頸損だより2009冬(No.112) 2009年12月26日発送

※中部障害者解放センター機関誌「NPOちゅうぶ通信」より転載版

どうなる障害者自立支援法

2009年10月(いしだ)


 8月30日の衆議院選挙の結果、民主党を中心とした新しい政権が9月に発足しました。連立政権の合意事項には「障害者自立支援法は廃止し、制度の谷間がなく、利用者の応能負担を基本とする総合的な制度をつくる」との項目が盛り込まれ、その後、長妻昭厚生労働大臣は「自立支援法を廃止し、新制度の設計に着手する」ことを明言。各の地方裁判所で行われている自立支援法の応益負担は違憲であるとする訴訟においても国は全面的に争う方針を転換しています。
 民主党は新制度として「障がい者総合福祉法」の制定を打ち出していますが、具体的なタイムスケジュールなどは検討中です。新法までには2〜3年の議論や準備が必要ですが、それまでの措置として2010年度には市町村民税非課税世帯の利用料を無料にする方針を固めたようです。
 厚労省では長妻大臣のもと、細川副大臣、山井政務官が障害者施策担当となっています。
 10月30日には厚労省隣りの日比谷野外音楽堂で「さよなら障害者自立支援法!つくろう!私たちの新法を!10.30全国大フォーラム」が開かれます。2005年に国会で自立支援法が成立して以来毎年開催され、2006年には障害者運動史上最大の1万5000人が集まりました。全国の障害者や支援者の怒りと不安を受けて政府も何度も見直しを行ってきました。この3月には政府(自公与党)からも大幅な見直し法案が提出されましたが、障害者団体としてはそもそもの悪法を廃止し、新しく作り直すべきだとしています。DPIなどが中心となり障害者総合福祉サービス法にむけた政策提言も進んでいます。
 大阪市では障害者施策全般に関するオールラウンド交渉が11月27日(金)、12月15日(火)に開かれます。大阪市でも市町村事業である移動支援(ガイドヘルプ)に関しては財政的な厳しさからなかなか充実されず、昨年度からやっと始まった入院時コミュニケーションサポート事業も、予算は大幅に余っているにも関わらず対象者は極めて狭いままです。2003年からの支援費制度ではガイドヘルプは国事業だったのですが、今後、制度全体の枠組みの変更も必要です。
 大阪市ではインフルエンザの関係で作業所等の日中活動が閉鎖された場合にホームヘルプ(居宅介護・重度訪問介護)をそれぞれ1日2時間・3時間延長する通知が出ています。利用者本人には直接届かない情報なので、必要な場合には手続きを行ってください。

自立支援法の動向について2つ新聞報道を紹介します。

障害者サービス無料化…厚労省方針

低所得者の在宅・通所利用
 障害者自立支援法に基づくホームヘルプなどの福祉サービスに対し、厚生労働省は14日、来年度から市町村民税非課税世帯の利用料を無料にする方針を固めた。長妻厚労相は同法の廃止を打ち出しており、廃止までの間、利用者の負担を軽減させる。
 この結果、「受益者負担」を原則とする自立支援法は、事実上の“全面見直し”状態になりそうだ。来年度予算の概算要求に300億円程度を盛り込む方針。
 現行法では、ホームヘルプや就労支援などの在宅・通所サービスを利用する障害者のうち、生活保護世帯を除く利用者から、所得に応じて月1500円〜3万7200円を限度に利用料を徴収している。
 しかし、負担が重いとの声が強いため、来年度から月1500円〜3000円を限度に利用料を支払っている市町村民税非課税世帯に対し、無料化に踏み切る。施設入所者の利用料なども軽減する方針だ。
 自立支援法に基づく福祉サービスを利用する障害者は約50万人で、このうち約30万人が在宅、通所サービスを受けている。市町村民税非課税世帯は在宅、施設を含めて約75%を占めており、今回の見直しで、大半の利用者が負担軽減の対象となる見通しだ。
 現行の自立支援法は2006年度の施行。「受益者負担が基本」とされ、原則1割の利用料負担を求めた。このため、それまでの制度に比べて利用料の負担が増えたことから障害者が反発。自公政権時代に2度にわたる負担軽減策もとられてきた。
 利用者の負担割合が平均で利用料の3%程度にまで下がってはいるものの、なお「受益者負担」の原則を崩しておらず、一部障害者の不満は解消されていない。
 長妻厚労相は、4年以内に現行法を廃止し、負担能力に応じた費用を求める「障がい者総合福祉法」(仮称)を導入する方針を打ち出している。
 市町村民税非課税世帯 一人暮らしでは、障害基礎年金以外の年収がおおむね125万円以下の人。3人世帯で1人が障害基礎年金1級を受給している場合なら年収300万円以下の世帯。障害者自立支援法では、市町村民税非課税世帯で利用者の年収が80万円以下なら「低所得1」に区分され、在宅サービス利用の負担上限は月1500円になる。それ以外の市町村民税非課税世帯は「低所得2」で、負担上限は月3000円。
(2009年10月14日 読売新聞)

