮してもなお、同改正後平成元年改正までの間、20歳以上の学生等を無拠出制の被保険者から除外し、国民年金制度に任意加入することができるものとするにとどめた上、無拠出制の障害基礎年金の支給対象としなかったことが、立法政策として著しく合理性を欠き、憲法25条の規定の趣旨に照らして明らかに立法府の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものということはできず、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。
したがって、学生等適用除外規定は、昭和60年改正の前後を通じて、憲法25条、14条に違反するということはできない。
また、学生等適用除外規定が憲法13条、31条に違反する旨の原告らの主張を採用することもできない。さらに、昭和60年改正の際に専修学校等の生徒を国民年金の被保険者から除外されるものとした国民年金法施行令(平成元年政令第336号による改正前のもの)4条4号、5号の規定が平成元年改正前の国民年金法の委任の範囲を逸脱し無効ということもできない。
4 原告Aの初診日の認定の誤りを理由とする本件処分の取消請求も理由がない。
5 国民年金法の制定から平成元年改正までの間、学生等適用除外規定を設け、これを存置したことが、憲法25条、14条等に違反するものではないから、被告国が学生等適用除外規定を設け、これを存置した立法行為ないし立法不作為の違法を理由とする原告らの被告国に対する国家賠償請求は、理由がない。
また、平成16年12月の特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律の制定まで、学生等適用除外規定によって国民年金の被保険者から除外された者であって学生等の間に疾病にかかり又は負傷して重度の傷害を負ったものに対する所得保障上の救済措置をとらなかったことが、立法政策として著しく合理性を欠き、憲法25条の規定の趣旨に照らして明らかに立法府の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとまでいうことはできず、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるとまでいうこともできない。
そして、上記法律において特別障害給付金の額を障害基礎年金の額よりも低額に設定するなどしたことが立法政策として合理性を欠くということもできないから、被告国が原告らを始め学生等の間に重度の障害を負いながら学生等適用除外規定によって国民年金制度の適用から除外されたため障害年金ないし障害基礎年金を受給することができない者に対する所得保障上の救済措置を今日に至るまでとらなかった立法不作為の違法を理由とする原告らの被告国に対する国家賠償請求も、理由がない。
さらに、被告国が原告らを含む20歳以上の学生等に対し国民年金制度への任意加入制度についての個別的教示義務を怠ったこと等を理由とする原告らの被告国に対する国家賠償請求も、理由がない。