頸損だより2009秋(No.111) 2009年9月26日発送

頸髄損傷者の自立生活と社会参加に関する実態調査

−中間報告書− (2009.3 一部紹介)



調査にあたり

全国頸髄損傷者連絡会 会 長 三戸呂 克美

時下、皆さまにおかれましてはますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
日頃は会活動にご支援、ご協力を賜り厚く御礼申し上げます。
また、この度の調査にあたり会員の皆さま、関係者の皆さまのお陰をもちまして、調査対象者3,790名に調査票を配布し、736名の方から回答をいただくに至りました。ありがとうございました。
さて、私たち頸髄損傷者(以下、頸損者と略します。)の実態はいまだにわかりにくい障害であります。身体に重度の障害があり重ねて四肢麻痺を併せ持つといった複雑な状態の中で日常の生活を営んでおります。最近は、医療技術と機械工学の技術の進歩により人工呼吸器を使用する頸損者も在宅生活ができるまでになってまいりました。
ところで、私たちは今から17年前の1991年にこの度と同じテーマで調査を致しました。その時の報告書は唯一頸損者に特化した情報提供書として「頸損解体新書」の名で発行し、現在も関係各方面で重宝されています。
しかし、時代の変遷に伴い制度、医療現場など取り巻く環境も変わり、17年前に得た生活実態の内容も現在の生活には合わず対処することもなく通り過ぎる人も出てきました。その背景には、頸損者をはじめ多くの支援者、協力者による社会生活への参加運動、当事者の生活向上に向けた活動も見逃すことはできません。そのような環境下、時代の変化が頸損者に普遍的に取り入れられていったのかは甚だ疑問でもあります。言い換えれば、頸損者の数だけ生活スタイルがあり、個々によってはどこからも入らない情報や誰に相談すればいいのか悩み苦しむ日々からの解放を求めている人もいます。
この度の様な調査を行うのは、調査を通じて把握できた情報を広く頸損者や関係機関に提供し、問題点を提起する。そして、同じ障害を持つ者が全国どの地域に暮らそうとも同じ生活が保障される。また、得られた情報を共有しセルフヘルプ活動に活用して問題点の解決に役立てる。以上のことを目的にしています。もちろん個人情報の保護には万全の注意を払うのは言うまでもありません。
私たちにとって情報は命を救う藁でもあります。ここに報告書を添えて皆様への感謝のご挨拶とさせていただきます。

第1章 調査の目的と概要

1-1. 調査目的
頸髄損傷者の生活実態の把握を目的とした包括的な調査は1991年度に全国頸髄損傷者連絡会により行われて以降、実施されていない。10数年間に、新規福祉機器の開発と普及が進み、また介助制度を中心とした福祉施策も変化している。加えて、国連において「障害者の権利条約」が採択されるなど、障害者をめぐる社会動向も変化している。こうした中、今後の福祉機器開発、障害者医療、障害者福祉施策のあり方を検討する上で現在の頸髄損傷者の自立生活と社会参加の実情とその障壁の把握の必要性が高まっている。
本調査の目的は、現在の頸髄損傷者の自立生活と社会参加の実情とその障壁を明らかにし、頸髄損傷者の自立生活と社会参加を促進する上での必要な社会的支援のあり方を検討することにある。またこれを通じて、頸髄損傷者を対象とした福祉機器開発者、医療・福祉関係者の業務に質する基礎的資料の提出と、頸髄損傷者への情報提供を行う。

1-2. 調査概要
調査は、調査票を対象者に郵送し、記入後返送してもらう郵送調査法と、自筆記入が困難な対象者を考慮し、全国頸髄損傷者連絡会のホームページ上に調査票を公開して電子メールで回答してもらうインターネット調査法により行った。調査期間は平成20年11月28日から平成21年1月10日である。調査票は3,790通発送したが、宛先不明による返信及び受け取り拒否等が61件あった。発送内訳を下表に示す。
調査票の発送対象と発送数

区 分 発 送 対 象 発 送 数
直接発送数
3,396通
全国頸髄損傷者連絡会 673
(社)全国脊髄損傷者連合会 4
その他紹介者 7
日本せきずい基金登録者
(※全国頸損連絡会には所属していない者)
2,712
間接発送*
依頼数
394通
(社)全国脊髄損傷者連合会16支部 124
旧北海道頸髄損傷者連絡会関係者 80
高知頸髄損傷者連絡会 15
国立身体障害者リハビリテーションセンター病院 25
総合せき損センター(福岡県飯塚市) 120
潮平病院リハビリテーション科(沖縄県沖縄市) 30
*各団体及び施設の窓口に調査票一式を郵送、そこから対象者に発送

 インターネット調査については、日本リハビリテーション工学協会誌及び四肢まひ者の情報交換誌「はがき通信」にて、回答募集の告知を行った。また、全国頸髄損傷者連絡会各支部及び会員から、関係機関、友好団体等に協力を依頼した。
回答者数は736名で、調査票による回答が666名、電子メールによる回答が70名であった。有効回答率は、間接発送を依頼した団体及び施設から配布された調査票実数不明等の理由により算出できなかった。

