頸損だより2007夏(No.102) 2007年6月23日発送

特集

「頸損者の排尿管理」

〜膀胱ろう体験者からのリポート〜



頸損者ならではのテーマについて考え、話し合う場として、毎年数回ずつ開催している「頸損あれこれ」の会員勉強会シリーズ。健常者にとってはごく当たり前の日常行為で、毎日苦もなく楽々と行っている排尿・排便の排泄行為ですが、我々多くの頸損者にとっては、かなりの負担を伴い、頭を悩ませる、決して小さくはない問題です。大阪頸損会では、すでに以前一度このテーマで勉強会を行いましたが(2004年2月)、昨年の全国総会でもちょうどこのテーマでシンポジウムが開催されたことを受け、今回はそれをフォローする形で、大阪頸損会の会員のみなさんにもより身近にこのテーマについて考えていただく機会として、 実際に最近になって膀胱ろうの手術をされた会員に体験談を語っていただく、という形で勉強会を行いました。

【報告者:森 雄一】

以下、勉強会の内容の報告に入る前に、若干の補足的な前知識を。まず、頸損者の代表的な排尿方法を紹介します。

  1. ボーリング手術
    通常は、膀胱にある程度尿が溜まってくると尿意を感じ、脳からの指令で、いわば弁の役割をする括約筋が開いて尿が排出されますが、脊損者の場合は 麻痺のため括約筋の開閉がスムースにいかず、うまく排尿ができません。そこで、この括約筋を削って常時弁が開いた状態にして、人工的に失禁状態を作り出す のが”ボーリング手術”です。頸損者に対しては、昔は普通に行われていました。基本的に尿は常時いわゆるだだ漏れ状態ですが、補助的にタッピングをした り、膀胱をぎゅっと押さえつけたりして尿を出し切ります。日常生活ではしびんや採尿器、安楽尿器などが必要となります。
  2. タッピング
    膀胱の辺りの下腹部をこぶしで軽くたたいて刺激を与え、膀胱の収縮を誘発し排尿を促すのが”タッピング”です。ボーリング手術とセットで行う場合 が多いですが、自然失禁で残尿が少ない場合は、それと組み合わせる場合もあります。(実は報告者の私がかつてはそうでした)日常生活ではやはりしびんや採 尿器、安楽尿器などが必要となります。
  3. 導尿
    時間を決めて、もしくは代償尿意(尿が溜まってきたときに、冷や汗が出たり、手指が冷たくなったり、首の後ろがゾッとしたり、頭痛がしたりと、通常の尿意に代わる症状)が起こったときに、尿道にカテーテル(シリコン製の管)を括約筋をバイパスする形で直接膀胱まで差し込み排尿する方法。尿の排出が 終れば、カテーテルはすぐに抜き去ります。カテーテルには1本1本が滅菌・密封されて1回ごと使い捨てにするタイプと、消毒液の入ったケースに入れて繰り 返し使うタイプとがあります。
  4. 留置カテーテル
    導尿に使うものとは異なり、膀胱まで差し込んだあと、先端部の小さな風船(バルン)に蒸留水を注入して膨らませることで膀胱から抜けないようにして、カテーテルに蓄尿袋をつないで尿を溜める方法。”バルンカテーテル”と呼ばれ、通常2週間おきに交換します。最近は、ふだんは導尿している人が、夜間の就寝中や外出先などで長時間トイレに行けないことが想定される場合など、必要なときにだけ一時的にスポットで利用できる間欠式のタイプもあります。
  5. 膀胱ろう
    今回のテーマですが、通常は、何らかの理由で尿道が使えなくなった場合などに、下腹部に膀胱まで達する穴を開け、そこを通して膀胱に直接バルンカテーテルを挿入して排尿する方法。「瘻(ろう)」とはこの穴のことです。
  6. 膀胱皮膚ろう
    膀胱を直接腹の皮膚にくっつけ、穴を開けて、腹部に貼り付けたパウチ(袋)に尿を溜める方法。

