頸損だより2008冬(No.108) 2008年12月20日発送

特集

環境制御装置(ECS)を使って拡がる可能性

〜身のまわりの家電機器を自分で動かす〜



環境制御装置(以下、ECS)を自分の生活に活用している人たちがいる。ECSは私たち重度四肢マヒ者のQOL(生活の質)向上に何をもたらすのか。実際に活用している頸損者を紹介しながら、ECSによって拡がる可能性を今回の特集では考えてみたいと思います。【鳥屋 利治】

<内 容>

  1. ECSについて
  2. 使用実例
    • ケース@ 宮野秀樹さん
    • ケースA 赤尾広明さん
    • ケースB 桜井龍一郎さん、鈴木太さん、A.T.さん(※以下本人希望によりイニシャル表記)、米田進一さん
  3. 製品紹介
    • ECS
    • 学習機能リモコン(多機能用リモコン)
  4. ECSユーザーからの声 赤尾 広明さん
  5. オリジナル ECSもどきの工夫
    • ケース@ 太田康裕さん
    • ケースA 渕上賢治さん
  6. 助成団体「塩井障害者自立支援基金」紹介
  7. 寄稿
    • 当事者の立場から 日本リハビリテーション工学協会理事 麸澤孝さん
    • 研究者の立場から 厚生労働省 福祉工学専門官 小野栄一さん

1.環境制御装置(ECS)について
−Environmental Control System−

機能
重度四肢麻痺者が一つの制御装置で、複数の家電機器等を操作できるようになっている。
環境制御装置(以下、ECS)は、操作する「入力スイッチ」、それをコントロールする「環境制御装置本体」、今何を操作しているか表示する「表示盤」という構成でできている。
ECSは、チャンネル数が多いほど複数の家電機器を動かせる。
リモコン操作できる機器(エアコン・照明・TV等)は赤外線操作し、リモコン操作できない機器(ベッド、ストーブ、玄関ドアロック等)は接続コードを直接ECSにつないで操作する。

使用メリット
一人で居られる時間が長くなる。(家族や介助者が付きっきりでなくてもよくなる場合がある)
ベッドのギャッジアップ操作(背中部分や足部分の上げ下げ)が、自分のちょうど良い位置に自分の操作で動かせる。
照明の入切や、TVのチャンネル切替、ビデオやオーディオの操作など、ちょっとしたことを家族や介助者に気をつかって頼むことなく、自分でできる。
ただし、ECSがあれば何でも自分で出来るというわけではなく、あくまでも自分の意志で出来ることを増やす、生活の質を高めるための選択肢の一つである。

入力方法
入力スイッチには、呼気スイッチ、手や頭で操作するボタンスイッチなど、自分の障害の状況にあわせて選択・工夫できる。

価格
機能によりかなり価格の幅がある。安いもので5万〜10万円前後。高性能になれば80万〜100万円ほど。
高性能なら全ての機器が制御可能になるということではない。

制度・助成
公的給付、助成制度を実施している都道府県は神奈川県と高知県くらいで、その他はまず見られない。今後、日常生活用具給付として認められるよう、はたらきかけていかなければならない。
民間の助成団体としては「塩井障害者自立支援基金」がある。(2008年10月現在)

2.使用実例:ケース@  C4宮野秀樹さんの場合

在宅生活に入った13年前の1995年からECSを使い始めました。最初は友愛メディカルの「R-508S」を使用、この間ECSの性能は格段に向上して、今は三菱電機の「みてら」を使ってます。「みてら」はエアコン等の機種が限定されないのも特徴です。


ベッドにいる時だけでなく、車椅子上でもECS操作できるようにしてるため、自立生活の幅はさらに広がり、QOLも向上しましたね。今やECSはなくてはならない生活の一部ですね。


ECSがあれば完全に自立した生活が果たせるということではないですね。ECSの使用は、快適かつ便利な生活を送る選択肢の一つとして非常に有用であり、障害者の生活に可能性をもたらすことにつながると考えます。


利用しているECS
三菱電機コントロールソフトウェア(株)製「みてら」

取扱い代理店 干クセスインターナショナル TEL:072-223-1152 FAX:1154


ECS操作は呼気スイッチを使用
モニター(音声付き)で確認しながら操作する
モニターはタッチパネル式になっているため、介助者も操作しやすい

さらに工夫の点
轄。仙技術研究所製「電動車いすマルチ入出力システム」
電動車椅子上から操作可能なECSを車椅子本体に取り付けることにより、ベッド上以外の移動先でも利用できるようになった
そのため日中もベッドではなく車椅子に座った生活が基本

