頸髄損傷者が直面するさまざまな二次障害の中で、最も身近で最も厄介で最も悩まれている方が多いのはおそらく褥瘡だと思います。ちょっと油断すればすぐに発生してしまうし、できるのはほんの数時間なのに治癒するのは数ヶ月が、下手したらずっと治らないまま発赤しては表皮剥離を繰り返してしまうことだってありますが、私たちが快適な車椅子生活を送るためにはまず車椅子上のあらゆる不安とか悩みから解放されなければなりません。その手助けとなるのが「シーティング」という技術です。昨年の春号でも特集を組みましたが、今号ではその第二弾として昨年11月に行いました会員勉強会「もっと語り合いたい!シーティングについて」でシーティングを体験した当事者から挙げられた事例を中心に紹介するとともに、シーティングの専門家の立場から提言して頂きました。シーティング処方をするに至った経緯とか経過、メリットとデメリット、実際にかかった費用等について挙げてますから、現在、車椅子の生活に不安とか不満がある方にとって、この特集が少しでも参考になれば幸いです。
2006年春号での対談と重複しますが、僕の場合は受傷してから4年後に褥瘡が発生し、それから13年間に渡って褥瘡に悩み苦しまされてきました。その間入退院を繰り返し、数え切れないくらい何度も手術をしましたが、全身麻酔でする大がかりな手術は計4回行いました。3年前に行った手術に成功してから現在までの経過は順調なんですが、ただ、当時の僕は実をいうと褥瘡が治った喜びよりも今後の人生に絶望的な気分だったんです。その理由は主治医から宣告された「今後は2時間以上座れば再発する可能性が高いので車椅子は2時間以内にするように」という言葉でした。その忠告を守らずにもし再発したら、この場所(右坐骨)はもう手術できないと言われた僕は究極の二択を迫られたんですね。再発覚悟で車椅子に座り続けるか、それとも再発を恐れて車椅子に座らないか…。でも、やっぱりどう考えても車椅子に座らない生活はありえないんですよね。外出すれば2時間なんてあっという間に過ぎてしまうから、これから先の長い人生のためにもどうにかして再発を未然に防ぐ方法を考えなければならず、そんなときに出会ったのがシーティングでした。
まず最初に座圧測定をしてもらったら、再発を繰り返していた場所が強く圧迫されていることを示していたので、褥瘡ができる原因は一目瞭然でした。その圧迫を和らげるためにティルト式の車椅子に乗り換え、除圧効果が大きいクッションに交換して再び座圧測定をしたところ、今度はウソみたいに圧迫がほとんどなくなったんですよ。その結果を見て僕は「これなら大丈夫かも!?」と思えるようになったんだけど、この段階では圧迫されていないことが科学的に証明されたとはいえ、僕の心の中では正直まだ半信半疑だったんですね。実際に新たな車椅子とクッションを使用するようになってから2年以上経ちますが、長い日は半日以上座りっぱなしでもまったく大丈夫なので、今では長時間でも安心できるようになりました。褥瘡が発生した最大の要因は僕の場合は車椅子に浅く座る、いわゆる“ズッコケ座り”にありましたが、シーティングの処方後は直角座りを徹底することによって姿勢が改善され、そのおかげで誤嚥は少なくなったし、心地良い姿勢なので疲れないし、食欲が増したうえに肩こりも軽減されました。また、両肩と胸と腰の4点を止めるベルトと両脇をサポートするラテラルのおかげで座位バランスが安定しました。だから、今はそれまでずっと抱えていた褥瘡再発の不安から解放されただけでなく、とても快適な車椅子生活を送れるようになったので、僕にとってシーティングの効果は絶大なるものでした。
シーティングにかかった費用(※)は電動車椅子(クイッキーS525)とクッション(J2ディープクッション)を新たに購入したので自己負担は100万円を越えましたが、でも、僕はこの費用を自分自身に対する投資と考えてます。事実、シーティングを処方する以前の生活では考えられなかった遠方への外出も可能になったし、新たな出会いもたくさんあったので、お金に代えられないモノを手に入れることができました。これから先の長い人生を考えると車椅子に2時間以上座らない生活なんてやっぱりありえないし、そんな人生は送りたくありません。シーティングによって僕は新たな人生のスタートを切ることができたように思います。長時間でも安心…これはとても大きな収穫でした。