1-3. 調査票
本調査を実施するにあたり、全国頸髄損傷者連絡会の内部に頸髄損傷当事者とリハビリテーション工学研究者、福祉機器会社社員、看護師などの専門家からなる「頸髄損傷者の自立生活と社会参加に関する実態調査」実行委員会を組織し、調査票の内容について議論を行った。また、実行委員会の傘下に調査票作成WGを設置し、調査票作成業務を行った。調査票完成までの経緯は以下の通りである。

ステップ1:1991年度の調査で使用した調査票との比較要否について協議を行った。
   ⇒現在調査したい内容を重視すべきという実行委員会の判断から
不要と決定した。

ステップ2:設問の目的を明確にするため、設問設計理由書を作成した。
   ⇒各設問の目的を実行委員会にて共有した。

ステップ3:設問を絞るため、項目の優先順位付けを行った。
   ⇒当事者の考えを優先し、設問項目の絞り込みを行った。

ステップ4:調査票作成WGを設置し、調査票を作成した。
   ⇒表現、体裁は実行委員会メンバーから適宜指摘をもらい、
調査票に反映させた。

ステップ5:調査票完成(P6〜P22参照)

〜第2章 調査結果 はページ数が多く本誌では掲載できないため割愛します。
 今後発行予定の「頸損解体新書(2008年版)」にて、最終報告をご覧下さい。〜

第3章 まとめと今後の課題

 現在の頸髄損傷者の自立生活と社会参加の実情とその障壁を明らかにし、頸髄損傷者の自立生活と社会参加を促進する上での必要な社会的支援のあり方を検討すること、また頸髄損傷者及び頸髄損傷者を対象とした福祉機器開発者、医療・福祉関係者などに必要且つ有益な情報を提供することを目的として、「頸髄損傷者の自立生活と社会参加に関する実態調査」を企画、実施中である。なお、本調査は日本リハビリテーション工学協会の協力を得て行っている。
平成20年度は全国頸髄損傷者連絡会の内部に頸髄損傷当事者とリハビリテーション工学研究者、福祉機器会社社員、看護師などの専門家からなる「頸髄損傷者の自立生活と社会参加に関する実態調査」実行委員会を組織し、計3回の会議を開催、本調査実施の在り方について議論を行った。また、実行委員会内部に事務局を設置し、計7回の会議を開催、事業実務についての議論を行った。そして、実行委員会及び事務局の承認を受け、調査票作成WGと調査報告書作成WGを設置し、調査票の作成、調査結果の整理及び分析、本報告書の作成業務を行った。
 調査票は、現在の頸髄損傷者の自立生活と社会参加の実情とその障壁を明らかにすることができるように企画設計し、全国の脊髄及び頸髄損傷者団体、NPO、病院、専門施設に所属、在所している頸髄損傷者を対象として3,790通発送した。また、調査票を全国頸髄損傷者連絡会のホームページ上に公開し、自筆記入が困難な対象者にも回答できるようにした。その結果、736名から回答があり、予想以上の回答者数であった。
 回答者の属性を割合でみると、年齢別では20代以下(6.4%)、30代(16.3%)、40代(22.6%)、50代(25.5%)、60代(20.8%)、70代以上(7.5%)、性別では男性(80.7%)、女性(19.0%)となっており、30から60代の男性からの回答が多かった。居住地域別では、北海道(7.7%)、東北地方(6.4%)、関東地方(36.8%)、中部地方(14.0%)、近畿地方(16.7%)、中国・四国地方(8.8%)、九州・沖縄地方(7.2%)となっており、東京、名古屋、大阪などの大都市がある地域からの回答が多かった。損傷レベル別では、C1からC3(10.6%)、C4(17.3%)、C5(25.0%)、C6(18.5%)、C7, 8(7.6%)となっており、C4からC6の回答が多かったが、無回答・無効回答が21.1%あり、損傷レベルを把握していない回答者が多かった。麻痺別では、完全麻痺(51.8%)、不完全麻痺(39.8%)となっており、完全麻痺者が回答者の半数を占めていたが、「わからない」と「無回答・無効回答」合わせて約10%あったことから、損傷レベルほどではないが麻痺の状態を把握していない回答者が多かった。
本中間報告書は、調査票及び電子メールにより得られた結果を単純集計し、それらをまとめた資料集であるが、現在の頸髄損傷者の身体状況、健康状態、経済状況、住居環境、福祉機器、介助、外出・移動、就労などの実態とその障壁をある程度推察できる貴重なデータ集となっている。
 平成21年度は、平成20年度に行った単純集計分析に加え、クロス集計、統計解析、多変量解析等により詳細なデータ解析を行い、その結果も踏まえて最終報告書として「頸損解体新書(2008年版)」(仮題)を作成、発行する予定である。


戻る