特集:「差別解消法を学ぼう!」 頸損だより2016冬(No.140) 2016年12月18日発送

 
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特集 2016年度大阪頸損連絡会・学習会

障害者差別解消法を学ぼう!

講師 障害者の自立と完全参加を目指す大阪連絡会議(障大連)
執行委員  細井清和


2016年6月26日(日)

於:エル・大阪(大阪府立労働センター)南館7階 南72会議室


 差別解消法を考えるにあたって、大きく3つに分けてお話しを聞きました。

● 障害者権利条約について
とりわけ大きな特徴としてあげられる、「障害のとらえ方」「合理的配慮」や「共生社会(地域生活の権利)」について。

● それらを踏まえたうえで「障害者差別解消法」の枠組みについて、「対応要領」や「対応指針」などを含めて紹介。
そして、関連する課題として、「障害者雇用促進法改正」「大阪府条例」の問題などについて話題提供。

● 更に、付録紹介として、障害者権利条約批准のための制度改革(障害者基本法の改正と総合支援法への転換)や虐待防止法、バリアフリー法についての情報提供。

■障害者権利条約

●批准・発効について

● 2006年 国連総会で障害者権利条約採択
● 2007年 日本国政府 署名
● 2009年~2012年 「障害者制度改革」
  ※3つの法制度改革
  障害者基本法改正(2011年)
  障害者総合支援法(2013年度施行)
  障害者差別解消法(2013年成立)
● 2014年 1月 条約批准 2月発効

 権利条約を批准するための国内法整備と言うことでは大きくいうと3つの法律が変わりました。総合支援法や今回の差別解消法の基となっているのが、障害者基本法という法律になります。
 1つ目は障害者基本法が変わりました。ここで今までの障害者施策の転換が行われた訳です。
 2つ目は自立支援法に代わって総合支援法が始まりました。総合支援法は3段階で変わっていくと言われ、最初に施行されて難病の人達も対象になってくるような事が始まりました。その次に知的障害、精神障害の人達にも重度訪問を拡大とかグループホームの一元化とか、障害程度区分から障害支援区分へとなった事が2段階目の2014年に行われた訳です。そしてその次に3年後見直しをするということで、去年末ぐらいに3年後見直し報告書が出て、今度区切りは2018年にいろいろな法律の区切りが来ます。総合支援法は成長していく法律です。
 ところが今回どんどん良くなっていくのかというと、そうでもなくて足踏みしているところも沢山あります。総合支援法についても2018年に向けて新しい制度が始まりますが、更に充実していくことが必要です。

●障害者権利条約の基本視点

● 「われわれのことを我々抜きに決めるな」
  (Nothing about us without us !)
制度・政策に関する「企画・調査・立案」段階からの参画
(例)「障がい者制度改革推進会議(2010年~2012年)」
● 「障害を持たない他の者との平等」
ノーマライゼーション(1969年ニルジェ~スウェーデン)
1、一日のリズム、2、一週間のリズム、3、1年のリズム、4、幼児期、青年期、成人期、老年期それぞれのライフサイクルを通した向上、5、自己決定、6、結婚する権利を含む人間関係の発達、7、経済的標準、8、環境標準
● 「保護の対象から権利の主体へ」
パラダイムシフトの転換(「当たり前」の変換)
障害者=弱い者という発想からの転換 平等な権利者としての社会参加