私は受傷して病院を退院後、右坐骨の褥瘡で二度も手術をしています。そのためにその部分の肉厚が薄くなっていることもあって表皮剥離をいつも繰り返しています。退院してから18年間で褥瘡を持っていなかったのは約11年前からの5年間だけでした。その頃は車椅子の乗車時間を制限することもなく、あちこちと外へ出かけるなど有意義な日々を送っていました。あの頃のように車椅子に乗って思い気ままに外へ出かけたい気持ちをここ数年持っていました。
昨年、褥瘡が大きくなってしまい今後の生活に大きな不安を持ち始めて悩んでいた時に大阪の現会長である赤尾さんが私と同じように褥瘡で苦しんでいたのを解消して活動的に活躍していることを聞いたので、メールで連絡を取ってアドバイスをしてもらいました。その中で車椅子を買い替え、クッションも褥瘡を最小限に抑えるものにして姿勢を良くしたことが大きかったと書いてありました。
私が現在使用している電動車椅子は4年前に買い替えました。車椅子業者はティルト仕様の車椅子でJ2クッションを勧めましたが色々と考えた末に、ノーマルの電動車椅子にこれまで使用しているロホクッションを使い、改造でリクライニング機能を付け足しました。リクライニング機能はバックシートを倒した後、シートを起こすとお尻が前方に少しずれるために褥瘡や座位姿勢に影響があるので、ティルト機能を改造して付け足しました。しかし、褥瘡は治ったり再発したりの繰り返しでした。
赤尾さんにアドバイスしてもらった機会にアクセス社に座圧測定してもらいました。図で見ると坐骨部分に大きく負担が掛かっていることが判ったので、クッションをJ2に変更しました。同じ頃大きくなっていた褥瘡も一応治ったのでJ2を使用してみると、座位が左右にずれなくなりましたが、座位が時間と共に前方に少しズレるため表皮剥離を繰り返しました。そこでクッションを前方に3cm程出すことにしました。ズレが直り座位が更に良くなったことで長時間乗っていても首の疲労が軽減しましたが表皮剥離はまだ繰り返すため、今度は車椅子に乗る時間を少しずつ増やしています。その成果、褥瘡が少しずつ良くなってきています。原因を1つずつ取り払っていっているので褥瘡の不安も解消されると思っています。
ただ1つ車椅子のバックシートの改造だけはしていません。昨年6月に座位保持装置の判定を受けて年末の12月28日に判定結果が届いたためです。役所の手続きに時間が掛かりすぎるのにはウンザリしました。
シーティングの改造が完了していないので費用ははっきりと言えませんが、福祉から約25万円程出してくれます。有難いです。
再び、思い気ままに外へ出かけられるのが待ちどうしいです。時間、行動範囲に縛られなく選択肢や可能性を広げられるのがシーティングだと思っています。
わたしがシーティングをした理由(週刊現代風)を語るには、現在使っている電動車いす購入時までさかのぼる必要があります。以前使っていた電動車いすは、すでに耐用年数の倍以上の期間使っていましたので、かなりボロボロになっていました。乗り心地はよく好きだったのですが、仕方なく買い換えることにしました。そこで、仙台市で知人が主催している支援機器の展示会へでかけ、そこで目にとまったのが現在使っている電動車いすです。
この電動車いすを買うにあたって、自宅で試乗してみました。その時に代理店から勧められたのがJクッションとバックでした。それまでROHOのロングを使っていて何も問題なかったのですが、「あなたには科学的にフィットしている」とか何とか言って、代理店が強く薦めるので購入することにしました。同時におこなった車いすの改造も、一度の微調整もせずに使い物にならないパーツを押しつけられました。このパーツは、機械工場を経営している伯父と機械好きのヘルパーさんに使えるように改造しなおしてもらいましたが、このとき感じた嫌な予感が、後になって現実のものになるとは思ってもみませんでした。
まず、半年ほどしてクッションの高分子が漏れ出しました。明らかに不良品にあたったわけですが、代理店は瑕疵を認めず、買い換えすることになりました。高く付きました。
