頸損だより2009秋(No.111) 2009年9月26日発送

特集

知っておきたい慢性期の合併症A

〜神経と内臓 編〜



やっと涼しくなってきた今日この頃、皆様はどんな風に過ごされていますか?
さて、知っておきたい慢性期の合併症1話、前回は骨と関節についてでしたがいかがでしたでしょうか?
頸髄損傷は運動マヒや感覚マヒだけでなくウンチやおしっこが出にくかったり、骨が弱くなったり、めまいがしたりと症状が多彩です。しかも受傷してからだんだん症状が変化するのです。よくなる場合もあれば悪くなる場合も・・・!20年経ったからこのままということはありえません。しかも人間歳をとりますしね。
今回は神経や内臓、皮膚についてお話します。文章ばかりが多いと目が疲れますので、今回はちょっと図や写真、イラストを多くしてみました。また感想をお聞かせくださいね!     【関谷クリニック 理学療法士 肥塚 二美子】

<内 容>
1.夏でも寒い・・・体温調節障害
2.夏の暑さには耐えられない・・・うつ熱
3.ふらふらして目がかすむ・・・起立性低血圧
4.長い間座っていたら腫れた・・・深部静脈血栓症
5.いきなりめまいがする・・・低血糖
6.ほんとはとっても恐い肥満・・・肥満と糖尿病

1.夏でも寒い・・・体温調節障害

症状と原因

 頸髄損傷は一般に体の中に熱がこもるという人が多いですが、時に夏でも寒くて冷房などもってのほかという人がいます。これは、
@自律神経障害のため末梢血管が大きくなったままもとから体温が低く、外気温の上昇への反応が困難なタイプと言われています。
A副腎皮質の機能低下によりノルアドエナリンが出にくいタイプとも言われます。
さらに扇風機の風さえいやだという場合、
B扇風機の風によって毛が揺れ皮膚の表面を刺激して異常感覚がおこります。いわば感覚の異常です。
低体温は心臓の機能やホルモンの機能低下になり全身状態の低下になりやすいので注意が必要です。

予防と対処法

@頸部にマフラーやショール 
A手足にアームバンド、ウォーマー、手袋・靴下などで防寒する 
Bわきの下や大腿部の付け根を暖めるのも効果的であるが、低温やけどに注意
C暖かいものを食べる カプサイシンの入ったキムチもいい

2.夏の暑さには耐えられない・・・うつ熱

症状と原因

自律神経障害のためマヒ部のヒフの血流障害と発汗障害がおこるため、汗を出すことによる体温調節ができなくなります。そのため体内に熱がこもり、ひどい場合は熱中症の状態になります。症状は37〜38℃の熱、ふらつき、体のだるさ 吐き気 頭痛 虚脱感 失神 嘔吐などです。頸髄損傷者は暑さに対してこんなもんだと鈍感になりがちですが、近年死亡例もあるので注意が必要です。
ちなみに発汗作用は受傷後20年して回復したという例もあります。自律神経の機能回復と考えられます。

予防と対処法

@冷房のきいた場所に移動する
A体を冷却する このとき、頸部・脇の下・大腿部付け根は効果的。
Bマヒしていない部分に霧吹きし風をあてると汗の変わりに冷やしてくれる。
C水分摂取
(適度に塩分の入ったもの、スポーツ飲料は約半分に薄めるとカロリーが少なくてよい)

3.ふらふらして目がかすむ・・・起立性低血圧

症状と原因

脊髄損傷では、自律神経の障害により、血管が細くなりにくく血液が下半身や内臓にたまりがちになります。また筋肉がマヒして収縮しないため血液を心臓へ押し返すこともできません。そのために急な起き上がりや食後に一時的にめまいや目のかすみ、失神などがおきます。食後は消化のため内臓に血液が集中しやすいためです。

予防

@急な起き上がりを避ける、
A腹帯(妊婦さんの犬印腹帯がいいらしい!)
B足に弾力包帯を巻く。このとき足先はきつめで、膝は緩めにする(製品の圧迫靴下は圧迫しすぎて褥創になりやすいので注意!)
C自律神経を刺激するため臥床せずなるべく活動する 障害者スポーツはいい
D栄養のあるものをとり貧血を予防する(特に鉄分)

対処法

頭を低く、足を高く!
@頭を前の倒し机にもたれる
A電動車いすではチルトやリクライニングを行う
B介助者にキャスターアップしてもらうなどしてください。

4.長い間座っていたら腫れた・・・深部静脈血栓症

症状と原因

脊髄損傷では血液の流れが悪くなると、血液の状態によっては血栓ができやすくなります。脊髄損傷では血栓を溶かす機能が低下しているためできやすいと言われています。特に心臓から離れた足の奥の静脈に起こりやすく足首や膝の裏・股関節部などは、血管が曲げられてつまりやすくなります。その他原因としては @脱水(血液濃度が濃くなる) A肥満(脂肪が血管を圧迫する) B喫煙(血管を細くさせる)C臥床(血液の流れが悪くなる)
症状は @片方の足の張れ A熱感 B発熱 C血栓が血管中を流れて肺に行き呼吸困難・息切れ・胸痛・痰を伴う咳などがあれば肺塞栓で死亡することがあるので注意が必要です。