 まず1つ目で「われわれのことを我々抜きに決めるな」。これは障害者施策の大きな問題があるところです。
 なぜかというと障害者抜きに決めてきた過去があるからです。残念ながら今も十分に障害当事者が入っているかというとそうでもないです。ですから「われわれのことを我々抜きに決めるな」ということが、非常に大事な考え方だと思います。
 制度政策に関係する企画調査立案段階からの参加という形なので、障害者が参加しようとしても、特定の団体の特定の人が選ばれるだけで終わってしまうところがある。しかも何月何日委員会がありますので、その場に行ったら分厚い書類を置かれて行政の人が説明をして、「はい、ご意見ありませんか。」これで参加といえるのでしょうか? つまり最初の所でどんな法律や条例を作るのか、最初から参加したいという話になると思います。
 例として障害者制度改革推進会議は、この議題をやりますから皆さん意見を言って下さいって事を前に出します。それぞれ私はこう思うというような形で皆の意見をまとめていくプロセスを経て、それで出来上がったのは骨格提言で、特定の障害者だけでなく全部の障害者団体が集まって議論して作られたのが骨格提言です。今回の見直しでは十分それが反映されていない残念な状況になりましたが、僕はプロセスとしてそういうように意見の違う人も含めて色々議論しながら決めていくやり方が凄く大事な事だと思います。
 2つ目に「障害を持たない他の者との平等」、これが非常に大事な考え方です。
 よく障害者だけ良かったらいいのか、お金がないのに障害者だけお金使っていいのかなどやっかみがあります。だけど私達が要求しているのは、他の者との平等というところをちゃんと確保してほしい、その為に必要なお金はちゃんと使ってほしいと言っているのです。他の者との平等というような事をひとつのものの考え方の基準に置きましょうということです。
 3つ目に「保護の対象から権利の主体へ」、これは障害者抜きにずっと進んできた障害者福祉の歴史への反省があります。障害者基本法のもう一個前は心身障害者対策基本法なので、要するに対策の対象です。そうではなく障害者基本法も含めて権利の法律にしていこうという転換を図っている訳です。障害者を対象として施策するのではなく、障害者は権利をちゃんと持っている主体という考え方に転換していこうということになっています。

●社会モデル

● 「社会モデル」の確立
障害者の「生きにくさ」の原因は、障害そのものというよりも、道路・建物の物理的なもの、情報や文化、法律や制度、市民の意識上の障壁との相互関係から生み出されているという考え方。歩けるようになることを課題の中心とするのではなく、車イスのままで町に出て行くときに、「障壁」となる段差をなくして社会参加をしていくという考え方です。
※「医学モデル」
障害を本人の責任としてとらえ、もっぱら、医学的な働きかけ(治療・訓練)を優先し、個人の適応努力を求めること。この考え方を推し進めると、極端に言えば、歩けないなら町に出るな。介助が必要なら施設や病院で暮らせ、おまえを指導してやる、言うことを聞け!という上目線の支援になってしまいます。
(注)医学的なアプローチを全て否定するというのではなく、社会モデルに基づき、環境を変革することと併せて、適切な情報提供と本人の意思決定に基づく医療やリハビリを求めることが重要です。

 社会モデルは非常に大事な考え方だと思います。障害者が自分の自助努力でなんとか他の健常の人達に追いつけというような発想の仕方をするのではなく、その人自身が車椅子なら車椅子の生活をしていく、車椅子の生活をする時に社会の側の環境を変えていこうという形です。

障害者基本法 第2条(2011年改定)

● 障害者とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

● 社会的障壁 → 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

●社会的障壁

社会的障壁(社会のかべ)とは、
障害のある人を暮らしにくく、生きにくくする社会にあるもの全部で、つぎのようなものです。 ★改正障害者基本法<わかりやすい版>より抜粋

〇 ことがら(たとえば、早口で分かりにくく、あいまいな案内や説明

〇 (たとえば、段差むずかしい言葉手話通訳のない講演、字幕のないテレビ番組、音のならない信号)

〇 制度(たとえば、納得していないのに入院させられる・医療費が高くて必要な医療が受けられない・近所のともだちと一緒の学校に行くことが認められないことがあること)

〇 習慣(たとえば、障害のある人が結婚式や葬式に呼ばれないこと、障害のある人が子ども扱いされること)

〇 考え方(たとえば、障害のある人は施設や病院で暮らしたほうが幸せだ、障害のある人は施設や病院に閉じ込めるべきだ、障害のある人は結婚や子育てができない)

