頸損だより2010春(No.113) 2010年3月27日発送
特集
トランスファー(移乗)
ベッド〜車いす間への移乗 前編
頚髄損傷者の方は、障害の程度・間接可動域・痙性(けいせい)・年齢などで移乗動作や移乗方法に違いがあります。自分で移乗する方、介助者による移乗(1人介助・2人介助・複数人介助・リフターでの介助)などがあります。今回は20名の方々にヒアリングを行いました。(頚髄損傷者のレベルは様々です)結果、いろいろな移乗の仕方がありました。
今回は介護リフトを使用した移乗を紹介したいと思います。今の移乗の仕方でQOLが下がっている方がいれば参考にして頂きたいと思います。
[岩本 泰嘉]
<内 容>
1.いろいろな移乗
2.リフト及び吊り具の製品紹介
3.吊り具の使い方
4.制度
1.いろいろな移乗
米田 氏
○ 介護リフト マイティエース2
○ 2ピースベルトでは首が支えられない為、スリングシートのフルタイプを使用。
○ 介助人数は基本的に2人。
○ 支援費制度を利用して介護リフトを購入。
三戸呂 氏
○ 介護リフト 天井走行式パートナー
○ 2ピースベルトタイプを使用
○ 介助人数は1人。
○ 介護リフトを購入する際、自立支援法か障害者福祉法の住宅改造(改修)段差改造で25万円を利用しようと思ったのですが、ベランダの段差改修に利用したため同時に同じ項目は利用できないので止めました。全額自己負担。
太田 氏
○ 介護リフト マイティエース
○ 2ピースベルトタイプを使用すると脇をしめる力が無いので脇が開いてしまい痛い思いをするので、スリングシートのフルタイプを使用。
○ 介助人数は1人。
○ 介護リフトを購入する際に2003年度まで利用できていた大阪頸損連絡会の電動ホイスト給付事業を使いました。この事業は本体の1/2まで支給されました。
岩本 氏
○ 介護リフト 天井走行式パートナー
○ スリングシートを使用したが使うたびに股が切れるので止めました。2ピースベルトは腰と脇が痛いのですが、着脱が簡単なので、現在2ピースベルトタイプを使用。
○ 介助人数は1人。
○ 介護リフトを購入する際に2003年度まで利用できていた大阪頸損連絡会の電動ホイスト給付事業を使いました。この事業は本体の1/2まで支給されました。現在2台目でレールはそのまま使用で、本体はコマの部分を改造して使用。全額自己負担。
一人でリフトを使って移乗
●一人でリフトを使って移乗するには、昇降・走行とも電動式を設置する必要があります。
○ 天井走行式リフト
ベッドから車いすに移乗する時 ○ 移乗時の介助者なし
1.ベッドをギャッジアップして、体幹を前傾して脚部のベルトを膝下に滑り込ませてセットします。(前屈姿勢が不安定の時、また起き上がれない場合は、膝上に枕やクッションを置く方法もあります)
2.胸部のベルトを頭部から滑り込ませて装着。
3.リフトを下し、胸部・脚部のベルトをハンガーに掛けて、リモコン操作して移乗します。(写真:1・2・3)
(ここでは首にリモコンを掛けていますが、リモコンの位置は操作しやすい位置を個人の判断で、またリモコンのボタンを押し易い様にボタンに突起物を付けるなど工夫するのも良いでしょう。またリモコン本体を安定させる為の工夫など各個人でしている方もいます。)
○ 天井走行式リフト
車いすからベッドに移乗する時 ○ 移乗時の介助者なし
脚部のベルトを膝下に装着します。ここでは二つの方法を紹介。
1.ベッドを車いすの座面の高さに合わせる。
2.ベッド上に脚部ベルトをセットしてストラップに指を掛けて膝下に通す(写真:4)
1.脚部のベルトをリフトのハンガーにかけて床下まで降ろします。
2.右腕の肘の内側を車椅子の押し手(グリップ)に引っ掛けて身体のバランスを取りながら、左手首を左足の膝の下に引っ掛けて、手首の背屈を使って左足を車椅子のフットレストから下し脚部のベルトをまたぎます。右足を下す時は、2の逆パターンで。そしてリフトを上げてベルトを膝下に。(写真:5)
3.胸部のベルトはハンガーに掛けて、頭部から通す。後はリモコン操作でベッドに移乗。(写真:6・7)
4.ベッドに戻って胸部のベルトをはずし、身体を前方に倒して脚部のベルトを抜きます。