2.使用実例:ケースA  C4赤尾広明さんの場合

15年前ECSを導入するようになって、当時母親が付ききりだったのが4〜5時間居なくても大丈夫になり、一人で居れる時間が長くなりましたね。

ECSを導入して生活が大きく変わりましたよ。


友愛メディカルの「R-508S」は60チャンネルほどあり、そのうち50個ほどを使っています。

TVやビデオ、オーディオなんかのようによくチャンネル切り替えするものはマウススティックでそのままリモコン操作しますね。


利用しているECS
友愛メディカルサービス社製「R−508S」

※現在友愛メディカルはなく、大番ビル福祉サービスTEL:052-937-6312 に移行


ECS操作は呼気スイッチを使用
赤外線発信装置を自分の見える位置に取り付け、チャネル番号を確認しながら呼気スイッチで操作

さらに工夫の点
「R-508S」はチャンネル切替にチャンネル番号を一周させないといけないため、ちょっとした操作なら家電に付属のリモコンをマウススティックで直接操作し、ECSと使い分ける
複数のリモコンをセットできる自作のリモコン台

2.使用実例:ケースB   その他の方の場合

桜井 龍一郎さん C4,5

友愛メディカルの「R-508S」を2006年から使用。
ベッド(頭・足・高さの上下)・照明・テレビ・BSチューナー・ビデオデッキ・扇風機・エアコンを操作してます。
ECSの操作は、お腹のうえにボタンスイッチを置いて手に付けた棒で操作。
ECS設置の経緯は、介助者確保をしていきながら、一方で機器面でも工夫したいと考えたのがきっかけ。ECSを設置して使えるようになったことで自立生活への移行も考えられるようになりました。

鈴木 太さん C6(愛媛頸損連絡会)
アイホン製のECSを11年前の1997年から使用。
テレビ・電話・ステレオ・レコーダー・ベッド・ナースコール・エアコン・扇風機などの操作に使っています。
ECSの操作は、呼気スイッチで操作。
名古屋で頸損になり、大阪の星ヶ丘病院を経て地元愛媛に戻ってすぐに使用。ECSは星ヶ丘病院にかつて入院されていた頸損の方から、教えてもらいました。現在自立生活しているので生活の必需品です。

A.T.さん C1 夜間は呼吸器使用
三菱電機コントロールソフトウェアの「みてら」を今年2008年から使用。
ベッド(頭、足、高さの上下)・TV・DVDプレーヤー・オーディオ・ラジオ・エアコンを操作しています。
呼気スイッチを使ってECSを操作。
家族を呼ぶ回数が減って(特に夜中)自分で出来る事が増えた。それによって1人になれる時間が増えた。僕にとってはドラえもんの道具に匹敵する便利な機械です。

米田 進一さん C1 24時間呼吸器使用
三菱電機コントロールソフトウェアの「みてら」を10月から使用開始。
ベッド(頭、足、高さの上下)・TV・エアコン・照明・福祉電話を操作します。
頭が動かせるのでボタンスイッチを押してECSを操作することにしました。

3-1.環境制御装(ECS) いくつかの製品紹介

■環境制御装置 みてら

製造元 三菱電機コントロールソフトウェア
発売元 アクセスインターナショナル
住所 大阪府堺市大浜南町1-6-11
TEL 072-223-1152  FAX : 072-223-1154
URL http://www.accessint.co.jp
サイズ 283×230×75mm  重量2300g
電源 家庭用電源(AC100V)
価格 798,000円(本体 税込)
概要 赤外線リモコンで操作できる機器であれば1000チャンネル以上制御できる。
表示部はタッチディスプレイで直接触って操作できるほか、呼気スイッチや押しボタンスイッチによる入力や、パソコン・携帯電話による操作も可能。