 このように障害者の生活が制限されている現実があるということです。
 僕はよく思うのですけど、周りの人の考え方に偏見がありますが、これをなくしていかなければいけない。これから差別解消法を一つのツールとして色々と変えていこうと、また障害者の事を知らないという事が沢山あるのです。でもこれを一回さかのぼって考えたら、障害者の人と日常的に会わないように別々にずっと暮らしをさせられてきたことによって、その障害を持たない人もそういった経験がないという背景があります。障害者と出会っても、ある経験をしてこれが全部だと思い込んでしまう人もいます。
 例えば就労とか支援をしているところで話を聞いたりすると、一度雇ったけどうまくいかず、うちではもう雇えないという人がいました。よく考えてみたらその支援の仕方をもうちょっと工夫したら良いのに、ある経験をしてこれが全部だと思い込んでしまって障害者の事は分かっているみたいな感じで、ですから健常の人達の偏見をどう切り崩していくのか非常に大事な課題だと思います。
 もうひとつ、それは障害者自身がその考え方を内在化しているということです。つまり障害当事者の皆さんの中にもあきらめる事が作られて、それが障壁になってなかなか進まない状態ができているということです。
 誰が悪いとか良いとか責任の問題じゃない。でも事実そういうところがあると思うのです。ですから壁をどう乗り越えていけるか、偏見を持っている人の壁をどう変えていくか、自分自身なんでもあきらめていた生活を変えていく。この両方の歩み寄りを作っていくのが非常に大事な事だと思います。

●合理的配慮

「合理的配慮」
(reasonable accommodation)とは、

● 「障害者が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するために必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、均衡を失した 又は 過度の負担を課さないもの

と規定されています(障害者権利条約第2条)

 これが権利条約でいわれている合理的配慮という考え方です。
 簡単にいうと、他の人と平等を実現するには、一緒に生きていくための変更や調整というようなことで、そんなに負担にならないという考え方です。ただ負担の線引きがなかなか決めにくいところです。
 一つだけ言われているのが、その基準がどんどん変化する事です。例えばこれはもう過度な負担だと言われても、その次になれば違ってくるという事で、声を上げ続けていくことが非常に大事と思います。

●合理的配慮例

「合理的配慮の例」

● たとえば、出入り口に階段などがある会社に車いす常用者が就職しようと求職活動をした場合を想定してみましょう。

● 人事担当者が、「うちの会社の入り口には残念ながら段差があります。ですから採用はお断りします。」ということがあったとします。

● 入り口に段差があるが現状であっても、障害者の雇用に際してはスロープを設置するなど適切な変更で改善できることであれば、それは当然その配慮(便宜の提供)をするべきだという考え方が「合理的配慮」です。

● これは、単に「その人のため」という位置づけではなく、同じような障害を持つ人たちを受け入れていくための変更です。(共に生きる社会づくり)

● ところが、階段しかない狭いテナントビルに入っている中小企業の場合で、新たにエレベーターを設置するとなると、会社の経営が回らなくなるような多額の費用がかかる、あるいは物理的に、そもそも設置が難しいという状況であれば、「合理的配慮は無理」である、又は「合理的な範囲を越えている」という考え方です。

●権利条約19条

共生社会~地域で生きる権利

● 自立した生活及び地域社会に受け入れられること

● すべての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に受け入れられ、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる

19条つづき

(a) 障害者が居住地を選択し及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有する並びに特定の居住施設で生活する義務を負わない

(b) 地域社会における生活及び地域社会への包容(インクージョン)を支援し並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービスその他の地域社会支援サービス(個別の支援を含む)を障害者が利用する機会を有する

(c) 一般住民向けの地域社会サービス及び施設〔設備〕が、障害のある人にとって他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害のある人の必要〔ニーズ〕に応ずること

●インクルージョン

● ここで「受け入れられること」という言葉が出てきていますが、障害者権利条約では、英語で「インクルージョン(inclusion)」という言葉が大事な概念として使われています。

● 政府の日本語訳では、「包容」となっています。その他、「包含」「包摂」という訳もあります。

● 反対語は、exclusionであり、「排除」という意味ですので、「排除しない」というイメージになると思います。そして、このように、排除しない社会を「共生社会」という言葉で表すようになっています。

 共生社会という言葉は同じような内容で使われているかというと、決してそうではありませんが、ただ排除しない社会を実現していくのはすごく大事な課題だと思います。

■障害者差別解消法

●名称と位置づけ

名称
→「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
略称は~「障害者差別解消法

※残念ながら「差別禁止」という名称にはなりませんでした
法律の位置づけ 「障害者基本法 第4条」の具体化
第四条 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他 の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。

