特集 2016年度大阪頸損連絡会・身体ケア学習会 頸損者が見落としやすい日常生活の注意点 ~見えない負担の予防と対策/Part1~ 頸損だより2017夏(No.142) 2017年6月11日発送

2018/06/05
 
この記事を書いている人 - WRITER -

特集 2016年度大阪頸損連絡会・身体ケア学習会

頸損者が見落としやすい日常生活の注意点
~見えない負担の予防と対策/Part1~

2016年11月20日(日)於:旭区民センター 3階
大阪頸髄損傷者連絡会 赤尾広明

 皆さんこんにちは。大阪頸損連の赤尾と言います。スライドを見ながら話しをしていきたいと思います。
 僕は頸損なってからかれこれ30年になるんですが、早いような短いような、なんだかあっという間の気がするんですよね。今までわりかし順調な生活を送っているように自分では思っていたんですが、やっぱり歳には勝てないのか、40代になってから、何かいろんなことに見舞われるようになりました。例えば、急性呼吸不全になって死にかけたり、肺炎にもなりましたし、褥そうが新たにできたり…と。
 そんな中でもとくにこの3年の間に2回骨折するというアクシデントがありました。自分にとっては骨折なんて無縁というか関係ないだろうなって思っていたところに落とし穴みたいなのがあって、それはやっぱりその骨折した時に痛みを感じないということがデメリットとしてすごく痛感したんですね。頸損って痛みを感じない人がほとんどだと思うんです。僕は注射や点滴が基本的に大の苦手で、それは子供の頃から変わらないんですけど、そういうのが痛みを感じないことによって平気になったり、長時間座っていてもとくに疲れることもなく、多分普通に動かなければお尻が痛いってなるとこなんだけれど、痛みを感じないから長時間座っていられる。そういうところも含めて、痛みを感じないことに対して僕の中ではデメリットよりもメリットの方が大きかったんですよね。ところが、痛みを感じないということで、例えば足の指先とかにちょっとしたキズがあってもすぐ治るだろう…というぐらいの意識で、僕は「大丈夫、大丈夫とすぐに思ってしまうんだけど、そういうところをほったらかしにしていると悪化してしまう。無意識のうちにいろんなことに対して不用心になっちゃってるんです。痛みという苦痛を感じないから、ほっときゃそのうち治るだろうというふうな甘い考えを持っていると、気が付いた時にはもう時すでに遅しってことで、褥そうで言えば最初はほんのちょっとした小さな傷だったのが、気が付けばみるみる大きくなってしまうってこともやっぱりありました。

 今回、自分がまさか骨折するなんて夢にも思わなかったんですが、ちょうど3年前の今頃(11月)に左の足首を骨折しました。忘れもしない、三宮から新快速で大阪駅まで戻ってきて大阪駅で降りる時です。僕はJRの新快速とか快速に乗る時は極力車いすの向きを進行方向と同じ向きにするので、ちょうど座席と座席の間の通路に足首が少しつっこむような形で座っていたんです。大阪駅に着くと人の流れが激しく、降りる人がまずバーーっと勢い良く電車から降りた後、もうすぐにダーっと人が乗り込んでくるので、僕の中でちょっと焦りもあり、早く降りなきゃと思いながら車イスを右側に旋回したんです。その旋回する際に座席に左の足首の部分がひっかかっていたんですよね。結構この車イスのパワーが強いので、足首がひっかかったままの状態で右方向にグイッと旋回したら、当然左の足首は外側に向いてしまうので、その時になんかえげつない音がしたんです。何か「あー、やばいな」と思っていたんだけど、痛みが無いので大丈夫かなと思っていたら、3日後にはもうパンパンになって腫れ上がっていました。
 すぐに病院に行ってレントゲンを撮ると骨折しているとのことで、骨折した足首を“シーネ”というもので固定することになりました。そして、骨折してから3か月後に全治不明と診断されました。通常であれば骨折ってだいたい全治3か月位で治るもので普通は足首を骨折した場合、先生が軽く足首ひねったりとかして痛ければまだもうちょっと経過観察が必要とかなるんだけど、なんせ痛みが無いもんだから先生が足首をひねっても分からない、レントゲンの写真上では綺麗に骨もできているから、おそらくは治ったであろうと推測するだけで、先生も立場があるから治ったとは断言はしてくれないまま、足首が現在に至るまで治っているかどうかは分からないんですよね。
 実は骨折より痛かったことがあり、骨折したことによって僕の場合、左の足首が外側にグイッとねじれるような形で骨折したので、同時に膝関節の靭帯の方が伸びてしまったようで、座っている時でも、今でもそうなんですが、左足の膝から下が内側に曲がってしまっているんですね。普段座っている姿勢でシーテイングをしっかりして、できるだけいろんなところで足に圧がかからないように、褥そうが出来ないようにケアしているつもりだったんですが、少し湾曲してしまったことによって足をフットレストの上にまっすぐ乗せることが出来なくなったんです。また、おそらくいろんな部分で圧がかかってくるパーセンテージみたいなものが変わってきていると思うんで、やっぱり褥そうが出来るリスクは今まで以上に増してしまいました。それによって日常的にケアしなければいけない部分も増えたことから、やっぱり褥そうのリスクっていうのがつねに付きまとってくるっていう不安感があります。せっかく今迄しばらくお尻とかの褥そうは治ってやれやれって感じだったのに、今度は他の場所でまたリスクのケアをしなければいけないっていうのが、骨折よりも痛かったですね。