(ちょっとした工夫では、脚部のベルトの片方だけを外してリフトを上げれば簡単に抜く事もできます。)(写真:8)
●介護リフトや吊り具(選んだ理由)
1.いろいろな移乗で掲載できなかった方のコメント
- 据え付け型は、部屋の都合上このタイプしか付けられないとか、ベッドと車いすのスペースさえあれば、設置が簡単。
- 据置型は身体をリフトアップするときや電動車いすへの移乗が安定(ふらふら揺れない)しているのが選んだ理由。また吊られる上昇ポイントがかなり高いので、電動車いすに乗り移りやすい。
- 天井走行型は業者が進めてくれた。
- 天井走行型は部屋を改修出来たので障害者用モデルハウスを真似て部屋を施工した。
- 天井走行型は以前から使用していたこともあり、改良型を取りつけることにした。
- スリングシートはセッティングが大変で、つるした体勢も不安定だったので、2ピースベルトタイプにしました。
- スリングシートを使用したが使うたびにおしりや股が切れるので止めました
- 介助者が装着するのが簡単だから2ピースベルトを使用。
- 当初の予定ではお風呂にもリフターをつけるつもりだったので、水につけてもいいようにと業者の人に聞くと「これが良い」ということでスリングシート(ネットタイプ)にしました。
2.リフト及び吊り具の製品紹介
今回のヒアリングの回答でリフト製品は、潟c潟gー・潟~クニ・明電興産鰍フ3社だけでしたが、それ以外の製品も紹介します。
● 床走行式リフト
床走行式リフトは、ハンガーを取り付けたアームとその基点を支える支柱、支柱を支え、左右に開閉して全体を支持するベースと駆動部からできています。ベース部にキャスターがついており、床の上を移動することができるリフトです。
機器の持ち運びができ、昇降動作はアームを上下させることにより行われ、電動式・手動式があります。
■介護リフトつるべー Yセット
説明 :脚部の開閉に特徴があり、床に敷いた布団からの移乗にも使用できます。
製造販売元:潟c潟gー
価格 :415,000〜(非課税:吊り具別途)
■床走行式電動介護リフトKQ-771
説明 :低いベッドにも使用できます。(床上7cmまで)収納時4分の1にコンパクトに収納できます。コードレスで扱いやすい電動リフトです。
製造販売元:パラマウントベッド
価格 :405,000〜(非課税:吊り具別途)
■リコライト
説明 :軽くてコンパクトになることで、収納時や移動時にとても便利です。また、今までの機能は損なわず、ベッドから車椅子・トイレ・浴室等への移乗にご利用いただけます。
販売元 :ケコム商事
価格 :416,000〜(非課税:吊り具別途)
■床走行リフトFL-60
説明 :低いベッドにも使用できます。(脚部高57mm)バッテリー残量を目で確認できます。
製造販売元:フランスベッド
価格 :430,000〜(非課税:吊り具別途)
● 固定リフト 据え付け型
固定・据置式リフトは、ハンガーを取り付けたアーム、その基点を支える支柱、駆動部からできています。支柱を固定・設置にて安定させたリフトです。
ベッドに固定・設置するタイプのもの、浴室・玄関などに支柱を張るタイプのもの、工事で支柱を固定するタイプ(株)ミクニのものなど固定・設置に様々な形態があります。
昇降動作はアームとベルトの巻上げを組み合わせたもの、アームの上下と軸回転を組み合わせたものなどがあります。
■介護リフト マイティエース2(標準タイプ)
説明 :ベルト巻き上げタイプのリフトなので、吊り上げ、吊り下ろしの際の位置決めが楽にできます。ベッドの下に入れ込むタイプなので、邪魔になりません。低床タイプのベッドにも対応しています
製造販売元:潟~クニ
価格 :439,000〜(非課税:吊り具別途)
■介護リフトつるべーBセット
説明 :アームが360°回転。広い範囲でご使用いただけます。手動上昇下降装置付きで停電時でも安心。
製造販売元:潟c潟gー
価格 :409,000〜(非課税:吊り具・設置費用別途)
■固定式リフトFL-501
説明 :アームをすっきり折りたたむことができます。
製造販売元:フランスベッド
価格 :430,000〜(非課税:吊り具別途)
● 据置式リフト