●差別の定義

1 (作為による)「差別的取扱い」
 今回の差別解消法での 「差別的取扱い」は基本的には「直接差別」をさしています。「間接差別」については、今後検討するとされています。
「直接差別」は、直接に障害者を排除する差別。
「間接差別」とは、<一見障害者に直接関係のないように思われる中立的なものですが、障害者に不利になる結果をもたらすあるいはもたらす可能性のある差別>をいいます。「間接差別」については、施行(2016年)の3年後(2019年)に「具体的な相談事例や裁判例の集積等を踏まえた上で対応する」といわれています
2 (不作為による)「合理的配慮の不提供」(後述)

 今回なんとか直接差別の取扱いを禁止する法律はできましたが、間接差別については今後考えていきますというようなあいまいな形になっています。
 もう一つが合理的配慮の不提供で、間接差別でよく話しに出されますのが某牛丼屋です。皆固定イスで別に障害者を入れないためにわざわざ固定イスにしていないのですが、結果として障害者が排除されていることです。例えばアメリカなどの例であると、それも差別だから駄目だといっている訳です。日本では努力義務ということで、非常に弱いのです。
 3年後には見直しがありますが、現状であきらめるのかそれともどうにかするのかが、すごく大事なことだと思うのです。
 それを変える事できないのかっていうと、よく話で出てくるのがエレベーターです。現在、公共交通機関どこでもエレベーターが設置されています。これのもとは障害者の方が皆使いにくいと、どんどん声を上げていって福祉の街作りの形で設置された訳です。
 今ではエレベーターを見ても分かるように、障害者の人だけが使用しているのではありません。ベビーカー押している人、体のしんどい人、高齢の人、最近多いのはトランクケースを持っている人、いろんな人達にとって非常に便利になっています。
 バリアフリー法などいろんな法律を強化して、実態が変わっていったのは、実践が積み上げられたからです。実践を積み上げて変えていく意味ではこの法律も同じです。3年後の時にもっと強い法律にしていく、例えばアメリカなみの法律にしていけば、某牛丼屋もいろいろ考えざるを得なくなってくるのです。ちょっと何人かが座れるスペースを作るだけでいいのです。可動式のイス作ったらそれで売上が下がるなんてありえないです。そのあたりのことを声に上げていくことが大事だと思います。

●基本方針と対応要領 対応指針

● 政府として「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」を定める(内閣府管轄)※2015年2月24日 閣議決定

● この基本方針を踏まえて国機関や大臣が「対応要領」「対応指針」を定めました。

※2015年の夏に案が示され、パブリックコメントが募集され、秋から冬にかけてそれぞれの国機関が「対応要領」38個、「対応指針」(20個)を、提示しています
※国の行政機関等が自らの職員に向けて示すものが「対応要領」対応要領のモデルとなっているのは、内閣府の対応要領です。
※民間事業者の事業を担当する大臣が民間事業者に向けて示すものが「対応指針(ガイドライン)」です。

 まず対応要領は、例えば障害を持っている人が窓口に来た時や行政が主催するいろんな講演会の時などに、どんな配慮をするかという対応です。
 そして対応指針で、福祉事業者向けがあります。これは皆さんにもすごく関係する分になると思います。
 例えば福祉事業をしている人と、福祉サービスを利用している方が沢山います。福祉利用者の立場から見て福祉事業者が間違った対応していたら正していく、又福祉事業者もどうゆう対応しなければならないのかガイドラインがでています。

●この法律の適用範囲

「一般私人間(しじんかん)」
の行為や個人の思想や言論には、法的規制は係らない(私的自治の原則)

  1. 行政機関(国公立の学校などを含む)
    1、差別的取扱いの禁止
    作為による差別に係る「差別的取扱い」の禁止規定を置く
    いわゆる「間接差別」の扱いについては、具体的な相談事例や裁判例の集積等を踏まえた上で対応する
    2、合理的配慮の提供
    ※障害者(家族等)から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の表明があった場合において、負担が過重でない場合、必要かつ合理的な配慮をしなければならない(法的義務)
  2. 民間事業者
    1、差別的取扱いの禁止
    2、合理的配慮の提供
    民間事業者については、努力義務として意識啓発・周知を図るための取り組みを進める。法的義務とするかどうかは具体的な相談事例や裁判例の集積等を行った上で施行3年後(2019年予定)に検討する(附則)

 今回はどういうレベルなのか。例えば健康増進でタバコを吸ってはならないのが法的義務で、もう一つ言えばもし吸った場合は罰則があります。もう一つは努力義務で3つそれぞれ違います。一番強いのはもちろん罰則ですが、今回の差別解消法はそういった罰則は基本的にありません。