■環境制御装置 ECS-65

製造元 アイホン
発売元 パシフィックサプライ
住所 大阪府大東市御領1丁目12番1号
TEL 072-875-8013 FAX : 072-875-8017
E-Mail info@p-supply.co.jp
URL http://www.p-supply.co.jp
電源 家庭用電源(AC100V)
スイッチ数 2
価格 687,750円(税込)
概要 独立型の表示盤を持ち65チャンネル(接点出力15,赤外線学習リモコン50)の制御ができる。呼吸気スイッチ以外のスイッチでも操作可能。

■簡易環境制御装置 P-コンダクター2

製造元 テクノサプライ
発売元 福祉支援サービス コミル
住所 大阪府東大阪市小阪2-16-7 1F
TEL 06-6781-2089 FAX : 06-6781-2099
E-Mail info@comil.jp
URL http://www.comil.jp/
サイズ 160×100×40mm 重量 : 400g
電源 家庭用電源(AC100V)
価格 72,450円(税込)
概要 20チャンネル(接点出力0〜3,赤外線学習リモコン17〜20)の制御ができる。1スイッチ、もしくは本体のフラットキーボードで操作する。

■環境制御装置 E-125S E-328s1 E-528S

製造元 大番ビル 福祉サービス
発売元 大番ビル 福祉サービス
住所 愛知県名古屋市東区東大曽根町9-24
TEL 052-937-6312 FAX : 052-937-6313
URL http://www3.starcat.ne.jp/~fukushi/

E-125S
サイズ 180×120× 45mm
コネクタ 6極4芯モジュラー
電源 家庭用電源(AC100V)
スイッチ数 1
価格 168,000円(工事費等別 税込)
概要 16チャンネル(接点出力4、赤外線学習リモコン12)の制御ができる。1スイッチまたは2スイッチで操作できる。

E-328s1
サイズ 180×120× 45mm
コネクタ 6極4芯モジュラー
電源 家庭用電源(AC100V)
スイッチ数 1
価格 336,000円(工事費等別 税込)
概要 32チャンネル(接点出力8、赤外線学習リモコン24)の制御ができる。1スイッチまたは2スイッチで操作できる。

E-528S
サイズ 190×200×55mm
コネクタ 6極4芯モジュラー
電源 家庭用電源(AC100V)
スイッチ数 2
価格 439,950円(工事費等別 税込)
概要 60チャンネル(接点出力8、赤外線学習リモコン52)の制御ができる。2スイッチで操作できる。

■ホームメイド HRC-8101

製造元 山陽電子工業
発売元 山陽電子工業
住所 岡山県岡山市乙多見495-3
TEL 086-278-4800 FAX : 086-278-4801
重量 3500g(センサ表示部),4500g(制御部)
電源 家庭用電源(AC100V)
価格 415,800円(税込/工事費別)
概要 10チャンネル(電源出力3,接点出力7)の制御ができる。

■NSシーケアパイロット

製造元 Evosoft(Germany)
発売元 日本シューター
住所 東京都千代田区神田駿河台2-9
TEL 03-3518-8670 FAX : 03-3518-8671
URL http://www.nippon-shooter.co.jp/product/
サイズ 184×72×44mm(コントローラ本体)
重量 270g(コントローラ本体)
コネクタ 2.5mmφのステレオプラグ(スイッチ接続には変換プラグを別途購入)
電源 乾電池または、家庭用電源(AC100V)
価格 539,175円(音声認識タイプ),395,325円(スイッチタイプ)価格には取り付けと1日のトレーニング費用を含む
概要 赤外線リモコンで操作できる機器であれば約70チャンネルの制御ができる。音声認識タイプでは声により、スイッチタイプでは1スイッチで制御できる。

■環境制御装置 SC-21

製造元 アルファテック
発売元 アルファテック
住所 京都府宇治市宇治半白85-25
TEL 0774-20-0210 FAX : 0774-20-9698
E-Mail info@a-paso.com
URL http://www.a-paso.com
サイズ 205×168×30mm(本体)
重量 500g(本体のみ)
電源 家庭用電源(AC100V)
スイッチ数 1
価格 99,750円(本体,フットスイッチ 税込)
概要 16チャンネル(接点出力3,赤外線学習リモコン13)の制御ができる。

■車椅子取付け型 環境制御装置

製造元 今仙技術研究所
発売元 今仙技術研究所
住所 愛知県犬山市大字犬山字東古券419番地
TEL 0568-62-8221 FAX : 0568-61-3752
サイズ 70×125×35mm(親機)27×52×47mm(子機)
価格 50,000円(税込)
概要 車椅子に取付けができる環境制御装置。テレビやステレオのリモコンが発する赤外線信号を記憶し、これらの機器をリモコン代わりに操作することができる。