[解説]どう動く 障害者自立支援法

 廃止が打ち出された障害者自立支援法に代わる、新制度の模索が始まった。自立した生活を支える安全網の行方が注目される。
 Q なぜ廃止されるのか。新制度の課題は。
 A 負担増への不満が高まったため。費用の増加が見込まれ、財源確保が課題。
 Q 障害者自立支援法とはどういうものか?
 A 障害を持つ人が、自分の生き方を選び、豊かな人生を送るのを支援する目的で、2006年4月に施行された。日常生活を支える「介護給付」と、障害者の就労をサポートする「訓練等給付」などが柱となっている。
 Q 導入の契機は?
 A それまでの障害者支援は、03年度に創設された「支援費制度」に基づいていた。障害者へのサービスを、行政によるお仕着せの措置から、利用者と事業者との契約に変えた点が画期的とされたが、サービス利用者が急増した結果、費用が膨らみ、予算が大幅に不足する事態となった。
 自立支援法は、財政問題を解消するために、障害者本人が受けたサービス費用の1割を負担する「応益負担」の仕組みを導入。知的、身体、精神といった障害の種別に縦割りだった支援内容を共通化して格差を解消するとともに、就労支援の強化を打ち出した。
 Q なぜ、民主党は廃止しようとしているのか?
 A 障害者や団体の間で、同法への不満や批判が高まっていたことがある。制度導入前には負担ゼロだった低所得層も費用の1割を支払うことになり、サービス利用を控えるといった弊害が生じた。サービス利用の回数を減らした人は8%に上るという調査結果もある。応益負担が憲法違反にあたるとして、障害者自立支援法違憲訴訟も各地で起きた。
 こうした批判を受け、自公政権は今春、同法の改正案を国会に提出したが、衆議院の解散により廃案に。一方、民主党はマニフェスト(政権公約)に、支払い能力に応じた応能負担を原則とする「障がい者総合福祉法(仮称)」の制定を盛り込んでいた。

 Q 新制度の課題は?
 A 応益負担から応能負担への転換など制度見直しにかかる費用を、民主党は400億円と見積もる。さらに、これまで、支援対象として明記していなかった発達障害、難病、高次脳機能障害なども含める方針だ。民主党障がい者政策プロジェクトチームの座長を務める谷博之参議院議員は「現在、障害者支援にかけている約1兆円の予算を、将来的には1兆5000億円程度にまで増やす必要がある」と話す。財源確保が大きな課題だ。
 Q 新制度へ向けた今後のスケジュールは?
 A 当面の措置として、来年度から低所得者の利用料を無料とする新たな軽減措置を導入する方針だ。新法制定については「1期4年の中で」(長妻厚労相)としており、本格的な議論はこれからだ。政権交代後に広島地裁で行われた違憲訴訟の口頭弁論では、厚労省は争わない姿勢を示し、原告団に新制度作りへの参加を呼びかけた。今後、鳩山首相を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」を設置、様々な障害の当事者を交えて、新制度の青写真づくりを進めるが、谷間のない公平な支援のあり方をめぐる論議が白熱しそうだ。
(社会保障部 梅崎正直)
(2009年10月17日 読売新聞)

さよなら障害者自立支援法! つくろう!私たちの新法を!

10.30全国大フォーラムへ


■ 今こそ、自立支援法に終止符を!

