頸損だより2009冬(No.112) 2009年12月26日発送

ブレス・トゥ・ヴォイス -Breath to Voice-

− 「息」から「声」へ −     連載 第6回



2007年6月9日明石において“人工呼吸器使用者の自立生活を実現するために“という市民公開講座を兵庫頸損連絡会で開催した。市民公開講座の終了後、その実行委員会が立ち上げていたメーリングリストの愛称が、”ブレス・トゥ・ヴォイス“となった。人工呼吸器使用者や高位頸髓損傷者など最重度の四肢麻痺者の自立生活を考え話し合い、情報を提供し実現していくためのメーリングリスト。ブレス・トゥ・ヴォイス(Breath to Voice)とは、息をするのもままならなかった人達が、声を上げ、大きな運動のうねりをつくっていきたいという願いから名づけられた。この市民公開講座に参加した人工呼吸器を使用する仲間は、その後何をめざし、どんな行動を取っていったのか。その後の動きを伝えていきます。

●簿記検定試験に吉田さんがチャレンジしました。●頸損連絡会の人工呼吸器を使用するメンバー有志で、共通する課題や呼吸器当事者に有効な情報を自分たちで共有していこうと、情報交換&交流会を今年から始め、その第3回目の集まりを11月に開きました。以上の2つの話題を今回レポートします。

もう何度目かの、簿記試験。

大阪頸損連絡会 吉田憲司

こんにちは、11月15日に簿記2級の試験を受けてきました。もう何回目になるかな? 健常者であれば通常半年ぐらいの期間、しっかりと勉強すれば合格すると言われています。…が、全身麻痺状態で人工呼吸器までつけているとなるとそれなりの苦労もあるわけです。試験の際には商工会議所に以下の配慮事項を認めてもらってます。
 ・ワープロ解答(持参のノートパソコン)
 ・ワープロ問題用紙
 ・時間延長(60分)
 ・音声入力ソフト使用
 ・ソフトウェア電卓の使用
 ・メモのためのエクセル使用
 ・別室受験
 ・たんの吸引のための介護者入室

改めてこうしてみると本当に破格の条件ですね。本当にありがたい話です。とはいうものの音声入力だけで3時間しゃべり続けるというのもなかなかきつい作業です。音声入力の認識率も100%ではないので必ずその場その場で入力ミスがないかどうか確認が必要。当日は19インチの液晶ディスプレイをお借りして受験します。首が動きませんからこれぐらいが視野の限界でPDF形式の問題用紙、ワード形式の解答用紙、メモ用紙としてもエクセル、電卓ソフト…とめくり続ける作業が延々と続きます。試験が終わったときには疲れ果てて放心状態、体調が戻るまで1週間くらいはかかります。…そんな感じの試験です。はたから見ればかなり異様な光景です。けれども受けさせてくれるだけやはりありがたいと思います。

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簿記の勉強を始めた頃は辛かったです。勧められて始めてみたものの動機が曖昧の上、簿記の意味がとにかくわからない。売掛金と受取手形はどう違うのか?減価償却費をなぜ行うのか?決算で使えない直接原価計算なんてものがどうしてあるのか?簿記はどのように役立てるのか?どのような局面で使えばいいのか?そういうのは参考書には書いてありません。あんまりわからないもののだから中小企業の社長さん向けの経営や会計の本に手を出していきました。もともと中小企業の社長さんがとるべき資格だと聞いていたので。それでわかってきたのが簿記は決算書を作るためのツールであること。そして見る人立場によって計算書の読み方は一つではなく、作り方もまた一様ではないということでした。いわば決算書は企業の成績表のようなものですから評価する側(銀行、税務署の人とか)、される側の立場(経営者)によって良くもしたいし、時として悪くもしたい。要は数字をゆがめない程度に自分の都合のよい決算書を作る、というのが世間の本音のようです。この本音を知らずに”簿記”の建前だけを勉強してきた自分は所々かいま見える本音とのギャップにこれまで苦しんだのではないでしょうか?そういうことが分かってくると簿記が面白いものに思えてきました。
前回は62点、今回は64点です。合格が70点ですのでようやくボーダーラインに乗ってきたというところでしょうか?少しずつですが力もついてきているし問題の相性次第では合格も夢ではないところまで来ています。準備をしてくださる試験官の方には申し訳ありませんが今後も引き続き試験を受けさせてもらうつもりです。次の試験は来年の2月です。

