頸損だより事務局通信 No.126 9月4日号
KSKP頸損だより事務局通信 No.126 9月号 2019.9.8
<活動予定>
☆ 9月21日(土)ピアサポートの集い 於: 急性期・総合医療センター
☆ 9月29日(日)地域交流会@奈良 於: 近鉄奈良駅周辺
☆ 10月 6日(日)10月期役員会 於: CILあるる
☆ 10月20日(日)京都大阪交流会 於: 京都
☆ 11月10日(日)頸損だより事務通発送 於: CILあるる
☆ 11月10日(日)11月期役員会 於: CILあるる
頸損ピアサロンがおこなわれました
8月18日に頸損ピアサロンが淀川区民センターにておこなわれました。頸損ピアサロンは、当事者だから、伝えられることがある!を合言葉に、さまざまな取り組みをしている頸損のなかまを招き、話を聞き自分で感じたことを後々生かしてもらえればとスタートしました。
今回は「頸損で働く人 -障害者自ら情報発信していこう-」と題して、横山和也さんに語っていただきました。横山さんは受傷後の自立生活に必要だった情報や人との繋がりを縦横に駆使しながら、障害を持つ当事者がライターとなり自身の経験をもとに仕事、恋愛、医療、レジャーなどの情報を発信することで収入に結び付ける活動や、当事者目線で生活の場のリノベーションを展開し、資金集めにはクラウドファンディングに挑戦して実現につなげる取り組みをされています。当日は43名の参加があり、質疑応答も多く時間延長し盛会の中に終了しました。その後、参加者でお弁当を食べながら交流会も実施しました。こちらも27名の参加があり、楽しい時間を過ごしてもらえました。
ピアサロンの様子は頸損だよりでお伝えできるように準備中です。みなさんお楽しみに!(島本義信)
日本障害フォーラムの「パラレルレポート」が国連に提出されました
「パラレルレポート」ってなんですか?
障害者権利条約の締約国は4年に一度(初回のみ2年)権利委員会の建設的対話(審査)を受けます。条約に基づいて国内法や施策の改善に取り組んでいるか権利委員会で審査し、改善点をまとめた総括所見(改善勧告)を出します。この総括所見を受けて日本政府は改善に取り組むという流れになります。国際的な視点から日本の改善点を引き出し(総括所見)、それをもとに日本の障害者施策をさらに改善させていくことがこの建設的対話の意義であり、非常に重要な機会なのです。
その建設的対話で重要になるのがパラレルレポートです。その国の市民社会(NPOや障害者団体等)がこういった問題があるということを独自にまとめて提出するものです。
国家報告(政府報告)は政府がまとめますので、こんな施策をつくったというやったことの列挙になりがちで、具体的にどのような問題があるのかがわかりません。パラレルレポートは障害者団体等がまとめますので、その国の問題点を明確に指摘することができ、委員にとっては重要な判断材料となります。的確な総括所見を引き出すためにも、非常に重要なレポートなのです。
国連・障害者権利委員会では、2016年に日本政府が提出した「第1回政府報告」を受けて、障害者権利条約の実施状況についての日本の建設的対話(審査)を2020年秋に実施する見込みです。
2019年9月下旬には権利委員会で事前質問事項が検討されます。
日本障害フォーラム(JDF)は、市民社会から国連に提出することができる「パラレルレポート」を、幅広い関係者と協議しながら作成し、国連でのよりよい審査と勧告に役立て、国内での条約実施と施策の向上につなげるため、パラレルレポートの作成に取り組んできました。
★日本の建設的対話までのスケジュール
2016年 日本政府 国家報告提出
2018年 JDFでパラレルレポート作成
2019年6月 JDFパラレルレポートを国連に提出
2019年秋 権利委員会にてリストオブイシューズ(日本政府への再質問)(予定)
2020年春 日本の建設的対話(予定)
Ⅰ.はじめに
1.日本障害フォーラムについて
このパラレルレポートは日本障害フォーラム(JDF)が作成した。JDFは、「アジア太平洋障害者の十年」及び日本の障害者施策を推進し、障害のある人の権利を推進することを目的に2004年に設立された。全国レベルの13の多様な障害当事者団体を中心に、家族等支援団体、事業団体及び専門職団体等で構成されている連携組織である。主な活動は①国連・障害者の権利条約の推進、②「アジア太平洋障害者の十年」の推進及び「アジア太平洋障害フォーラム(APDF)」に関すること、③「障害者基本計画」をはじめとするわが国の障害者施策の推進、④障害者の差別禁止と権利に係る国内法制度の推進で、これらの事業を推進する3つの専門委員会を設け、構成団体より委員を選任して活動している。