●この法律の関連規定

  1. 労働関係については、「障害者雇用促進法」に定める
    雇用の領域では、雇用促進法の改正によって「合理的配慮の提供義務」が規定されました。(後述)
  2. 環境の整備
    「合理的配慮」と区別して「事前的改善措置(事前的環境整備)」として建物や交通機関のバリアフリーに関する法制度(バリアフリー法2006年成立)を「事前的環境整備」として位置づけます。
    これと合理的配慮がいわば車の両輪となって、障害者の平等や自由、差別の解消を前に進めていきます

 障害者雇用促進法で違いのあるのは、合理的配慮では民間事業者は努力義務ですが、労働の領域においては法的義務ということです。
 もしも職場でいろんな配慮をしてくれない場合はちゃんと言っていく。努力義務ではなく提供義務があるということで、ここの部分は強いのです。
 お店に関しては努力しますと言われたらそこまでですけど、職場の中での合理的配慮は義務なのできちんとしていくような仕組みになります。

 環境の整備について、要するに駅とかに関してこの駅は差別的やと思ってもなかなか合理的配慮で、すぐにエレベーター設置にはなかなかならないということなのです。残念ながら代わりにバリアフリー法でだんだん良くしていく形にします。ただここでも行政が、バリアフリー法と合理的配慮を車の両輪となって進めていきますと言っているのです。
 片方のバリアフリー法だけに頼ってやっていくのではなく、差別解消法についてもたくさんの事例を集積して、僕達はこんな風に環境変えてほしいというような声を上げていくことが大切です。だから建物の改善を解消法だけでは解消できないけども両輪で進めていく事が大事だと思います。

●実効性について

● 主務大臣が、事業者に対し、報告を求め、又は、助言、勧告をすることができる。
 報告徴収に応じなかったり虚偽の報告を行ったときは過料を課す。
※民法上の効果は規定せず。(損害賠償請求や契約の無効などは民法等の一般規定に従う)
行政措置により実効性を確保する

★いちいち、主務大臣に訴えるのではなく、身近なところで、行政措置を行えるように、いろいろな自治体で「差別解消のための条例」が定められてきています。大阪府においても、知事が、「報告の求め」「あっせん」「勧告」「公表」する仕組みが作られています。(但し、大阪府では、取り扱うのは、「差別的取扱い」のみとなっています)

●支援の措置

  1. 相談及び紛争の防止・解決のための体制の整備
    相談については、既存の機関を活用

    紛争解決については、既存の機関等の活用・充実を図り、新たな紛争解決機関は設置しない
  2. 啓発活動
    施設コンフリクト(住民の反対)に関連して、障害者支援施設(グループホーム含む)の認可に住民の同意を求めないことや行政が住民に対して啓発を行うことなどを想定
  3. 情報の収集、整理及び提供
    内閣府において、差別解消に資する事例等の収集・集積、国内外の動向の調査等を行う。
  4. 障害者差別解消支援地域協議会の設置
    地方公共団体は、地域における関係機関の連携の確保等のための協議会を設置することができる

【参照】大阪府は、後述する大阪府条例で、知事の諮問機関として、「大阪府障害者差別解消協議会」を設置することとなりました。構成は、障害者、障害者の自立と社会参加に関する事業の従事者、学識経験のある者、事業者となっています。

 相談及び紛争の防止・解決のための体制の整備について、障害者虐待防止法は何処へ行っても連絡先なり別個に機関を作ってあるのですが、残念ながら差別解消法は何処へ行ったら良いのかは地方で考えて下さいというレベルです。

 啓発活動について、特に精神障害者の人たちが、例えばグループホームを作ろうと思っても近所の人達が皆のぼりたてて反対運動するということが残念ながらあるのですが、別に許可がいるわけでもないのです。今までは行政は住民からの声があったら住民さんと合意して下さいと、いつまでも渋っていた訳です。でも一応法律的にいうと許可は必要ないのです。

 情報の収集、整理及び提供について、今解決できなかったとしても自分たちはこういうようなことで困って差別を受けている。間接差別もこんな形で実は不自由していると、いろいろ集積して内閣府にどんどんあげていく必要があると思います。

