頸損だより2009夏(No.110) 2009年6月27日発送

特集

知っておきたい慢性期の合併症@



 あなたは頚髄損傷になってから何年たちましたか?まだ1年という人から、もう数えられないといわれる方までさまざまでしょう。そして足が動かないのは残念だけど、それなりに落ち着いた生活をされていると思います。でもちょっと待った!!ゆったりした生活の中にも忍び寄る2次合併症の影・・・。まずは原因を知りしっかりと予防して、それでもだめなら早期に治療をしましょう。
 頚髄損傷はフツーに長生きするので辛い寝たきりにならないように気をつけてくださいね。【関谷クリニック 理学療法士 肥塚 二美子】

<内 容>
1.骨が弱くなる・・・骨粗しょう症
2.車いすへの乗り移りのときに大腿骨が簡単に折れた!・・・骨折
3.股関節が曲がらないため車いすに乗れないよ!・・・異所性仮骨
4.最近痙性が強くなってきている!・・・痙性
5.車いすに座っていると頚や肩が痛む・・・健常部の痛み
6.手や足がむくむ・・・浮腫

1.骨が弱くなる・・・骨粗しょう症

症状と原因

 骨粗しょう症とは、骨内の骨量の減少した状態です。健常人でも高齢になると骨租しょう症になり、特に女性は閉経後に重症になりやすくなります。また人間の骨は圧迫を加えないともろくなると言われています。脊髄損傷では立位が困難であるために骨に圧迫を加えられず受傷後数ヶ月で骨密度が正常の1/2になると言われます。また神経マヒや活動性の低下のため循環が悪いのでマヒ域の骨に栄養が行きにくくなります。さらに食事が偏り、窒素やリン、カルシウムの摂取不足や内分泌の低下、骨を作るビタミンDを合成するため太陽の光に当たることも少なくより一層骨租しょう症が顕著になってきます。骨租しょう症そのものは恐くありませんが、あとに述べるようにちょっとしたことで骨折することがあります。

予防と対処法

 脊髄損傷になった時点から骨粗しょう症は始まっており、改善することはできませんが、進行を遅らせることは可能です。
@車いすをこいだり、入浴して血液循環をよくしましょう。
A座る時間を長くして、骨に少しでも垂直方向の圧迫をかけましょう。
Bスタンドアップ車いすや立位補助装置、吊り具等があれば立位をとりましょう。
尚、起立性低血圧になることがあるので血圧の変化には注意をしましょう。
C晴れた日は外に出て太陽の光を浴びましょう。この時うつ熱には注意しましょう。
D窒素、リン、カルシウム、ビタミンDを含む食物をこまめに取りましょう。最近ダイエットのためバナナやりんご、寒天といった単品ダイエットを行う人がいますが、栄養の偏りは骨の栄養不全になりますので避けてください。尚カルシウムが入っているサプリメントをとる場合はビタミンDとマグネシウムも含まれているものを摂りましょう。
E感染症、風邪や褥創その他の病気を予防しましょう。
F可能であれば整形外科で骨密度測定をチェックしましょう。

2.車いすへの乗り移りのときに大腿骨が簡単に折れた!・・・骨折

症状と原因

 先にのべた骨粗しょう症によってマヒ部の骨はいとも簡単に折れてしまいます。特に大腿骨や下腿骨のような細長い骨は圧迫には強いですがねじれの力にはもろく折れやすいです。骨折は骨粗しょう症の進行とともに危険度がアップします。
 マヒ部は感覚がないため発見が遅れることがあります。局所的に腫れる、赤くなる、熱を持つ、さらに発熱、痙性が強くなったときは骨折の疑いがあります。また場合によってはぽきっと骨の折れる音がします。マヒ部は一旦骨折すると栄養障害や骨に圧迫が加わらないなどの理由により治りにくくなります。時には偽関節といってもう一つ関節ができ、血管や神経の横に関節ができた場合もし触れると出血や痛み、しびれの原因になります。