さらにいくつかのキーワード。

それでは、以下、勉強会の報告に移りますが、まず一人目の体験者は、事務局員として、星ヶ丘などの病院やそこに入院中の新規頸損者との窓口係として活躍してくださっている延澤庸行さん。

膀胱ろうにして、カテーテル交換時の自律神経過反射の心配がなくなった。

■延澤庸行さんプロフィール
受傷歴 23年
受傷レベル C5−6
留置カテーテル歴 6年
膀胱ろう歴 5ヶ月

受傷時、星ヶ丘厚生年金病院にて、入院中にボーリング手術を受ける。99年暮れごろまでは、車椅子に乗っているときはコンドーム式の採尿器、日中ベッドで横向きのときはシビン、夜間上向いて寝るときは安楽尿器を使用し、タッピングと膀胱を押して圧迫する”高圧膀胱法”で排尿していた。その後、ボーリング手術の効果が薄れてきて就寝時の尿の出が悪くなったため、夜間のみ間欠式バルンカテーテルを装着する方法に変更。’00年10月からは、さらに日中も尿が出なくなったため、留置カテーテルに変更。98年には人工肛門の手術も受けた。


●手術を決断するまでの経過

’05年7月、40℃の発熱、咳とタン。風邪と思い星ヶ丘厚生年金病院で受診したら精巣上体炎(副睾丸炎)との診断。留置カテーテルと尿道のあいだから細菌が侵入。医師に膀胱ろうにした方がいいのではと言われたが、このときは断った。その後、完全に治らないまま、ときどき抗生剤を飲んだりしながら 1年が経過。

’06年6月、カテーテルの交換が上手くいかなくなった。挿入時に括約筋が刺激され、自律神経過反射で血圧が急上昇、ドクドクと頭の血管が切れそうなほどのひどい頭痛。血圧測ってみたら300超えてエラーに。それで、膀胱ろうを真剣に考えるように。このとき、医師からは膀胱皮膚ろうを薦められた が、それは断る。理由は、’98年、排便トラブルで人工肛門にしたため、現在、腹の左側に便を溜めるパウチを装着。なので、膀胱皮膚ろうにすると右側にも パウチを装着することになるため。さらに、皮膚ろうの場合、穴から常に尿が漏れ出ている状態なので、パウチの交換がしにくいと思った。


全国総会のときの膀胱ろうシンポジウムの記事に、膀胱ろうは漏れやすい、感染症を起こして熱を出しやすい、などと書かれていたので、マイナスイメージを抱いた。対して、これまでしてきた留置カテーテルは楽だった。漏れず、熱も出ず、4週間おきに病院に行って交換してもらうだけでよく、尿検査でも汚れていると言われたことは、ほとんどなかった。問題は、交換するときに過反射が起こるという点だけだったので、できれば続けたかった。そこで、交換をスムースにするため、再度括約筋を削ることを医師に相談したが、そうすると削った括約筋とカテーテルのあいだにできた隙間からきっと尿が漏れるとのことで、だだ漏れになると日常生活が不便になるのでやめた。結局、選択肢は膀胱ろうにすることのみに。‘06年8月末に宮野さん(同7月に膀胱ろう手術済み)に相談、9月頭に手術受けることを決断。


●手術&術後の状況

’06年10/18手術。腰椎麻酔で、恥骨の辺り(ヘソとペニスの中間ほど)に特殊な器具で穴を開け、カテーテルを挿入するだけの簡単な手術で、 所要時間は20分ほど。翌日からもう車椅子に乗ってもよかった。2週間足らずで、初回のカテーテル交換をした後、退院。交換時血圧180くらいで頭痛もしなかった。その3週間後に星ヶ丘の外来で2度目の交換。3度目以降は、かかりつけの地元の泌尿器クリニックの往診で交換してもらっている。毎回15分程度で済み、その後、交換時のトラブルは全くない。