 私たちは2006年10月31日の「出直してよ!自立支援法」をテーマにした1万5千人集会をはじめ、毎年数千人規模のフォーラムと行動を続けてきました。応益負担やサービス支給量制限等、「自立支援法」そのものを問う訴訟も進められています。
 こうした私たちの活動に揺り動かされるように、毎年、利用者負担の軽減措置等の「対策」が行われてきましたが、私たちが求めていた一からの見直しには程遠いものでした。
 今年9月に成立した連立政権の合意事項に「障害者自立支援法は廃止し、制度の谷間がなく、利用者の応能負担を基本とする総合的な制度をつくる」との項目が盛り込まれました。その後、長妻厚生労働大臣は「自立支援法を廃止し、新制度の設計に着手する」ことを明言し、各地裁での訴訟においても国は全面的に争う方針から転換を表明しました。
 自立支援法施行から3年半−今、ようやく、変化の兆しが見えてきました。それは取りも直さず、全国フォーラムをはじめ生活実感に根ざした粘り強い取り組みが各地で行われてきた成果であったことは言うまでもありません。

■ つくろう!私たちの手で新法を!

 「自立支援法」の強行導入は、障害者の暮らしを危機の淵へと追い込んでいきました。当時の厚労省が「介護保険統合」をもくろみ、応益負担、障害程度区分を軸にした支給決定システム、サービス体系(地域生活支援事業や報酬単価)等を導入した結果です。
 「自立支援法」の廃止、そして新法の制定過程にあたっては、「自立支援法」制定の経緯を深く反省し、「私たち抜きに、私たちのことを決めない」ということが大前提であり、基本でなければなりません。当事者を交えた検討の場が一日も早く設けられることが必要です。
 今後、障害者権利条約の批准が焦点になっていく中、新たな制度は障害者権利条約が示している「障害者の地域生活の権利」を保障する制度となることが求められています。
 日本の障害者の範囲は国際的に見ても大変狭く、障害関連予算も極めて低い水準にあることが知られています。これを根本的に転換させ、必要な人がアクセス可能な制度、どんなに重度の障害があっても地域で暮らせるような法制度・財源の確保確立が求められています。来年度予算の組み換えにおいても、障害者関連予算への重点的配分を私たちは希求します。
 「自立支援法廃止−谷間のない総合的な制度検討」が新政権から表明された今、その確かな実現に向けて、さよなら障害者自立支援法!つくろう!私たちの新法を!10.30全国大フォーラムへの一人でも多くのみなさまの参加を心から呼びかけます。

●「自立支援法」を廃止し、障害者の権利条約にふさわしい障害者施策、真に障害者の自立・地域生活を権利として実現する制度確立を求めます
●「自立支援法」が当事者不在の拙速な検討の結果つくられた反省をふまえて、 今後の障害者施策について、障害当事者・現場の声に基づいて検討することを求めます
●新法では障害者の生活を直撃している「応益負担」をあらため、障害者本人の実態をふまえた負担への変更を求めます
●新法では制度の谷間のない総合的な制度とし、障害者の定義については発達障害や高次脳機能障害、難病等を対象に含め、障害者手帳の所持を要件とせずサービスが必要と認められた者を対象とすることを求めます
●「できる、できない」ではなく「どのような支援が必要か」という視点から、 障害者一人ひとりのニードに基づくサービス支給決定の仕組みとすることを求めます
●地域生活支援事業となり大きな地域間格差や後退が生じた移動支援事業やコミュニケーション支援事業等に対して、国が責任をもって財政保障をすることを求めます。また、手話通訳・要約筆記等のコミュニケーション支援は、その言語的な特性をふまえ、権利として保障されるべきであり、全て無料とすることを求めます
●どんなに障害が重くても、地域で暮らせるよう、自治体が支給決定したサービス、地域生活支援事業に対して国が責任をもって財源保障することを求めます。
●介護、日中活動、ケアホームなど地域生活の社会資源を維持できるよう、現行の日割制度をあらためるとともに報酬単価・体系の見直しを求めます
●真に「施設・病院からの地域移行」が進むように、「精神障害者退院支援施設」等の廃止と、ピアサポート等の当事者活動への支援・退院促進事業・地域での住まい確保策の充実を求めます
●「子ども」の支援について現行の「自立支援法」の枠組みではなく、「子ども」の権利の観点からつくり直すことを求めます。
●所得保障、扶養義務問題等、手つかずの基本課題の解決を求めます
●日本でのノーマライゼーション、施設・病院からの地域移行実現のため障害者予算の飛躍的拡充と地域生活のサービス基盤整備のための特別立法を求めます。

 さよなら障害者自立支援法! つくろう!私たちの新法を!
 10.30全国大フォーラム実行委員会


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