ブレス・トゥ・ヴォイス -Breath to Voice- - 「息」から「声」へ - 連載 第26回 頸損だより2019春号(No.149)
頸損だより2019春号(No.149) 2019年3月10日発送
ブレス・トゥ・ヴォイス
-Breath to Voice-
- 「息」から「声」へ - 連載 第26回
-Breath to Voice-
- 「息」から「声」へ - 連載 第26回
PDF ブレス・トゥ・ヴォイス 連載 第26回 頸損だより2019春号(No.149)
●頸損連絡会の人工呼吸器を使用するメンバー有志で、共通する課題や呼吸器当事者に有効な情報を自分たちで共有していこうと、情報交換&交流会を2009年から始め、これまで定期的に集まって近況報告や意見交換など行ってきました。今回、6月に大阪北部で震度6弱の地震があり、さらに7月初旬、西日本豪雨があり多数の犠牲者が出ました。この様な災害において、私達呼吸器使用者はいざという時に避難する対策が万全ではないため、命を守るための各々の考えや、この先に起こるとされる南海トラフ巨大地震規模の天災が発生した際に備えて、常日頃から取り組むべき課題や行動について特集を組みたいと考えます。
「災害について考える」
兵庫頸髄損傷者連絡会 米田 進一
皆様、ご無沙汰しておりますが、お変わり有りませんか?またまた連載が滞ってしまい申し訳ありません。気が付けば、今年も早半年以上が過ぎ、常に変わらない平凡な日々を過ごしていたのですが、去る6月中旬に大阪北部を震源とする震度6弱の地震が発生しました。大阪でのこの様な大きな地震は何十年振りとなるものだったそうです。この地震により、少なくとも数名の犠牲者が出た事に心を痛めます。予期せぬ自然の力は計り知れないものがあります。この影響により多くの人々が今も尚、避難場所での生活を余儀なくされています。私が住む明石市でも震度4でしたので、かなり大きな揺れを感じました。 健常者はもちろん障がい当事者だけではなく、子供や高齢者も咄嗟に避難できるはずもなく、最悪の場合、建物の倒壊や火災等が起きてもおかしくない状況下にあることは間違い有りません。
常日頃から避難対策のシミュレーションをしておく事が、とても大事だと感じていますが、実際にやれていない事が現状ではあります。
震災が落ち着いた後も、7月初旬に西日本を中心とした広範囲に渡る豪雨も発生し、各地方に甚大な水害が起き、200名を超す犠牲者と行方不明者が今も尚捜索されています。毎年、各地で大きな被害が発生し、ニュースも連日の様に報道されています。住む地域は違えど、地球温暖化の影響も少なからずあるのは言うまでもありません。台風20号の時に、私の住む明石市でも約5時間の停電がありました。呼吸器の内蔵バッテリーは9時間持続するので大丈夫でしたが、エアマットは沈んでしまいました。
9月4日に台風21号が近畿地方にも甚大な被害を及ぼしたこと、また9月6日に北海道では震度6強の地震が発生し数名の犠牲者も出ました。自然災害の規模は計りしれません。私達は人工呼吸器を使用している身であり、尚かつ頸髄損傷であることに、急な天災が起きる事は常に想定しておくべきであり、緊急時に避難する場所や災害用グッズ等を常備する必要もあります。
一番は電源の確保、停電になると命に関わります。車いすを押せる人員確保や避難経路の確認、ラジオや飲み物、非常食等の備蓄、挙げればきりがないですが、必要な物は沢山あります。避難先の衛生面も良いとは限りません。かなりの確率で感染症が蔓延し、避難先での褥瘡の対策をしないといけないことも命の危険が伴います。医者や看護師、医療用具、薬の不足は免れないでしょう。
自然との向き合い方を考え、いつ何時も緊張感を持ち、命を守る為の行動を念頭におき、緊急対策を考えるべきだと私は思っています。皆様も、今一度真剣に、今後の対策として考えていきましょう。
「障害者として災害の度に思うこと」
大阪頸髄損傷者連絡会 吉田 憲司
ここ近年は、災害が多く、被災地や避難所の中継を目にする事が増えました。障害者や高齢者などの社会的弱者の避難についてもよく議論されますね。もし、あの場に自分がいたらどうだろうか。そんなこともよく考えます。地震、台風、水害はもちろんのこと最近の酷暑ももう災害といっても差し支えないでしょう。
自分でできることといえば水、食料など若干の備蓄、人工呼吸器や吸引器などに使う非常用電源のバッテリーを多めに用意しておくことくらいでしょう。医者からは電源が尽きたら、救急車を呼ぶよう指示をされていますが、そのような状況に至っては、果たして救急車が家まで来られる状況なのかわかりません。では、あらかじめ非難していれば良いのかとなると、そう簡単な話ではありません。
避難指示が出ても家にとどまり続ける人も多いと聞きます。「自分だけは大丈夫。」といった思い込みから来る避難しないケースもあったでしょうが足腰が弱かったり、車椅子だったり、寝たきりだったりと避難自体が困難な人もいたのではないでしょうか。
まして避難所に行ったところで健常者ですら過酷な環境だから身体的、精神的に
調子を崩される話はよく耳にします。呼吸器や排泄など管理が難しい部分は不調になりますし、持病がある方は状態が悪化するかもしれません。
身体の機能に何かしらの障害を抱えている人はそれを補うための装具や装置を必要としていますが日常的に使用しているものを持ち込む事は可能なのでしょうか。かさばるもの、音のするものもあります。人工呼吸器などの作動音は耳障りで聞きなれない人からすればかなり不快なものです。