さらに半年ほどして、それまでつくったことのない褥瘡をつくってしまいました。実は使っていて違和感はあったのです。そしてなによりも姿勢が傾いて背骨が曲がってきたことが実感されるようになりました。が、代理店の「フィットしている」という言葉を信じていたので、まさか褥瘡をつくるなんて思ってもみませんでした。他にも、それまでなかった肩こりが出だしたり、足もむくんで何度か蜂窩織炎(ほうかしきえん)にかかったりしました。
そこで知人に相談してみたら、「シーティングセミナーがあるから参加してみないか?」と言われ、誘われるがままに参加してみました。そこでは圧力センサーを使って、本当の意味での「科学的」な検証がされて、ひとりひとりにあったシーティングがおこなわれていました。そこでおこなわれていたことがひとつひとつ納得できたので、早速講師の方にシーティングをしてもらえるように頼みました。
圧力測定の日を楽しみに待っていると、ある日突然、例の代理店から電話がかかってきて、「講師の方から聞きました。あなたには〜と〜がぴったりなので持って行きます」とのこと。不審に思って講師の方に電話をしてみると、わたしがシーティングを希望していることを聞きつけた代理店が、先走って商品だけを売りつけようとしたようでした。講師の方が強く諫めてくださったので、そこでの購入は白紙に戻せました。
後日講師の方と、例の代理店が来て圧力測定をしてもらいました。代理店はJ2のパーツをいくつか持ってきていたので、いろいろ試してみました。そして、講師の人が処方箋を書いているときに代理店がいった言葉が面白いというか腹が立ってきました。代理店は、当時わたしが使っていたクッションとバックを見て「こんなの使ってたらだめですよ」と言ったのです。ほんの一年ほど前に、同じ口から「あなたには科学的にフィットしている」と吐いた同じ口で、よく言えたものです。田舎ですので、他に業者がいないから泣き寝入りするしかないんですけど、笑いながらはらわた煮えくりかえってました。講師の方も障害者との接点が少ないので、代理店任せにするしかないようです。
今はおかげで快適に過ごしています。自分の体に脊椎があることが実感できますし、肩こりも全くありません。内臓の調子もよくなって、食欲も出てきました。みんなシーティングをしたおかげだと思っています。シーティングをしてほんとによかった。
私は1993年10月に受傷した。1995年、国立身体障害者リハビリテーションセンター(以下:国リハ)入院中に、手動車いすをつくったとき、PTの関与といえば業者紹介くらいなもので、出来上がった車いすは、お世辞にも身体に合っていたとは言えない、それはそれはお粗末な出来栄えだった。そんなこともきっかけで、本で「シーティング」という言葉を知った。自分なりに勉強して、正しい姿勢のイメージや、クッションの選び方もある程度は理解しているつもりでいた。実際、10年近く褥瘡はできず、他の頸損仲間からも「姿勢がいいね」と言われることも多く、自分は独学ながらシーティングを理解しているつもりだった。
しかし、受傷後11年目となった年、右の大腿部の裏側、すなわち太ももに褥瘡が出来た。ずっこけ姿勢が原因となりやすい尾てい骨や仙骨部でも座骨部でもなく、座骨より少し前方の内側という部位だった。自分の座位姿勢を過信していた私は、体重増加によりクッションが合わなくなったか、クッションのジェル(流動体)が古くなって除圧性能が低下したせいだろうと勝手に判断し、クッションを取っ替え引っ換えしていたが、状況は一向に改善されなかった。そしてついに、ある程度感覚の残っている私の臀部の痛覚が悲鳴を上げた。流血もした。激痛で仕事など到底手につかない状況になり、急遽友人の知人であるシーティングに詳しいPTに往診してもうこととなった。
彼はシーティングに詳しいPTなどという程度の人ではなく、「日本シーティングコンサルタント協会」の理事長というバリバリの専門家であった。とはいえ、急な往診の場で、明確な原因追及や褥瘡の処置が成せるわけではなく、考えられる原因の提示と自宅にあるものでの応急処置、それから今後の対応策の提案を受けた。ただ明確に指摘された事は「この車いすの仕様は、あなたの身体に合っていない。それにより猫背と脊柱の側湾が起こっている。」ということだった。