●周知・施行と見直し

  1. 2016年4月1日から施行
  2. 施行後3年(2019年4月)の見直し
    「間接差別」の取扱いや事業者の合理的配慮のあり方(努力義務から法的義務へ?)などについて検討、必要に応じて見直し

 見直しまでの間で僕達がどういうふうなことしていったらいいのか、非常に大事な事です。

■「不当な差別的取扱い」

●「不当な差別的取扱い」とは?(基本方針)

〇 障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって、場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害すること

〇 なお、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではない。(いわゆる「積極的改善措置」など)

 ここは非常に大事なところで、拒否だけでなく場所や時間帯なんかを制限する、あるいは条件を付けることも差別ですということです。

●具体的例

大阪府の対応要領より

● 障がいを理由に、窓口対応を拒否する。

● 障がいを理由に、対応の順序を後回しにする。

● 障がいを理由に、書面の交付、資料の送付、パンフレットの提供等を拒む。

● 障がいを理由に、説明会、シンポジウム等への出席を拒む。

● 事務・事業の遂行上、特に必要ではないにもかかわらず、障がいを理由に、来庁や説明会等の際に付き添い者の同行を求めるなどの条件を付けたり、特に支障がないにもかかわらず、付き添い者の同行を拒んだりする。

 行政の職員さんが障害者の人にどう接するかということで、これは特に聴覚障害の人達の場合には手話通訳できる人を連れてこなくてはいけないとか、いろんな形で制約を受ける事になります。

●「不当な差別的扱いにあたらない=正当理由」とは?

不当な差別的取扱いであるのかどうかの判断には、その取扱いを行う「正当な理由」の有無が重要となります。
サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが、客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に 照らしてやむを得ないと言える場合です。

やむを得ない状況の記載
★障害者、事業者、第三者の権利利益のため
(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)
★行政機関等の事務・事業の目的・内容・機能の維持のため

●注意事項

● 「具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要」

● 「客観的に判断する」とは、主観的な判断に委ねられるのではなく、その主張が客観的な事実によって裏付けられ、第三者の立場から見ても納得を得られるような「客観性」が必要

● 特定の事例を拡大解釈してしまうと差別を解消するのではなく、固定・拡大してしまう危険があります

● (注)行政機関等及び事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい

 どういうことかというと、仕方のないことがありますってことなのです。客観的に判断するということは第三者から観ても納得するというような形です。
 今僕達いろいろやっているのですけど、大阪府の方で条例を作る前にガイドライン作成したのです。そのガイドラインはこういうような事はやむを得ませんって例をだしていたのです。例えば車イスでどこかの場所にぶつけて器物損壊させる可能性がある場合には断っても仕方がないですみたいな、例えばお菓子博の時に人にぶつかって怪我させる可能性がありますとか。そのような事例がもしあがっていたら、どこ行っても電動車イスそのものに乗れなくなってしまいますし、お店にももちろん入れなくなる。そうゆう事例はおかしいだろってことで、結局そういう具体的例について取り下げさせました。
 拡大解釈は本当にこわいです。これやむを得ないでしょうで、いっぺんやったらそれが独り歩きしていきます。ほらここがこうでしょうがないと書いているみたいな形で繋がっていきますので、その場その場でちゃんと考えていき、拡大解釈しない事が大事で、1回目は仕方ないっていわれても、次また条件変わったのだともう1回問題提起していくことは必要だと思います。

■「合理的配慮」

●「合理的配慮」とは?その1

● 合理的配慮とは、障害者が日常生活や社会生活で受けるさまざまな制限をもたらす原因となる社会的障壁を取り除くために、障害者に対し、個別の状況に応じて行われる配慮(ルールの変更や調整)をいいます。

● 合理的配慮は、障害者でない者との比較において、同等の機会の提供を受けるためのものです。

●「合理的配慮」とは?その2

● 合理的配慮は、障害の特性や具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものです。

● その障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去するために様々な要素を考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じ、必要かつ合理的な範囲で柔軟に対応がなされるものです。

● 合理的配慮の内容は、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変遷することにも留意すべきです。

 これが今回合理的配慮領域で考えられていることなのです。つまり障害者側からの主張と事業所の主張というのは、最初からうまくいく訳がないので、折り合いをどう付けるかというのが建設的対話という言い方です。
 建設的対話の時にすごく思うのは、できるだけ第三者を入れた方が話は進みやすいということです。