■思伝介(しでんかい)

製造元 テクノスジャパン
発売元 テクノスジャパン
住所 兵庫県姫路市三左衛門堀東の町78有交ビル2F
TEL 0792-88-0995 FAX : 0792-88-0969
E-Mail info@technosj.co.jp
URL http://www.technosj.co.jp
電源 家庭用電源(AC100V)
価格 組み合わせ内容にあわせて見積ることになる
概要 脳波スイッチ(MCTOS/テクノスジャパン)と組み合わせた環境制御装置。体の動きによるスイッチ操作が困難な場合でも生体信号(脳波・眼電・筋電)を使ったスイッチ操作によって、身のまわりの機器のコントロールが可能。

3-2.学習機能リモコンの製品紹介

学習機能付きリモコン(多機能用リモコン)は、エアコン・扇風機・照明など赤外線リモコンで操作する機器のリモコン信号を記憶させることができるため、1つのリモコンで複数の機器を操作することができる。手やマウススティックでリモコンのボタンを押せる場合、環境制御装置(ECS)でなくても充分なケースがある。

安価なものでは普通の家電ショップで3,000円台で手に入るものから、以下のような高機能のものまである。


■NSシーケアパイロットU

製造元 Evosoft(Germany)
発売元 日本シューター
住所 東京都千代田区神田駿河台2-9
TEL 03-3518-8670 FAX : 03-3518-8671
URL http://www.nippon-shooter.co.jp/product/
サイズ 210×70×30mm 重量 : 270g
コネクタ ミニジャック
電源 乾電池または、家庭用電源(AC100V)
スイッチ数 1
価格 51,975円(乾電池)、79,800円(ACアダプター)
概要 1スイッチまたは直接キーにより操作できる赤外線学習リモコン。15チャンネルの制御ができる。

■リラックスU

製造元 Tash (Canada)
発売元 昭和貿易
住所 大阪府大阪市西区江戸堀1-18-27
TEL 06-6441-5612 FAX : 06-6444-6006
URL http://www.showa-boeki.co.jp
サイズ 195×100×35mm 重量 : 250g
コネクタ ミニジャック  電源 : 乾電池
スイッチ数 1
価格 103,950円(税込,スイッチは別)
概要 1スイッチで操作できる赤外線学習リモコン。スキャンにより50チャンネルの制御ができる。

4.環境制御装置 ユーザーからの声

「大きな一歩の始まり」

赤尾 広明

僕が環境制御装置を導入したのは今から15年ほど前でした。たまたま目にしたパソコン雑誌に岐阜県在住の頸髄損傷者の生活環境が紹介されていたのですが、僕と同じC4レベルなのに呼気スイッチで家電製品を自由自在に操作する…その姿が当時の僕にはとても衝撃的で、この記事を見て初めて「環境制御装置」という福祉機器の存在を知った僕はすぐに雑誌社に問い合わせたんですね。そして、ご本人と電話で直接お話することができまして、これを使えば飛躍的にQOLが向上することを確信。いつも優柔不断な僕にしてはめずらしく迷いのない即決で、最初に衝撃を感じた次の瞬間にはもう僕の部屋に環境制御装置がやってきました。


その頃、我が家ではうちの母親が「今の(年齢の)うちに車の運転免許を取得した方が今後の生活に役立つだろう」ということで教習所に通うプランがあったのですが、じゃあ、その間、「誰が僕の介助をするのか?」という大きな大きな問題が立ちはだかっていました。教習所に通うとなれば少なくとも3〜4時間は僕一人で過ごさなくてはなりませんが、当時はまだ父親も現役だったので日中は仕事があるし、姉も仕事をしていたので難しく、今のようにヘルパーもいない。また、僕自身もそれだけの時間を一人で過ごすだけの自信はなかったので、問題を解決する術はまったくなく、プランの実現は困難な状況でした。そんな時にこの記事が福音として飛び込んできたわけで、いざ導入したらいとも簡単に問題をクリアすることができたんですよね。大げさではなく、生活環境が予想をはるかに上回るほどガラリと一変しました。今振り返ってみても当時の激変は革命的で、リモコンのある家電製品(とくにAV機器)ならほぼすべて操作できるというのは「ありえねぇ〜」的な驚きでしたね。