予防と対処法

@長時間同じ姿勢をとらない、足をフットサポートからおろす
Aウエストやまたをしめつけないような服の着用
B乾燥したところやビールを飲んだあとは脱水状態なので水分を多く摂る
C太らない (肥満は脂肪によって血管を圧迫します)
D禁煙する (タバコは末梢血管を細くします)
E足の末梢から弾力包帯を巻く(弾性靴下は圧迫しすぎるので注意しましょう)
F空気による下肢圧迫装置を用いる。処法は上記症状が出現したらその部位を動かさずいち早く病院を受診しましょう。

5.いきなりめまいがする・・・低血糖

症状と原因

空腹感はお腹で感じるものではなく血液の中の糖、すなわち血糖の量を脳が感知するのです。ところが頸髄損傷になると自律神経の障害によって血糖調節機能が低下します。その上それを感知する機能の閾値が上がり感じにくくなっています。そのため突然@めまい A冷や汗 B動悸 C手の振るえなどがおきます。

予防と対処法

低血糖は糖分を摂ると回復します。チョコレートや甘い缶ジュース、あめなどを用意し、症状が出たらいち早く摂取しましょう。特に目がかすむなどの急激な症状のために噛む必要のない缶ジュースは得策です。でも飲みすぎはカロリーオーバーになりやすいのでご注意を!!

コラム1. サプリメント
サプリメントという言葉は「補足すること」という意味です。言葉通り、食事で摂れない栄養素を補うものです。一昔前まではなにやら怪しい錠剤という感じでしたが、現在では日本サプリメント協会が整理し効能の是非も調査しています。代表的なものはビタミンとミネラルですが、薬屋さんにはたくさんのサプリメントが・・・!
食卓に乗った野菜や肉の中にある栄養素は減少したという話もあり、だから根性入れて食べるとカロリーアップへの道まっしぐら!!こんな時自分の食生活を見直して足らない栄養素をサプリメントで補ってみてはどうでしょう!
頸髄損傷者ではマルチビタミンミネラルや骨粗鬆症予防のためカルシウム、ビタミンD、貧血症では鉄分、免疫強化のためプロポリスアガリクス、脚がつる人には亜鉛やマグネシウムといったように状況に応じて飲み分けるのがコツ!でもあくまでバランスのいい食事を心がけてくださいね!

コラム2. 健康診断
頸髄損傷者は、仕事場での検診や健康診断をしていない場合が多いようです。病院へ行って外来受診されても、泌尿器検査や定期投薬のみではちょっと危ない!!
頸髄損傷者は、病気の一番の症状である内臓痛を感じる神経も障害されているため、症状が出たときは手遅れということも!
40歳過ぎたら定期的に健康診断、メタボリック診断や、脊髄空洞症のためMRI、骨粗鬆症の検診などを受診しましょう。そうそう女性は婦人科の健康診断もお忘れなく!

6.ほんとはとっても恐い肥満・・・肥満と糖尿病

症状と原因

最近よく言われているメタボリックシンドロームとは「肥満」、「高血糖」、「高血圧」といった動脈硬化の危険因子を複数持った状態を呼びます。これらは脳卒中や心筋梗塞などの疾病をまねくことで知られています。この危険因子の中でも「肥満」は最重要視されています。頸髄損傷では@運動不足 A食べすぎが原因で「肥満」が起こり、ここから「インスリン抵抗性」を経て、糖尿病、腎不全から透析、失明、下肢切断、脳卒中や心筋梗塞に至りやすいという研究結果が出ています。頸髄損傷は耐糖能障害です。
「肥満」はBMI(Body mass index)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)を算出し頸髄損傷ではBMI18.5〜20が適当とされます。(ちなみに健常者は22)健常者よりも筋肉がマヒにより減少し脂肪に置き換わっている場合が多く、また皮下脂肪より内臓脂肪の割合が高いとの報告があります。この場合体重は正常で見かけは太っていないので注意が必要です。「高血糖」は内臓脂肪が貯蓄されると、善玉コレステロールの働きを阻止して悪玉コレストロールを放出し、血糖を下げない状況にし、やがて糖尿病への道に続きます。

予防と対処法

@減量 BMI18.5〜20
A果実・野菜・低脂肪乳製品を多くとり飽和脂肪酸を減らす
B塩分制限 摂取量6g以下が望ましい。濃い味付けは食事量を増やす
C揚げ物・炒め物などの高脂肪食を摂らない。
D甘い物、チョコレートや饅頭、ケーキ、缶コーヒーなどの高カロリー品は摂らない。
Eアルコールは控えめに!
F余分なカロリーは摂らない。
 標準体重×25/kcal/日を目標にするといいでしょう。
 たとえば目標体重が60kgなら60×25=1500Kcal/日になります。

■チェック
段階1:まずは自分を知りましょう。
    BMI・・現在の体重(   )kg÷身長(   )m÷身長(   )m=(   )
  理想体重・・(   )m×(   )m×20=(   )Kg
    1日必要カロリー・・目標体重(   )kg×25=(   )Kcal/日

段階2:自分の食べているものをノートに全部書いてみましょう。

段階3:次にカロリー表で計算してみましょう。体重表もつけましょう。

段階4:時々はお休み日、やせたら自分にご褒美を!



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