そもそも車いすの仕様が身体に合っていない状況の範疇で調整を行う事に限界があるという前提だったが、幸い私の車いすはモジュラー式だったので、多くの調整は可能だった。しかし座面の幅、奥行きが小さい事はどうしようもなく、クッションサイズを奥行きに合わせて大きくし、座幅は両サイドをカットした。(製品はジェイ・ディープクッション)座面の高さはクッションの下にベニア板を挟み込み数ミリ単位でチョイスした。バックレスト(背もたれ)はそれまでジェイのノーマルなものを使っていたが、私には低すぎたようで、座高に合わせてバリライトのハイバックタイプにし、側湾の矯正というか悪化防止のために左右の取り付け位置を変えたラテラルサポートを両脇に取り付け、尚且つ座角を今までよりも90度近くまで起こした。アームレストも低すぎ且つ短すぎたため、取り替えた。フットレストは足首の背屈角度が調整できるものに取り替えた。(それまでは固定式で私には背屈し過ぎていたらしい)
シーティングの結果、ずっこけて左に傾いていた体がまっすぐになり背筋が伸び、座高が高くなった。鏡で見てもそれは明らかだった。しかし、10年近くかけて崩れた姿勢に慣れてしまっていたため、最初の1週間は吐き気や頭痛もおこり、約2ヶ月間は違和感のほうが強かった。徐々に違和感はなくなっていったが、結局落ち着くまでに1年近くはかかったものだった。
シーティングにかかった費用、期間としては、PTに来てもらうのに明確な料金設定はまだなかったが、個人でやっているので、都内で交通費込みで30分5千円は必要だろうという事だった。知人の紹介という事と、明確な仕組みが確立していないこともあり、時々は飲み代を持つ事で相殺してもらったりもした。1〜2回で終了するものではなく、全部で5回(3ヶ月)ほどはかかった。また車いす業者の日程も調整しなければならず、3者(時には訪問看護師も含め4者)のスケジュール調整が大変であった。新調したクッション、バックレスト等のシーティング製品購入費は全部で10万円は超えた。
正しく座るとは、重力に負けないで人間本来の骨格を保てる姿勢ということだが、それには椅子に深く座って骨盤を起こし、背筋をまっすぐにすることが望ましい。しかし腹筋背筋の利かぬ頸損者にとってそれは大変困難な事である。それ故、多くの頸損者はずっこけた姿勢で車いすに座り、顎を突き出し、猫背で座骨座りといった姿勢になるのは仕方ないものとの認識が、医療者にも当事者にも車いす業者にもあったように思う。しかし、車いすにではなく身体に合わせて正しく座るというシーティングの観点から、現在では様々な製品が作られてきている。一度崩れた姿勢を問題が起こってから直すというのは時間もお金もかかり、なにより肉体的に辛い。日本では医学部のカリキュラムにもPT、OTの育成カリキュラムにもまだシーティングは正式に導入されてはいないらしい。現在はシーティングに詳しい車いす業者や研究者主導でシーティングの普及がなされ始めているが、このままだと正しい姿勢を保てる車いすユーザーはほんの一握りの人しかいない国となってしまう。専門家の育成と入手までのスムーズな仕組みづくりが切望される。
多くの頸損者は急性期の頃に主治医とか理学療法士から褥瘡ができないように除圧する方法として、お尻を持ち上げる“プッシュアップ”を勧められたと思いますが、自力でプッシュアップができない頸損者はその都度、介助の手を借りなくてはなりません。ただ、最近の車椅子にはさまざまな機能があり、事例紹介の中にもそのような記述が見られますが、たとえば、車椅子のシートが振り子のように後方に傾くことで除圧するティルト機能とか、背もたれを後方に倒すリクライニング機能を備え付けた車椅子を使用することで褥瘡予防をされる方が増えてきました。貧血に悩まれている方は両足をまっすぐに伸ばせるような機能を車椅子に備え付けることで起立性低血圧はもちろんのこと、貧血の症状をいくらか抑えることができます。また、これらを組み合わせることで車椅子上でフルフラットにすることも可能になります。快適な車椅子生活を実現させるのがシーティングですが、では、実際にどのような状態になるのか…。誌面上では「百聞は一見にしかず」というわけにはいきませんが、兵庫頸髄損傷者連絡会事務局長の宮野秀樹氏に写真を提供して頂きました。
写真@ 両足をまっすぐに伸ばしたところ
写真A リクライニングを最大限まで倒したところ
写真B ティルトを最大限まで倒したところ