予防と対処法

 骨粗しょう症の予防法に加えて、
@車いすでフットプレートから足を落とし車いすをこぐと足首が骨折することがありますから
気をつけてください。
A車いす上で体が伸びる痙性が起こったり、のびをしたりすると脊椎の椎骨の骨折がおこることがあるので注意しましょう。
B更衣や入浴の際、関節が硬いので無理をすると折れる場合があります。
C車いすトランスファーの時は大腿骨にねじれの力が働きやすく骨折しやすくなります
D介助の場合胸を強く保持すると肋骨骨折をします。
 もし骨折しても疼痛がなくわかりにくいのですが、わかれば、その場所をなるべく動かさず添えなどで固定して、アイスノンなどで冷やします。添え木がなければ新聞紙かダンボールを厚めにあて荷造りテープでぐるぐる巻きにして固定しましょう。そのあとすみやかに整形外科に受診します。しかしマヒ域の骨折は治りにくく偽関節になりますので予防が一番です。

ある証言  靴下介助で右大腿部の骨折に!!

会員 M.Nさん

 僕が右足の膝の上を骨折したのは今から5年ほど前で、原因はほんのささいなことでした。朝病院に行くため弟に靴下を履かせてもらっていた時の事です、もともと右足の方は痙性が強く、寝る前にきちんとセットしていても朝起きたときには右足が内向気味になっていました。膝を少し立ててから靴下を履かせれば問題なかったのですが、時間が差し迫っていたこともあり、足がかなり内股の状態で靴下を履かせたようです。最初は骨折していることに全く気づかず、病院から帰ってきてから足が腫れているのにびっくりしました。次の日近所の病院で検査してもらったところ骨折が判明、「たぶんひっつかないだろう」と言われながらも装具を3ヶ月装着、結果は当初の予想通り骨はひっつきませんでした。幸い血管から少し離れた箇所だったので内出血もなかったのですが、血管を傷つけていれば最悪切断の可能性もあったということでした。今現在腫れはほぼひいたのですが、左足と比べると少しういているような感じになっていて、足の長さも少し短くなっています。頚椎を損傷した場合、その後の生活の中で骨がもろくなるということは知っていました。僕は食べ物に関しては特に好き嫌いがあるわけでもなく、乳製品や小魚などカルシウムの多い食品も多くとっていたので、まさか自分がこんなにも簡単に骨折するとは思いもよりませんでした。骨折した右足への対応ですが、「大きく足をあげなければ」という医師の意見を参考にして、ベッド上で過ごすときは骨折した右足の膝下にクッションを入れて、右足の膝を立てるようなかんじにしています。ズボンをはかせてもらうときは膝が内側を向き過ぎないように気をつけてもらい、骨折した箇所にできるだけ負担がかからないように気をつけてもらいながらはかせてもらっています。また、血液の流れやリンパ液の流れが悪くなっているせいか靴が完全に入らず、仕方なく踵部分を少し出すような形にしています。これからは、時々起こる足のむくみに対応することも含めて、以前よりツーサイズくらい大きめの靴を購入しようと考えています。自分自身は骨折したことにより今のところ何か問題は無いのですが、介助者の負担が大きくなってしまったことが気がかりです。皆さんも「自分自身は大丈夫だ。」という先入観を持たず、いつ「自分自身の身に起こるかもしれない」というくらいの警戒心を持って日々の生活を送っていただけたらよいと思います。