●膀胱ろうにして良かった点
@カテーテル交換時の自律神経過反射の心配がなくなった。

●良くなかった点
@寝ているときにはないが、車椅子に座っているとき(特に除圧のためにプッシュアップをしたときなど)に、毎日必ずペニスから漏れがある。(個人的には、カテーテルから出切らない分が失禁で出てくれて、感染症を起こさずに済んでいるのでは?と思っているが)対策として、常に小さめの尿吸収パッドを当てて、その上からさらに普通のおしめをして、ベッドに上がったときに、小パッドの方を交換している。

Aまた、カテーテルが出ているところの皮膚がジュクジュクするので、ガーゼを当てて、毎日イソジン消毒とガーゼ交換をしている。(と、以上、日常の手間がかなり増えた)

B万が一カテーテルが抜けてしまった場合、開けた穴が6〜7時間くらいでふさがってしまうため、入院中は抜けないように、腹部にテープで固定していた。でも、紙テープもビニールテープもすぐにはがれてしまってNG。そこで、ネットで調べてみたら、床ずれ治療シートの固定用のシートがよいとの情報を得て、試してみたら、しっかり固定はできたが、翌日シートが縮んで身を挟み込んでしまい、皮がはがれて床ずれになりそうになった。その後、医師に相談すると、引っ張って抜けないように気をつければ、特に固定をしないでもいいという返事だったので、今はテープで固定はしていない。代わりに、カテーテルにつないだチューブをひざ上と太ももの2箇所でゴム製のベルトで押さえて、カテーテルが動かないようにしている。

C夜ベッドに横になって尿が活発に作られだすと、ずっとゾクゾク感がして、気持ちが悪い。バップ4という膀胱の収縮を抑える薬を出してもらったが、食欲が落ちてムカツキがするという副作用が起こってNG。結局、ゾクゾク感は我慢するしかなく、最初ほどではなくなったが、今も続いている。



続いて二人目は、元大阪頸損会の役員として会計を担当し、関東に引っ越された現在は神奈川支部に所属し、今回の勉強会のためにわざわざ大阪まで駆けつけてくださった赤瀬陽久さん。赤瀬さんは大阪時代から、独特のユーモアとぬくもりにあふれるイラストを描く活動で有名でしたが、拠点を関東に移してからも、インターネットのホームページを開設したり、新宿アルタで個展を開いたり、チャリティー展の収入を寄付したりと、ますます元気に活躍されています。 最近は、家の近くのホテルがもっと一般にスペースを開放する方向で改装中とのことで、完成したらよかったら絵を展示してください、との話をもらい、検討中とのことです。今回も絵を数点持参して披露していただきました。興味のある方はホームページ『夢から覚めたゆめ はるひさ絵の世界』(http://homepage2.nifty.com/yumecchi/)を是非ご覧になってください。

膀胱炎の繰り返しで片方の腎臓が機能しなくなり、膀胱ろうにした。

■赤瀬陽久さんプロフィール
受傷歴 26年
受傷レベル C4−5
膀胱ろう歴 8ヶ月

受傷後はタッピングと膀胱を押して圧迫する”高圧膀胱法”で排尿。普段車椅子上では安楽尿器を使い、ベッド上では座るときも横向きで寝るときもシビンを使用。外出時は安楽尿器を使用するか、もしくは水分摂取を減らして紙おむつを使用し、帰宅後、安楽尿器に変えてからまた水分をたくさん摂取するという方法を長年とってきた。神奈川に引っ越してからは、外出時にはコンドーム式の採尿器を使い、外出時も水分をたくさん摂るようにし、1日2〜3回、家族に導尿をしてもらっていた。