痰の吸引ともなれば寝ている人を起こしてしまうくらいの音ですから多少呼吸が苦しくても吸引そのものを我慢することになりますが、いずれは痰が詰まり高圧アラームが鳴りますから吸引をせざるを得なくなります。吸引を我慢することを繰り返せば肺炎になります。
周りに気兼ねしてアラームのスイッチを切ってしまうこともあり得ることでしょう。こうなると人工呼吸器が外れても周りは気付きません。非常時の誰もが大変な時に理解を求めることは難しいものですし、人様にご迷惑をおかけするぐらいなら、できる限りは、自宅で頑張りたいと思うのも無理のないことではないでしょうか。
一時的にでも自宅から離れること、慣れない避難所に身を寄せることには、越えがたい心理的な壁を感じてしまいます。寝たきり患者、人工呼吸器利用者、難病患者と言った人の手が必要な人たちを受け入れができ、日ごろから通いなれた施設や居心地の良いレスパイト先が身近にあれば、避難も楽なんだけどなあ,とぼやいていたら、わがまま言っていたらどこも受けてくれへんで!と叱られてしまいました。そのような環境は贅沢品なんですかね。
在宅で25年頑張ってきました。いろいろトラブルもあり何度か病院に担ぎ込まれもしましたがなんとかここまでこられました。家に帰るたびに良くも悪くも自分にとっての居場所はここにしかないようだと思い知らされます。自分のような重度の障碍者が利用できる長期滞在と日常生活を前提とした生活の場を提供してくれる制度といった選択肢が欲しいところです。
「出来ていない避難準備」
兵庫頸髄損傷者連絡会 井上 歩
阪神淡路大震災の時には、健常者として被災したが、今は呼吸器を使用し、頸部より下は動かない。その為、移動手段はリクライニング車いすに頼っている。
車いすを使用する様になってから、一度地震を想定し、避難所となる近くの小学校まで行ってみた。自治体や消防等の訓練ではなく個人で行った。一緒に行ったのは、ヘルパーとボランティアの学生数名だ。
ヘルパーが来訪し、食事介護中、地震が起きた設定にしたかったのだが、その時は、時間の都合上出来なかった。
大きな地震では、リフター(ベッドや車いすから移乗させるための福祉機器)が使用できないかもしれない。家の家具が倒れて簡単に外へ出られないかもしれないし、車いすが使用できないかもしれない等を考えていた。この時は、敢えてリフターを使用せず、人力で車いすに移乗させてもらった。呼吸器を車いすに積み、身体一つで避難所を目指した。
移動中でも想像力を働かせ、もし停電で信号が点いていなかったら、道沿いの家が倒壊していないか、いつも渡っている歩道橋は崩落していないか、川にかかる橋が渡れるか等、そんなことを考えながら行ってみた。 学校に事前連絡をしていなかったので、職員の方がびっくりして出てこられた。事情を話したところ、快く敷地内に入れてもらえた。災害時の避難場所は、2階にある体育館だ。柔道や剣道で使う格闘技場も、場合によっては避難場所になるらしい。
帰りは、敢えて違う道を通った。 行ってみて思った事は、「どうやって2階にある体育館に上がるのだろうか?」「呼吸器に使用する電源は、確保出来るのか?」「実際、自分がここに避難して良いのだろうか?」本心を言えば、ここに避難して来る事は無理だ。このところ多い地震・台風・水害・土砂災害について備えは必要だ。
普段、避難情報が伝えられ、気にかけているのは、テレビやラジオだ。避難情報が流れる時、まず一番に確認するのは、警報などが出ている地域だ。その後、警報が解除するのか、若しくは避難準備・高齢者等避難開始や避難勧告、避難指示へ移行されるのか。
避難訓練であれば、車いすを押してもらい、行くことは何とか出来た。しかし、実際に豪雨災害等を想定すると、車いすを車に積んでもらい避難する以外は考え辛い。福祉避難所の話も聞いたのだが、実際どこの管轄で、誰の指示により準備されているのか、行政に確認するのも今後の課題だ。
この時、分かりづらいのが、どのタイミングで、何処に避難開始するのか。避難所は開いているのか。本来、テレビのニュース等で避難を呼びかける時点では、すでに、避難所は開いていなければおかしいと思う。地区・地域によっては、避難所に確認の電話をしてから行って欲しいと聞くことがある。皆が一斉に電話をかけたなら、電話回線も混線し、繋がりにくくなる。結果、避難が遅れることになる。
自治体は、避難を呼びかける時には、避難受け入れ可能となった避難所の所在地・名称を知らせるべきだ。また、全ての人がインターネットやスマートフォンを持っている訳ではない。dボタンを使ったデータ放送は、正直使い辛い。地域に特化したきめ細かな情報が、使いやすい物で24時間見開きできるようにして欲しい。
僕の場合、呼吸器等を使用しているので、上記のような避難所に行くより、直接医療機関に避難するべきかもしれない。その理由としては、避難所で呼吸器を管理することが難しい。2~3時間で避難解除となるのか、もっとかかるのか、停電は有るのか等々。考えると多くの事が思い浮かぶ。仮に地域の避難所に避難しても、途中で停電になれば、呼吸器の内部バッテリーに頼らざるを得ない。これも、時間の限度がある。僕の希望を言うならば、前もって災害時に受け入れ可能な病院を数件探しておきたい。
災害準備としては、個人で出来る事をするために、細かな情報が欲しい。また、行政や福祉の方々にもお願いしたい事が沢山ある。現状では、障碍者目線からみて、安心できるほど避難準備が出来ているとは言えない。