頸損だより2007秋(No.103) 2007年9月29日発送

巻頭言

「みんなにとって住みやすい社会とは」

〜相互理解への道のり〜

松崎有己

今回久々に、バリアフリー関連の記事を掲載いたしました。JR西日本が無人駅以外の各駅に問題のあるポスターを掲示したのです。(詳しくは31ページからの記事をご覧ください。また今回掲載の記事は、NPOちゅうぶの石田義典氏によるもので、主に障大連の交通部会の取り組みが書かれています)

そのポスターの内容を簡単に説明しますと、介助(スロープ板を出すことなども含む)を必要とする障害者は2日前までに事前連絡せよということと、場合によっては希望する駅以外の駅の利用を促すというものでした。事前連絡用の電話番号はフリーダイヤルにはなっておらず、しかも、車いすに乗る聴覚障害者の為の、FAXやメールでのサービスはないのですか?と問い合わせると、あろうことか、聴覚障害者は2日前までに「直接利用する駅まで来て、いつ、どの電車に乗りたいかを筆談などで伝てくれ」などととんでもないことを言い出す始末です。(ちなみに関西の他の鉄道会社においては、どこも事前連絡のシステムをとっているところはなくJR西日本のみです)当然、私たち(障大連)を含め複数の障害者団体が抗議を行いました。その結果、周知期間が終了したことを主な理由として、掲示されたポスターは回収されました。しかし、原則としてこのシステムはなくなってはおらず、かといって事前連絡なしでも駅が利用できない訳ではという、非常にあいまいな状況となっています。(実際、私の利用する環状線や阪和線の駅などでは、ポスター掲示前も掲示後も事前連絡などしなくても、問題なく利用できていますので、なぜこのようなポスターを掲示したのかは今もなおはっきりとしません)

インターネット上のブログや掲示板などでは、「JR西日本が親切で書いたポスターを、障害者側が無理やり撤去させた」として議論が巻き起こり、むしろ障害者側を非難する内容の書き込みが多くみられました。私はこの間、JR西日本や、ネット上の世論に向けて、「私たちはただ健常者と同じように移動したいし、それが当たり前のことであることを理解して欲しいだけであり、そのことを一緒に考えて欲しい」と訴えましたが、それは逆に「障害者はわがままだ」とか「傲慢だ」と思われてしまう結果となり深い無力感を感じました。

しかし、この程度の無力感など、いばらの道を掻き分け、痛みを堪えて生きてこられた多くの先輩障害者の皆さんに言わせれば「まだまだ甘いよ」と笑われそうですが、今回のことを通じて、これからの障害者運動は、「大きな声を出せば何とかなる」というものではなく、怒りの感情を抑え、相手へもできるだけ敵視することなく、時間をかけて理解してくれそうな人を少しでも増やしていくという、一見遠回りのような方法でなれば、かたちだけではなく、真にバリアフリーやノーマライゼーションに対する理解を得ることは難しいかもしれないとも感じました。

この先、バリアフリーに限らず障害者運動全般において、どのような進め方によって私たちの目指す世の中を実現できるのかは、今の私にとって常に手探りの状態です。皆さんの声を聞かせてください。ご意見、ご感想お待ちしております。


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