テレビのチャンネルを替える…ただ、それだけのことでも自分の意思で思いのままにできるというのは手足が動かない僕にとってはとてつもなく大きなことで、QOLが向上したのはもちろんのこと、あきらめていた自分の可能性を再び取り戻すという意味でも、頸損になってからの生活で最も大きな前進でした。「何もできない」と諦めるのではなく、知恵と工夫で創造された環境制御装置なる福祉機器を使うことでその後の人生を変えちゃうほどの可能性を手に入れられたもん。今となっては環境制御装置のない生活は考えられません。僕が生きるうえで切り離せない必須のアイテムですし、呼気スイッチに一度も触れない日なんてないですからね。そんな大きな効果を体の不自由な僕にもたらしてくれた環境制御装置。たまたま目にした雑誌から大きく拓けた可能性は「自立」という夢をも膨らませることになりましたが、その夢の続きはまた後日に(笑)。

5.オリジナルECSもどきの工夫@ C5太田康裕さん

ここでは、環境制御装置(ECS)ではないが独自の工夫で、自作で安価に家電機器などのリモコンを操作できるようにし、身のまわりの機器を動かし、自立生活に活かしている2人のケースを紹介します。


コーナン等の日曜大工の材料で組み立てた台

この台をベッドの頭上にセットボードの裏にリモコンセットを貼りつけている

使わないときは頭上横向きに置いておく

ボードの裏にマジックテープでリモコンを貼りつける

携帯は携帯ホルダーで固定

自作ECSもどきを操作している様子

ベッドサイドに水筒

ストローに針金を巻き、向きは自由自在

リモコン操作は口にくわえた棒で行う
リモコンは1つで複数の家電を操作できる多機能リモコンが便利
ソニー「学習機能付リモートコマンダー」(RM-PL400D \3,700)

マウススティック(口にくわえる棒)は位置がずれてしまわないように、ボードからつり下げている

自立生活をしていて夜間はベッドに上がり一人になるので、エアコンの調整や照明、テレビの操作など自分で出来るように工夫しました。この自作なら材料も揃えやすく、1万円も掛かりません。

5.オリジナルECSもどきの工夫A C5渕上賢治さん

ベッド上で玄関ロック、エアコン、照明、テレビ等、自作のリモコン台で操作できる

これによって介助者がいない夜間や休日の日中など、一人で過ごさなければいけない時間を対応している

ティッシュボックスの上にアクリル板を傾斜をつけて貼り付け、その上にマジックテープを貼り付ける

そのマジックテープの上にリモコン類や携帯電話を貼り付けるだけ

自作ECSもどきを操作している様子

ベッドサイドにやはり水筒と針金で固定したストローを取り付け、一人でも水分補給可能にしている

マウススティックの割りばしは、落としても大丈夫なように何本か準備している

緊急通報装置は自分が登録している人に、通報会社が連絡を取ってくれるいざという時は安心

太田さんと同じく多機能リモコンは、一つのリモコンで複数の家電を操作できて便利

さらに工夫@
エブリウエアー社の「ディフェンサ」はリモコン操作で施錠・解錠できるドアロック
ドアに貼り付けるだけ

さらに工夫A
メヴァエル社の「ケイボード」は携帯サイズのキーボードで寝た状態でのパソコン操作がとても楽

6.助成団体「塩井障害者自立支援基金」の紹介

現在、支援技術の提供を中心に助成しているNPO法人「塩井障害者自立支援基金」を紹介します。ここで環境制御装置(ECS)導入の助成を受けた重度四肢麻痺者は最近増えています。これまでは年2回(6月と9月)助成申請の募集が行われてます。

