背骨の中には『脊髄(せきずい)』という、大きな神経の束があります。脊髄は手や足を動かしたり、痛みや温度などを感じたりする神経のおおもとになり、脳とつながっています。この脊髄の一番上の部分(脳から一番近い部分)を『頸髄(けいずい)』といい、ちょうど首の骨の中にあります。(下図参照)
脊髄からはたくさんの神経がのび、頸髄からも頸神経とよばれる大切な神経が8対のびています。この神経を通常は上からC1〜C8とよび、それぞれが身体の運動や知覚を少しずつ分担しています。
頸髄は首の骨で守られているので、日常生活で傷つくことはありません。ですから頸髄が傷つく原因として圧倒的に多いのは「事故による首の骨の脱臼・骨折」です。それにともなって、骨の中にある頸髄が傷つくのです。
事故には高所からの転落、交通事故、落下物の衝突、スポーツ(ラグビーやアメフト、器械体操、プールでの飛び込み等)などがあります。
他の原因として首の骨や脊髄自体の病気(腫瘍など)があります。
男女比は原因にも関係あるためか圧倒的に男性のほうが多くなっています。若年層ではバイクでの事故が目立っています。
つまり、頸髄損傷は特別な人に起こるのではなく、いつ誰でもなりえる障害なのです。
脊髄が傷つくと、そこから下にある神経がマヒするため、体が動かなくなり、皮膚の感覚もなくなってしまいます。傷つく部分が、脳から近ければ近いほどマヒする神経が多くなり、それだけ障害も重くなります。
頸髄の場合、ほんの少し傷つくところが違うだけで、動くところや感じるところが大きく変わります。
また傷の程度によって、完全に神経が途切れて、まったく動かない場合(完全マヒ)と、部分的に途切れて、所々動かない場合(不全マヒ)があります。
通常、胸から下は動かすことができません。そのため立って歩くことができないので、車椅子が必要となります。腕は頸髄の傷ついた部分によって動かすことができたり、できなかったり、微妙に変わってきます。ちょうど頸髄には呼吸するための神経もあるため傷ついた部分によっては自分で呼吸ができず、人工呼吸器が必要なこともあります。
またすわった状態で左右に手をつき、おしりを浮かす動作(プッシュアップ)ができることもあります。これによりベッドから車いすへの乗り移りなどが可能となるため、とても重要な動作となります。
ときにマヒした足などを触ったり移動したりすると、自分の意志とは関係なく動いたり、けいれんを起こすことがあります。これを痙性(けいせい)といい、寒いときにはひどくなることがあります。
運動機能がマヒしている部分では、触った感覚が痛み、熱さ、冷たさなど温度の感覚が全くわかりません。このため、ケガに気づくのが遅れたり、やけどをしやすい、褥創(じょくそう)(床ずれ)ができやすいなどということがあります。褥創は、身体の同じ部位が長時間圧迫されることで血行が悪くなり、そこの皮膚や肉が死んでしまうことで悪化すると感染症をおこし、死に至ることもあります。褥創を予防するためには頻繁に姿勢を変える必要があり、ここでもプッシュアップが重要な動作となります。
腹筋・背筋をはじめさまざまな筋肉がマヒしているため、座った姿勢を保つことが非常に困難です。徳にC6より上を傷つけた場合固定しておかないと倒れて転倒してしまいます。
汗が出ないため体温調節が困難です。暑さ・寒さに非常に弱く、エアコンは必需品です。
また、身体を起こすと血液が下に下がってしまい、貧血をおこしやすくなります。
ときに、膀胱(ぼうこう)に尿が一杯溜まった時や、排便する時に血圧が急上昇し頭痛、発汗、痙性がひどくなることがあります。放っておくと脳出血を起こすこともあり危険な状態となります。
排泄するときに使う筋肉がマヒしているため、通常通り行うことができません。そのため、さまざまな工夫が必要です。
排便に関しては、排便日を決め下剤と座薬で排便を促す方法がよく使われます。排尿に関しては、次のような方法があります。
不全マヒの場合には、感覚があったり、排尿が通常通りに行えることもあります。なかには立ち上がったり、歩行できる場合もあります。
このように”頸髄損傷”といっても、1つの障害名でくくってしまうのが無理に思えるほど個人差が大きく、さまざまな症状があります。全く同じ状態の人は2人としていないといってもよいでしょう。
そこで介助するときは、まずその人の障害を十分把握し、安全を第一に心がけましょう。また障害者だからといってすべて介助が必要な分けではありません。その人のニーズに応じて介助できるようしっかりコミュニケーションをはかり、わからないことは遠慮なく障害者本人に尋ねましょう。