写真C これらを組み合わせてフルフラットにしたところ
【写真についての解説】
リクライニング(写真A)は背もたれだけがそのまま後ろに倒れるので、その状態にすることで除圧効果は得られますが、再び起き上がった時にお尻の位置が前方にずれて、姿勢が崩れてしまうことがあります。その“ズレ”がないように除圧できるのがティルト機能です。ティルト(写真B)の場合は真横から見て「L」の字のまま後方に傾いていくし、起き上がる時も「L」の字のまま起き上がるからお尻がずれることはありません。正しい姿勢を保つことがシーティングの基本ですが、これらの機能を利用することで褥瘡予防はもちろんのこと、さまざまな二次障害を未然に防ぐことができます。
しかし、ティルトが加わることによるリクライニング機能・機構の制限が一般的にあることも知っておくべき点です。(例えば、ティルト&リクライニング機構のものは、一般的にフル・リクライニングできるものが少ないこと など)
最近、よく“シーティング”という言葉を耳にするようになりました。
車いす上における姿勢と健康、二次障害との関係が見直されるようになってきたことが伺われます。また、車いすそのものの機能、デザイン性も随分とよくなってきました。しかし、一方では、“シーティング機構のない車いすはよくない”、“ティルト&リクライニング機構の車いすが望ましい”、“海外の車いすは良くて国産の車いすは良くない”、“床ずれにはAというクッションがよい”などの少し根拠が明確でない情報も多く流れています。この頁では、そのあたりの正しい知識・情報を整理していただく意味でいくつかの内容に絞りお話させていただきます。
当研究室の実施する相談事業において、よく以下のような相談があります。
・・などです。
まずは、個人によって、床ずれの状態、姿勢の状態、身長・体重、皮膚の状態などはさまざまなで異なっています。床ずれにどのクッションや背もたれがよいというマニュアル的なものはありません。しかし、表1のように、座クッションのそれぞれのもつ機能性、素材特性などから最良の方法を選択していくための指標・目安のようなものがあります。これらを参考に正しい選択と使用方法を介して利用していくようにしなければなりません。勿論、座クッションだけではなく、それを載せて使用する車いすのフレーム構成や背もたれ等との関係が重要となります。
ティルト機構ですが、この機構の本来の使用目的は以下のとおりです。
よって、前方にずれるようなことがある場合にティルト機構を用いるのは本来の目的とは異なります。また、ティルト機構を用いると、構造も複雑になりますし、重量も重く、また介護者の負担も増える可能性が高くなる可能性があります。前方にずれる原因を確認し、座面角度の設定、座クッションの形状、素材などを再度検討していただくことをおすすめします。頚髄損傷の場合は、体幹筋群の筋力低下が著名ですので、重力に抗して座位姿勢を保つことが難しい場合があり、そのことで前方にずれるような姿勢をとることが多くあります。そのような場合は、側方、前方からの支持も含めて座位保持を行い、ティルト機構を用いることがあります。但し、感覚障害がある場合は、その支持する部分に用いる素材、形状、支持力の度合いなどに留意しながら設定する必要性があります。
三つ目ですが、床ずれ予防の対策を車いすシーティングのみに頼るのは危険であります。皮膚の衛生管理も含め、ベット上の姿勢・除圧、移乗時の臀部への負担などをあわせて総合的に評価する必要性があります。また、床ずれそのものの状態を的確に把握しておく必要性があります。損傷部分の状態がどの段階にあるのか、細菌などの感染などはないのかなどを十分に医療機関への相談を通じて確認しておかれることをおすすめします。
以上、今回は簡単な車いすシーティングのとらえ方の基本についてお話しましたが、より具体的な対処方法などをお知りになりたいことと思いますので、追って情報提供をできるようにしていきたいと考えております。その中で大切なことは、医学、工学両面において専門的な知識、技術を有する専門家にご相談されることをおすすめします。
大阪市援助技術研究室
米崎二朗/作業療法士
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