頸損だより2008秋(No.107) 2008年9月27日発送

焼肉リベンジの旅

大阪頸髄損傷者連絡会 赤尾広明


昨年の9月に初めての海外旅行で韓国に行きましたが、主目的はDPI世界会議に参加することだったので観光はほとんどできず、楽しみにしていた本場の肉料理にありつくこともできませんでした。それが唯一心残りだったことは昨年発行の「頸損だより」冬号でもお伝えしましたが、その“焼肉リベンジ”を果たすべく、6月29日から7月2日まで3泊4日で西村くんと一緒に韓国に行ってきました。そして、十分すぎるほど焼肉を満喫したのですが…昨年同様、またしても想定外の悲劇に見舞われながらの帰国となりました(泣)。昨年は愛車の電動車椅子が帰国便の機内で故障して動かず、そのまま2時間ほど関空に取り残され、代車で自宅まで帰らなければいけないハメになったけど 今年は僕自身が壊れてしまい、帰りの機内で極度の悪寒に加えて2度の嘔吐。体の震えがまったく止まらないまま、防寒する術がない機内では半分死んでました。関空到着後はそのまま救護室送りとなり、さすがにこの体調では電車で帰るのもしんどいから、急きょ福祉タクシーを関空まで呼んだんですが、このタクシー代がなんとなんと2万7000円もしたので、体調を崩した代償はすごく高くつきました(失笑)。それさえなければ120%楽しいオンリーの旅だったのに、僕の旅の終わりにはなぜか笑えない“オチ”がついちゃいますf(^^;)

ま、それでも、やっぱり韓国という国は楽しかったので、極私的日記のような内容ではありますが、韓国旅行の報告にお付き合いください。

6月29日(日)

15時30分:関西空港を出発
17時:インチョン(仁川)空港到着
18時30分:ベストウェスタンプレミアソウルガーデンホテルにチェックイン
19時:ホテル近くの焼肉屋へ

昨年宿泊したホテルはソウル市内のチョンログ(鐘路區)でしたが、今回宿泊したホテルは同じくソウル市内の中心部にあるマホ(麻浦)で、空港からリフト付きの介護タクシーでホテルまで移動しました。そして、早速焼肉屋へ(笑)。

ホテルから徒歩10分くらいのところにある焼肉屋はいかにも韓国っぽくて、広いスペースにイスとテーブルが無造作に並んでるだけ。だから、こっちで勝手にレイアウトできるので、車椅子数台でも十分身動きができるスペースが確保できて好都合です。ただ、その一方で段差のあるお店が多いから、入店できる飲食店を探すのは実はかなり苦労します。韓国では有名な焼肉チェーン店「ノルブ」(日本では「はんありカルビ」という店名)にも行きたかったのですが、ホテルのすぐ真裏にあるノルブは段差があり、断念。今回行った焼肉屋はホテルのベルボーイにオススメとして教えてもらいました。ロースが一人前9000ウォンだからちょっと高めですが、でも、日本に比べて倍近いボリューム感があるから、むしろ安いくらいかな。気がつけばテーブルの上はお肉だらけ。網の上もお肉がずらりずらり。ジャンジャン焼いて、どんどん口の中に運んで、ひたすらお肉お肉キムチお肉お肉お肉ご飯お肉お肉お肉お肉というペースでガッツリ(笑)。嬉しくて、おいしくて、鼻の穴が膨らむ興奮のエクスタシー!ちょっと塩をつけるだけでこんなにおいしくなるお肉なんて人生初めて。柔らかくて、甘くて、お肉に塩×肉汁の最高のケミストリー!胡麻油につけるだけでも思わずニンマリするほどうまかったです。初日からいきなり僕は昇天しました(笑)。次の日の夜はスンドゥプ(豆腐鍋)でしたが、もちろん僕が注文したのは肉入りのスンドゥプなわけで、これがまたそんなに辛くもなくてちょうどイイ感じ。ご飯の上に乗せて豆腐をつぶし、ネコまんまのようにして食べたら超絶品!ご飯と豆腐の相性がバッチリでした。このお店で大好きなサムギョプサルを注文したら、「3人前以上でないとダメ」と断られ、そのことだけは未だに納得できません。2人前以上なら解るけど、3人前以上からしか注文を受け付けないってどうよ、どうなのさ(怒)。3日目はお昼にサムギョプサルで夜は初日の焼肉屋。ちなみに、このお店ではサムギョプサルは一人前でもOKでした。この旅でお肉を食べなかったのは最終日だけ…なので、僕が3日続けて昇天したのは言うまでもありません(笑)。