レール走行式リフトはハンガーを取り付けたベルト部、ベルトを巻き上げる駆動の本体部からできています。本体部分が天井に固定されたレールや据置きしたレールに沿って移動することができるリフトです。
■アーチパートナー
説明 :レールを組み立てるだけ。部屋中どこでもカンタン移動。工事不要・簡単据付。コードレスリモコンで簡単に上げ下げ(電動昇降)できます。水平移動は手動式と電動式があります。
製造販売元:明電興産
価格 :550,000〜(非課税:吊り具別途)
■かるがるプチ
説明 :レールを組み立てるだけ。工事不要。リフト本体をレールから取り外せて、使いたい時、使いたい部屋に持って行けるので、複数の部屋で使用可能。
製造販売元:竹虎ヒューマンケア
価格 :520,000〜(非課税:吊り具別途)本体365,000
● 天井走行式リフト
■かるがるV
説明 :レールを組み立てるだけ。工事不要。リフト本体をレールから取り外せて、使いたい時、使いたい部屋に持って行けるので、複数の部屋で使用可能。工事費が必要(ただし住宅の構造上取り付けできない場合あり)
製造販売元:竹虎ヒューマンケア
価格 :793,000〜(非課税:吊り具別途)
■パートナー
説明 :コードレスリモコンで簡単に昇降・走行(電動式)。天井にレールを埋め込むので目立ちません。レールの形も豊富に揃えていますから、お好みの場所まで自在にレイアウトできます。工事費が必要(ただし住宅の構造上取り付けできない場合あり)
製造販売元:明電興産
価格 :787,500〜(非課税:吊り具別途)
● リフトの吊り具
ここでは吊り具の種類を紹介しますが、メーカーによって類似した商品がたくさんあります。またサイズもいろいろあります。購入する前に一度借りて、自分に合った物を確かめてから決めるのが良いかも知れません。
価格は約30,000〜60,000で高価です。
◆2本ベルトタイプ(ツーピースベルト)
◆スリングシート(ハーフタイプ)
◆スリングシート(フルタイプ)
製品購入に関しては、メーカーあるいは介護機器の販売・レンタル業者に問い合わせて下さい。(メーカーに問い合わせ、最寄りの代理店を聞いて下さい。)
◆介護リフト
- 潟c潟gー 大阪営業所:大阪市鶴見区今津南3-5-8-101
TEL 06-4258-7105
- 潟~クニ 大阪営業所:大阪府箕面市今宮3-3-24
TEL 072-726-3001
※(最寄りの介護機器の販売・レンタル業者を聞いて下さい。)
代理店 且O共電機工業所:大阪府守口市東郷通2丁目9番22号
TEL 06-6996-3668
- 明電興産梶@ケアシステム事業部:東京都品川区大崎5-5-5 明興ビル
TEL 03-3493-8641
※(たくさん代理店があると思うので問い合わせて下さい。)
代理店 株式会社 ウエル・ネット研究所:兵庫県伊丹市南野6-4-18
TEL 0727-87-3738
- パラマウントベッド TEL0120-03-3648 ※(最寄りの事業所を聞いて下さい。)
- フランスベッド TEL0120-083-413 ※(最寄りの事業所を聞いて下さい。)
- ケムコ商事株式会社 介護機器部門:広島県呉市広大新開1丁目2番6号
TEL 0823-72-1335
※(最寄りの介護機器の販売・レンタル業者を聞いて下さい。)
- 竹虎ヒューマンケア梶F東京都品川区南品川5-3-10 ミヤデラビル3階
TEL 03-5715-0300
※(最寄りの営業所や介護機器の販売・レンタル業者を聞いて下さい。)
3.吊り具の使い方
● スリングシート編
(株式会社モリトーのイラスト掲載)
◆ ベッド上でのスリングシートの装着の仕方
- 被介護者を側臥位にして、スリングシートのセンターラインを背骨に合わせ、上下も合わせます。
@下側のスリングシートを身体に寄せます。
A被介護者を反対の側臥位にして、身体の下からスリングシートを引き出してセットします。
- スリングシートの脚部のストラップを、出来るだけ大転子が覆われるように引きます。
- 大腿の内側へスリングシートを差し込みます。この時、出来るだけ足の付け根の方に引き込みます。(陰部を挟まないように注意が必要)
脚部のストラップを交差させます。
