頸損だより2008冬(No.108) 2008年12月20日発送

必殺!仕事人シリーズ(第26回)

「働く」形は様々。働くことでどんな可能性が見えてくるのか。

ソフトウェア開発会社で働く
〜出勤と在宅勤務を
あわせた就労〜

有限会社奥進システムへ取材訪問
社員の福井さん、小西さん、社長の奥脇さんにインタビュー

インタビュアー・A.T.(※以下本人希望によりイニシャル表記)

今年5月、自立生活支援センターピア大阪で開かれた「肢体障害者の就労について」というテーマの人権講座を覗いた。そこで講演していた頸損の福井さん、小西さんらと私は出会った。働くお二人を一度取材に行かせてくださいと、約束しその場は別れた。10/22(水)小雨のぱらつくなか、ふたりの勤め先である(有)奥進システムへTと私が取材に向かった。【鳥屋】

受傷してからの道のり

【T】

まずは福井さん、小西さん、お二人の簡単なプロフィールをお願いします。

【福井】

福井です。26歳です。17歳で怪我をして頸損になりました。受傷後8年になります。レベルはC5です。坂道でなかったら車椅子をこげるくらいです。約2年間の入院後、自宅へ帰りました。退院と同時にもともといた工専に復学することになり、在学期間があと2年残っていたところ、3年かけて卒業しました。

でも、当時は復学するからと言って仕事をするという気持ちは全然なくて、そこを卒業して初めて将来を考えました。家で引きこもるのもどうかと思い就職するために大阪市職業リハビリテーションセンターに入学することになり、2年間自分には何が出来るのかなと探していると2年目の就職活動で現在の会社にめぐり会い、働きだして3年目になります。

【T】

退院してすぐに復学しようという気にはなりましたか?

【福井】

担任の先生が良い意味おせっかいで、なかば半強制的に僕を絶対に復学させると言っていて、結果的にはそれが良かったのかなと思います。

【T】

受傷後すぐの人には、そういうおせっかいな人って必要で大事ですよね。なかなか自分で自らは気持ちが前向きになれないから。

【福井】

そうですね。その時は「別に復学なんてしても。」と思っていましたが、その先生は学校と交渉してくれてスロープなどの設備をいろいろ整えてくれたから、そこまでしてもらったらその気持ちに答えなあかんと思い、復学しました。そして3年間その先生に面倒を見てもらい、卒業したという感じです。最初は周りの目も気になって復学するのが嫌だったのですが、それがある意味では良いきっかけともなって、学校に行っても皆良くしてくれて、頼みを聞いてくれたり頼まなくても「何か手伝う事ない?」と聞いてくれて、それが一番外に出られるようになったきっかけです。

【小西】

25歳で頸損レベルはC6です。5年前、19歳の時に受傷しました。和歌山で事故をして和歌山医大にヘリで運ばれ、3日後そこから星ヶ丘厚生年金病院に搬送されました。手術は星ヶ丘でしました。8月に事故をして翌年の6月まで星ヶ丘に居ました。その後、堺の身障者センターに転院して1年ほど入院しました。退院して大阪市職業リハビリテーションセンターに行きました。

【T】

職リハ(大阪市職業リハビリテーションセンター)をどうやって知ったのですか?

【小西】

入院中にそういうところがあると教えられ、区役所が家の前にあったのでそこに行って知りました。退院して2ヵ月後くらいに職リハの短期コースに通い、その後情報処理系プログラマーの2年間のコースに移りました。もともと事故をする前はホンダの整備の専門学校に行っていたのですが、復学するのは無理でした。ですが、物作りが好きでしたのでプログラマーになろうと思ったんです。

【T】

職リハっていろいろなコースがありますよね?

【小西】

身体障害は2年コースと1年コースがあって、1年コースはエクセルやワードを使った経理などで、2年コースはプログラム系とデザイン系があり、僕はプログラム系を選択しました。それで福井さんが今の奥進システムに先に就職されていて、1年後、卒業したらうちに来いと言われていました。10社くらい会社訪問や面接を受けたりしたんですが、トイレに入れなかったり通勤の問題もあったりしてダメでした。

障害者の雇用、経営者の考え

【T】

奥脇さんにお聞きしたいのですが、奥進システムはどのような会社ですか?

【奥脇社長】

うちはプログラムの開発をしていて、ソフトウェアを作る会社です。会社の中で使う販売管理や業務管理の一般的なシステムを作っています。現在4人でやっています。

【T】

頸損者を雇おうと思ったきっかけはなんですか?

【奥脇社長】

きっかけは縁だけです。職リハさんから紹介を受けて、うちは在宅勤務が可能だということで面接をさせてもらいました。福井君が入社した時は週1日出勤の週4日在宅勤務でしたが、小西君が入社する時に今のオフィスに移って、週3日出勤に増やしました。

【T】

職リハはどうやって知られたのですか?

【奥脇社長】

僕は施設関係といろいろ関わりがあったのですが、会社を立ち上げた時にSOHOとか、母子家庭という在宅でも働ける方をターゲットに募集をかけまして、車椅子の方でも在宅で働けるのではないかと思い、関連施設を見学したりしているところに職リハさんがありました。

そこで結果的に今の二人と出会うことになりました。小西君の場合は「会社見学に行きます」と言って、来たらいきなり履歴書を出されまして…(笑)。見学というより入社の申し出でしたね。

【T】

なかなか強引ですね。

【奥脇社長】

そうですね(笑)、福井君から「技術力が高く良い子がいるから。」と聞いていたので「じゃあ話だけは聞いてみよう。」と言っていたのですが、実際会社見学に来ると、そういうことになってしまい、あらためて面接することになり就職となったしだいです。福井君が仕事をきっちりこなして頑張ってくれていたので安心して小西君を雇うことができました。

【鳥屋】

福井さんという障害のある人を初めて雇うとき、不安はありませんでしたか?