6月30日(月)

9時30分:ホテルにて朝食バイキング
11時:南山ケーブルカーからソウルタワー
13時:南大門市場でブラブラ
17時:ホテルに戻る
18時:夜食にホテル近くのスンドゥプ料理店へ

朝食バイキングでまたしても朝っぱらからいきなり昇天。バイキングで食べるのも僕は生ハムとかベーコンとかソーセージとか、やっぱりお肉系が中心なんだけど、いつもは朝食なんて抜きか、食べたとしてもほんのちょっとなのに、この日は次から次へと手が伸びて朝から満腹になるほど平らげてしまいました。異国にいるせいか、何を食べてもおいしく感じます(大満足)。

そして、手配していた介護タクシーで南山ケーブルカー(日本でいうロープウェー)へ向かいましたが、その道中で突然悲しいお知らせが…。ケーブルカーは車椅子では乗降できないとのこと。仕方がないから南山の山頂までそのままタクシーで向かいました。山頂にあるソウルタワーのてっぺんから愛は叫ばないけど、見渡す限り360度、高層マンションだらけなのはビックリでした。韓国ってこんなにも人口いるの!?ってくらい。そういえばホテルの窓から見える景色も高層マンションだらけ。だから、夜になると繁華街は老若男女関係なく、たくさんの人であふれ返るんだ…と、ヘンに納得したお昼。

その後、再び介護タクシーを利用して今度は南大門市場に移動しました。今年2月に放火によって燃え尽きた南大門は現在修復作業中なので、残念ながら今は見ることはできないけど、よっぽど大きかったんだろうな…というのはなんとなく想像つきました。そのまま南大門をスルーして市場に足を運び、大勢の客でにぎわう市場内をブラブラしましたが、とくに何も買いませんでした…というか、ホントはゆず茶とか胡麻油なんかを買うつもりだったのに、なんだか気持ちがフラフラ舞い上がって舞い上がって完全に忘れてました。ある意味僕にとっては焼肉より大好きなゆず茶を忘れるなんて…。あ、いや、嘘です、焼肉のほうが大好きです。韓国にいるのにお昼はイタリアンレストランでパスタ(笑)。20センチほどの段差があって店内には入れそうにないから、片言の英語で「段差があるから入店できないので、そこのテーブルとイスを外に出してココ(駐車場)で食べてもいいですか?」と店員さんに訊ねたら、通じませんでした(泣)。でも、なんとなくニュアンスは伝わったので店外の駐車場での飲食OKをもらえ、韓国なのに、あぁ、韓国なのに、お肉ではなくクリーミーなパスタを食べちゃいました。これがまたうまかったのだ。

夜はホテルの部屋で5月末に橋下知事のPT案について取材された「NHKスペシャル」を見ることができました。まさかソウルで見られるとは思わず、なんだか不思議な気分。実は宿泊した3日間とも夜はユーロを見てました。ハングル語で見るサッカー中継もなかなか面白かったです。とくに初日はダイジェストをやっていたので、退屈な夜のお供にぐ〜〜っでした。

7月1日(火)