JDFは設立以来、障害者権利条約の推進に取り組んできた。2002~06年にニューヨークの国連本部で開かれた条約策定に向けた特別委員会に延べ200人の関係者を派遣し条約策定に貢献した。条約採択以降は日本の批准に向けて、政府との意見交換や、超党派の「国連障害者の権利条約推進議員連盟」との連携などを通じて、国内法制度の改革を民間の立場から進めてきた。2014年の批准以降は、条約の国内実施を進める取り組みを行なっている。
- 構成団体
日本身体障害者団体連合会、日本盲人会連合、全日本ろうあ連盟、日本障害者協議会、DPI日本会議、全国手をつなぐ育成会連合会、全国脊髄損傷者連合会、全国精神保健福祉会連合会、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、全国盲ろう者協会、全国社会福祉協議会、日本障害者リハビリテーション協会、全国「精神病」者集団
2.作成方法
JDFでは2年かけてパラレルレポートを作成した。2017年度は「JDF障害者権利条約パラレルレポート準備会」を立ち上げ9回の準備会を開いた。1条から33条までそれぞれの条文ごとに、JDFの構成団体がそれぞれ考えている問題と課題を、まずは形態を問わず、広く集めることに努めた。それらを1年かけてまとめ、意見集約版を作成した。
2018年度は準備会が「JDF障害者権利条約パラレルレポート特別委員会」に発展し、JDFのすべての構成団体から合計30名の委員が選出され15回の委員会を開催した。特別委員会の下に起草委員会を設置し、さらにその下に8つの作業グループを設けて担当条文について起草案を作成した。多様な意見のある条項に関しては、視察や学習会を複数回実施し、丁寧に議論を重ねた。このようにまとめた起草案を、特別委員会で討議し、修正し、また討議するという積み重ねで意見を取りまとめた。
さらに、JDF内の意見にとどまらずより広範な意見を求めて、全国7ヶ所で地域フォーラムを開催し、関係団体へのヒアリングも実施し、レポートに反映させた。
具体的な作業の流れは下記の通り。
① 8つの作業グループに別れて起草案を作成
② 起草委員会で起草案を議論、修正
③ 特別委員会で起草案を議論、修正
④ 全国7ヶ所で地域フォーラムを開催
⑤ 関係団体ヒアリング
⑥ 地域フォーラムでの意見・ヒアリング意見を取り入れる
⑦ 特別委員会とJDF三役会で最終確認、完成
なお、このパラレルレポート作成の取り組みは、政府から財政的な支援は受けず、助成財団からのご支援で実施することが出来た。ご支援いただいたキリン福祉財団・住友財団・損保ジャパン日本興亜福祉財団・ヤマト福祉財団に感謝申し上げたい。
- 地域フォーラム
2018年8月から2019年3月までの間に、富山県、福島県、埼玉県、東京都、愛知県、大阪府、栃木県で地域フォーラムを開催した。パラレルレポートの起草状況を報告し、各地の障害者から意見を求めた。
- 関連団体からのヒアリング
2018年秋に関連団体に文書ヒアリングを実施した。ヒアリングを行った団体は、JDF構成団体にはない障害種別の団体や関連領域の団体である。意見を頂いた団体は下記の通り(五十音順)。
弱視者問題研究会
人工内耳友の会ACITA
全日本教職員組合
ソーシャルハートフルユニオン
DPI女性障害者ネットワーク
日本教職員組合
日本労働組合総連合会
ピープルファーストジャパン
発達障害当事者協会
3.連絡先
日本障害フォーラム(JDF)
162-0052東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内
TEL:03-5273-0601 FAX:03-5292-7630 Email:JDF_info@dinf.ne.jp
●JDF障害者権利条約パラレルレポート特別委員会 ※2018年4月発足時 (省略)
II. レポート作成の趣旨と、横断的課題
1.レポートの作成の趣旨
日本政府は条約批准に先立ち、2009年から障害者制度改革を推進し国内法の整備に取り組んできた。2011年には障害者基本法を改正し医療モデルを改めて社会モデルを導入するなど権利条約の理念を取り入れた。同年に障害者虐待防止法を策定し、2012年には障害者総合支援法の改正、2013年には障害者差別解消法を策定し、雇用分野の障害者差別の禁止を盛り込んだ障害者雇用促進法も改正した。この一連の法改正を終えて2014年に障害者権利条約を批准した。これらの国内法の整備と条約批准は、日本の障害者施策を大きく転換し、推し進めた。社会モデルの導入によって合理的配慮の提供やアクセシビリティの確保という考えが認識されはじめ、障害者への差別を禁止し、障害によって分け隔てられることのないインクルーシブ社会の実現という方向性が示され、様々な分野で取り組みが進められている。
