頸損だより2010春(No.113) 2010年3月27日発送

ブレス・トゥ・ヴォイス -Breath to Voice-

− 「息」から「声」へ −     連載 第7回



2007年6月9日明石において“人工呼吸器使用者の自立生活を実現するために“という市民公開講座を兵庫頸損連絡会で開催した。市民公開講座の終了後、その実行委員会が立ち上げていたメーリングリストの愛称が、”ブレス・トゥ・ヴォイス“となった。人工呼吸器使用者や高位頸髓損傷者など最重度の四肢麻痺者の自立生活を考え話し合い、情報を提供し実現していくためのメーリングリスト。ブレス・トゥ・ヴォイス(Breath to Voice)とは、息をするのもままならなかった人達が、声を上げ、大きな運動のうねりをつくっていきたいという願いから名づけられた。この市民公開講座に参加した人工呼吸器を使用する仲間は、その後何をめざし、どんな行動を取っていってるのか。その後の動きを伝えていきます。

●頸損連絡会の人工呼吸器を使用するメンバー有志で、共通する課題や呼吸器当事者に有効な情報を自分たちで共有していこうと、情報交換&交流会を昨年から始め、その第4回目の集まりを2月に開きました。今回はその内容をレポートします。

第4回人工呼吸器使用者情報交換&交流会レポート

大阪・兵庫頸損連絡会 吉田憲司 井上歩 米田進一

 2月4日(木)、西宮市総合福祉センターにおいて「第4回人工呼吸器使用者情報交換&交流会」が開かれました。この日は試写会ということもあって参加するいつものメンバー(米田、井上、池田、吉田)に加え、宮野さん、三戸呂さんご両名、鳥屋さんほか学生さん多数といった、いつになくやや窮屈さを感じさせられる程の大入りとなりました。
 池田さんは途中からの参加ということでとりあえずお互いの近況報告。

【井上】
・1月末の新年会参加。
 → 寒かったのと、空腹でしんどかった。
・関西労災の医師である土岐先生が辞められる。
 → 毎日来てくれるかかりつけ医と生活について相談している。

【米田】
・兵庫頸損連の忘年会の準備。
 → 約20名程が参加した。
・関西労災の医師である土岐先生が辞められる。
 → 昔からかかっている医師に引き継いでもらった。
・1月下旬の星ヶ丘厚生年金病院のミニフォーラムに参加。

【吉田】
・5名のヘルパーの研修を行っており、体力的に疲れている。
・2月28日に簿記2級受験のため、勉強している。

特別ゲスト【平田先生】
 大阪大学脳神経外科所属。機能疾患(パーキンソン病やてんかんなど)が主な分野。
 現在は考えるだけで、ものを動かせるような装置を研究されている。

 皆の近況のなかから関西労災の土岐先生が辞められるとの話が持ち上り、今後の引き継ぎの問題や現場から引かれる事を惜しまれる声が散見されました。
 呼吸器の管理やメンテはもちろんのこと、その他離脱訓練等の良き相談役として我々、人工呼吸器利用者にとっては大きな存在でありました。
 今後、再び我らの良き相談役として現場に復帰されることを祈ってやみません。

 そのあと、池田さんの日常生活、北海道旅行をメインとしたドキュメンタリーの試写会へと移ります。
 なお現時点での感想 (ネタバレ)は割愛とさせていただきます。後ほど予定(?)されている上映会にてご覧いただきますようよろしくお願いします。

 …さて、ちょうど上映も終わった頃にタイミングよく池田さんご到着。
 役者がそろったところで本日、本番の幕が開くこととなりました。

 この日は試写会のみであとは雑談くらい思っていなかったところに神吉さんから「4月に当事者主催の上映会をして、そのあとパネルディスカッションをしませんか?」との提案が出ました。

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・神吉さんの、作品へのコメントです。
「この作品を、呼吸器をつけた人だけの特別な問題としての作品づくりではなく、同じ人間という、ごく当たり前の視点から描きたいと考えています。結局、人は美味しいものに舌鼓を打ったり、美しい景色に感動したり、楽しい事を他の人と共有する喜び、人とつながる喜び、そんな一見ささやかそうに思えることこそが真の生きていく力の源だと思います。そして、生きていく力を持った人が他の人にも影響を与え、勇気づけていき、意外と本人が気づかないところで生きていくことが広がっていくようにも感じます。同じ人間でありながら、当たり前に生きることがなかなかできない今の日本社会についてや、10年以上も毎年3万人の自死者を出す今の日本で、見つめ直す必要がある「生きていく力」について考えるきっかけになればという思いもありますし、人とのつながりをもつことができず、なかなか外に出られない辛さを抱えた人にも観てもらい、少しでも外へ出るきっかけになれば良いなと願っています。」
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 あの時、その場にいた4人とも即答する事はできませんでした。あとで互いの意思を確認したところ映像上映、パネルディスカッションをやることについて特に異義はなし。

 ただ、2ヶ月後というのに驚いてしまいました。というのも2ヶ月前でも外出のスケジュールを組むには各事業所との調整が必要になってきているからです。人工呼吸器に吸引機、それにバッテリーとこれらの荷物は必須でありい、付き添いの人の他に取り扱いと持ち運びによく慣れている1人の人間が必要。
 そういう人材も確保するのが難しくなってきていて、時には不慣れなヘルパーにすべてを託さざるをえないこともあったり、外出ひとつとっても命がけです。

 これまで数人の人工呼吸器利用者と会ってきました。そんな彼らと互いに濃密なコミュニケーションを取り合い各地に散らばっている点と点とを結び、さらに線と線と結んでネットワークを作り個人では解決できない問題を共通の課題として取り組んでいくそんな場があれば良いと常々考えて来ました。

 そして今何とか点と点の繋がりができようとしている。このような交流会の場を持てたことは大変に幸運なことだと考えています。

 しかし、まだまだ我々の声は小さく足りない。
 だからこういった上映会やシンポジウムをよき機会ととらえ、マスメディア(ネット、TV、新聞)等を利用し、それぞれの各地域で何度も何度も繰り返して声を集めていく。呼吸器を使う我々が自ら生活の様子や、自分達のおかれている状況、そして自立生活に自らの意思での取り組みを生の声で発信していくこと。

 それらをもっと多くの皆さんに知っていただくことが最重要課題という認識で取り組んでいきたいと思います。
 こういう事が重度な障害を持っていても呼吸器を使う状況にあっても、生きるというだけではなく、社会参加する、社会につながっていく、そして人生を満喫する、ということだと我々は考え活動を続けていきたい。

 交流会4回目にしてようやく方向性が見えてきました。
 より多くの当事者・賛同者を集い、人工呼吸器利用者ネットワークの雛形にしていきたいものです。


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