11時:ミョンドンへ
17時:ホテルに戻る
19時:ホテル近くの焼肉屋へ

この日は初めて3組それぞれ別行動になりました。僕と母はミョンドン(明洞)で観光。西村くんと介助者は韓国の友人のプレゼントを買いに。介助者の友人の二人のおば様方はロッテ免税店へ。前日の南大門でも市場では別行動だったんですが、まだ「近くにいる」という安心感がありました。でも、この日は完全にバラバラで、とくに西村くんはハングルが少し話せるので、今回の旅では事前準備から現地での行動に至るまですごく助かりましたが、日本語の通じない異国の地で別行動というのはとってもリスキー。なんだか終始ハラハラドキドキだったもん。もし段差で体のバランスを崩しても言葉が通じなければ助けを求められず、万が一道に迷っても今の自分の居場所すら確認できず、いつも以上に方向音痴にならないように頭の中でマーキングしておきました。ミョンドンに到着してから母とは別行動。母はチマチョゴリとかチャングムのコスプレを撮影するために雑誌で紹介されるくらい有名なフォトスタジオへ。その間、僕は一人でミョンドンをブラブラするつもりでしたが、心配してくれたフォトスタジオの方が日本語の話せる女の子をガイドにつけてくれました。

な、なんて親切な…!

し、しかも超可愛い!!

でも、ちょっと無口な女の子だったので、ミョンドンをまるでデートするかのように二人きりでブラブラしながらもほとんど会話はなく、僕も消極的なシャイボーイになっちゃった(苦笑)。今思うともっといろいろ話しておけば良かった…と先に立たない後悔。でもでも、約1時間でミョンドンを隅から隅までかなりブラブラできました。その後、焼肉屋でサムギョプサルと冷麺を食べましたが、ここの冷麺もまたかなりの絶品で、店長さんもすごく優しいモムチャン&オルチャンでした。翌日はもう韓国を発つと思うとなんだかムショーに名残惜しく、夜食の後は一人で夜風に当たりながらホテルの近くをブラブラしました。でも、韓国はどこも路面が悪く、歩車道の境界線の段差は10センチ前後は当たり前なくらい。ひとりで移動するには怖いから、結局、せいぜいホテルを中心に半径500メートルくらいしか動けませんでした。それでも夜風が気持ち良かった夜。

7月2日(火)

11時:ホテルをチェックアウト
12時:コエックス水族館
17時30分:インチョン空港出発
19時30分:関西空港到着
23時50分:帰宅

いよいよ「焼肉リベンジの旅」も最終日。この日までは日本でも有名な観光地を訪ねてきましたが、最終日は2000年にサムソンドン(三成洞)にオープンしたばかりのソウルを代表する大型複合施設「コエックスモール」に行きました。飲食店はもちろん、ファッションやら化粧品やら雑貨やらのお店に加えて、韓国最大規模の超大型書店、17スクリーンある映画館、キムチ博物館、ゲームセンターまである東洋最大級の地下ショッピング空間ですが、その中でも僕たちの旅のお目当ては韓国最大規模といわれる水族館「COEX AQUARIUM」。

韓国の人気ドラマ「私の名前はキム・サムスン」の撮影が行われたというこの水族館は施設面積2600坪の中に650種40000匹の水中生物がいるんですが、スケールは大きいのに演出は細かいところが僕的には気に入りました。信号機とか電話BOXとか郵便ポストとかトイレの便器とかドラム式の洗濯機とか自動販売機などがそのまま水槽として使われてるんだ。


「THE FANTASTIC WATER JOURNEY」(=幻想的な水の旅行)というキャッチフレーズがあるように、まるで世界中を旅するかのようにインカ帝国から始まってアマゾンのジャングル、カリビアンベイと続いていきながら深海の生物まで見ることができるんですが、アマゾンには怪物魚ピラニアとかワニもいればデンキウナギも!カリブ海では美しいサンゴ礁に熱帯魚、その先はサメやエイといった巨大魚が生息する海のど真ん中に突入。このエリアはトンネル状になっていて、車椅子をティルトした状態でサメとかウミガメなどを真下から見上げるというのは圧巻でした!入館料は1万5500ウォンですが、幻想的なライティングで迎えられ、海のブルーを基調とした静かで落ち着きある空間と、深海の暗闇のコントラストが絶妙で、都会の地下街にいるとは思えない演出のステキな水族館でした。