 実はこれがちょっと写真では見にくいかもしれませんが、シーネの代償ってことで、足首を骨折した時にシーネと呼ばれる添え木のようなものを当てていたんですよね。というのも、ギブスをすれば褥そうが出来るかもしれないし、かといって何もしないわけにはいかない。ということでシーネを当てていたんですが、その結果、かかとからふくらはぎにかけてもうほぼ全域褥そうだらけになってしまいました。これだけでも治すのにすごく時間がかかりました。本来ふくらはぎなんて褥そうが出来る場所ではないんだけど、もうほとんど骨が見えるようなくらい完全に褥そうが膝から下にできてしまいました。骨折は治ったかどうかわからない状態なのに、褥そうの処置のほうが長期化して大変な状況になるっていうことになりました。とりあえず左足首の骨折に関してはそんな感じだったんですが、この春、また悪夢というか同じようなことが起こってしまうんですよね。

 僕はいつも介助者1人で車イスからベット、ベットから車イスという形で、リフトとか使わずにヘルパーの力によって移乗してるんですが、いつもと同じようにやっていても、その時だけはパキって音が聞こえたんです。足首を骨折した時はもっと鈍い音がしたので、その時は「何かやばい」と思いながらもパキって軽い音だったんで、 「ちょっと筋が伸びちゃったかなー」というぐらいの認識だったんですが、次の日になってもう吐き気と悪寒がしてきたから、そんなんじゃなく体調を崩したんかな?くらいに思っていました。痛みが無いので、その時点ではその程度の意識だったんですが、時間差で異変がやってくるんですよね。左足首の時は3日後にパンパンに腫れたんですが、この時は10日から2週間後くらいに気が付けばもうえらいことになっていました。

 写真ではわかりにくいかもしれませんが、左足特に膝のあたりがもうパンパンに腫れまして、なんかよく見ると色自体も全体的に赤いんですよね。明らかに右足と違う色をしていました。それでも正直今度もまさか折れているとまでは思わなかったけど、ただ、通常ではないだろうということですぐに病院に行きました。4月1日に病院へ行った段階で、先生はレントゲンとか撮るまでもなく触っただけで折れていると診断し、しかも、最悪折れていたとしても僕は膝かなって思っていたのが、膝ではなく、そのちょっと上の大腿骨の下端部分が骨折していると言われてしまいました。レントゲンはちょっと骨折部位の状況的に撮影しづらいということだったんでCTを撮ったんですが、そのCTの画像です。これ、ちょっと僕にはうまく解説できないんで、後で先生に補足して頂けたらと思いますが、こんな感じで左の上にとんがってる箇所があったりして、明らかに「骨折してますよ」という状況です。で、じゃあ、大腿骨の骨折をこれからどうやって治療していくか?ってことで先生といろいろ話をしました。