●手術を決断するまでの経過

入院中に頸損として退院後どうすべきか、といったことを教えてもらっていなかったので、退院後は元気だったこともあり病院との関わりも持たずにいたが、受傷後8年目くらいに高熱が続いた結果、近くの病院に入院。自身初めての膀胱炎だった。しかし、退院後は再び全く病院と関わることもなく数年が過ぎ、 2度目の膀胱炎を起こしたあとで、頸損の友人から年に1回は造影検査を受けた方がいいとアドバイスされ、初めて日赤病院で検査を受けたところ、右の腎臓が少しおかしいが心配するほどではないと言われた。しかし、頸損に詳しい病院の方がいいかなと思い、数日後相談に行ったところ、また同じ検査をすると言われたため、何度も放射線を受けるのに抵抗があったため、結局検査を受けず、その後も元気だったため、また病院との関わりが途絶えた。その後、再び病院と関わるようになったのは、やっと神奈川に引っ越してからで、膀胱炎で高熱を出し、血尿まで出たため、病院で検査を受けたところ、右の腎臓がほとんど機能していないということで、そこで頸損に詳しい病院として神奈川リハビリ病院を紹介され、以後、毎月1回度の通院が始まった。検査の結果、膀胱炎を何度も繰り返したために、腎臓が片方しか機能しておらず、これ以上膀胱炎を繰り返して負担をかけるともう一方もダメになってしまうので、膀胱ろうにしないといけないと言われた。‘06年6月初めに手術をしたが、直前の全国総会でちょうど膀胱ろうの特集があり、いろいろと話を聞いて、自分でも「した方がよさそう。大した問題じゃなさそう」と納得、安心できた。


●手術&術後の経過

半月前からいろいろと検査をした後、‘06年6月初めに手術。

神奈川リハビリ病院で受けた手術は、5cmほど切開して膀胱内の菌などを確認した上で、縫う方法。部分麻酔で2〜3時間かかった。神奈川リハビリ病院ではこの方法がごく一般とのこと。

術後は、1週間後の抜糸まで、自分の場合は1〜2日血尿が出た。1週間後には車椅子乗れるようになり、1ヶ月後に初回のカテーテル交換をするまで入院。現在も毎日膀胱洗浄と、傷がジュクジュクするので消毒とガーゼ交換をしている。(医師は、膀洗は3日に一度でいいと言ったが、自身怖がりなので今も毎日している)


●膀胱ろうにして良かった点
@生活が楽になった。今までCONVEEN社製の採尿器を使用していたが、しばしばハズれて尿でボトボトになっていた。特にショートステイで慣れない職員に装着してもらった場合、夜につけてもらい、朝起きてみるとハズれてボトボトに。精神的にかなり苦痛だったが、今は心配なくなった。

A膀胱炎にかからないようになった(今のところ。)

●良くなかった点
@毎日の消毒やガーゼ交換など手間がかかる。

A穴のところに肉芽(大豆大)がすぐできる。月1回カテーテル交換のときに焼き切ってもらっている。

B何らかの原因でカテーテルから尿が出にくいときは、ペニスやろうから漏れてしまう。こういうときは、カテーテルの位置が原因の場合が多く、少しずらしてもらったりして対処している。(実は尿道を使わなくなればどうなるのか心配で、カラカラになって塞がってしまうのでは、とか不安に思っていたので、たまにペニスから漏れる程度は潤っていいのかな、と思っている)



三人目で”トリ”を務めたのは、大阪頸損会にも所属しながら、目下、兵庫頸損会の事務局長としても大活躍中の「若旦那」こと宮野秀樹さんです。

過反射が減り、活動が制限されず、行動しやすくなった。

■宮野秀樹さんプロフィール
受傷歴 15年
受傷レベル C4(首から下、動かない状態)
留置カテーテル歴 14年
膀胱ろう歴 9ヶ月

受傷直後から留置カテーテル。最初の病院から兵庫県立リハビリテーション病院への転院をきっかけに、1年ほど導尿法に変更していたが、水分制限をしないといけない、介助者にしてもらわないとできない、外出先で頻繁にするのがわずらわしいなどの理由で再度留置カテーテルに。