ホームページから募集要項確認、申請書ダウンロードができるようになっています。

■「塩井障害者自立支援基金」 http://shioi-foundation.or.jp/

寄稿@ 支援技術の今後 -当事者の立場から-

「リハビリテーション工学に当事者参画を」

日本リハビリテーション工学協会 理事 麸澤 孝

1.支援機器によって変わる自分の生活

障害をもって23年が経つが、リハビリテーション病院・身体障害者療護施設・地域での生活と生活スタイルが変わるたびに支援機器の重要性は高まっている。特に据え置き式リフトと電動車いすは絶対に私の生活になくてはならない支援機器のひとつである。このふたつがなければ、電動車いす乗ることが出来なければ、パソコンをすることも、入浴することも外出することも出来ない。今の地域での生活や活動は支援機器があっての前提で成り立っている。電動車いすについては、新しい電動車いすを支給されるたび外出が楽になり、電車やノンステップバスを利用し、リクライニング等の機能も充実して生活の質は機器の使用と共に比例して向上している。


2.リハビリテーション工学と頸髄損傷者の生活

私の場合、電動車いす・天井走行式リフター・環境制御装置・マウススティックなど多くの生活支援機器と共に生活しているが、これらの機器にもリハビリテーション工学の技術や応用がたくさん詰まっている。まさに私達が使っている機器そのものがリハビリテーション工学である。もし、リハビリテーション工学技術が無ければ私達の生活はどうなっていたのか? 絶対に今の生活の質は保てないし、地域で暮らすことも出来なかっただろう。支援機器を自分で操作指示し、介護者に気兼ねすることが減ることも、生活が快適になる以上に精神的にとても大きいものである。それだけ私達の生活にリハビリテーション工学は不可欠なのである。


3.リハビリテーション工学と当事者参画

障害を持って20数年がたつが支援機器の多様化、高性能化、小型化、低価格化には本当に目を見張るものがある。しかし、一部には当事者の意見が反映されているのか微妙な支援機器もあることも確かである。

これからは個別のニーズに合致した支援機器の開発に、当事者(ユーザー)本人の生の声は不可欠なものになっており、一層の当事者協力が求められる。それには当事者の支援機器についての知識向上やリハビリテーション工学の重要性の認識、開発者・エンジニアとの橋渡しが出来る、当事者エキスパートの存在も重要であり、何より私達当事者側からの積極的な支援機器開発への参画が大切である。


4.これからのリハビリテーション工学に期待

これからのリハビリテーション工学の発展・進歩による障害者や高齢者の生活が一段と良くなっていくこと、それはもちろん期待することであるが、このような毎日の生活に直結した支援機器の開発と同時に「夢のある」支援機器にも期待したい。その中で個人的には、物を掴んだり、持ち上げたり出来る、自分の手のように動く「ロボット電動アーム」の実用商品化に期待している。そして、日常生活から一歩進んでスポーツやリクリエーションなどの季節や環境を問わない「遊び」や「娯楽」など、どんな重度な障害があっても楽しめる機器の開発も期待している。

私達や頸髄損傷者連絡会は、リハビリテーション工学に携わる当事者として、障害を持つ人のニーズを吸い上げ当事者の声として、エンジニアや開発者に伝えるパイプ役となることが一層求められるだろう。支援が必要な方々が「笑顔」に「幸せ」になるような、これからのリハビリテーション工学が普及・発展するよう、私達も協力していきたい。


日本リハビリテーション工学協会
〒222-0035 横浜市港北区鳥山町1770
横浜市総合リハビリテーションセンター 企画研究課 内

寄稿A 環境制御装置の今後 -研究者の立場から-

「誰もが使いやすいECSとは?」

厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部企画課 自立支援振興室 福祉工学専門官 小野栄一

福祉に関わるようになって、「環境制御装置」という名称を初めて聞いたとき、大学で制御工学専攻であった筆者は、特別な環境を快適な温湿度、空調状態にする装置を想像しました。実際、そのようなモノも含むと思いますが、展示会で目にしたモノは、テレビや電話、照明のリモコン操作スイッチでした。現在商品化されていて、実際に利用されている環境制御装置には約4万種の操作機器データが登録されているものもあります。