第3回人工呼吸器使用者情報交換&交流会レポート

兵庫頸損連絡会 米田進一

去る11月26日(木)、西宮市総合福祉センターにおいて「第3回人工呼吸器使用者情報交換&交流会」を行いました。メンバーは前回と変わらない池田さん、井上さん、吉田さんと私(米田)が人工呼吸器使用者です。鳥屋さん、神吉さん、藤田さんがサポーターとして就いてくれています。池田さんが受診で遅れるとの事で、時間も少し押していたため議論を開始しました。簡単な報告になってしまいますが、いくつか記載したいと思います。

●各自から近況報告
【井上】インフルエンザを警戒して、外出を控えていた。介助者が1人辞めて新たに介助者を確保するのに苦労した。
【吉田】ヘルパーの半分が入れ替わった。新しいヘルパーさんへの研修など大変であった。ヘルパー継続して来てくれる人が少ないため今後外出に支障が出る可能性がある。
【米田】8月にBBQ企画準備と、リハ工学カンファレンスin埼玉。9月にBBQ大会(85名参加)。10月に大阪頸損宿泊体験と兵庫頸損会学習会、障害者リーダー養成講座。11月に姫路でのシンポジウムに参加。

 井上さんと吉田さんは介助者の確保で苦労していたようです。

●自立の可能性
【井上】自立、一人暮らしをすることのイメージがまだわかない。
【吉田】経済力がないと自立はできないのか?自分にとっての自立とは何なのかわからない。
【米田】来年で受傷5年になり、一つの区切りとしたい。一人暮らしに向けた計画と実行。

各自の思いは自立に対して複雑なように感じました。サポーターの鳥屋さんから、
ひとりで何でもできることが自立ではない。たくさんのまわりの協力を得て、自分で自分の人生を決めることだと話がありました。

 確かに自立のとらえ方は人それぞれ違います。私の思いとして書かせていただくと、全身が動かない私たちは全てに対して介助が必要であり、呼吸器を使っての生活である以上、安心して暮らすためには24時間誰かに付いていてもらう必要があります。最も重度障害とされる呼吸器使用者を、支援してくれる介助者を確保する必要もあります。その中で自分たちの生活の一部として社会参加は必要なので、支援制度の改善を望みます。自分たちの生活に社会参加は絶対に必要だと思います。家にいるだけでは、チャンスが転がっていることに気づくことができません。チャンスとは人との出会いや新しい発見だと思っています。障害者となってわずか4年ですが、多くの仲間と支援者に、諦める必要がないことを教わりました。呼吸器という状態は制約が多いけれど、楽しむことはできます。そのためにも何を望んでいるのか知ってもらうことが必要と思います。

●セルフコーディネート
これは私が提案したことですが、「自分たちになにができるか、なんでもいいから、具体的に計画し、実行してみよう。」ということで、人工呼吸器使用者の我々がイベント企画を先導に行っていこうという意味で提案に挙げました。

●自分の存在はどうあるべきか?
【吉田】呼吸器を使う頸髄損傷者にもできることがあることを実証していくこと。
【米田】自分の特徴を活かした当事者のサポート(マウスピースを使う呼吸器の情報提供)

各々が自分にできるセルフコーディネートではないかと思います。

遅れてきた池田さんも最後に加わったところで、
●来年の目標
【井上】在宅での車いす生活を実現すること。
【吉田】頸髄損傷のことを中心に書いた自分のサイトを立ち上げる。ダイエットが成功しつつあるので、さらにこれを続けていく。
【池田】今年は色々と大変だったので、競馬、競艇で負けないように良い年にすること(笑)。
【米田】飛行機に乗ること。家族旅行をすること。みんな(人工呼吸器メンバー)で映画鑑賞をすること。

今年4月から始めた情報交換交流会ですが、今回で3回目で誰一人欠けずみんな集まることが出来て良かったです。みんなそれぞれの目標に向かってこれからもお互いに頑張りましょう!次回交流会の幹事は井上さんになっています。

■次回平成22年2月4日(木)14:30〜 (西宮市総合福祉会館) 神吉さんが作成した呼吸器使用者のDVD をみなさんで観賞しませんか?みなさん是非お越しください


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