●手術を決断するまでの経過

留置カテーテルがよく詰まっていた。また、今回の手術の2年前くらいから、バルンカテーテルの先端が膀胱内でズレて膀胱壁に当たり、自律神経過反射が頻繁に起こっていた。起こると、血圧が200以上に急上昇し、吐き気をもよおすほどの激しい頭痛が起こると同時に、全身の神経が超過敏になって触られただけで激痛を感じるような状態になる。そして、それがいつ起こるか分からない恐怖。また、急遽病院に行かないといけなくなり、外出を取り止めたり、予定を大幅に変更せざるを得なくなって、日常の活動を制限される上、反比例して活動自体は最近増えていて、これではいけないなと感じていた。

医師からは膀胱ろうにしないかとずっと言われていたが、いまひとつ実感がわかないため、これまでは見送っていた。だが、昨年の全国総会の開催に当たり、シンポジウムのテーマとして「膀胱ろう」を提案したところ、同意を得られたので、それから自分でいろいろと調べてみた。また、鳥屋さんからは、自分が実験台になってみるつもりで手術をしてみてはどう?(笑)とも言われて、自身、それでもいいなと思うようになり、シンポ前から手術をすることは、ほぼ決めていた。自律神経過反射を引きずったまま生活を続けるより、改善をめざして何か手立てを打てるのなら、その方がいいかなと。


●手術の経過

留置カテーテルにしていた14年間に膀胱が縮んでしまい、容量が50〜80cc(ピンポン大)しかないため、穴を開けるターゲットが小さく、また皮下脂肪も多いため延澤さんが話してたような、ピアス感覚で簡単にポンと穴を開けるような手術では済まず、赤瀬さんと同じ切開しての手術になると、医師から事前に説明を受けた。


2006年
・6/21 術前検査、家族(母親)への説明。このとき、医師が尻込みして、「ほんとうに、しますか?」と聞いてきた。実は10例足らずほどしかしたことがなく、しかも今まではどうしても必要な人にで、宮野のような特殊な例は初めてだったらしく。でも、それでもして欲しいと頼んだ。
・7/3 午前中入院、午後から絶飲絶食。
・7/4 午前中に3時間ほどかけて手術。夜、全く尿が出なくなり、造影剤を入れて検査すると、膀胱粘膜と筋膜のあいだでバルンが膨らんでいて、膀胱に入っていなかった。医師を問いただすと、失敗を認めた。
・7/5 午前中に3時間ほどかけて再手術。その夜、ようやく氷を口に入れてもらったが、それまで続いた絶飲絶食が一番きつかった。夏の暑いときだったので喉がカラカラで。
・7/6 尿も出て、食事もOKに。
・7/11 抜糸。車椅子に乗ってもOKになり、5時間ほど乗った。車椅子に乗ったら、早く家に帰りたくて仕方なくなったが、傷がくっついているのが確認できてから、ということに。
・7/14 初カテーテル交換。退院。

●術後の経過
1)退院後は1週間に1回病院で傷のチェックをしてもらっていたが、2ヶ月後からは4週間に1回、バルーン交換のときだけに。

2)消毒&ガーゼ交換も、感染が怖いので最初は毎日していたが、術後2ヶ月ほどで穴(ろう)の周囲がジュクジュクからサラサラに変わったので、今は 入浴や清拭のときにだけチェックして、どうもなければそのまま放置しているときもある。ときどき少し出血したりするが、3日間放っておいても、ガーゼには浸出液とか何も付かない場合も。

3)2回目のカテーテル交換のときにトラブル。どこまで差し込むか目安を決めていなかったため、医師が深く入れ過ぎて、カテーテルの先端が膀胱を 通り抜けて尿道にまで達した状態でバルンを膨らませてしまったため、尿道が裂けて大出血。(医師は、宮野さんは皮下脂肪が厚いからと言い訳をしたが、問い詰めたら失敗をしぶしぶと認め、謝罪した)今はカテーテルの上から27cmのところに印を入れ、そこまで挿入したら膀胱に達しているという目安にしている。最近は交換がずいぶんと速くなり、病院に行って、車椅子の背もたれをフラットにして、ズボンをずらして、交換するだけ。尿が汚れていれば膀洗するが、 最近はそれもほとんどない。