技術的な観点から述べると、現在進みつつある情報家電に関する法整備や機器が世の中に出てくると、環境制御装置のあり方も大きく変わる可能性があります。情報家電は、ネットワークにつながる家電製品です。今までにエアコン、照明、開閉センサー、緊急リモコン、洗濯機、電子レンジ、冷蔵庫、お風呂などが作られています1)。例えば携帯電話から、家に帰る前にエアコンのスイッチを入れたりお風呂にお湯を張ったり、冷蔵庫の中身を外出先から確認できます。現状では各メーカー単位でのサービスで、例えば電子レンジにそのメーカーのホームページから料理レシピのダウンロードが可能です。環境が整うとどのメーカーの機器も使えるようになります。総務省及び経済産業省では、急速に普及している情報家電のネットワーク化をより一層推進するため、2005年共同で「情報家電ネットワーク化に関する検討会」2)を開催し、2007年3月5−7日に行われた次世代ホームネットワーク実証実験では、15以上の企業・研究機関が参加し、異なった企業間同士でもサービスができることを示しました。現在様々な観点から情報家電の実用化に向けて作業が進みつつあり、今後普及しやすい環境が整うにつれ、情報家電が利用される可能性が高くなってくると思います。3)4)

私は、茨城県つくば市にある産業技術総合研究所に2008年9月まで所属していました。そこで見たデモの技術の一部5)を紹介し、将来のリモコンの可能性を検討したいと思います。どの程度の可能性があるかは、その技術をいかに使い勝手良くするかおよびその出来たモノを使いたいユーザがどれほど多いかに寄ります。

@複数のカメラで得た情報から身振り手振りを判断する技術を使い、身振り手振りで機器を制御したり、音声情報処理を用いて、音声で機器を制御したり、その組み合わせで機器の制御が可能になります。手の動きで、指さした機器のスイッチを入れたり、消したり、TVの番組や音量を変えたりする技術、頭の動きや音声で電動車いすの操作する技術。
Aヘッドマウントディスプレイ(HMD注1)と表記)とカメラとインターネットを使い、空間にスイッチがあるかのようにHMDに表示し、そのスイッチを手で触る(実際には触れないが触ったように見える)ことで、電化製品のスイッチを入ったり切れたり、音量を変化させたりする技術。
BGPS注2)など位置情報を得る装置とHMDとインターネットと音声認識技術を使うと、ある部屋に行き、ここの部屋の住人は誰と聞けば、その住人の人の顔写真をHMDに表示したり、「この席の住人は、今どこにいますか」という問いに、予定表をネットワークに連結しておけば、「今は外勤でアメリカに出張中」と表示してくれる技術。何を表示するかは、ユーザ次第なので、様々な応用が可能です。景色をいっしょに見たりすることがあると便利であれば、遠方にいる人がカメラ付きHMDを着けて、その人が今見ている景色をこちらのHMDに表示させることも可能です。

情報家電、音声認識、画像認識の技術が普及すれば、魔法のような使い方も、夢ではなくなります。そのためには、技術の進歩のみでなく、ユーザの声や知恵も大事です。聴覚障害者が字幕のない映画(邦画)を見る際に、HMDに字幕を表示するという使い方を思いついて試みている方々もいます6)。夢のような環境制御装置の普及のためには、ユーザになる皆さんの知恵と要望が大事です。

現状の技術の一端をお話しました。これらの技術、もちろんこれらの技術に限りませんが、使いたいと思うような新たな夢の環境制御装置を描いてご教示いただければ幸いです。


注1)HMD(エッチ・エム・デー)、ヘッドマウントディスプレイ(Head Mount Display)の略。頭につけてテレビや画像データを見る装置。小型軽量なものは眼鏡タイプがある。
注2)GPS(ジー・ピー・エス)、Global Positioning Systemの略。人工衛星を利用して、現在の位置を知るシステム。カーナビなどで利用されている。

参考
1)情報家電の製品、サービス紹介
http://www.meti.go.jp/policy/c-report/itemname/index.html
2)総務省・経産省 情報家電ネットワーク化に関する検討会
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050720_5.html
3)情報家電ショーケース http://jkaden.nmda.or.jp/reports.html
4)情報家電サービス基盤フォーラム http://net2.intap.or.jp/SPIA/
5)VIZWEAR
@ハンドマウスのビデオ
http://www.is.aist.go.jp/vizwear/Demo-j/videoclip-demoj.html
A8年前のVIZWEARの研究グループの紹介
http://www.is.aist.go.jp/vizwear/Demo-j/Demo-topj.html
B今の研究グループのプレゼン資料
http://unit.aist.go.jp/itri/itri-rwig/ci/ari/Demo-j/Presentation-j.html
6)ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を利用した文字情報・文字通訳の可能性の研究
(ご意見お伺いの会)
http://mita.yh.land.to/index.php?e=39

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