3.股関節が曲がらないため車いすに乗れないよ!・・・異所性仮骨

症状と原因

 体質によって、マヒ部の関節付近に余分な骨ができることがあります。初発症状は関節付近が腫れて熱感が出る赤くなり、しだいに硬い瘤が触れるようになります。骨は関節に近い部位に形成されやすく、4〜10週目よりレントゲンで確認できるようになり、30ヶ月程度で停止します。しかし時としてまた再活性化することもあります。骨の中身は普通の骨と変化ないのですが、大きくなると関節の動きをじゃまします。肩ではプッシュアップしにくい、股関節や脚関節なら車いすに座れない、足部がフットプレートに乗らないなどの症状が出ます。特に股関節、膝関節、肩関節、肘関節にできやすいようです。原因は現在不明ですが、関節を激しく動かしたため微細な出血や組織損傷や、栄養障害だとの考え方があります。
 アルカリホスファターゼの上昇レントゲン骨シンチグラムによる診断確定が行われます。
 以前は若者に多いとされていた仮骨ですが、40歳代にも認められます。どこかの関節にできたらほかの関節も怪しいと見るべきでしょう。

予防と対処法

@関節が固まって生活に支障ができないように可動域練習はやさしく行ってください。
A症状が出現したら局所の安静冷却を行い、整形外科に受診し、骨形成抑制剤の服用、進行した場合は手術的に取り除くこともあります。
Bまた硬くなった関節の代わりに脊柱の可動性を改善するリハビリなどを行います。
C骨の部位が生活に支障なければそのまま放置されることもあります。

ある証言  股関節そして膝に仮骨ができ、以前の車椅子に座れなくなった

会員 S.Oさん

 星ヶ丘に入院してる時、41度程の高熱が続いて、治まったと思ったら仮骨が左の股関節にできていたようです。
 それ以来、座位をとっても右に倒れてしまい、じっと座れなくなった。車椅子に座っても右にチョイ傾くので、車椅子からベッドへ乗り移るなどのリハビリはすぐやらなくなった。また左右の手首の効きが違いすぎて、車椅子をこいでもすぐに右が疲れてこげなくなるのだが、こげない右をこがないと進まずに周って舞う?いやいや舞いは舞わんねんけど…くるくる廻ろうと右を向きかける、右をこぐと右が疲れるけど左はこぐ必要があまりないから、右だけ疲れて休憩。病院のあの平らな廊下で10分もこげない。
 退院して床ずれができてもちょこまか外出してたら、床ずれが酷くなって半年くらいベッドの住人になってる間に、膝も仮骨になっていた!! 以前に採寸して作った車椅子に乗ると…足がステップに乗りませんねん。仕方が無いんで足を帯とかでくくって落ちないようにしながら乗ってました。
 半年ほど寝てたので、腰も硬くなってて、今迄の車椅子に乗るのが大変になったんで、背もたれできるリクライニングの車椅子に…これはほぼ自走は無理で、押してもらうばっかりは結構しんどいんですわ。
 現在は、電動車椅子ですがクイッキーという外車です。日本製は小さくて馬力がありませんでした。体が硬くて仮骨なので、リクライニングとチルトの機能を付けてますが、地面の凹凸で身体がずり落ちてきますし、エレベーターはおもいっきり背を起こして、足も下ろしてぎりぎりなので、外出の際は足をよくぶつけてしまいます。とにかく、仮骨が出来ないように関節を動かさない状態が続かない生活を送ってください。仮骨になると日常生活がいちいち面倒で大変ですよ〜。

4.最近痙性が強くなってきている!・・・痙性

症状と原因

 脊髄損傷では脳からの指令が筋肉にいくための伝達路である脊髄が切断されているため、マヒ部の筋肉が勝手に動き、かちかちになって皮膚をこすりすり傷を作る、関節の可動域を制限する、痙性が胸におこると呼吸が苦しくなるなどの症状がおきます。痙性は受傷後約1〜6ヶ月で発生しその後しだいに強くなって約2年で落ち着くと言われていますが無くなるわけではありません。痙性によって筋肉が収縮し続けるため筋の長さが短くなり、姿勢を変えるなどで急に伸張されるとまた痙性の増強がおきるという悪循環を生じます。特に頚髄損傷に強く、完全損傷より不全損傷に著しいです。