4)手術後、初めて海外旅行に行った際、何か予期せぬトラブルが起こらないかと心配で、交換用のカテーテルと医師に英語で処置方法を書いてもらったのを持って行ったが、短時間尿が詰まるという小さなトラブルはあったものの、特に大きなトラブルはなかった。

5)最初、ガーゼを貼るテープで、皮膚がテープ負けをして困っていたが、紙のテープに変えたら落ち着いた。ビニール製の絶縁テープもよいと聞いたので、今度試してみようと思っている。

●膀胱ろうにして良かった点
@これまで過反射のために制限されていた活動が制限されず、行動しやすくなった。

A留置カテーテルのときには、入浴中に引っ張られたり、あるいは衣服の着脱をするのに横を向いたときなどに、膀胱内でバルンがズレて、過反射が起こっていたが、今は無くなった。介助者も以前ほどカテーテルに神経質になる必要が無くなり、清拭なども楽に。また、(感覚があるわけではないのだが)尿道 に異物(カテーテル)が入っている圧迫感・不快感からも解放され、心理的にも楽に。以前はカテーテルを締め付けないように、イージーパンツやジャージなど、ゆったりめの限られたズボンしかはけなかったが、今はジーパンなど、もっといろんなズボンを自由にはけるようになった。

B今まで外出先や旅先で過反射が起こったらどうしようかとか悩んでいたのが、今は不要になったので、精神的に楽になったのが一番大きい。

●良くなかった点
@過反射が完全に無くなったわけではないこと。今年1月末に、手術後初めて起こった。(今のところ本格的なのは、この1回のみだが、症状のすぐに治まる程度の軽いものは、カテーテルの交換時にちょくちょく起こる。)医師が言うには、挿入の仕方とかが普段と特に何かが違うというわけではないが、たぶんほんのコンマ何ミリかのことで、刺激になって過反射が起こるのではないか。起こったときは、症状が落ち着くまで何度かカテーテルを入れ替えてもらっている。

A以前は毎日水分を5000CCくらい摂っていたのが、手術後は飲みたいと思わなくなり、摂取量が減った。そのせいで尿中の浮遊物が増えて、カテーテルが詰まったり、そのときに尿漏れがあったりして、これではいけないと感じている。ただ、尿漏れに関しては、かえって良いことなのかも?とも思っている。理由は、留置カテのときは詰まっても漏れなかったので、ずっと苦しい状態が続いたが、今はカテーテルが詰まっても、尿道の方から尿が漏れて出ていってくれるので、早く楽になれる。

B留置カテのときは、過反射が起こったら介助者にすぐにカテーテルを抜いてもらって、例えば夜起こったら翌朝血圧が落ち着いてから病院に行けばよかったのに、今は抜くとすぐに穴がふさがってしまうので、抜かずに過反射が起こったしんどい状態のまま、すぐに病院に行かないといけなくなったので、こういう緊急時の通院が以前より負担になった。

Cガーゼとか膀胱ろう関連の医療品の費用が実費負担なのでちょっとしんどい。



勉強会後半は、参加者からの質問を受け付けるQ&Aのコーナーでした。


Q:入浴はどうしているのか?

A:【宮野】全然普通に入れる。最初、穴から水が入ってくるかと思ったが、そんなことは全くない。尿パックをつけたまま、ガンガン入れてもらっている。

【赤瀬】膀胱ろうにつないだ管をはずして、尿が出てこないようにキャップをして、湯船に入れてもらっている。全く問題ない。あと、入浴以外で、海や 川やプールなど、水がきれいとは限らないところに入ってもいいですかと医師に聞いたところ、問題ないと。但し、砂浜では傷に砂が入らないように気をつけてくださいと。

【延澤】全く問題ない。かかえてもらってガバッと湯船につけてもらっている。唯一気をつけているのは、カテーテルが引っ張られて抜けないように、だけ。あと、自分の場合は普段はろうの周りがジュクジュクしているのだが、それも風呂に入ったあとが一番キレイな状態。自分の場合、留置カテのときはキャップをして入浴していたが、ろうにしてからは、キャップをすると尿道の方から尿が漏れる&尿が溜まってくると過反射で頭が痛くなってくるので、今は尿パックのまま入っている。

【全員】膀胱ろうにして、陰部の周りがすごく洗いやすくなった。

Q:膀胱ろうにしてから、血圧は?