●具体的な例(大阪府対応要領より)

● 段差がある場合に、車椅子利用者にキャスター上げ等の補助をする、携帯スロープを渡すなどする。

● 配架棚の高い所に置かれたパンフレット等を取って渡す。パンフレット等の位置を分かりやすく伝える。

● 障がいの特性により、頻繁に離席の必要がある場合に、会場の座席位置を扉付近にする。

● 疲労を感じやすい障がい者から別室での休憩の申し出があった際、別室の確保が困難であったことから、当該障がい者に事情を説明し、対応窓口の近くに長椅子を移動させて臨時の休憩スペースを設ける。

●注意点

● 合理的配慮の提供については、行政機関は法的な義務ですが、残念ながら、民間事業者は、「努力義務」です。(3年後~2019年に法的な義務とするかどうかを見直し

● ただし、雇用の場面では、合理的配慮の提供は、法的な義務となっています。

● 「過重な負担」がある場合は、「合理的配慮」の範囲を超えるとして、免除されます

●「過重な負担」

● 個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断する

● 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)

● 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)

● 費用・負担の程度

● 事務・事業規模 、財政・財務状況

● ★また、過重な負担については、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。

■障害者雇用促進法について

● 雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び障害者が職場で働くに当たっての支障を改善する ための措置(合理的配慮の提供義務を定めることになりました。

〇 「改正障害者雇用促進法」に基づく「差別禁止指針」

〇 と「合理的配慮指針」が出されています。
別表では、多くの事業主が対応できると考えられる「募集及び採用時」「採用後」の合理的配慮についての例示が障害種別毎に載っています。

★障害種別 → 視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病に起因する障害、高次脳機能障害
合理的配慮指針(PDF) 別表は10ページから
改正障害者雇用促進法に基づく「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」を策定しました |報道発表資料|厚生労働省より

●雇用促進法の「合理的配慮指針」別表より

【肢体不自由】
<募集および採用時>

〇 面接の際にできるだけ移動が少なくて済むようにすること

<採用後>

〇 業務指導や相談に関し、担当者を定めること

〇 移動の支障となる物を通路に置かない、机の配置や打合せ場所を工夫する等により職場内での移動の負担を軽減すること。

〇 机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行うこと。

〇 スロープ、手すり等を設置すること。

〇 体温調整しやすい服装の着用を認めること。

〇 出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること。

〇 本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること。

●苦情処理・紛争解決援助について

● 事業主は、障害者に対する差別や合理的配慮の提供に係る事項について、障害者である労働者から苦情の申出を受けたときは、その自主的な解決を図るよう努める。

● 当該事項に係る紛争は、個別労働紛争解決促進法の特例を設け、都道府県労働局長が必要な助言、指導又は勧告をすることができるものとするとともに、新たに創設する調停制度(「紛争調整委員会」)の対象とする

■条例について

●全国での条例制定

  1. 千葉県(2007年施行)障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例
  2. 北海道(2010年施行)障がい者及び障がい児の権利擁護並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例
  3. 岩手県(2011年施行)障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県つくり条例
  4. さいたま市(2012年施行)さいたま市誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例
  5. 熊本県(2012年施行)障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例
  6. 東京都八王子市(2012年施行)障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子づくり条例
  7. 長崎県(2014年施行)障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例
  8. 大分県別府市(2014年施行)別府市障害のある人もない人も安心して安全に暮らせる条例
  9. 沖縄県(2014年施行)障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例(共生社会条例)
  10. 京都府(2015年施行)京都府障害のある人もない人も共に安心していきいきと暮らしやすい社会づくり条例
  11. 茨城県(2014年施行)障害のある人もない人も共に歩み幸せに暮らすための茨城県づくり条例
  12. 鹿児島県(2014年施行)障害のある人もない人も共に生きる鹿児島づくり条例
  13. 富山県(2016年施行)障害のある人の人権を尊重し県民皆が共にいきいきと輝く富山県づくり条例
  14. 奈良県(2016年施行)奈良県障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例
  15. 新潟市(2016年施行)障害のある人もない人も一人ひとりが大切にされいかされる新潟市づくり条例
  16. 愛知県(2016年施行)愛知県障害者差別解消推進条例

★17に大阪府も条例制定入りました。

●何故条例が必要?