予防と対処法

@痙性が起こりやすい筋肉は短くなっている可能性が高いのでストレッチが必要です。手順としてはお風呂上りやホットパックで短くなった筋肉を温めゆっくりと20秒伸ばしましょう。急激に伸ばす、反動をつけるとますます痙性がおきやすくなります。また体全体に痙性がおこる場合は体全部のストレッチが必要です。車いすに乗っているため股関節を伸ばす筋、腹筋や胸の筋肉、背中の筋肉が固まっている人がいます。これらの筋肉も下の図のようにできるだけストレッチしましょう。
A痙性で短くなった筋は急な伸張はさけましょう。たとえば車いす上で足に痙性がおこったといっていきなり膝を押さえつけたりする痙性は強くなります。一旦その筋を緩めてからそっと降ろしましょう。その後ゆっくり押さえましょう。
B足をたたいたりゆすったりわざと急な動きをして痙性を起こす人がいます。マヒ域が細くならないのは確かですが痙性がどんどん強くなりますのでやめましょう。
Cタバコは痙性を強くしますからやめましょう。
D突然痙性が強くなったら、骨折、仮骨、外傷、やけど、胃潰瘍、便秘、痔、膀胱炎など疑ってください。
E痙性をコントロールするために薬物療法が用いられます。セルシン、リオレサール、ダントリウムなどですが副作用として眠くなる、疲労感、脱力感などがあります。またダントリウムは長期使用で肝機能障害が起こることがあるので医師と相談しながら服用しましょう。

5.車いすに座っていると頚や肩が痛む・・・健常部の痛み

症状と原因

 痛みは発生する場所によって健常部、境界部、マヒ部に分けられます。健常部の痛みは、首から肩、肩甲骨部分に発生します。この原因はほとんど異常姿勢にあります。車いすにすべった姿勢で座り、車いす駆動、パソコン操作すると、首の後ろや肩の筋肉を異常に使います。そのため筋肉が硬くなり痛みを発生するのです。

予防と対処法

 姿勢の改善が第一です。車いすのシーティングやクッションについては理学療法士や作業療法士にチェックしてもらいましょう。日常生活で机やテーブルの高さを肩があがらない高さに変更すること、枕の高さを低くすることが必要です。首や肩甲骨の運動やストレッチも行いましょう。詳しくはリハビリ専門家に聞いてください。

6.手や足がむくむ・・・浮腫(むくみ)

症状と原因

 浮腫とは損傷レベル以下の手や足の末梢が腫れて大きくなることを言います。この浮腫の原因はマヒ部の筋肉が働かないので心臓より下に行った血液が還りにくく末梢にとどまりがちになり組織中に染み出るためです。また慢性期は腎臓の働きも低下している場合があり浮腫の原因になります。膨らんだ部分を指で押すと皮膚はへこんでもどらないものが浮腫で、腫脹(しゅちょう)と鑑別してください。
 また肩手症候群という自律神経系の反応による腫れもあります。これは肩や手の痛みと腫脹、皮膚温度の上昇、赤くなるなどが初発症状で、手指の伸展位拘縮、進行すると手指の皮膚や筋肉、骨は萎縮して拘縮が強くなります。この時期まで約半年かかり回復困難になります。原因ははっきりしていませんが、動脈硬化、代謝障害などが関係して交感神経系の栄養障害といわれています。
 その他の病気でも浮腫が起こるので原因には気をつけてください。

予防と対処法

 上記が原因の浮腫であれば浮腫の場所を心臓より高くして寝てください。車いすの場合は台に足を乗せてしばらく休みましょう。弾力包帯を巻く場合は末梢を強めに中枢側はゆるめにしましょう。弾性ストッキングは圧が強すぎて褥創になることがあるので気をつけてください。浮腫のある関節は固まりやすくなります。関節可動域練習は毎日かかさず行いましょう。また浮腫が強くならないように姿勢を変えてください。
 肩手症候群については原因不明です。いずれにしても急に浮腫が強くなったときは隠れた疾患の場合もあるので整形外科受診してください。


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