 先生同士もカンファレンスで協議してくださったんですが、選択肢は3つありました。ほとんどの場合は手術をしなきゃいけないような状況なんですが、それは骨折部位をボルトとかプレートで固定するため、全身麻酔の手術になりますから当然入院もしなきゃいけない。2番目にシーネ固定です。やっぱり同じように大腿骨の折れた部分をシーネで固定するという方法で、3番目はもう何も処置しないってことで自然治癒に任せる…と。この3つの選択肢の中からどれ選ぶかっていうのをいろいろ話し合いました。やっぱりそれぞれにリスクがあるんですよね。手術する場合、骨が脆くて骨粗しょう症状態なので、頸損の場合は加齢とともにどうしても骨の密度がどんどんスカスカになりやすいですから、骨自体が弱ければボルト等で患部を固定したとしても、今度はボルトが骨よりも強すぎるので周りの骨が支えきれずに負けてしまい、そうすると連鎖的に骨折そのものがさらに酷くなるようなリスクがあるかもしれないということに加え、当然ギブス固定した場合、皮膚の状態を確認することが出来ないので、褥そうのリスクが見えなくなるし、これは大げさではなく、下手したらギブスを外した時にはもう足が腐っているというような状況があるかもしれないので、最悪の場合は切断もあり得ると言われたんです。今まで褥そうでかなり苦しんできた経験がありますから、ギブスをするのは怖いなっていうのがありました。2番目のシーネ固定は先ほど足首の時と同じように、実際シーネ固定したことによって、ふくらはぎにあんなに褥瘡だらけになってしまいましたから、大腿骨でシーネ固定した時にまた同じように褥そうが出来たら、それはそれでえらいことになってしまうってことで、自然治癒、つまり何もしないことが、一番リスクを回避できるのかなってことで話し合いをした結果、自然治癒…経過観察ってことでしばらくはそのまま様子見てみようってことになりました。

 僕的には最小のリスクを選択したわけなんですが、3ケ月、とりあえず3ケ月は様子を見ましょうってことだったんで、それから頑張って3ケ月、家から出ずに自宅療養に専念しました。本当に出来るだけ何もしない、負荷もかけない、それでも入浴とかありますから、そういうときは一時的に負荷がかかりますけど、本当に最小限で日常生活の中でも負担がかからないような状況で3ケ月過ごしました。…で、結果どうなったかというと、「3ケ月経ちました
「このまま治らない可能性大です」と、つまりは骨が全然くっついてないという状況でした。3ケ月待ったものの、治ることなく、しかも、このまま治らない可能性が高いだろうということで、結局この時は「じゃあ、この先どうしたらいいのって感じだったんですが、はっきりいってどうしようもない状況でした。僕、この時初めて聞いたんですが、“偽関節”っていう症例っていうんかな?診断名がありまして、文字通り「偽物の関節」と書くんですが、本来関節がないところに関節があるかのようになってしまう状況で、僕の左の大腿骨部分、今でもクラクラ動くんですよね。それこそ関節のように曲がるわけですから、動いたところで意味はないんだけれども、どうしても骨がくっつかないんでグラグラのままっていう状況になっていて、通常、偽関節っていうのは大体半年経って骨がくっつかないような状況であれば正式に偽関節っていう診断名が出るんですけど、僕の場合3ヶ月経過してもそういう様子が見られなかったので、この3ヶ月の段階で偽関節が濃厚だろうと初めて言われまして、半年経った時にはもう確定やでってことで偽関節となりました。偽関節なら偽関節で、それはそれで本来は手術をして治すこともできるんだけど、手術をしてもまたボルト固定とかしたら同じリスクを背負うことになりますから、偽関節の手術もできないということで、結局「もうどうすることもできないんやな」という状況に陥っちゃいました。