しかし、いまだ十分とは言えず、本パラレルレポートが詳しく示すように、日本の障害者の人権と生活の状況は障害者権利条約に照らして大きなギャップがある。それらの具体的で多様な問題の背景には以下の5つの横断的課題がある。
(1)医学モデルから社会モデル/人権モデルへ障害の認識の転換
障害者権利条約の影響をうけ、2011年の障害者基本法の改正、2013年の障害者差別解消法の制定により、障害者の定義に「バリアーの影響」という考え方 (社会的障壁)が導入され、社会モデル/人権モデルの考え方が反映された。しかしなお、全体として法政策には、権利の主体である平等な市民との位置づけが弱く、非常に多くの障害者が長期の精神科病院への入院や居住施設での生活を余儀なくされている。また、個別ニーズよりも疾患や機能障害の種類や程度でサービスの利用資格が決められるために必要な支援を受けられない障害者が多い。
(2) 政策・計画決定への障害者団体の参加
障害者基本法による障害者政策委員会の設置と地方自治体での類似の機関の設置は障害者参加に向けての大きな前進であったが、これらの委員会は基本的には行政が運営しており、障害者は意見を述べる存在にとどまっている。とくに精神障害や知的障害のある委員の参画は非常に少ない。
本パラレルレポートの作成を含めて、障害者団体の政策・計画決定への参加に関する政府の財政援助はない。
(3) 統計・データの確保と活用
一部の省庁による障害のある人を対象としたニーズ調査はあるものの、また、特別支援教育や障害年金などの行政データを集約した資料はあるものの、一般人口と比較可能な生活実態の調査はなく、性別・障害別・年齢別・地域別などに分類可能な統計データはほとんどない。したがって障害者権利条約の実施状況の評価と実施方針の策定に役立つデータが非常に少ない。政府はようやく2019年度に障害者統計の確立に向けての調査費を計上しており、今後、障害者団体と十分に協議しながら着実に履行することが求められる。
(4) 監視体制の強化・独立した人権救済制度の設立
条約33条では条約の実施を監視する独立した人権機関の設置が求められている。日本はこのような機関の創設をたびたび国連から求められてきたがまだ実現していない。一方障害者差別解消法は制定されたが、救済機関が備わっていないことが大きな課題とされている。したがって、障害者差別について訴えを受け止め、解決に資する人権救済機関が必要である。現在のところ唯一の監視機関である障害者政策委員会の機能強化も含め、条約の監視体制を確立することが求められている。
(5)障害者権利条約に関する意識向上
政府は障害者権利条約の日本語訳を作成し、国会の承認を経て批准したものの、司法・警察関係者、教育・福祉・医療・雇用などの専門職、マスメディア、地方自治体、障害者や家族などを対象とした普及・研修の取り組みをほとんど行わず、各省庁や地方自治体が条約を実施するためのガイドラインも作られていない。
2016年に日本政府が提出した第一回政府報告は、このような日本の障害者を取り巻く実態を正確に報告していない。法律や施策の紹介にとどまり、条約に照らして何が出来ず、どのような問題が起きているか報告していない。さらに、統計資料がないため障害のない者との比較ができず生活実態が把握されていないなど、非常に不十分な内容である。
JDFでは、日本の障害者を取り巻く状況がどのような問題があるのかを正確に障害者権利委員会に報告するためにこのパラレルレポートを作成した。1条から33条まで、障害者の立場から見てどのような問題があるのか、条約に照らして出来ていないことや問題点をまとめている。このレポートにより障害者権利委員が日本の障害者を取り巻く実態を正確に把握し、適切な事前質問事項や総括所見が出され、日本政府が真摯に受け止めて、障害者団体と協力しながら日本の障害者施策のさらなる改善が図られることを願っている。
2.条項ごとの課題の一覧(抜粋)
このレポートで示される第1条から33条までの課題の項目を一覧として抜き出したものを以下に示す。
第1-4条「目的および一般的義務」起草案
(1)人権モデル/社会モデルの採用。
(2)津久井やまゆり園障害者殺傷事件への対応の問題
(3)手話言語の認定
(4)支援機器の利用とフォローアップ
(5)地域格差の解消
(6)欠格条項の廃止
(7)障害者の参加
(8)選択議定書の批准
(9)日本語への訳語の問題
第5条 平等及び無差別
(1)法律上の差別の定義が不十分
(2)障害者差別解消法の法文に各則がない
