頸損だより2007夏(No.102) 2007年6月23日発送

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「終わらない歌を歌おう」


僕は高校生の頃まで音楽というものにあまり興味がなく、友達が暇さえあればウォークマンで聴いているのが不思議でなりませんでした。軽音楽部というとナンパなイメージがあったし、カルチャークラブとかデュランデュランといった当時大人気のアーティストの洋楽を聴いても英語の歌詞の意味も分からないのに何が楽しいのだろうと思っていました。ところが、そんな僕も遅ればせながら20歳前後になったあたりから急激に目覚め…といっても頸損だから楽器を弾くということは出来ないけど、J-POPにハマりまくったんです。当時は邦楽ではブルーハーツが大人気だったけど、僕が好きになったのはむしろ解散してからなので、今にして思うとちょっと損した気分ですが、女子高生がブルーハーツのコピーをする青春映画「リンダリンダリンダ」はすごく懐かしい気分になりました。これはジュンスカでもなくユニコーンでもなくジッタリンジンでもなく、ブルーハーツだからこそ心に響くのだと思います。僕は「女子高生がブルーハーツを歌う!」という予告篇を見たときからこの作品を楽しみにしていたのですが、期待に違わぬ面白さで、クライマックスの演奏場面ではボーカルのソンが「リンダリンダ」を歌い始めた瞬間に思わず涙がこみ上げてきたくらいだもん。やっぱ青春っていいですよね。一瞬で若かった“あの頃”に自分を連れて行ってくれるから、女子高生が頑張っている姿を見ているだけで清々しい気分になれるし、文化祭というのは学校の一大イベントだから、そこに熱い情熱を注いでいたかつての自分が重なって、それだけでもう十分楽しくて満足できる作品でした。

ここ数年は高校生が主人公の青春映画が多いのですが、この作品はただ熱いだけではなく、どこか無気力なのがいい。その無気力ぶりによって観客はちょっとした脱力感に見舞われてしまうのですが、それがとっても心地いいんだ。文化祭の直前にバンドが空中分解したことにもめげずに、新たにバンドを結成しようとする主人公たちに、元ボーカルの凛子は「やって意味なんかあんのかな?」と問いかけるのですが、ギターの恵は「別に意味なんかないよ」とあっさりと答えるのです。文化祭というイベントがあるから彼女たちはバンドをやりたいはずなのに、ほんとはそんなのどうだってよくて、ただ高校生活に“何か”を刻みたかっただけなのかもしれません。やれば何だって楽しいし、青春時代にしかできないことがあるから、彼女たちはその一瞬一瞬を大事にしたいだけなのでしょう。それが青春でもあるしね。ブルーハーツだから熱くなるところ、燃えすぎない程度の温度で取り組むあたりはいまどきの女子高生の等身大って感じ。部室にいるときもスタジオにいるときもちょっとダラダラ…そこがまたいいんだ。バンドのメンバー4人がそれぞれに魅力的で、ボーカルのソンが一人でカラオケで練習をしたり、ステージ上でメンバー紹介をする場面はもちろん、「リンダリンダ」をシャウトするのは涙と同時に鳥肌もんでした。ギターの恵はカッコいい女子高生だし、ドラムの響子はいかにも天然っぽい感じで終始笑顔を振りまいていて可愛かったし、雨中の告白シーンは印象的でした。その結果を恵に伝える場面もいい。ベースの望はクールで存在感がありました。ひとつだけ欲を言えばクライマックスで「僕の右手」も聴かせてほしかった。途中で「このまま終わらないでくれ」って願いたくなる映画がたまにあるのですが、この作品もそのひとつで、エンディングに持っていくのはもう少し後でもいいから4人の演奏をずっと聴いていたかったです。本番前に土砂降りの雨でびしょ濡れになった彼女たちはどぶねずみよりずっとずっと美しかったぞ。

久しぶりにブルーハーツを聴いてみたくなるし、いくつになってもずっと青春していたいと思いたくなる作品でした。


「リンダリンダリンダ」(’05日本)
監督:山下敦弘(「リアリズムの宿」「くりいむレモン」)
主題歌:ザ・ブルーハーツ「終わらない歌」
出演:ペ・ドゥナ、香椎由宇、前田亜季、関根史織、甲本雅裕ほか
<ストーリー>
高校生活最後の文化祭に向けて毎日オリジナル曲の練習を重ねていた5人組のガールズバンド。ところが、前日になってギターの萌(湯川潮音)が指を骨折するアクシデントに見舞われたことで演奏ができなくなったうえに、ボーカルの凛子(三村恭代)とはケンカ別れでバンドは空中分解寸前となってしまった。残ったキーボードの恵(香椎由宇)とドラムの響子(前田亜季)とベースの望(関根史織)は途方に暮れていたが、部室でたまたまブルーハーツの「リンダリンダ」を聴いたことで、3人は飛び跳ねながら「この曲なら弾ける!」と奮い立ち、その場を偶然通りかかった韓国人留学生のソン(ペ・ドゥナ)をボーカルに迎えて練習を始めるが…。
(ビデオレンタル中)

赤尾"映画中毒"広明

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