【奥脇社長】

どちらかというと不安は、ちょうど福井君を雇う時に会社がピンチな状態だったことで(笑)、福井君を雇うことに関しては、うちは在宅ベースなので特に不安はありませんでした。というのは就職する前、職リハで2ヶ月ほどうちの会社でこういうことをするのだと実習をしてもらっていたので、ある程度福井君のことわかっていましたから仕事をしてもらうことへの不安はありませんでした。職場関係でどんなことがあるのかなと多少の不安はありましたが、それよりも雇ってみようという気持ちでした。

【福井】

僕も入社前、社長から正直に「会社が潰れそうだ」と聞かされていたので、これで僕が入って潰れたらまずいと思い、がむしゃらに働きました。(笑)

【奥脇社長】

福井君が入ってくれて会社の業績が良くなったので感謝しています。小西君が入ってさらにパワーアップしたという感じです。

【鳥屋】

奥進システムさんのホームページを見せてもらい奥脇社長のメッセージも読ませてもらいました。「皆が平等であり、人間が行使できる権利を自由に行使でき、個人、社会全体が幸せになるような環境作りをしたい」という点から、障害者を雇うというのも奥脇さんの「皆が平等で幸せな社会作り」の、ポリシーの一つですか?

【奥脇社長】

働きたくても働けない人に在宅でも働ける場を提供したいという思いがあり、そういう人を探していて障害を持っている人と繋がっていたという面で、僕のポリシーと言えばポリシーです。そこにたまたま縁があって二人と知り合いました。でも、うちの会社のポリシーよりも二人の働く気持ちが僕も見ていて素晴らしいと思います。乗り越えてきた人間は違うなと思います。二人とも人と喋る事が大好きなので、なるべくお客さんのところや飲み会に連れて行っています。

出勤と在宅勤務の勤務体制

【T】

福井さん、小西さんは、就職するにあたり何か不安なことはなかったですか?

【福井】

体調面以外特にはありませんでした。やるだけやってみて駄目だったら仕方がないかな、という気持ちでいました。

【小西】

在宅がメインなので不安というよりは、一般的な出勤のみの会社よりは人と接する機会が少ないのかなと思っていたくらいで特に不安はありませんでした。

【T】

お二人の1週間の勤務体制を教えてください。

【福井】

月水金の週3日出勤です。8時半から17時半の勤務です。後は在宅で合計週40時間の勤務時間です。小西も勤務体制は同じです。

【T】

通勤時間は電車が混んでいるのではないですか? また、出勤のとき大変なことは何ですか?

【福井】

通勤は自宅の大東市から会社まで1時間10分程掛けて行くのですが、7時半に乗る電車は混んでいますね。大変なのは雨の日です。自分でカッパを着たり脱いだりが出来ないので、最悪、家からカッパを着て電車に乗るのですが、電車の中は暑いし嫌な顔もされますので、そういうときは電車が嫌になります。あと電車は冷房が効きすぎてる場合があるので、夏でも上着を着たまま通勤する工夫をしたり。もちろん電車を出て外を歩いてるときは暑さで熱がこもって大変なんですが。あとは体調管理に気をつけています。

【小西】

僕も通勤のときだけ気にしているということではないんですが、外へ出るとトイレが入れるようなところばかりではないので、どこでもパックに溜まった尿が捨てられるよう延長カテーテル、つまり長いカテーテルを使う工夫などしています。

【奥脇社長】

やっぱりシステム業界なので一番心配なのは精神的なものです。けっこう追い込まれると大変なものです。納期もあって、残業は極力しないような体制をとっているのですが、精神的プレッシャーは相当なものです。

【福井】

システムバグ(問題点)などが出たら胃に穴が開きそうになります。

【奥脇社長】

まだ二人になったから気が楽になったという面はあると思います。ひとりの時は辛かったみたいですね。

【福井】

そうですね。ひとりで週1回の出勤で、在宅勤務時にシステムにトラブルがあったりしたとき、会社に連絡取っても皆営業に出ていて相談できる相手もいなくて結構辛かったことがありました。

体調管理など気を使っていること

【鳥屋】

仕事を長く続けていけるように、こういう面を気にかけている、というところがあれば聞かせてください。

【福井】

床ずれが恐いので絶えず気を配っています。足の組み替えをするとか工夫してますね。僕たちは風邪をこじらせると長引いてしまうので、普段から体調管理と健康面に気を遣っています。

【小西】

僕は疲れたときはさっさと寝るようにしています。在宅では30分寝てまた仕事を再開するという感じです。プログラムは頭を使うので無理をして続けても効率があがりません。あとは飲みに行って気分転換をしています。

仕事をすることは、社会とつながること

【鳥屋】

福井さんが3年、小西さんが2年仕事をされていて良かったなと思う点と、今就労を模索している人に何かメッセージをお願いします。

【福井】

良かった点は、働くということで目標にしていた社会とつながるということが達成できたので良かったと思います。自分の能力が発揮できるところで働けているというのが恵まれているのかなと思います。それはひとえにこの会社にめぐり合えたからだと思っています。アドバイスというほどのものではありませんが、諦めずにやっていれば何とかなると僕は思います。

【小西】

働いていて良かったことは、いろんな人と話せることです。頸損となって、家で暇な生活を送ることなく、前向きな目標ある生活ができて良かったと思ってます。自分の勉強にもなり新しいものも得ることが出来るようになりました。アドバイスは早寝早起きをしようです(笑)。それと僕の場合は、仕事に煮詰まった時はトイレに行って考えれば良いアイデアが浮かびますから、皆さんも試してみてはいかがでしょうか(笑)。以上です。



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