(3)障害者差別解消法の合理的配慮の提供が民間事業者は努力義務にとどまっている
(4)行政府から独立した紛争解決の仕組みがない
(5)障害者差別解消法の対象に立法府と司法府が含まれていない
(6)合理的配慮提供の促進施策がない
(7)新型出生前診断による障害を理由にした命の選別の広がり
(8)差別的取扱いが実態として続いている
(9)障害者差別解消法における障害者差別解消支援地域協議会の設置率が低い
第6条 障害のある女子
(1)障害のある女性・少女に対する差別をなくし、障害のある女子がすべての人権及び自由を平等に享受できるようにするための措置について
(2)障害のある女子の人権及び自由の行使及び享有を保障するための、完全な発展、地位向上、エンパワメントを確保するための適切な措置について
第7条 障害のある児童
(1)障害児の意見表明権のための資源と合理的配慮の確保
(2)障害のある子どもへの暴力・性暴力、非人道的な取扱い
(3)障害児に係る予算の充実
第8条 意識の向上
(1)障害者権利条約に基づく権利や新しい概念についての理解
(2)障害に関する教育と啓発
(3)議員、行政職員、各種専門職への研修
(4)報道機関への意識啓発
第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ
(1)アクセシビリティ概念の理解が不足している
(2)地方におけるアクセシビリティ確保を義務付けた法制度がない
(3)建物のバリアフリー整備が遅れている 公衆に開かれた建物がアクセシブルになるようなユニバーサルデザインを義務付けた法制度がない
(4)アクセシビリティ要件を定めた公共調達の法制度がない
(5)商品開発や施設整備における障害当事者参画が進んでいない
(6)アクセシビリティに関する研修が義務付されていない
(7)法制度に移動の権利性が明記されていない
(8)バリアフリー設備の課題
第10条 生命に対する権利
(1)障害者の平均寿命に関する課題
(2)尊厳死法制化についての課題
第11条 危険な状況及び人道上の緊急事態
(1)平時及び被災後長期にわたる取組と課題
(2)災害直後の取組と課題
(3)災害時の情報保障について
(4)避難所、福祉避難所について
(5)仮設住宅について
(6)福島での原発事故に関連して
第12条 法律の前にひとしく認められる権利
(1)成年後見制度の制度上の問題・運用実態の問題
(2)意思決定支援の制度について
(3)法的能力の平等及び法的能力の行使に当たって必要な支援について
第13条 司法手続の利用の機会
(1) 刑事手続き関係
① 捜査段階において障害特性に適合した捜査方法が取られていないこと
② 障害者が犯罪の被害者になった場合に、適切な被害状況の聞き取りが行われていないこと
③ 刑事裁判において、裁判当事者となった障害者に対して適切な手続き上の配慮が行われていないこと
④ 裁判員裁判で、一般人から選ばれた裁判員に障害者への偏見が根深く残っていること
⑤ 障害を持つ裁判員に対して、十分な情報保障がされていないこと
⑥ 服役中の障害者に対する合理的配慮が不十分であること
(2) 民事手続き関係
① 民事訴訟法をはじめとする関係諸法令に、障害に関連して裁判所の手続上の配慮義務を定める規定が置かれていないこと
② 民事訴訟手続における配慮の費用が敗訴当事者の負担とされていること
(3) 刑事手続き、民事手続き共通
① 司法に携わる職員の障害理解や手続き上の配慮に関する研修が不十分であること
② 障害者の裁判傍聴が制限される現状
③ 障害のある女性と司法手続き
第14条 身体の自由と安全
(1)精神障害を理由とした非自発的入院制度
(2)日本政府の14条解釈
(3)身体拘束、隔離、閉鎖処遇等の処遇
(4)精神科病院における入院者の通信について
(5)権利擁護手続き不在、監視体制
第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
(1)医療観察法における強制治療(薬物投与及びm-ECT)
(2)非人道的または品位を傷つける取り扱い
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
(1)障害者虐待防止法の通報義務の対象に教育・医療機関等が含まれていない
(2)通報者保護の実効性
(3)虐待の予防や被害者の救済などの実効性の低さ
(4)虐待の発生防止に向けた取り組みの不足(施設・使用者、家庭)
(5)障害者虐待防止法改正の遅延及び障害当事者不在の検討
…今回はここまで…
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