● 差別解消法は、事業者の合理的配慮が努力義務であったり、新しい窓口がなかったり、主務大臣までいかないと、報告の徴収や助言指導勧告が行えません。

● 身近なところで、しっかりとした対応をするための権限や仕組みが必要です。

● 差別解消法の審議における付帯決議にも「地⽅ 公共団体による、いわゆる上乗せ・横出し条例を含む障害を理由とする差別に関する条例の制定等を妨げ⼜は拘束するものではない」と明記されています。

■大阪府条例について

● 大阪府では、「大阪府障がい者 差別解消部会」を2013年11月から設置し、障害当事者団体や事業者、学識経験者で議論を行ってきました。

● 2015年4月には、「大阪府障がい者差別解消ガイドライン第1版」が出されています。

● 2016年4月から、「大阪府障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例」が施行されました。

●条例の基本内容

1 相談、紛争の防止・解決の体制整備(別表1)
2 「大阪府障がい者差別解消ガイドライン」による啓発活動
★他府県のような「各論」などはありません

(別表1)
条例による相談、紛争の防止・解決の体制整備のイメージ図(PDF)

●相談の仕組み

  1. 基本は、身近な市町村での解決
    ※それぞれの市町村で窓口を設定します(別表2・3)
  2. 市町村で解決が困難、もしくは、広い範囲の問題の場合や専門的な相談には、大阪府の「広域相談支援員」が対応
    助言、意見聴取、調査、調整を行います
    ※直接に相談することも可能です

 広域相談支援員は現在3人います。府庁の障害福祉課のとなりにあります。

●紛争解決の仕組み

  1. あっせん
    • 広域支援相談員による調整でも 解決しない場合であって「不当な差別的取扱い」については、障害者等から、知事に対して、あっせんを求めることができます
    • 知事から「大阪府障害者差別解消協議会」に諮問をします。
      ※「大阪府障害者差別解消協議会」は、知事の附属機関であり、学識、障がい者、事業者等で構成する「合議体」
    • 「大阪府障害者差別解消協議会」(が指名する「合議体」)で、必要な調査を行い、あっせん案の提示をします
  2. あっせん案が受け入れられなかった場合は、知事は、「勧告」を行います
  3. 「勧告」に従わないときは、「公表」を行います
    ※「公表」する前に、当事者に出席を求め、釈明及び資料の提出の機会を与え、意見を聞きます

●今後の課題

〇 事業者の合理的配慮提供について「努力義務」のままです。(新潟市条例などでは法的な義務)あっせんの対象となるのも、不当な差別的扱いだけで、合理的配慮については扱いません

〇 相談、紛争の防止・解決の体制整備と啓発だけの内容であり、それぞれの領域での差別の規定(各論)がありません。

〇 3年後(2019年度)に見直します。

■いろいろな場面での差別

1. 保育:障害があるために保育所入所を断られる
2. 就学:障害があるために希望する地域の学校に断られる
3. 学校:学校行事の参加に親の同伴を求められる。 高校問題
4. 就職:就職口が見つからない。 職場でのいじめ、配慮の不足
5. 交通:渡し板がないために待たされる、情報がわからない
6. まち構造:段差、階段だけの建物、放置自転車
7. 店:入店拒否。入れない店構造
8. 買い物:本人無視(接遇)、狭い通路
9. 住宅:入居拒否(「家賃債務保証事業者」による拒否)
10. 生活:家だけの生活、入所施設、長期の精神科入院
11. 冠婚葬祭:参加しにくい雰囲気
12. 医療:受診拒否、入院中の困難
13. 地域:近所づきあいの難しさ、「施設コンフリクト」
14. 人間関係:家族、友人との関係の難しさ

 最後に、まだまだたくさんの差別が現実にあるのです。それをなくしていく為、差別解消法を使って少しでも相談をもちかけたり、いろんな体験を集めて内閣府に送るとかすると随分違うと思うのです。自分たちの経験をちゃんと投げ返していく事が大事だと思います。

(別表2・3)
市町村の相談窓口と府の広域支援相談員の連絡先(行政機関に対する相談を除く。)
(PDF)
大阪府/障がいを理由とする差別の解消に向けてより


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