- スリングシートの頭側のストラップが、ハンガーに届く位置までベッドをギャッジアップして、ストラップをハンガーにかけて下さい。(その際、スリングシートがずれて、しわになるので注意が必要)
◆ 車いす上でのスリングシートの装着の仕方
- 車いすのブレーキを掛けます。
被介護者の身体が倒れない様に支えて下さい。
スリングシートのセンターラインを背骨に合わせて、尾骨まで差し込みます。
- スリングシートの脚部のストラップを、できるだけ大転子が覆われる様に手前に引きだします。
大腿の内部へスリングシートを差し込み、出来るだけ足の付け根に引き寄せます。(その際、陰部を挟まないように注意が必要)
脚部のストラップを交差させます。
すべてのストラップを、ハンガーにしっかりと掛けます。
◆ スリングシートのはずし方
- 車いすのブレーキを掛けます。
脚部のストラップの交差をはずし、ゆっくりと背中側から、スリングシートを上に引き抜きます。
● ツーピースベルト編
○ 2ピースベルトの装着及びはずし方は簡単なので、省略させていただきます。
◆ スリングシート使用時の基本姿勢
◆ ツーピースベルト使用時の基本姿勢
(この上の写真は健常者が使用しているもので、実際の頚髄損傷者の方の姿勢は異なります。)
●正しい車いすの座らせ方
- 押して座らせる(プッシュ)
・車いすのブレーキを掛けます。
・深く座れる位置まで膝を押しながら、リモコン操作します。
- 引き寄せる(プル)
・車いすのブレーキを掛けます。
・深く座れる位置までスリングシートのバックベルト引きながら、リモコン操作します。
- キャスターをアップ(アップ)T
・車いすのブレーキを掛けます。
・リモコン操作しながら、押してハンドルを下に押してキャスターをアップして深く座るように降ろします。
- キャスターをアップ(アップ)U
・車いすのブレーキを掛けます。
・リモコン操作しながら、車いすの前方部分を持ち上げ、キャスターをアップして深く座るように降ろします。
4.制度
●自立支援法 日常生活用具給付制度 (厚生省が決めた基準)
給付する用具名 移動用リフト
限度額・・・ \159,000
耐用年数・・・4年
日常生活をより円滑に行うことができるよう、障害の種別・程度により、必要に応じて日常生活用具が給付されます。(ただし、用具により給付等が制限される場合があります。また、用具により定められた医師の意見書が必要となる場合があります。)
原則として日常生活用具の価格の1割が自己負担になりますが、世帯の所得に応じて負担上限月額が設定されています。(事後請求は認められません。事前に相談ください。)
なお、介護保険制度に該当する対象者は介護保険の適用が優先されるものがあります。
まずは各市区町村窓口へお問い合わせして下さい。
対象者
1級・2級の下肢または体幹機能障害者(児)の方で原則として3歳以上の方
※ 介護者が重度身体障害者を移動させるにあたって、容易に使用し得るもの。(ただし天井走行型その他住宅改造を伴うものを除く。)
●労災年金の義肢等補装具支給制度
給付する用具名 介助用リフター
支給額・・・ \315,000
耐用年数・・・5年
支給対象者
次のア又はイのいずれかに該当し、かつ、ウからカまでのすべてに該当する方に支給します(新規支給の場合は、カの要件を除くものとします。)
ア 傷病(補償)年金の支給決定を受けた方のうち、傷病等級第1級第1号若しくは第2号に該当するもの又はこれらと同程度の障害の状態にあると認められるものであって、自宅療養者又は義肢等の支給申請の日から3カ月以内に退院し、自宅で療養すると見込まれる入院療養者
イ 障害(補償)給付を受けた方又は受けると見込まれる方のうち、障害等級第1級第3号若しくは第4号に該当するもの又はこれらと同等程度の障害の状態にあると認められる方
ウ 車いす又は義肢の使用が不可能である方 (ここでの車いすは自走式の事)
エ 当該療養者の症状並びに介助用リフターの性能及び操作方法を理解し、介助用リフターを安全に使用できる介護人がいる方
オ 当該療養者の家屋の構造が、介助用リフターの円滑な移動に適するものであること
カ 社会復帰促進等事業として支給された介助用リフターで、耐用年数を超えたものを有する方
支給の範囲
1人につき1台を支給します。
※介助用リフターは床走行式だけに限る