この「コエックスモール」はたっぷりと時間をかけて散策してみたかったなー。だって、電動車いすを飛ばして地下街をビュンビュン移動してみたけど、かなり広かったもん。モール内にある大型書店も「ない本はない」というくらいの数を扱ってるそうだし、飲食店の中にはジャッキー・チェンが経営してるレストランもありました。また、すぐ近くには外国人専用のカジノもあるようで、事前に知っていれば血が騒いだかもしれません(笑)。でも、事前に知っていれば大損こいて半泣きしていたかもしれません(苦笑)。最終日ゆえに飛行機の出発時間も気にしなきゃいけないから、昼食を食べる間もなく、後ろ髪を引かれる思いで、急ぎモールを後にしました。


さて、その後は空港まで行く介護タクシーに乗り込んで、ホテルを経由してインチョン空港に向かったわけですが、僕の体内に黄信号が灯ったのは空港到着後でした。タクシー内の冷房が強いことは分かってたけど、当初は暑かったから気持ち良かったんです。しかーーーし、旅先では油断大敵!!旅の疲れでつい…ウトウトとうたた寝してしまったのが大失敗(泣)。目が覚めたら冷え切っていた体がブルブルっと震え、ゾクゾクっと悪寒が走りました。そんな状態なので、まず先に出国の手続きを終えてから熱い飲み物を飲んで、それからまだ何も買ってないお土産でもゆっくり買おうと出国カウンターに行ったら、カバンに常備してる車椅子の修理工具が危険物扱いされ、そのチェックに約30分もかかり、ようやく出国ゲートをくぐり抜けたのはまさかまさかの搭乗1時間ちょっと前(どっひゃー!)。そのせいでお土産を買う時間はほとんどなく、熱い飲み物も急いでたんで、普段はまったく飲まないブラックコーヒーになっちゃいました。その結果、今度はお腹までムカムカと気持ち悪くなってきて、気が付いたらもう搭乗時間。

悪寒+吐き気+お腹が気持ち悪いというトリプルパンチに加えて昼食を食べ損ねた空腹感も手伝って気分下々↓↓でしたが、体調悪化は離陸後に一気にピークになりました。ただでさえ機内の座席に座ってるのは苦痛なのに、止まらない震えのせいで肩と首が痛いし、リクライニングするとヘッドレストがないせいで、頭を支えるための負担がかかる首がもっと痛くなる。機内食が運ばれてきても空腹なのに食欲が全然なく、熱いお茶を飲んでおかきとヨーグルトで空腹をごまかすのが精一杯。でも、飛行機ってある意味スゴイ。いつもは吐き気がしても吐く力が弱いから、「オエっ」ってなるだけでなかなか吐けなくてしんどいのに、このときは飛行機が降下した瞬間にリバース(失笑)。降下で逆流する力が嘔吐の後押しをしてくれるんだもん。「早く関空に着いてくれー」って心底願いながら、悪寒と吐き気と闘う1時間30分。楽しかった旅の思い出も吹っ飛ぶ、悪夢のようなフライト時間でした。

関空到着後にようやくティルトで倒せたことで気分が少し楽になりましたが、悪寒が止まらないんで、そのまま救護室へ。19時30分に関空に到着したのに家のベッドで横になれたのは日付が変わる直前。マフラーと毛布と暖房で温めたことで体が暑くなりすぎて、今度は冷房とアイスノンと解熱剤で体を冷やす…という頸損特有の悪循環に陥って、それから数日は体温が上がったり下がったりを繰り返す日々(泣)。飛行機に乗るたびにこんな目に遭うから、ちょっとした飛行機恐怖症…。それさえなければ国内外問わず、もっと旅がしたいと思う今日この頃です。


以前僕は「旅欲が覚醒した」と書きましたが、横浜での全国大会参加をキッカケに自信がついた僕は海外にも行けるようになりました。飛行機のトラウマはまだしばらく消えそうにないけど、次に機会があればラスベガスを抜いて世界一のカジノ都市となったマカオに行ってみたい。勝負運が弱いくせに本場のギャンブルは一度経験してみたいもん(笑)。もちろん、何度行っても楽しい韓国にもまた行きたいっ!

Special Thanks 西村くん&橋本さん



戻る