A:【延澤】最近は測っていないから正確にはわからないが、頭痛がしなくなったので200以下だと思う。

【赤瀬】交換時もいつも普通。

Q:配布された全国総会時のシンポジウムの報告資料に「入浴時に膀胱ろうの処置は医療行為になるのでヘルパーには頼めない」という当事者の悩みが 紹介されているが、膀胱ろうにしていると入浴の介助が受けられないのか?デイサービスを断られたというケースも聞いたことがあるが。

A:【宮野】事業所によって対応が異なる。医療行為として断る事業所も確かにある。自分の場合は、自身で運営している事業所ということもあり、膀胱ろうの処置は医療行為ではなく、生活を営む上で必要な普通の行為ととらえて、介助を受けられているが。厳密にいえば、薬を塗ったり、バンドエードを貼ることさえ医療行為になるので、万が一のことを考えて少しでもリスクを回避しようとする事業所なら、膀胱ろうの処置は当然断るケースもあると思う。 寂しいことだが。

【会場から】「膀胱皮膚ろうにするとこの問題が解決するらしいので、それで星ヶ丘では膀胱ろうより膀胱皮膚ろうを患者に薦めているようです。」

【延澤】皮膚ろうの場合、パウチをつけた状態でそのまま入浴すればいいので、入浴に関しては確かにそうかもしれないが、パウチの交換とかは医療行為になるので、皮膚ろうでも、結局はそういう面でヘルパーの介助を受けれなくて困るのでは?

Q:現在、大阪近辺で膀胱皮膚ろうの手術を行っているのは星ヶ丘だけと聞いたが、手術を受けた人は大勢いるのか?

A:【鶴田】自己導尿ができない人には強力に薦めていて、手術を受けた人は10人くらいいると思う。

−まとめ−

膀胱ろうに関しては、この記事を読まれているみなさんも、たぶん入院時に医師から、もしくは入院中の他の頸損者などから聞いて、たぶんおぼろげにどんなものかはきっとご存知な方も多いのではないかと思います。ですが、例えば、穴から水が入ってくるので湯船に浸かったり、海やプールなどに入れないのではないか、とか、いったん膀胱ろうにすると、もう元には戻せないのではないか、など、マイナスイメージを抱いているケースが多いのではないでしょうか。実は報告者の私もそうでした。今回体験を発表していただいた3名の会員は、日常生活に差し障るほど自律神経過反射がきつい、あるいは残された一つの腎臓に負担をかけないため、と元々はそれぞれにやむにやまれぬ事情があって膀胱ろうを選択されたわけですが、いざ実際に手術を受けた後のお話しを聞いていると、一番一般的な延澤さんのケースでは、手術自体もいわば耳にピアスの穴を開ける感覚のごく簡単なもので、しかも、カテーテルを抜くだけで数時間後には穴がふさがって自然と元の状態に戻ってしまうということで、思っていたよりもずっと気軽に選択肢として考えてもいいのではないかと感じられました。今回の体験者のみなさんも、膀胱ろうにして良かったと、一様に結果には満足しておられ、特に宮野さんや赤瀬さんの場合は、QOLも大幅に向上したとのことなので、同じように排尿のことで悩んでおられる会員のみなさんは、是非一度病院に相談に行かれてみてはいかがでしょうか。なお、全国総会の膀胱ろうシンポジウムの内容を詳しく紹介した報告記事が本部機関紙『頸損』2006年8月No89号付録に掲載されていますので、ご興味のある方はそちらも是非ご覧ください。

【森 雄一】


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