 骨折して痛感したことが40、僕もそうですけど、40代以上の頸損者に骨折する人は多いんですよね。僕自身1度目の骨折のときはそんなに意識してなかったんですが、今回大腿骨の骨折して、周りの頸損の人とかに話し聞いてみると結構たくさんいました。知らないだけで、しかも、多くの人が40代50代で初めて骨折したって人が多くて、なんか意外だったんですけど、自分の周りにも骨折経験者がたくさんいました。それは骨が痩せていて骨粗しょう症になりやすいってことなんです。イメージ的に骨粗しょう症って言うと高齢者がなるっていうようなイメージを持っていたんですが、実は頸損はとくに受傷年数が長くなればなるほど、あるいは40代50代なってくると人よりも早く骨粗しょう症になりやすいと。それはやっぱり骨が痩せていて脆いってことなので、つまりは骨折しやすい状況になるってことです。僕は今でもそうなんですけど、頸損の方がよくプールに行ったり、起立台に乗って立位の訓練してる人とか、いろいろなリハビリを日頃からしっかりとやってる人がおられますが、正直僕の中では「動けへんのにリハビリしてもしゃーないやん」くらいに思ってたんです。でも、今となってすごく痛感してるのは若いうちからそういうことをして、ある程度筋肉とか体を動かしておかないと…とくに足なんかはやっぱり僕ら日常的に歩くことがないので、その分だけ筋肉も痩せてしまうから、骨折のリスクってどんどん高まっていくんですよね。
 今からでも遅くはないと思うんですが、先を見据えた体作りってのがすごく重要なんだな…と。どうせ動かないからやっても無駄やとか思ってましたけど、そういう体作りをしていくことで40代50代なった時に骨折とか様々なリスクから回避しやすくなるのかなって事を今更ながら痛感させられました。健骨生活ってことで僕にとってはとくになんですが食生活の見直しが必要やなって思ってます。僕は肉とか油もんが大好きなので、そういうものばっかり食べてるんですが、骨折したことによってカルシウム含有量の多いメニューにしました。僕のことをよく知ってる人からしたら考えられないと思いますが、小松菜は結構食べてます。じゃことか豆腐とか納豆もそうなんです。結構そういうメニューを日常生活の中に取り入れたことによって、ちょっとでも骨にいい食生活が出来ればなと思っています。痛みが無いから大丈夫だって僕はついつい思ってしまいがちなんです。骨折もそうだし、なんかあった時はすぐに病院行って診てもらう必要ってすごく痛感してます。風邪でもそうなんですが、ただの風邪かなと思ってたら、実は肺炎の一歩手前だったりとかいうこともあるかと思うんです。頸損ってどうしてもその辺がストレートな感覚として伝わってこない分だけ後回し後回しにしがちだし、例えば忙しかったりすると、もうええわ病院行かんでもとか思ってしまいがちですよね。僕も病院がもともと苦手というか大嫌いなところでもあるし、待ち時間でしんどい思いをするぐらいならもっと病気悪なるわって思ってますから、どうしても病院へ行くのって二の足を踏んでしまうんだけれど、今回の骨折にしたってもっと早い段階で行っていれば、ちょっとまた違ったかもしれないし、いろんな、骨折に限らずですけど、体に異変があるって感じたらすぐ病院行くようにしたいなと思ってるところです。

 そんなんいいながらですね、リスクってずっと続いてまして、今もそうなんですが、左足の膝のところにサポーターを付けてるんですよね。気休め程度にしかなってないですが、サポーターをつけることによって移乗の時とかにちょっとでも負荷がかからないようにしてるんですが、今度はサポーターをつけることによってそこが圧迫されて褥そうが出来てしまいました。そうなると骨折したことによってまた新たなリスクが発生したことになるんですよね。それから約2週間ほど経ちまして今は治まったんですが、撮影した時にはこんな感じでかさぶたがちょっとめくれたような状況になってます。これはまだ早期発見だったので、「このまま治ってくれるかなー」と楽観的に思いながら…本当にちょっとしたことで褥そうがすぐにできてしまう。これもさかのぼれば骨折してなければこんな不安も心配もなかったわけですけど、ちょっと骨折したがゆえにこういう新たなリスクが発生することによって、なんとなく外に出かけるのも億劫になったりとか、長時間座っていても体のいろんなところが気になって物事に集中できなくなったり、リスクを背負うだけで日常生活の楽しみまで奪われてしまうのが僕にとってはすごく残念で悔しくて。本当に最初のきっかけはちょっとした油断だったり、大丈夫だろうという意識の甘さがこういう結果を招いてしまいました。後になっていろいろと調べてみたら40代以降に骨折が多いとわかったというところで、そういう意識が全体的に僕の中で甘かったかなと痛感させられています。本来であれば自分の身体ですから、自分が一番知っとかなきゃいけないし、今日のテーマでもあります「日常生活における注意点」っていうのはやっぱり守っとかないと、いつ骨折するかわからないし、あるいは褥瘡ができるかわからない、何か他の病気になるかもしれない、どうしても頸損っていうのはそういうところに感覚が鈍くなりがちなので、ケアとかね、日常的なケアとかすごく重要だなってことを自分自身の骨折を通して再確認っていうか改めて痛感させられました。みなさんも、これは決して他人事じゃないと思いますので、日常生活における注意点をしっかりケアしながら、僕のように骨折とかしないように気を付けてください。
 ご清聴ありがとうございました。

この記事を書いている人 - WRITER -

Copyright© 大阪頸髄損傷者連絡会 , 2018 All Rights Reserved.